軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

93 錬金術師、所信を表明する

突如ラクス村に現れた錬金術師。

マサリさんと申したか?

その魔族から詳しい話を伺うことにした。

言うても魔族である。

我ら人間族旧来の宿敵として、さすがに完全野放しというわけにはいかない。

たとえ俺が元魔王軍所属で魔族に理解があると言っても、村長として最低限村の安全を保障する義務があるのだ。

……で、その錬金術師マサリさん。

地味女と言わんばかりの飾り気のない女性がぽつぽつと話し始める。

「……私、元々はゼビアンテス様のお抱え錬金術師でして」

「だろうよ」

四天王ゼビアンテスの紹介でここに来たって話は聞いたからな。

あのアホ女。

本来敵である人間族と仲良くしているだけで背任罪もありえるってのに、隠す気があるのか?

「あの方は見ての通りの全身虚飾女なので、一流の魔導具で身を飾ることしか考えてないんですね」

「アナタはそのために雇われていると?」

「ええ、アホに付き合わされるのはストレスだけれど、給金がよかったので」

辛辣な言い方だなあ。

仮にも雇い主に対して。

それだけゼビアンテスに業を煮やしているってわけでもなく、自分に興味のあることにしか興味がないって感じだな。

だから礼儀作法もテキトーなんだ。

「あの方の構想というか思い付きを受けて、我が魔法技術の粋を集めて美麗かつ実用的な魔導具を作り出すことが仕事でした。……それが最近滞りまして」

「ほう」

「ミスリルの供給がなくなったんですよね。いくら私が天才でも、原料がなきゃ何も作れません」

バシュバーザがやらかしてミスリル鉱山の所有権が人間族に移ったからな。

その影響が、こんなところにも出てきていたとは。

そして彼女。さりげに自己評価が高い。自分で自分のこと天才って言ったぞ……!?

「元々ミスリルみたいな高級金属を扱えるってことでゼビアンテス様の下にいたんですけど、それがなくなればいる意味ないって暇を告げようとしたんですよね一回。そしたら、ここを紹介されて……」

『好きなだけミスリルを扱える現場があるのだわ!!』と言われたとかなんとか。

アイツには機密保持という概念はないのか?

ないか。

「人間族の勢力圏に連れて来られるとはまさか思いませんでしたが、ここで好きなようにミスリルを加工できるというなら自族を裏切る覚悟はできています!」

「できるなよ」

簡単に裏切らないで。

こっちも扱いに困るから。

「彼女の協力は絶対いります!」

そして鍛冶場本来の代表者であるサカイくんも鼻息荒く加わる。

「錬金術による合金作製は、既に僕らの鍛冶仕事に必要不可欠になってます! ヘルメス刀に迫る高性能武具を作るには、素材となる合金から拘らないといけません! 絶対!!」

「だから彼女がいないとダメだと?」

人間族の鍛冶技術と、魔族の錬金術。

それらの夢のコラボレーションが必要だと?

「私の錬金術を利用して人間の武器を作る……。初めて聞いた時にはビックリしたけれど、なかなかマッドで面白いじゃない」

錬金術師マサリが言う。

「そんな常識を覆す禁忌の天才である私の仕事に相応しい! いいわ! アナタの仕事、この天才錬金術師であるマサリが手伝ってあげようじゃない!!」

「あざっす!」

また自分のこと天才って言った!?

「でも覚えておいて! アナタの仕事を手伝う分、私もここで好きなものを作らせてもらうから! 魔族の中ではもはや希少品となったミスリルを好きなだけ用いて、私のインスピレーションが赴くままに魔導具を!」

「もちろんです! その時には、僕の鍛冶師としての技術も惜しげなく提供させていただきます!」

「フッ、私の天才的作業に支援がいるとは思えないけど、一応期待させてもらうわ」

「これで僕たちは……」

「……同じ志を持つ、仲間!!」

ガシッと……。

仕舞いには情熱のハグをし合ったコイツら。

クリエイター同志としてシンパシーでもあるのか?

「どうしたもんかな……!?」

俺は気の遠くなる思いで思案したが、もはやサカイくんにとって錬金術による合金作製は既定路線。

それは亡師スミスじいさんからの継承でもあるのだろう。

これまではリゼートとかゼビアンテスとか、たまたま居合わせた魔導士に頼んで作ってもらっていたが、そもそも彼らは本職でもないので掛かりきりにもなれず、製品のクオリティもなれない。

錬金術師が鍛冶場に専従するのは、サカイくんにとっても非常にありがたい話に違いない。

これでクオリティの高い武具をガンガン作り出してくれたら、ラクス村の名も上がるわけだし……。

まあ……。

村長としても認めるべきなのかなあ?

「わかったわかった。じゃあマサリさん? の滞在は認めるのでいい武器をたくさん作ってくださいよ」

「「ありがとうございます」」

サカイくんとマサリさんから同時に言われた。

互いに抱き合ったまま。

……コイツらいつまで抱き合っているんだろう?

肌と肌の接するテンションが仲間同士というよりは、もっとしっぽりした感じがする。

仮にも男と女だもんなー。

俺自身既婚者としての勘で、この二人は将来デキるということを確信的に予感した。

そんな感じで他にもあちこち見て回って、日が暮れる頃に村の視察終了。

「今日もラクス村は平和だ」

その確認が取れて、満足しながら帰宅。

家では愛妻マリーカと息子グランが出迎えてくれた。

「お帰りなさいアナタ」

出かける時と同じように熱烈なキス。

また赤ん坊のグランからレフリーストップが入るまで唇を重ねる。

「ごはんにします? お風呂にします? それともア・タ・シ?」

お決まりのやり取りをやって、まずお風呂にする。

と言っても桶に張ったぬるま湯にグランを浸して洗う作業のことだが……。おれ自身のお風呂は村公共のサウナ行かないとダメだし……。

それが終わって夕食。

俺とマリーカとグランだけでなく、同居するマリーカのご両親も加わって賑やかな団欒だ。

今日のメニューは、朝方に予告を受けた通りシチューだった。

マリーカの特性シチューは大好物だ。

「それに加えて、蒸しニンニクですよ」

とマリーカが一品加えた。

「ダリエルさんが農家の人たちから貰ってきてくれた野菜がたくさんありますから。他にもウナギのかば焼きに、山芋おろし、スッポンの生き血にイモリの黒焼き……」

それら鼻血が出そうなほどに精力いっぱいのメニューは何故か俺の面前に密集。食卓を共にするお義父さんお義母さん(マリーカの両親)をもドン引きさせた。

「ダリエルさんはたくさん働いてるんだから、これぐらい食べないといけません!」

どう見ても他に目的あるだろ、という感想を誰もが持ったが誰も口に出すことはなかった。

そして俺は、それらエネルギッシュ極まる品々を片っ端から口内に放り込む。

マリーカの期待に応えるためにも。

「ダリエルくん、体張っとるなあ……」

お義父さんから感嘆と畏怖の入り混じった声で言われた。

「さ、アナタも負けずに……」

「えっ、なんでワシもスッポンの生き血飲まなきゃいけないの!?」

お義母さんから勧められて困惑する義父。

……まさかウチのグランくんに年下の叔父とか叔母とか生産するおつもりですか?

そんな風に和やかながらもどこか悲壮に満ちた夕食が終わり、寝る。

寝床に入った俺だがもちろん数々の勢力食品の効能で「寝られるか!」ってなり、そこからさらに頑張ろうとしたところグランくんが夜泣きを始めたので結局、夫婦の時間は子どもに根こそぎ奪われるのだった。

これが親になるということか……!?

こんな風にして平和に流れていくラクス村での時間。

しかし忌々しいことに、平和を掻き乱すトラブルはいつだって起きる。

新たに俺たちへ降りかかる新しいトラブルは……。

『四人に増えた勇者騒動』だった。