軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

90 ゼビアンテス、讃えられる(四天王side)

その日、魔王軍四天王の一人『華風』ゼビアンテスは、ラスパーダ要塞に入った。

防衛の任に就くためである。

「遅い!」

そして着任するなり怒られた。

「お前! 今度こそ真面目にやると言っておきながら、なんだこの体たらくは!? お前の着任日は! 一日前だぞ!」

既に丸一日の大遅刻をやらかしていたゼビアンテス。

しかし彼女の強気は崩れない。

「ヒーローは遅れてやってくるというセオリーを守ったのだわ。わたくしなりの演出なのだわ」

「いいから、そういうの」

四天王の同僚であるドロイエとベゼリアの表情が、完全に『可哀相な子を見る目』になっていた。

「……で、サボったキミが私たちより疲れたような感じになっているのは、なんで?」

「目の下にクマができてるぞ大丈夫か?」

ゼビアンテスが出勤するなり疲労困憊の体なのは、朝方までダリエルのレクチャーを受けて徹夜してしまったから。

当人としてはもう一日サボってしっかり休養を取ってから出勤したかったが、ダリエルから『お前寝たら習ったこと全部忘れるだろ』と言われ叩き出されたという。

そしてダリエル本人も、そのまま村長の仕事に戻っていったとか。

「ふっふっふ……! しかし苦労の甲斐はあったのだわ。今日この時をもって、アナタたちのわたくしへの認識を360度変えてみせるのだわ!!」

「「……」」

二人はもうツッコむことを諦めた。

そしてその瞬間から、ダリエル主導による地獄の猛勉強の成果が発揮されるのであった。

「ここにドーン!」

「「おおッ!!」」

ゼビアンテスは、要塞内に数多く並べられた像の一つの首を決められた回数だけ回すことで、その後ろにある秘密の通路への入り口を開いた。

「要塞にこんな隠し通路が!?」

「魔族領側の街道沿いに出るはずなのだわ! いざという時はこれで脱出すればいいのだわ!!」

無論これもダリエルから教えられた秘密であるが、ゼビアンテスはさも自分自身が発見したかのように見せつける。

「さらに! 守備兵の効率的な運用シフトを用意してみたのだわ! 重要箇所のみを効率的に守って兵士への負担を軽減するのだわ!!」

「おおッ!?」

これもダリエルが現役時代に実施していた警備モデルを丸パクリしたものでしかなかったが、それだけに効率的であったためにドロイエたちの度肝を抜いた。

「凄い! これならば今より少ない人員で同水準の守備力を保持できる! それだけ多くの兵士に休養を与え、万全状態を維持できるぞ!!」

「カッカッカ、その通りなのだわ!」

ポジティブなリアクションに有頂天となるゼビアンテスであった。

「ちょっと待って、この防衛体制ヤバくない?」

「どういうことなのだわ?」

皮肉屋ベゼリアの厳しい審査が襲い掛かる。

要塞見取り図に示された布陣を囲み三人の意見が飛び交う。

「ほらここ、右翼側に警備の穴があるよ。周囲の兵からも死角になるし、ここから潜入されたらまず気づけない」

「たしかに!? ではここにもう一人兵士を配置して……!」

ドロイエが修正しようとするのを、ゼビアンテスが止める。

「ちちちちちち、それこそ素人の浅はかさなのだわ」

「なんだと?」

「あえて隙を作ることで敵を誘い込む兵法があるのだわ。拠点守備も同じ。こうしてあからさまに警備に穴を開けておけば、敵は必ずそこから入ろうとするのだわ」

「これで我々は敵の侵入路を容易に予測できるというわけだな!?」

「完璧な警備はそれだけエネルギーを消耗するのだわ。注意を特定箇所に集中できるということでも、この布陣は効率的なのだわ」

これもまたダリエルからの受け売りでしかなかったが、ゼビアンテスはおくびにも出さず自分自身の発案のように振る舞った。

こういうところだけ小狡さが回る女であった。

「素晴らしいぞゼビアンテス! まさかお前がこんな知略を隠し持っていたとは!!」

「能ある美女は爪を隠すのだわ」

「まさか……、お前の要塞到着が遅れたのは、これらの戦術を練り上げるために? 目にクマまで作ったということは、それこそ今朝方まで……!?」

「本当に辛かったのだわ……!!」

この辺は事実に限りなく近かったのでゼビアンテスのホラに実感が伴った。

「すまないゼビアンテス……!!」

純真なドロイエはすっかり騙されて感涙まで流す。

「お前は、気分だけで行動する掴みどころのないヤツだとばかり思っていた。遊ぶことしか考えず、義務感も責任感もなく、共に働く者の作業量を倍にする効果しかない呪いのアイテム的な存在だとばかり思っていた……!」

「し、仕方ないことなのだわ……!?」

薄々勘付いてはいたものの、それでも予想を遥かに上回る酷い評価にゼビアンテスの頬が引き攣った。

「しかし、私の目は節穴だった……! お前はやはり誇り高い四天王の一員だ。こんなにも努力して、欠点を補おうとしていたとは! お前がいてくれれば当面戦術面は安心だ!!」

「あはははははははは! 何でもわたくしに任せておけばいいのだわ! 今日からわたくしを風の美女軍師と呼ぶがいいのだわ!!」

すっかり調子に乗って適当なことを口走るゼビアンテス。

その横で、見取り図の上に配置された戦術性奥深い布陣図をジッと見下ろす男がいた。

四天王『濁水』のベゼリアであった……。

ゼビアンテス 発案(ということになっている) 警備シフトが実施されて数日。

要塞外縁に当たる区画を警備兵が巡回していた。

見回る兵士は二人一組。

それぞれ魔王軍では最下級の暗黒兵士だった。

「……平和ですねえー」

「そうだな……」

二人一組のうち、一人は若い新兵で、もう一方はやけにくたびれた中年の古参兵だった。

勇者の襲撃がぱったりやんで数ヶ月。末端の兵士にも緊張感が尽き、奇妙な慣れが生まれつつあった。

加えてゼビアンテスからもたらされた警備の新シフトが、休養できる兵士を増やし、要塞にはのどかなムードが広がっている。

「いやでも、シフトが変わって助かりましたね。おかげで休みが増えましたから」

二人組のうち、若い方の兵士が言った。

「どんな形でも休みが増えるのはいいことですよ。まして警備の兵は少なくなっても、防衛体制は弱くなってないんでしょう? 凄いですよね。ゼビアンテス様が考てくれたんでしょう新シフト」

「……らしいな」

年配の方の兵士が応える。

「噂ではゼビアンテス様ってただのアホだって言われてましたけど、やっぱ噂なんて当てになりませんねー。強力な魔導士である上に軍略にも明るいなんて。さらに美人なんて完璧すぎますよ!」

「…………」

「ドロイエ様も美人だし、これで新しい火の四天王が着任されたら要塞は盤石ですよね! 勇者なんか戦うまでもなく逃げ出しちゃうかも!!」

若い新兵は、楽観的な憶測を迂闊に並び立てたが、対して古参兵の表情は硬かった。

何かしら疑問を抱えている顔色だった。

「新入り。お前はここに着任して、どれくらい経った?」

「はい? 三ヶ月目ですかね。ここの仕事には大方慣れたつもりですけど……?」

「じゃあ、知る由もねえか。自慢じゃねえがオレはもう十五年暗黒兵士をやってる。途中別部署に配置換えになったこともあるが、このラスパーダ要塞にも通算六年は勤務している」

最下級といえど、一つの職務を十年単位で務め上げたベテランにはエリートとは違った凄味が伴う。

「それこそ、今の四天王様が就任する前からオレはこの要塞にいたんだ。だからわかる」

「何がです?」

「この配置は、前にも敷かれたことがある」

ゼビアンテスが提案した(ということになっている)警備布陣は、以前にもまったく同じものがあり、それを経験したことがあるとベテラン兵士は言うのだ。

「へえ……、そうなんですか?」

「お前、ことの重大さがわかってねえな?」

「だって偶然同じになることぐらいあるんじゃないですか? 今の布陣は効率性最高だって話ですし、それくらい正解に近づけば自然似通った形になるんじゃ?」

「どんなに効率化してもよ、生き物である戦場に対応した布陣は自然考えたヤツの性格が出るもんだ。だから違う考案者でまったく同じなんてありえねえ」

「そうなんですか……?」

「それなのにゼビアンテス様が考えたって言う布陣は、前にあるヤツが考案したものと細部まで似過ぎている」

「誰と似てるっていうんです?」

問われてベテラン兵士は、その厳つい表情を益々硬くした。

「因縁の相手さ。ある意味、今の四天王様方とはな」

「因縁?」

「アイツをクビにしたと聞いて、正直当代の四天王はダメだと確信した。それが今になって、どうしてアイツの影がちらつくんだ?」

十五年に亘って最底辺で踏ん張り続けた古参だからこそわかる空気。

「アイツの名声は知る人ぞ知る通好みだからな。歴代最強『業火』のグランバーザ様の懐刀。階級は底辺の暗黒兵士でありながら、四天王補佐という要職に就いた奇跡の男。裏方に回ればどんな職務も忠実にこなす、完璧と重厚の仕事人……」

そう呼ばれた人材が、かつて魔王軍にはいた。

「面白い話してるねえ?」

「ひぃッ!?」

いきなり声を掛けられて、特に若い方の新兵が驚き飛び上がった。

新たに現れた人影は、末端の兵士が震えあがるほどの重要人物であったから。

「べべべべべべべ、ベゼリア様!?」

現役四天王の一人『濁水』のベゼリア。

魔王軍の頂点に立つ一人である。

「何故このようなところに!? いえあの、これは! 別にサボっていたわけではなく!!」

「いいからいいから、そういうことを見咎めに来たんじゃないんだよ。兵士長に問い合わせてね。この要塞にもっとも長く勤めている兵士は誰かって。……キミらしいじゃないか?」

ベゼリアの視線が、いかつい顔の古参兵に向く。

『濁水』の称号に相応しい、ねっとり絡みつくような視線だった。

「私にも聞かせてくれないかな? キミが感じた違和感のことを?」