軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

07 ガシタ、先走る

「……若さゆえの過ちかのう」

「? 何です?」

その時俺は、武器の手入れの仕方をマリーカから教わっていた。

冒険者を始めてから数日が経ち、ラクス村での生活に急速に慣れつつあった。

「ガシタのヤツよ」

「ああ、あのバカ」

と応えたのは俺ではない。

マリーカだ。

彼女は、ガシタの名前が出てくるたびに『バカ』と付け加えるのだが、彼のことが嫌いなの?

「ガシタはバカと言われても仕方ないからのう。もう少し自分の評価をまともにできれば……!」

「それが、さっき言った『若さゆえの過ち』と関係が?」

「そうそう、それ」

上手く会話が弾んで村長が乗り出す。

「ダリエルくんが二回連続でクエストターゲットを倒してしまったろう? それがアイツのプライドを傷つけたみたいでな。やっすいプライドを」

「あれは、彼に悪いことをしましたねえ」

最初はエテモーン。

次はアントラシック。

二体とも狙って倒したわけではないが、あれは元々ガシタが狩ると言って受注したクエストの標的。

獲物を横取りされたと感じたのであろう。

元からあった俺への敵意がさらに燃え上がり、道ですれ違って舌打ちされるレベルだ。

「モンスターは村に被害を及ぼすかもしれないから、狩れる時には狩っておくのが常識でしょう? ダリエルさんは村に貢献してくれたのよ!」

「マリーカの言う通りだ。この場合、勝手に嫉妬しているガシタが悪い。本来同じギルドの冒険者は協力しあわなければいかんのに……!」

今のところ彼との協力なんて絶対無理そう。

「村長として悩みの種なのはわかりますが、時間を掛けるしかないんでは? 俺の方からも打ち解けるように努力してみますんで……」

「いや、ワシが心配しているのは別のことなんだ」

別のこと?

「ダリエルくんが留守の時にな、アイツが来やがったんだ」

ひょっとしたら俺の留守を狙ってきたのかもしれない、と村長さんは推測を言った。

「もっと強いモンスターの討伐クエストをくれとな。エテモーンやアントラシックより手強いヤツの」

「えええ……!?」

ガシタとしては、強敵を倒して自分の強さを見せつけたいといったところか。

しかし俺には無謀に感じた。

「でも、こんな田舎に強豪モンスターなんてそう簡単に現れないんじゃない? 現れたら堪ったもんじゃないし?」

「それがタイミングがいいというか悪いというか……」

村長は何やら一枚の書類を出してきた。

うぇ?

まさか……?

書類には、対象の姿絵と共にこう書いてあった。

『緊急・ブレイズデスサイズ討伐要請』。

何この……、やたらと危険そうな雰囲気を発した……!?

「ブレイズデスサイズは、エテモーンやアントラシックなんかよりずっと危険で強力なモンスターだ」

「なんでそんなのの討伐クエストがウチにあるのよ? もっと大きな街のギルドで扱うべきでしょう?」

マリーカが不満気味に言う。

「まったくその通りだ。コイツの討伐は隣町のギルドで、B級C級が当たっている。ワシらの村には関係ない話だ」

「だったら何故こんな……?」

「それでも近隣だからな。離れてはいるが危険モンスターがこっちに向かってくる可能性もゼロじゃない。だから用心しろ、という意味でこの依頼書が届けられたんだな」

「それをガシタのバカに見せたってこと? そんなことしたら、あのバカ先走るに決まってるじゃない。何考えてるのお父さんのバカ!」

マリーカって、身内にはけっこう容赦ない口振りするよな。

俺にはまだ敬語で接してくれるけど。

「見せてないわ。ワシとてガシタのアホがどうしたら暴走するか見極めぐらいするわ」

『もっと強いモンスターの討伐クエストを』と押しかけてきたガシタに、村長は滾々と説教したという。

お前は増長している。お前より優れた冒険者は腐るほどいる。認識を改めて地道に生きよと。

しかし若者は、自分の凡庸さを受け入れられなかった。

村長の机を勝手に漁り、例の危険モンスターの依頼書を見つけ出してしまった。

「『オッサン野郎には見せるなよ! 絶対見せるなよ!』と喚きながら飛び出していきおった。……本当に仕方がない」

オッサン野郎って俺のことか。

……そんなハッキリ言われると……!

「……って、それより。こんなに落ち着いてていいんですか?」

B級とかC級の冒険者が動くべき危険モンスター。

D級のガシタがぶつかったらヤバいのでは?

「さっきも言っただろう? ブレイズデスサイズの目撃情報があったのは隣街ギルドの担当エリア。ここからは大分離れておる。こっちに通達が来たのはあくまで用心のためだ」

「じゃあ、ガシタが戦うことは……?」

「まずないだろうな。アイツが隣街の担当エリアを目指していたとしても、到着する前にあちらの主力冒険者が解決しているだろう」

というわけで村長は今もゆったりしているらしかった。

「でもウチの冒険者が勝手に余所様のエリアに侵入したら問題になるんじゃない? ギルマスであるお父さんの責任問題になるかも?」

「あ、やっべ……!?」

あまりゆったりしてもいられないようだ。

「……俺が行きましょう」

立ち上がる。

「追って、説得して、連れて帰りますよ」

「ええ? いいよダリエルくんが気を遣わなくても。どうせアイツは根性なしだから途中で疲れて帰ってくるよ」

と村長は言うが、それで思い留まる気にはなれなかった。

何やら胸騒ぎがするのだ。

こうした胸騒ぎは魔王軍時代からあって、必ずよくないことが起こる。

このざわめきを無視すると必ず後悔した。

「そう簡単に見つけることもできないでしょうから、森を見回ってダメそうなら帰ってきますよ」

「すまんな、キミに何かと世話になってしまって……」

手早く準備していると、マリーカが駆け寄ってきて。

「これを持っていってください」

そう言って彼女が渡すのは……。

「薬?」

「ダリエルさんと集めた薬草を加工したものです。何が起こるかわかりませんから……」

彼女の気遣いに心から感謝し、俺は薬の入った小箱を懐に収めた。

「では、行ってきます」

俺自身、さすがに追いつけるとは思っていなかった。

村長の話からするにガシタが出発したのはずっと前のことだろうし、大まかな方向はわかっていても深く険しい森の中発見するのは至難の業。

だから探すだけ探して、最善を尽くしたという手応えを得られたら素直に帰ろうと思っていた。

そう思って俺はラクス村を出た。

しかし、楽観は裏切られた。

「……、なんだこれは……!?」

森が荒れていた。

木が薙ぎ倒され、土は抉られ、不幸な小動物がいかにも巻き添えに遭ったという風に転がった死体まであった。

何かが起きていた。

地面に、何かが這っていったかのような平面に均した跡がある。

それを追っていくと、最悪のものに出くわした。

「ひぃえあーーーッ!? 助けて! 助けてええええッ!?」

ガシタだ。

問題のあの男は、日頃の傲慢ぶりなど欠片も残さず、恐怖と混乱に鳴き喚いていた。

そんなアイツを獲物と捉え、ゆっくりと這い寄る一匹の蛇。

巨大な蛇。

スケッチに描かれていた姿とピッタリ同じだった。

B級C級冒険者をもって討伐に当たらせるほどの強敵。

ブレイズデスサイズ。

それは人ぐらい丸呑みにできそうな巨躯を持った大蛇だった。