軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

74 ダリエル、不当な非難を受ける

四天王『絢火』のバシュバーザ。

魔王軍の頂点たる四天王の一人にして、先代四天王グランバーザ様のご長男。

最高の血統、最高の才能を伴って四天王へと抜擢された。

鳴り物入りというヤツだった。

就任当初、周囲はバシュバーザ様へ惜しみなき期待をかけたものだ。

『あのグランバーザ様の御嫡男なれば、さぞかし剛勇にて聡明であらせられるだろう』と。

先代から一新された現役四天王。

そのリーダー格として脚光を浴び、誰よりも輝かしい存在であったはずの彼。

バシュバーザ様。

その同一人物が今、俺の目の前でもはや見る影もない。

「ダリエル……、ダリエルうううう……!!」

かろうじて俺の名を唱える声は、悪霊が『こっちへ来い』と呼んでいるかのようだった。

「……久しいなダリエル。お前の死んだゴキブリのような顔を再び見ることになるとは思いもしなかったぞ?」

「俺が魔王軍を去って以来ですね」

俺はかつて、魔王軍の一兵卒としてこの方に仕えていた。

役職は四天王補佐。

魔王軍の頂点に立つ四人の重鎮を、もっとも近いところから支える役割だった。

しかし俺は、その役職を解かれた。

『魔法が使えない役立たずは不要』という判断を受け、任を解かれるどころか魔王軍自体から追放され、俺は路頭に迷った。

「クビだと言ってやった時の……、捨てられた豚のように哀れなお前の表情は今でも覚えているよ。あれほど愉快な表情は他にないからね。思い出すたびにスカッとする!」

「済んだことです。過去よりも重要なのは、今どうであるかということ」

魔王軍を追放され、さまよい歩いた果てにラクス村に辿り着き、俺は俺の新しい生活を始めた。人間族という出自を知って。

そうして新たに得たものすべてが俺の掛け替えのない宝。

この宝たちと出会えたことを思えば、魔王軍から追放された過去に感謝したくなるほどだった。

そして一方。

俺が俺の新しい居場所を築き上げるのと同じ時間を、目の前のバシュバーザ様も別の場所で過ごしてきたのだろう。

あまり実りある時間とは呼べなかったようだが……。

「魔王軍での立場がお悪くなっているそうですね?」

その指摘に、バシュバーザ様の体がブルブル震えだした。

図星というところか。

バシュバーザ様の身辺穏やかでないことは、俺も噂程度に聞き及んでいた。

勇者の侵攻を止められない状況下、決定的な失態として引き起こされたミスリル鉱山の離反。

それを契機として一気に立場が悪くなり、日に日に評価が落ちているという。

当人も、評価を取り戻すための運動を何も起こさないために歯止めがかからないのだとか。

「何を……、偉そうに……!!」

地獄の底から響いてきそうな怨嗟の声をバシュバーザ様は上げた。

「煩い! 煩い煩い煩いぞ!! いい気味だとでも思っているのか!? お前をクビにした愚かな上司が、相応の報いを受けているとでも言うつもりか!?」

「どんなものにも因果がある。が、俺をクビにした程度でアナタの立場が悪くなるほど強い因果は生まれないでしょう。アナタが追い詰められているのは……」

ひとえに……。

「アナタがしくじったからだ」

「うぐッ!?」

「物事をよく観察し、分析して、然るべき対応を考え出し、決断して実行する。それだけのことができれば誰もが四天王の職を務め上げることができる。アナタがそれをできなかったのは、まさに、観察力がなかったからだ。分析力がなかったからだ」

然るべき対応を考え出すだけの知識と知恵がなく、決断力も実行力もなかった。

「アナタにはすべてがなかった。それらを一言で言い表すと、無能ということだ」

「うぎぎぎぎぎぎぎ……!?」

バシュバーザ様は感情を高ぶらせるように髪を掻き毟った。

厳しい言葉を使っている自覚はあるが、何もかつて自分を追い出した相手に意趣返ししたいというわけではない。

どんなに困った子どもでも、彼は元上司で、かつもっともお世話になった人の息子なのだ。

できることなら立ち直ってほしい。

そのためにもまず、厳しい自分の現実を見詰めなおしてもらわなければならないのだ。

「ダリエルさん……! もしかしてこの男が……!?」

「ああ、当代四天王の一人、『絢火』のバシュバーザ……、グランバーザ様の息子だ」

事態を把握できていないレーディの問いかけに、俺は一番重要な情報を提供した。

「これがグランバーザの血統を受け継ぐ者か。父親とは似ても似つかん愚物だな」

そうハッキリ言うのは前世代のアランツィルさん。

あまり挑発的な物言いはやめていただきたいデリケートな子なんで。

「……ダリエルを、ここまで立派に育て上げたグランバーザが、人を育てる実績を誇ろうとしない気持ちがわかった。こんな出来損ないの実子を持っては恥ずかしくて自慢などできまい」

「煩い黙れえええッ!!」

ほら暴発した。

俺からの叱責だけで既に許容量ギリギリだったんですよ。

「節穴の目をした貴様にはわかるまい!! ボクは英雄だ! 歴史に名を残す男なのだ! どれほど過去を遡ろうと! また未来を見渡しても、ボク以上に優れた魔族はいないのだああああッ!!」

「口だけは豪壮だな」

アランツィルさんが吐き捨てるように言った。

「私も勇者として多くの人材を見てきた。敵も味方も様々に。その中で一番多かったのが、お前のように口だけが気宇壮大な無能者だ」

「何をおおおおおッ!?」

「本当に実行できる者はみだりに口を動かさぬ。言葉ではなく行動によって自分の意思を示す。ウチのダリエルのようにな」

「きえええええええッ!!」

もうこれ以上バシュバーザ様の冷静さを消し飛ばさないでください。

上手いこと感情をコントロールして言い聞かせようと思ったのにもう無理。

仕方ないので話題を変える。

「あのバケモノは、やっぱりアナタの仕業だったんですか?」

後方に控える炎魔獣を視線で指し示す。

炎をまとう竜は、まるで主からの命令を待つかのように上空でジッと待機していた。

驚くほどのことでもないし、推測しやすくもあった。

あの怪物を裏で操っているのがバシュバーザ様かもしれないと、既にグランバーザ様が言い当てていたのだから。

「グランバーザ様が言うには、魔獣を支配し意のままに操る禁呪があるという。それを使ったんですね?」

「そうだ! ボクは天才だからな! 禁呪であろうと簡単に使いこなすことができる! 有能なボクに凡人の尺度など通じない! だから禁呪など関係ないのだ!!」

典型的な失敗するヤツの思考法だった。

何故そんな無根拠に自分が特別だと考えるのか?

「俺にはそう思えない。そのやつれ様、間違いなく禁呪を使った影響でしょう」

特上の負担を強いる極大魔法は、そうやって術者の身を削る。

ついに耐えられなくなり制御を失った時、最悪の被害を無尽蔵に撒き散らす。

それが禁呪だ。

「今からでも禁呪を解除してください。このままでは間違いなくアナタは魔獣に取り殺される……!」

「黙れ! 無能副官が、まだボクに助言する気か役立たずの!? ボクを甘く見るな! ボクは魔獣を使いこなす!!」

それが可能とは欠片も思えないんで忠告してるんですが。

「ボクはな……! 炎魔獣サラマンドラを使ってすべてを取り戻すのだ! ボクが手にするはずだった栄光! ボクが受けるはずだった賞賛! ボクが授けられるはずだった名誉! すべて取り戻す!!」

バシュバーザ様は、かつて袂を分かった頃よりもなお正常な判断力を失っていた。

それも魔獣を支配しようとする行為への反動だろう。

「勇者を殺し! 人間族を滅ぼし! 人と魔の争いに終止符を打つのだ! そうすればボクは永遠に語り継がれる英雄となる! ……そして!」

バシュバーザ様の屍鬼のごとき目が、こちらへ向けられた。

……俺?

「ボクの英雄的偉業を開始する前にやっておかねばならないことがある……!」

「何です?」

「ダリエル、お前を殺す!」

……。

……なんで?

「ボクが……、こんな風に落ちぶれたのは誰のせいか……、わかっているのか? ええ?」

「?」

「お前だダリエル!!」

食い残しの鳥の骨のような細指が、俺を指し示す。

「全部お前のせいだ! ミスリル鉱山が裏切ったのも! 魔王から叱られたのも! 勇者が大人しく死なないのも! 他の四天王どもがまったく役立たずなのも! 父上がボクを認めないのも全部お前のせいだ! お前が悪いのだ!!」

まくしたてられる。

「だからぁ……! ボクはこれからの汚名返上の手始めとして、お前を殺す!! そして勇者を殺し、人間族を滅ぼして、空前絶後の英雄となるのだぁ!!」