軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

73 ダリエルとバシュバーザ、再会する

そして再び俺ですが……。

坑道内での不思議体験をした俺だが、かと言ってそれ以上何かあるわけでもなく、鉱山の救助活動を続行した。

遭難者をあらかた確保した頃にはガシタ率いる後続隊も到着。

本格的に救助作業から復旧作業へと移る。

黒焦げになった瓦礫を片付け、周囲から伐り出してきた木材で仮宿舎を建てる。

「でも本格的な建て直しを目指すなら、本業の大工でも呼ばないとダメですよ?」

「無論算段はつけてある。センターギルドに支援を要請して、建材や人手を送ってもらうつもりだ」

責任者ベストフレッドさんが言う。

それはよかった。

ミスリル鉱山は、重要施設だから偉い人たちも支援を惜しむまいでしょう。

「今まで使っていた施設は、魔族から奪取したものをそのまま使いしていたからな。これを機にもっと新しい使いやすい施設を建造しよう! キミらもリクエストがあればドンドン言うがいい!!」

「ええッ!? オラたちの希望も受け付けてくれるだか!?」

「もちろんだともー、この鉱山で一番働くノッカーくんたちこそ報われるべき!!」

「オラ、風呂場が欲しいだー!」

「オラは焼き豚が食いたいだーッ!」

「嫁さん欲しいだーッ!!」

ベストフレッドさんとノッカーたちが仲良くなりすぎている……!?

まあいいや。

「アニキアニキー」

復旧隊を指揮するガシタが報告に来た。

コイツもすっかり立派になりやがって……!

「復旧作業、予想より捗ってますね。やっぱり住民のほとんどが速やかに避難して、怪我人皆無なのが幸いでした」

「俺たちにできるのは瓦礫片付けて、夜露を凌げる仮住まいを整える程度か。あとはセンターギルドが派遣してくれるって言う本職の大工に任せよう」

「承知しやした。では諸作業が済んだ後は、最低限の人員だけ残して撤収ということで?」

「……」

「アニキ?」

ガシタの確認に、俺は即答できなかった。

彼の提案は至極真っ当なものだ。ここまで派遣してきた救助兼復興のための人員は、ラクス村に所属する冒険者たち。

彼らには本来ラクス村でのクエストをこなしてくれないといけないのだから、いつまでも鉱山に釘づけにされていてはラクス村の生活が滞る。

ガシタの言うように、緊急状態が過ぎたら通常業務に復帰すべきだろう。

それが当然の判断だ。

しかし……。

『それでいいのか?』という漠然とした不安が俺にまとわりつくのだった。

「……ガシタ」

「はい」

「強盗は同じ家を二度襲うと思うか?」

「はい?」

ガシタにとっては何のことやわからない問いかけだろう。

だが彼の返答を待つまでもなかった。

正解そのものが、遠くの空にポッカリと浮かんでいるのだから。

「ん? なんだ?」

「鳥か?」

最初は、青空に浮かぶ小さな黒点を誰もが訝しむだけだった。

しかし空の黒点は、遠近法的にドンドン大きくなっていき、その形も明確に見る者に誇示する。

「あれはまさか……」

「竜、竜だああーーーーッ!?」

「鉱山を襲った竜がまたやってきたあああーーーーッ!!」

やっぱりまた来た。

ミスリル鉱山を焼け野原に変えた張本人。

炎魔獣サラマンドラ。

『ヤツが再び襲ってくるのでは?』という不安は、漠然としながらもたしかにあった。

魔獣とやらがミスリル鉱山を標的にした理由も判明していないし、それにまつわるグランバーザ様の態度も不安を掻き立てた。

「ガシタ」

「へい!」

「非戦闘員をもう一度坑道内へ避難させろ。冒険者も護衛を務めつつ後退。絶対あのバケモノに正面から挑むな」

炎魔獣に挑んだ者がどうなるか、既に実証されている。

黒焦げの死体になるだけだ。

あれはきっと自然災害などと同様に、人類がまともにぶつかってはいけない相手なのだろう。

「でもアニキ! 防がないんじゃ、また蹂躙されちまいますぜ!?」

「問題ない。精鋭を選りすぐってぶつけるだけだ」

俺はヘルメス刀を引き抜いて言う。

「まさか……、アニキみずから……!?」

「それからレーディとアランツィルさんを呼んでくれ。新旧勇者が揃い踏みなら、バケモノぐらい倒せるだろう」

炎魔獣サラマンドラは、いまだ青空の上に小鳥程度の大きさで浮かび上がるだけだ。

完全にこちらを目標にしているとしても到着までに時間がかかるだろう。

それまでに再避難を完了させるのは充分容易だった。

ギルド職員やノッカーたちは残らず坑道内に収容し、迎撃態勢は完了だ。

俺の左右にはレーディ、アランツィルさん新旧勇者が揃って頼もしいことこの上ない。

場所は瓦礫を片付けたばかりの更地なので、被害を心配する必要もなかった。

ただ……。

「お前らも避難しろよ……!」

俺は背後に陣取る冒険者たちに呼びかけた。

セッシャさんやサトメはともかく、ガシタ以下ラクス村の若手冒険者たちまで踏みとどまるのは危険極まりないんだけども?

「何言ってんすか! アニキがカチコミかけようってのに、オレたちが安全圏でヌクヌクしてたら舎弟は務まりませんよ!」

誰が舎弟だ?

しかしガシタと志を同じくする無鉄砲野郎は意外に多く、皆で威勢のいい鬨の声を上げている。

「仕方ないなあ……、竜には不用意に近づくなよ?」

「いいではないか。勇ある者には自然と人が集うものだ。……私も若い頃はそうだった」

アランツィルさんがなんか一人で納得しておられた。

まあいい。

とにかくあの竜。適当な間合いまで近づいてきたら、また俺が叩き落とすので地表で袋叩きプランね。

作戦を共有し、さあいつでも来いと待ちかまえるのだが……。

「……?」

炎魔獣の野郎、ある距離からピタリと止まって動かない。

こちらへ一向に近づいてこない。

「どうしたんだ?」

あの間合いでは口から吐く火炎ブレスもこっちに届かないだろうに。

前の戦いで恐怖でも覚えたか?

獣らしくない煮え切らなさだ。来るならとっとと来ればいいのに。来ないなら帰れ。

「……久しぶりだなダリエル」

「!?」

まだ遠距離なのでわかりづらいが、よく目を凝らして見ると炎魔獣の上に、何か人らしきものが乗っていた。

一人。

その人影は、炎魔獣の頭を踏んで前に出ると、さらに鼻先をも踏んで、さらに前へと踏み出す。

「うわッ!?」

鼻先より先には何もないので、空中へ足を踏み出した誰ぞやはそのまま落ちてしまうと皆が思った。

しかしそうはならなかった。

空中に現れた炎がしっかりと足をキャッチし、そのまま階段のようになって乗った者を地上まで導いていく。

「炎……、まさか……!?」

炎魔獣サラマンドラの上に乗っていた誰かは、そうして無事地上まで降りてきた。

俺たちの目の前に。

「お前は……!?」

「どうしたダリエル? お前の主が来てやったのだぞ? 膝を屈して平伏し、額を地に擦りつけて服従の意を示すべきではないのか?」

最初、俺はこの人が誰なのか本当にわからなかった。

喋り出して、その声と傲岸な口ぶりでやっと思い当たった。

「バシュバーザ様……、ですか……!?」

口に出してなお、俄かに信じがたかった。

目の前に立つ幽鬼の形相と面識があったなど。

「どうしたんですか……!? その顔は……!?」

あまりにも様変わりが酷すぎる。

俺がバシュバーザ様を最後に見たのは、魔王軍を解雇された時だが、一年ぶりの再会にしても変わりすぎていた。

頬はこけ、眼窩は落ちくぼみ、剥き出しの眼球はギラギラと怪しい光を放っていた。

以前のバシュバーザ様は、魔族の中でもそれなりにハンサムで貴公子などと呼ばれていたのに。

墓から掘り起こした死体のような形相に、過去の面影はまったくない。

「何があったんです……!? 何があれば、こんなやつれた有様に……!?」

「ククク……! ダリエル、ククククク……!」

話しかけてもバシュバーザ様は、抑揚のない笑い声を漏らすだけだった。

本当に不気味。

一体この方の目的とは……!?