軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

71 ダリエル、不思議体験する

炎魔獣とやらの動向は気になるが、そっちに関して俺にできることは、今のところない。

だから目の前の今できることを着実にこなしていくべきだろう。

ということで俺は、遭難者探索のために坑道内へ入っていくのであった。

「ダリエル様! 絶対にオラたちから離れねえでくだせえ!!」

「坑道の中でオラたちとはぐれちまったら……、死ぬだ!!」

はいはい。

まあノッカーたちの言ってることも大袈裟ではなく、何も知らない人が不用意に坑道に入ったら、絶対迷う。

中の構造が複雑なのだ。

鉱石を掘り出すため日夜掘り進められ、形を変える行動はまさに生きた迷路。

たとえ道順を脳内に叩きこんでも、次の日には新しい通路ができてしまっているかもしれない。そうしたら更新前のマップは無意味。

それが坑道。

しかも地下なので光も届かず真っ暗。カンテラなりの照明器具を持ち込まなければ自分の手相すら確認できない。

だから遭難者が出ている可能性は充分にあった。

炎魔獣サラマンドラ襲来によって、鉱山に務める鉱夫やギルド職員は避難先として鉱山に逃げ込んだ。

人々はパニックをきたし、危険から一歩でも遠ざかろうと鉱山の奥へ奥へと駆けこんでしまった。

そんな粗忽者もいることだろう。

俺たちの目的は、そんな魔獣襲来のドサクサで発生した遭難者を捜索、発見し地上に連れ戻すこと。

坑道内をリアルタイムで知り尽すノッカーを案内役に、俺、レーディ、アランツィルさんの三手に分れて捜索していく。

「坑道内はめっちゃ複雑で、迷ったら二度と出られねえだ」

俺の案内役についたノッカーが真面目に言う。

「何せ日に日に形を変えていくだからに。オラたちノッカーですら時おり遭難者が出るだ」

「そりゃあ、毎日掘り進んでるからねえ……」

「それだけじゃねえだ。この鉱山は生きてるだ」

「ふむ?」

「掘った穴がいつの間にか塞がってて、元通りになってるだ。おかげで掘っては塞がり掘っては塞がりで、益々わけわからなくなるだよ」

いや待て。

いくらなんでもそんなことがあるか?

地面に掘った穴が自然に塞がるなんて、普通に考えてありえるはずがないじゃないか。

それじゃあまるで、生き物についた傷が自然に治癒するみたいな……?

「オラたちも不思議なんですだあ。こんなおかしなことが起こるのは、この鉱山以外ねえ」

「他の鉱山は穴掘ったら掘ったまま空きっぱなしなのによお。これだからミスリル鉱山は入るたび道順が変わる『不思議の鉱山』なんて呼ばれてますだあ」

そんなこと初めて聞いたわ。

最初は『そんなバカな』と思ったが、ノッカーたちの話に起因して他にも色々、この鉱山にまつわる不思議な話が思い出される。

……この地にミスリル鉱脈が発見され、開山されたのはもう何百年と前。

それから人間族魔族の双方によって絶えず採掘が進められてきたが、普通に考えて数百年も掘り続ければ鉱石は掘り尽されて閉山。

そうならなくても、どんな鉱山だろうと鉱石に含まれる鉱物の純度が悪くなるはずだ。

なのにここミスリル鉱山だけは、実際数百年運営されて、少しも鉱石の純度が落ちない。

その謎は現地員ノッカーたちの言うように、鉱山がまるで生物のように自然治癒し、新陳代謝するように新たなミスリルを生み出し続けているからじゃないか?

「そんな……、まさかな……!?」

愚にもつかない妄想に自分で失笑を漏らす。

そうこうしているうちに坑道が行き止まりになった。

「坑道の一番奥底ですだ」

「ここに来るまで誰も出会わなかったってことは、遭難者はいなかったってことですだ」

うむ。

何事もなければ、それに越したことはない。

「ではここのルートは『済』にして、別ルートのチェックに行くか」

思えば、こんな奥まで入ったのって何気に初めてだなあ。

魔王軍に務めていた時代から、ミスリル鉱山の管理職に就いたこともあったが、所詮管理職だし現場の一番深いところへ行く用事もないし。

まあ感慨深いなー、と思いつつ今は遭難者の捜索が優先なのでサクサク戻ろう。

……と思ったが。

『待て』

何やら声がした。

俺の声でも、道案内役のノッカーの声でもなかったので、すわ『問題の遭難者かッ!?』と周囲を見回してみたが誰もいない。

「したよな!? たしかに声したよな!?」

「しかとこの耳に聞こえましただ! ノッカーイヤーは地獄耳なんで間違いないですだ!!」

などとノッカーも言うので、俺一人の空耳と言うことはまさかあるまい。

でもいない。

どれだけ見回しても人影らしきものは見えない。

『どこを見ておる、こっちだ』

「くっそノッカー、カンテラの明かりを向こうへ! まだ照らしてないところはあるか!?」

明かりを四方八方へと向けるが、やっぱり人影はない。

でも声はする。

『何これホラー!?』『怖い逃げたい!!』と思っていたが、やっと声を発しているらしきものを見つけた。

坑道内のどこかでなく、坑道の壁そのものだった。

地下を掘削してできた通路の、側面の土壁に、人の顔が浮かんでいたのだ。

しかも大きい。

顔だけで、俺の身長ぐらいも丈があった。

ソイツが喋っていたのだ。

『やっと気づいたか、そうだ私だ』

「やっぱりホラーじゃねえかあああああああッ!?」

俺は心底ビビってノッカーたちを連れ一目散に逃げだす。

……としたが。

『待て待て待て待て……、私の話を聞け』

「えッ、何?」

普通に呼ばれたので止まった。

よく考えたら、こんな意味不明なヤツを発見して正体もわからないまま放置したら危険で鉱山運営を続けられない。

『臆病なのか豪胆なのかわからんヤツだな。まあ、お前と話をするため物質界に出てきたのだから逃げ去られても困るが』

「そ、そういうお前は何者だ……!?」

『私は、お前たちがミスリル鉱山と呼んでいるモノ、そのものだ』

「何いッ!?」

唐突過ぎて理解不能な展開だが、不思議とそうはならず納得できた。

ついさっき、まるで生命のように振る舞うミスリル鉱山の不思議エピソードを並びたてられたせいか。

『遥か昔、私は全能なる御方によって生み出された。そして役割を与えられた。大地と一体化し、この地上を這いまわる者たちに役立つものを生み出せと』

「全能なる御方……? 役立つもの……!?」

いきなり壮大なことを言われても困る。

理解できん。

『命令に従い、私はこの地下で我が力の結晶を生み出している。お前たちがミスリルと呼ぶものだ。……お前も持っているだろう』

「えッ? ……これかな?」

自分の腰からヘルメス刀を取り出す。

俺の所持しているもので、出来のいいミスリルの塊と言えばこれだけ。

『おお、なんと美しいロゴスをまとった我が分身よ。余程よき作り手と使い手に巡り合えたのだろう』

「はあ、……褒められてるんでしょうか?」

だとしたらそれは、今は亡きスミスじいさんの全身全霊が讃えられたということで素直に嬉しい。

『私はその逸品に誘われて現界した。我が分身をここまで素晴らしく鍛え上げた者は初めて見る。……これは、褒美を与えねばなるまい』

そう言って壁に浮かんだ顔(ミスリル鉱山そのもの?)は、目を閉じて、ムニャムニャ呟く。

それに呼応するように俺のヘルメス刀が、眩い輝きを放った。

「おおッ!? なんだ!?」

輝きはしばらく続いたが、やがて光そのものがヘルメス刀に定着するように柔らかくなり、収まった。

発光を経たヘルメス刀の色艶は、それ以前とは明らかに違って神聖さすら放っていた。

『その逸品を構成するミスリルの制限を一段階外した。どのように使いこなすかは使い手であるお前次第……』

「ヘルメス刀が……、さらに強くなったってことか?」

手で握った感触だけだで、たしかにそんな実感が伝わった。

スミスじいさんが遺したヘルメス刀が、ここに来てさらに進化した。

『資格あるものにさらなる力を与える。それもまた我が創造主の御心に適うものであろう。あの御方は、地上に生きる者どもがより高く進化することを望んでおられるゆえ……』

「なんだと?」

『そういえば、つい先ほど私と似た存在の反応を感じた。あれもまた全能なる御方が、己が欲求のために生み出したものであろう。私の他にも、創造主の意を受けて地上の者たちに影響を与える存在がいるのか』

「……ッ!?」

何やら気になることを言う顔だが、ヘルメス刀に力を与えてもう用件は済んだとばかりに薄れていく。

元の、ただの土壁に戻っていく。

「ま、待ってくれ!? お前と似た存在って、まさか…ッ!?」

俺の脳裏に甦る、猛烈なる火炎竜の姿……!

『地上を這いまわる者たちよ、心せよ。お前たちは全能なる御方を楽しませるために存在しているのだ。あの御方を常に飽きさせぬよう、進化し、繁栄し、幸うがよい。私が生み出すミスリルも、お前たちの発展に一役買えるよう……』

そう言い残して、壁の顔は完全に消えて見えなくなってしまった。

気配的にも、名状しがたいピリピリした感じがなくなり、異常は去ったとわかる。

しかし一体何だったんだ?

謎の不思議体験だった。