軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

68 ダリエル、推理する

「ひええええええ……ッ!?」

ドラゴンとやらを叩き落として無事地上へ帰還すると、仲間(?)たちが呆然とした表情で俺を迎えた。

……いや。

何も皆してそんなにあんぐり口を開けなくても……!?

「何ですかこの淀みない非常識の連続……!?」

「あの空中にいる巨大モンスターを簡単に落としてしまった……!?」

「まずどうやって攻撃を届かせるか。そこから打つ手なしだったのでござるのに……!?」

「ちょっと引くレベルなのだわ……!?」

なんだよ、そんなおかしいものを見るみたいな視線して。

失礼だと思わないのかね?

さすがに若造どもより二、三段高い見識をお持ちのグランバーザ様とアランツィルさんは動じてないだろうと思ったが……。

二人とも目が真ん丸だった。

「魔法が使えなかったダリエルが……、人間の戦い方を覚えただけでここまで……!?」

「う、うむ! さすが私の息子!?」

何その無理やり自分を納得させるような態度?

そういえば武器を握って戦うところをグランバーザ様に見せたのは、これが初めてか。

成長したところをお見せできたのなら嬉しい。

しかし、今は戦闘中で気を抜いていいタイミングではなく……。

「皆ボサッとしている場合じゃないぞ! せっかく敵さんを地表へご案内したんだ!!」

袋叩きにする絶好のチャンス!

無論あのデカブツを、地に叩き落とすだけで絶命させられるなんて露も思っていない。

だからこそドラゴンとやらに息を整え直す暇も与えず、死ぬまで押し切ってやるのだ。

「は、はいそうですね!」

レーディが率先して剣をかまえる。

「勇者パーティかまえなさい! ダリエルさんだけに活躍させては私たちの存在意義に関わります!!」

「承知でござる!」

「ワタシはもうけっこう働きましたけど!!」

レーディの号令でセッシャさんが槍を、サトメが盾をかまえる。

「もう勝ったも同然なので、あとは任せるのだわ~」

ゼビアンテスも戦え。

とにかく行くぞ!

今こそ楽しい皆で袋叩きタイム!

と思ったのに……!

「ぐわあああああああッ!?」

凄まじい炎の渦が巻き起こる。

それは墜落した炎のドラゴンが、みずから飛翔する際に出した噴射炎だった。

「クソッ! もう復活したのかッ!?」

見た目通りのタフさだな!

総攻撃の準備にグズグズしすぎたか。

「こうなったら昇りきる前にもう一度叩き落として……ッ、……ッ!?」

その時だった。

何やら嫌な感触を感じた。

汚物に直接触れるような感触。

その感触の理由はすぐわかった。

あのドラゴンだ。

天空に駆け上がったドラゴンの視線が、俺に浴びせられている。

「なんだ……ッ!?」

ジッとこっちを見ている。

それだけにとどまらず、その視線にはモンスターとは思えない感情めいたものが宿っていた。

しかも、憎悪とか嫉妬めいたドロドロとした感情。

それを明確に感じて悪寒を伴わせた。

「なんでッ!?」

モンスターに憎まれる心当たりなんてないんだけども。

再び空中に浮かんだ炎のドラゴン。

改めて猛攻勢をかけてくるかと思いきや、踵を返して後ろを向く。

「えッ?」

そのまま遠くの空へ去っていった。

「逃げた……ッ!?」

一体何だったんだ?

攻撃に驚いて逃げ出したというなら、何故去り際にあそこまで憎悪剥き出しの視線をこちらに送って来たのか。

わけがわからない。

本来、モンスターというのは単純な感情を持つ生き物じゃないのか。

あそこまで激しい敵意憎悪を向けていながら、それを標的にぶつけることなく去っていくとは。

逃げるなら恐怖でも浮かべるのが順当だろうに。

「と、とにかく危機は去った……!」

俺たちの目的はモンスターを倒すことではなく、ミスリル鉱山に滞在する人々を救助すること。

危機の大元であるモンスターは逃げ去ったのだから、充分に目的を果たしたと言える。

だからこれでいいのだ……、と思っていたのに……。

「グランバーザよ」

後方に控えていた先代勇者アランツィルさんが、グランバーザ様に呼びかける。

問いただすような厳しい口調だ。

「お前、あれが何か知っているようだな。見た時の反応が違ったし、名前らしきものまで呟いていたではないか?」

「ちょっと……、押さえて……!」

そんなケンカ腰じゃ、いらぬ誤解を与えてしまうかもでしょう。

かつて憎しみ合った過去は、俺に免じて忘却の彼方へ……。

「そうだ……、私はあれを知っている……!」

グランバーザ様は答えた。

「恐らくだがあれは炎魔獣サラマンドラだ。実際に見たのは私も初めてなので確実とは言えないが……」

「そ、そうですか?」

しかし、逃げた魔物の情報共有はあとからでもいいではないですか。

鉱山の被害状況を確認してから、改めて話し合いましょう。

「すまんがダリエル、このまま聞いてくれ。もしあれが本当に炎魔獣サラマンドラなら、事態は想定するより悪いかもしれん……!」

「ええッ!?」

そのグランバーザ様の表情、今までに見たことがないくらい逼迫していた。

敵として付き合いが長いアランツィルさんも異様さに勘付いたか、息を飲んで話の続きを見守る。

「これは魔王軍のごく限られた上層部……、そう四天王しか知りえないことだ。この世界には特別な力を持った魔獣というものが眠っているという……!」

「炎魔獣サラマンドラとやらは、その魔獣のうちの一体だと?」

「そうだ」

「教えろ、魔獣とはいったい何者なのだ?」

さすがライバルというべきか、アランツィルさんが上手く相槌を打って話を促す。

「魔獣とは、遥か昔に魔王様が生み出したものだと言われている。元々は魔王様を守るための守護獣だったが、知能が低く指示を聞かなかったために放逐されたと……!」

「何……!」

「それから時代が経ち、ある魔族が研究の末に魔獣を自在に操る魔法を開発した。それ以降は様々なリスクを伴うが、魔族が魔獣を使役できるようになった」

「貴様!!」

アランツィルさんが、グランバーザ様の胸ぐらを掴んで迫る。

「やはり魔族はモンスターを操ることができるのではないか! ヘタなウソをつきおってからに!!」

「魔獣とモンスターはあくまで別種の存在だ! 魔獣使役の魔法を応用してモンスターを操る研究も大昔にされたが、結局実らず頓挫したと聞く……!」

そんなこと元魔王軍に所属していた俺ですら初耳だ。

「魔獣はモンスターより遥かに強力で希少なのだ。文献の中に挙がる魔獣の名は全部で四体しかなかった」

炎魔獣サラマンドラ。

風魔獣ウィンドラ。

水魔獣ハイドラ。

地魔獣ギガントマキア。

「この魔獣のうち一体でも本気で暴れ出したら手が付けられず、数多くの村や街がなすすべなく滅ぶという。魔族は魔獣使役の魔法を開発したものの、結局は禁呪として封印したのだ」

「どうして?」

「言っただろうリスクがあるのだと。たとえ方法があっても、魔獣を従えることはこの上なく危険なのだ」

炎魔獣が気まぐれにしろ自分自身の意思で鉱山を襲ったなら、大惨事ではあるが、それ以上の深刻さはない。

天災が来て去ったのと同じようなものだからだ。

しかし。

あの魔獣の裏に、意図ある何者かが隠れているとしたら……。

「禁呪は、魔王城のどこかにある『秘密の部屋』と呼ばれる場所にまとめて保存されている。権限を持つ者でなければたどり着くこともできないんだ」

「権限を持つ者というのは……!?」

「四天王……!」

そこでまず全員の視線がある一人に集中した。

この場に居合わせた四天王ゼビアンテス。

「まッ、まさかわたくしが疑われているのだわ!?」

その通りでございます。

「いやいや待て待て、待つのだわ! わたくしはここ最近アナタの村で遊び呆けていて、それをアナタも目撃しているはずなのだわ! アリバイ成立なのだわ!」

堂々と言うことではないが、たしかに言う通りだ。

さすがのゼビアンテスも、ラクス村で遊び呆ける傍ら禁呪を研究する勤勉さなどあるまい。

「ドロイエ様もベゼリア様も、今はラスパーダ要塞で勇者を迎え撃つ防衛体制を固めている。詳しく調査しないと確言できないが、魔王城に戻って禁呪を漁る余裕なんて、まずないだろう」

だとしたら。

消去法で最後に浮かび上がるのは一人。

現れた炎魔獣と属性も合わさるのがますます疑惑を深める。

炎を司る現役四天王、『絢火』のバシュバーザ様……!