軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

60 四天王バシュバーザ、見棄てられる(四天王side)

現役四天王『絢火』のバシュバーザは、特に何もしていなかった。

ここ一年の間、何も。

同僚であるドロイエやベゼリアが必死に勇者を食い止めているのと同時期に、である。

自分の部屋に閉じこもり、何日も外に出ず、そういうことをずっと続けていた。

ただ、その日は何故か外出していた。

まるで長年打ち込んでいた作業がついに完成した、そのお祝いだと言わんばかりにバシュバーザは飛び出し、小鳥のように舞いはしゃいでいた。

そういうお調子者が行くとすれば、そこは酒と美食があるところ。

上級魔族御用達のレストランへ。

彼はその店の得意客だった。

「今日のボクは機嫌がいい! キミたちも大いに飲んで騒ぎたまえ!」

バシュバーザは自分だけでなく、知り合いの魔族を多く呼び集める。

大宴会の様相だった。

「ついに完成したのだからな! ボクが究極四天王となるための秘策が! これさえあれば勇者は死ぬ! 永遠に死に絶える! 二度と我ら魔族に盾突くことはない!!」

それほどの大功績を上げれば、偉大なる父を追い越し歴代最強となることができる。

「これは前祝いだ! ボクが究極四天王となる前のな! 皆心行くまで楽しむがいい!! そしてこのボクを讃えるのだ!!」

いわば彼は、自分を讃える太鼓持ちたちを一堂に集めたつもりだった。

そんな者たちは多くいた。

四天王に就任する前から。

歴代最強グランバーザの子息として、その才能を色濃く受け継いでいるはずの彼に擦り寄ることは栄達を約束しているに違いなかったからだ。

しかし……!

「……あれ?」

実際にレストランへやってきて、バシュバーザは予想とはまるで違う光景に困惑した。

彼の想像では、貸し切りにしたレストランを埋め尽くすほどの客が一斉に出迎えて、彼を賞賛するはずだった。

それなのに貸し切りの室内には数人、数えられる程度の者しか入っていなかった。

盛大な宴にしようと大きな部屋を貸し切ったのに、これではうら寂しさが際立つばかり。

さらに、その数少ない来客者も黙りこくるばかりで、バシュバーザを歓迎しようというムードなど少しもない。

「どういうことだ……!? もうとっくに約束の時間になっているだろう? こんなに遅刻者が多くいるというのか!?」

けしからんことだ。

自分の催しに遅刻してくるなどバシュバーザが不快に思っていると……!

「違いますよ」

貴重な参加者の一人が言った。

「遅刻ではなく欠席です。アナタの招待を断ったんですよ」

「何いいいいいーーーッ!?」

事態はバシュバーザ当人が思っている以上に悲惨だった。

「欠席!? 欠席だと!? この四天王バシュバーザがみずから招待してやったというのに、我が好意を無下にするバカ者がいるだと!?」

それがバシュバーザには信じがたいことだった。

天地がひっくり返るぐらいありえないことが起こった気分だった。

「なんと無礼な……! 身の程知らずな……! 自分がどれだけ愚かなことをしたのか思い知らせてやる! ここにいないヤツら全員、魔王軍から追放してやるぞ!!」

「できないでしょうそんなこと」

再び、少ない参列者の一人から言われた。

その時、バシュバーザはやっと気づいた。その貴重な会食参列者も、その口調に、自分への敬意が失われていることに。

「アナタの影響力や発言力はね。もう限りなくゼロと言っていいぐらい弱まっているんですよ。アナタがクビにすると言って誰をクビにできます? アナタが昇進させると言って誰を昇進させられます?」

それができたのは、四天王に就任したばかりの頃だけ。

あの頃はまだ未知数の期待によって、四天王の名声と権力が保たれていた。

しかし多くの失敗を重ねてきた今、実体なき期待は消え去り、無能者であるという事実だけが残った。

「アナタはとっくに見限られているんですよ。失敗ばかりして、損失を重ねて、それをなのに少しも挽回しようと働かない。ドロイエ様が前線で必死に戦っている間、アナタは何をしていました? 部屋に引きこもって怠けているばかりじゃないですか?」

歯に衣着せぬ言葉。

「違う! ボクは偉大なる計画のために……!」

「どうせアンタはもう終わる方です。巻き添えになって一緒に落ちるのは嫌だと誰もアナタに近づかないんですよ。でも私はアナタに一言言ってやりたくてね。来たくもないバカ騒ぎに出席してやったというわけです」

「オレもだ」

数少ない出席者、その別の一人が立ち上がった。

「オレもこのバカ坊ちゃんに文句言わなきゃ気が済まなくてな。グランバーザ様は英傑だが、後継者の育成だけはしくじった! こんなバカを魔王軍の頂点に据えやがってよ!」

「坊ちゃん……!? バカ……!?」

信じがたい罵倒を浴びせられる。

「こんなバカが仕切るおかげで魔王軍はボロボロだ! 英雄の息子ってだけでトップに立たれて全員が迷惑だ!!」

「グランバーザ様が父親であるってことしか取り得がないですからなこの無能は」

「四天王の選抜には実力のみを基準にするべきだと教訓が取れましたな。少々高くついた教訓でしたが」

「コイツのせいで魔王軍は弱体化し、民からの信頼も損なわれた! これを取り戻すのがどれほど大変なことか!!」

かつてバシュバーザに阿諛追従してきた者たちが、まったく逆の罵詈雑言を浴びせている。

「……せめてダリエルが残っていてくれたらな」

誰かがポツリと言った。

「ダリエル補佐官がいてくれたらここまで酷いことにはならなかった。四天王が魔王軍を支える柱なら、彼はその柱を支える礎石だった」

「そういえばダリエルをクビにしたのもコイツだったな。本当にいらんことをしてくれるぜ!」

バシュバーザは無遠慮に指さされる。

「ダリエルはたしかに魔法を使えなかったが、こんなヤツよりよっぽど優秀だった! ヤツこそが本当に魔王軍に必要な人材だった!!」

「失って初めて気づく我々も愚かだが。グランバーザ様の懐刀であるダリエルこそ、無能な実子よりよっぽどグランバーザ様の後継者だった」

参加者たちのバシュバーザを疎む声は、自然とダリエルへの賞賛に替わっていった。

魔王軍を陰で支え続けた補佐の力をやっと皆理解してきた。

「バシュバーザ様。これ以上アンタを四天王の座に置いていては、魔王軍の存亡が危ぶまれます。我々は連名し、魔王様へ、アンタの罷免を嘆願するつもりです」

「ひッ……!?」

「嘆願は恐らく通るでしょう。アンタのお父上ですら単独で同じことを訴えたそうですから。しかしそれではアンタもあまりに可哀相だ」

その恩情はあくまで義理の範囲内なのだろう。

「みずからの意思で四天王を辞してください。そうすればアンタも最低限のプライドは保たれるでしょう。これが我々からアンタに捧げる最後の忠義です」

それが用件だったのか、言い終えると参列者は一人残らず去って、バシュバーザは一人取り残された。

彼に付き従う者は一人も残っていなかったのである。

「どうして……、どうしてこうなった……!?」

今日の席は、バシュバーザの約束された勝利を讃える前祝いだったはず。

出席する全員が手放しでバシュバーザを称賛するはずだった。

なのに浴びせられたのは正反対の罵声。

「クソッ! 酒だ! 酒を持ってこい!!」

酔わなければやってられなかった。

ここがレストランなのをいいことに、怒鳴りつける。

注文に応じてやって来た店主だが、しかし彼の対応も冷淡だった。

「バシュバーザ様、当店で食事なされるなら、まず溜まったツケを清算なさってからにしてください」

「何ッ!?」

「ここ最近の支払いが滞っています。これでアナタが四天王から下ろされるとなると。代金を回収できなくなることを心配しなければなりませんので……!」

「バカな! ボクは四天王を辞めたりなどしない!!」

ここまで来てもまだ事実を受け入れられないバシュバーザだった。

「これまで一度もそんなこと言ってこなかったのに……! お前はボクを信じられないのか! 魔族最高の『絢火』のバシュバーザを!!」

「以前は、ダリエル様がおりましたので……!」

その言葉に、バシュバーザの表情が凍った。

自分の奥底にある、自分でも与り知れないぐらい内側が、グニャリと歪んでいくのを感じた。

「アナタのお目付け役であるダリエル様が保証していただける間は、こちらも安心していくらでも信用払いにすることができました。でもダリエル様がいなくなればこちらも慎重にならざるをえません。これも社会の仕組みと勉強してください……!」

「う……、ご……!!」

「?」

「うおおおおおおおおおおおおッッ!!」

バシュバーザの体から紅蓮の炎が噴き出した。

「うぎゃ!? うぎゃあああああああああああッ!?」

哀れな店主は炎の渦に飲み込まれて、瞬く間に灰も残らず燃え尽きてしまった。

彼が営んできたレストランの家屋と共に。

「バカ者が……! どいつもこいつもバカ者が……!」

魔族領内で、理由もなく魔法を放ち、同族を焼死させる。

それは大問題であり、もはやあらゆる手続きを待たずしてバシュバーザは四天王から追われるだろう。

しかしそれすらも、彼にとってはどうでもいいことだった。

「後悔させてやる……! ボクを不当に侮辱した全員に後悔させてやるぞ!! お前らは知らないのだ! ボクが何の理由もなく引きこもっていたわけがなかろう!」

切り札はある。

それを示すかのようなバシュバーザの高笑い。

「準備は既にできている! 勇者を殺し、人間すべてを根絶やしにしたあと、ヤツらがボクにどんな顔で謝罪してくるか楽しみだ!! 絶対に許しはしないぞ! ヤツら本人だけでなく一族まとめて奴隷の身分に堕としてやる!!」

しかし乱されたバシュバーザの根底になお、拭い難い不快があった。

ダリエル。

その忌々しい名前。

「ボクのことをもっとも侮辱するアイツこそ、必ず殺さねば……! 追放など手ぬるかった……! あの汚らわしい無能者こそ灰も残らず焼き尽くさなければ、ボクの輝かしい伝説の汚点となる!」

誰もが言った。

バシュバーザよりダリエルの方が優秀であると。

バシュバーザよりダリエルの方が信頼できると。

バシュバーザよりダリエルの方が魔王軍に必要な男であると。

バシュバーザよりダリエルの方が、グランバーザの後継者に相応しいと。

この世の誰より自己愛が深いバシュバーザには絶対に受け入れられない事実だった。

「ダリエル! 何処へ逃げて隠れても、必ず見つけて殺してやるぞ! 死ね! 死ね死ね死ね死ね! それが無能者の分際でボクを不快にさせた罪への唯一の償いなのだあああああ!!」