軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

57 ダリエル、育ての親に再会する

俺は依然として先代勇者アランツィルとの手合わせを続けていた。

そして終わった。

「……参った! ……ここまでだ、もう体が動かない!」

先に音を上げたのはアランツィルの方だった。

あちらが高齢でケガまで抱えているのだから、そうでなければ困る。

かく言う俺も、相当に堪えたが。

模擬戦だというのに。命の危険を感じたのは本当に久しぶりだ。

「負けたなあ。ここまで逼迫した競り合いになると若者には勝てんよ。気力体力が続かない」

「俺もそんなに若くないですけどね」

地面にへたり込む先達に手を差し出す。

向こうも察して手を握り、立ち上がる。

「ダリエルさんだったね。予想を遥かに超える強さだ。レーディよりむしろキミが勇者に相応しいと思うほどに」

「三十過ぎて勇者なんてやれませんよ。輝かしい席には若者についてもらわないと」

「私から見れば三十などまだまだ小僧だ。達観ぶってはいかん」

アランツィルの表情はどこか愉快げだった。

俺との戦いで相当発散できたのか。

「しかしダリエルさん、キミが『凄皇裂空』を使ってくるとは驚いた」

「え!?」

「あれは私のオリジナル技だぞ? ただ『裂空』をデカくすればいいわけじゃない。それを実現するための様々なコツがある。私だけの秘伝だ」

それを初対面の俺が見事再現したことが驚嘆らしい。

そりゃそうだ。

「キミは一体あれをどこで修得したのかね?」

「あー、見様見真似?」

「どこで見たと言うんだ? これを見るには私の戦っているところを見るしかないぞ?」

言えるわけないよなあ。

『魔王軍に所属している頃、敵として見ました』とか。

明言を避け、のらりくらりと凌いでいくしかないか。

とにかく試合を終えると、周囲にはいるはずの連中がいなかった。

レーディとかゼビアンテスとか。

気づいたらずっと離れたところにいた。

「おーい、なんでそんな離れてるのー?」

「離れたくて離れたんじゃありません!」「お前らの戦い凄すぎるのだわ! 余波だけで吹き飛ばされたのだわ!!」

巻き添えを食らわせてしまったかサーセン。

やっぱり『凄皇裂空』と『凄皇裂空』のぶつかり合いは凄まじかったらしく、草木諸共遠くまで飛ばされてしまった観衆たちであった。

……日が高くなってきたな。

もう正午か。

「いい時間だから休憩にしませんか? 俺も村長の仕事がありますし」

「おおそうか、仕事の邪魔をしてはいかんかったな」

マリーカに言っておいたので、そろそろ昼食の弁当を持ってきてくれるだろう。

それを食ったら、またアランツィルとレーディは修行を続けるといい。

俺は仕事に戻る。

そうこうしているうちに村外れの平原に人影が。

マリーカだ。

時間に正確だなウチのカミさんは。

我が子グランも連れてきたのか?

それはいい昼食の落ち着いた時間を親子水入らずで過ごそう。

……ん?

妙だな、マリーカの隣にもう一人分の人影があるぞ?

大柄で、男性?

まだ遠くてわからない。

近づいてくるごとに輪郭がハッキリしてきて……。

うん?

見覚えがあるような、ないような?

いや、やっぱ見覚えある。

でもあれは……。

ウソだろう?

なんであの方がここに!?

やっぱり見間違えでしたって言う方が現実味のある……!

「……グランバーザだと!?」

口に出したのは俺よりもアランツィルの方が先だった。

彼だって見覚えがあるだろう、何しろ生涯を通してずっと殺しあってきた宿敵だ。

彼まであの人影をグランバーザ様と認めたってことは、やっぱりグランバーザ様ご本人!?

あ、グランバーザ様っぽい人影もこっちに気づいた。

めっちゃこっち見て『信じられない』みたいな顔しておる。

信じられないのはこっちだよ! 何故こんな展開に!? と問い詰めようとする前にもっとも早く動いた人がいた。

「死ねええええええッ!!」

アランツィルだった。

グランバーザ様へ向けて一直線に突撃する。

「ぬおッ!? 『炎熱障壁』!」

それに対して火炎魔法で防御。

ってことはやっぱりマジでグランバーザ様!? 本当に!?

「アランツィルだと!? 何故貴様がここにいる!? しかもダリエルと共に!?」

「貴様こそ、人間の領内に侵入しておるとは醜悪な! 何を企んでいる!? いや、悪辣な企みごと斬り裂いてくれる! あの決戦の日に刺せなかったとどめをここで刺してやるぞ!!」

そして死闘が始まった。

ここ最近起こった戦いとは一線を画するマジ死闘。

「ひゃああああああッ!?」

「天変地異だわ! 世界の終わりなのだわーーーッ!!」

あまりの戦いの激しさに、現役勇者と現役四天王が慌て逃げ惑う。

「あのおじいさん、やっぱりアナタの関係者だったのね」

そう言って俺の隣に寄ってくるのはグランをおぶったマリーカだった。

「マリーカ、一体どこであの方と?」

「ここに来る途中偶然。人探しをしてるって言ってたから、もしかしてアナタのことを探してるんじゃないかって」

何故そんな占い師並みの直感を?

「だってあの人、うっかりアナタの名前を言うんだもん。だから連れて来てみたのよ」

なるほど。

グランバーザ様が何の目的で訪問したかわからぬが、我が嫁のファインプレーが働いたようだな。

ただ問題は、この死闘をどう治めるべきかという……。

「とにかくどいておれ! 私は! 私はダリエルに用があるのだあああッ!!」

「貴様の息の根を止められなかったことこそ我が勇者生涯の悔い! ここで心残りを消し去ってやる!!」

老いたりとはいえ、最強二人によるガチ闘争である。

ヘタに割って入ったら命がいくつあっても足りない。

手をこまねいていたら……。

自然に治まった。

案外即座にスタミナ切れして二人ともバテる。

「ゼエゼエ……!」

「ダメだ。もう動けん……!」

二人とももうお歳だからなあ。過去に負った怪我もあるし。

だから本気の動きなんてしたら全盛期の数十分の一程度の時間しかもたない。

無常を感じてしまう。

「だ、ダリエル……!」

疲れ果てたからだを引きずってグランバーザ様がこっちに迫ってくる!?

「グランバーザ様!」

とりあえず勇者の方はほっぽって、生涯の恩人の方へ駆け寄った。

「だ、大丈夫ですか!? とりあえず水を飲んで……!」

色々聞きたいことや言いたいことがあるが、この疲労困憊をケアするのが急務。

水筒を開けようとしたところ……。

「すまない……!」

謝罪の言葉。

一体何を謝罪しているのかわからないが、グランバーザ様はへばった体勢から両手をつき、体を丸めて姿勢を改めた。

それは土下座の体勢だった。

「ダリエル、すまない……!」

「そんな……! 俺には、アナタに謝ってもらうことなんて一つもありませんよ!?」

むしろ俺の方が、アナタに謝ることも、礼を言うべきこともたくさんあるのに……!

それでもグランバーザ様は、大きな体を折り曲げて……!

「すまない……! ダリエルすまない……!」

謝り続けるのだった。

そんなこの方の丸まった背中を見ていると、ふと気づいた。

随分大きいと思っていた、この方の体が、思ったほど大きくなかったことに。

子どもの頃見上げていた大きな体が、今では随分小さく見えた。

そしてわかった。

俺の方が大きくなっていたのだと。