軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

45 スミスじいさんの弟子、頑張る

「おいおいダリエル……! 大丈夫なのかよ……!?」

ずっと傍観に徹していたリゼートがここでついに口を挟む。

「魔族サイドからのミスリル取引はオレとだけの独占契約のはずだろう? それを別の魔族……よりにもよって四天王とも契約を結んだら……!」

「心配ないだろう? 彼女に限っては?」

権力闘争に執心して巻き返しを図ろうなんて性格とは思えない。

ゼビアンテスがね。

彼女を支配しているのは純粋に『ミスリル欲しい』という物欲のみ。

そんな彼女だからこそ警戒は必要ないだろう。

「でも、だったらなんで戦いなんか……!?」

「企みがなくても、調子に乗られたら扱いづらくなるからな。まずもって、どっちが強いかをしっかりわからせようと思ったのさ」

その上で始まる対等の取引がある。

「というわけで、ミスリルの販売価格はこんなもんになります」

「滅茶苦茶高いのだわ!? 暴利だわ!?」

「そりゃそうでしょう。今ミスリル生産は人間族の手にあるんですから。嫌ならこの話はなかったことに」

「いいえ買うのだわ! お金は用意するのだわ!」

「やっぱ上級魔族は裕福だなー」

こちらはお金さえ支払ってくれれば文句はない。

「ところでゼビアンテスさんは、ミスリルを手に入れてどうなさるおつもりで?」

一応用途を聞いておく。

さっき聞いた気もするが。

「もちろん! 魔導具にするのだわ!」

そう。

言っていたねさっきも。

魔族にとって戦いの術は魔法。

ただそれでも魔法さえ使えれば身一つで無敵となれるわけではない。

大体の場合、魔法の補助のために魔導具が使われる。

魔力を安定させたり、属性変化を助けたり、溜め込んだ魔力を必要なタイミングで開放したりと様々な用途の魔導具が数多く存在する。

ゼビアンテスはそれを、ミスリルを素材に作りたいという。

魔道具作りにおいてもミスリルは最高の素材だ。

四天王のような超上級魔法使いでも魔導具による補助が必要ないわけではなく、むしろより高等な魔法を扱うために、より高品質な魔導具を必要とするのだろう。

「もしかして……、その魔導具で勇者への復讐戦を……?」

リゼートが心配そうに言う。

「この方は、以前に人間族の勇者と戦って敗北しているからな。より強力な魔導具を装備して、今度こそ勝利しようと……」

「そんなことないのだわ」

あっさり否定された。

「わたくしが欲しいのは、わたくしの美しさを引き立てるファッショナブルな魔導具なのだわ。血なまぐさい用途など不要」

「はあ……」

そうすか。

ミスリルで作られる強力な魔導具をアクセサリー扱い。

今の立場としては安心できるが、四天王補佐だった頃のことを思い出すとこの放蕩ぶりに……、涙が……!

「泣くなダリエル! 大丈夫、土のドロイエ様は充分に真面目だから! あと一応水の方も!」

「それでも半分……! 四天王の半数が機能不全……!」

リゼートに慰められるが『なんだかなあ』という気分だった。

「それよりそれより! 気になることがあるのだわ!」

それよりじゃないですよ。

俺はアナタのパーデンネンぶりが一番気にかかるのですが!

「アナタの持ってるそれが気になるのだわ!」

「え?」

ああ。

ヘルメス刀のことか。

「戦いの最中にも見えたけど、伸びたり縮んだりしてとってもヴィヴィットなのだわ! わたくしも同じものが欲しいのだわ!」

彼女、確実に他者の持ってるおもちゃを欲しがるタイプだ。

「この不思議な性質を、是非わたくしの新しい魔導具に取り入れたいのだわ! そしてビックリギミックに利用したいのだわ!」

「仮装でもするつもりですか……?」

そうは言っても、このヘルメス刀。

今は亡き鬼才鍛冶師スミスじいさんの遺作にして最高傑作。

オーラに反応して形を変える合金、ヘルメス銀の効能はたしかに凄く、ゼビアンテスが羨ましがる気持ちもわかる。

俺自身、天国のスミスじいさんに代わって誇らしい気分。

「コイツは、人間族の鍛冶師が作りだした一品だからなあ。しかも魔族の錬金術まで使って」

「何それ!? 凄そうなのだわ!?」

ゼビアンテスの食いつきが益々よくなった。

「わたくしも、人間族の鍛冶師に魔導具を作らせたいのだわ! 紹介しなさい!」

「えー?」

鍛冶師に魔導具は作れないと思いますよ?

魔法はさっぱりだろうし。

「お金なら上乗せして払うのだわ!」

「交渉だけでもしてみましょうか」

報酬が貰えるなら是非もない。

俺はラクス村で働く鍛冶師に渡りをつけてみることにした。

「魔導具ですか……?」

工房を率いる鍛冶師サカイは、この突拍子もない申し出を受け止める。

驚いたり慌てる様子はない。

「いつか来ると思っていましたからね。師匠がヘルメス刀を開発する時、どうしても必要な魔導具をアナタが動かして見せた時から」

実行したのは俺じゃないよ?

今は亡きスミスじいさんが、何処からか裏ルートで手に入れた魔導具で合金を作るのを、このサカイくんもじいさんの弟子として居合わせた。

「正直、気が進みません。魔導具って魔族が使うものでしょう? 魔族は人間族の敵だってずっと言われ続けてきましたから……!」

そんなサカイくんの気持ちは俺にも理解できる。

やはり人間族と魔族は、いかなる局面であろうとも相容れぬ敵同士だというのか?

「でもね……、師匠が生きてれば絶対引き受けてたと思うんですよ」

サカイくんが言った。

彼の師。

人騒がせながらも偉大なる鍛冶師スミス。

「ああいう性格でしたから、未知のものに挑戦せずにはいられない。そして試行錯誤の末に新しい技を獲得するんですよ。オレもあの方の弟子だった以上、師の長所を受け継がないわけにはいかんでしょう」

「サカイくん!!」

何と頼もしい言葉なのだろう!

「まあでも、さすがにオレの作ったもので人間族に迷惑がかかるというのはナシにしたいんですが?」

「ということですが、どうですゼビアンテス?」

クライアントに確認を取る。

「大丈夫なのだわ! わたくしの魔導具は、わたくしを飾り立てるためにあるのだわ!!」

四天王がそこまで言い切るのも悲しくなるんですが。

「いいでしょう。鍛冶師サカイ、師匠も踏み込まなかった未知の領域に挑戦させていただきます!!」

スミスじいさんが草葉の陰で悔しがっていそうだな。

『ワシも挑戦したかったのに』って。

「じゃあ早速わたくしの注文を述べるのだわ!」

ゼビアンテスが、早速作ってほしい魔導具のイメージをサカイくんに伝える。

「ここをこう! シェパーッと! キュイーン来てガチーンって風にしてほしいのだわ!!」

「ほうほう、なるほど!」

あれでわかるんだ。

凄いなあ。

「とはいえ、核心的な部分は魔族でないオレには無理だから、本職の協力が欲しいんですが」

「抜かりないのだわ! わたくしお抱え魔道具作り専門の錬金術師を派遣するのだわ!」

「それは凄い! いいですねえ!!」

盛り上がっておる。

「魔導具作りのノウハウを直に見られるなんて、またとない貴重な経験です! やる気が湧いてきました!!」

制作意欲の旺盛さは師匠譲りだな。

「これでよかったのかなあ……!」

俺とリゼートはすっかり蚊帳の外に置かれ、話について行けない。

「いいんじゃない? 人間族と魔族が手を取り合ってるみたいでさ」

魔族育ちの人間族という複雑な経歴を抱えてしまった俺は、正直どちらも敵にしたくないという気持ちを日増しに抱えるようになった。

こういうところから人間族と魔族が仲良くなってくれたらなあと思わないでもない。

「そのために問題なのが……」

当面思い切り問題となる存在が、すぐ近くにいることを俺は忘れていなかった。

勇者レーディ。

この村で修業中。

四天王のゼビアンテスに鉢合わせしたら一体どうなるのか?