軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

314 四天王、決起す(魔族side)

新生魔王軍四天王の一人『隘地』のメリスは困惑していた。

今回の出兵にも参加していた彼女だが、特に発言する場面もなく存在感のまったくないまま今に至る。

しかし、それにしても……。

「何が起こっているの……!? これ……!?」

戦局は、若い彼女の想像を遥かに超えるほどに二転三転、果ては急転を見せている。

まず最初に。

ミスリル鉱山を攻め落とさんとした矢先、それを阻まんと現れたのが前任四天王のゼビアンテスであったというのも驚きだったが……。

さらにあとを追って現れてくる人間族の冒険者たち。

その中に交じって、最後に現れた一人が信じられないほどの強さで暗黒将軍リゼートを圧倒した。

リゼートの実力は魔王軍の中にも轟き渡っていて、新たに四天王に選ばれるのは彼だと前評判が立っていたぐらいだ。

そのリゼートが少しも踏み止まることもなく敗れ、さらにそのあと出てきた現役四天王ベゼリアも立て続けに敗退。

それで終わったと思ったのに、極めつけの巨大狼の出現。

それに対抗する土くれの巨人たち。

土魔法の能力を買われて四天王に抜擢されたメリスだからこそわかる。

あの土巨人一体一体が、魔法で生み出されるゴーレムなどとは次元違いのシロモノだということに。

彼女の実力では『なんだかよくわからないが凄い』ということしか把握できない。

理解を超えた出来事だった。

いまだアカデミーの学生にすぎず、権力争いの手駒として四天王に据えられた彼女では、ここにいること自体を後悔することしかできない。

それは何も彼女だけではなく……。

「メリスちゃん! メリスちゃん!」

泣きそうな声で飛んでくるのは同僚の四天王『微風』のシルトケであった。

同じアカデミー出向組とはいえ、風魔法を専攻して学部の違う彼女とは接点が少ない。

「一体どうすればいいんですの!? こういう時の対処法なんてアカデミーでは教わらなかったんですの!」

同じ事をメリスも言いたかった。

悲鳴を上げながら。

実戦経験などない彼女らがいきなり指揮権を与えられ、実戦に放り込まれたところでできることは何もない。

四天王筆頭として陣頭に立つべきベゼリアは重傷。唯一その代理となるべき経験豊富なリゼートも最前線に赴いて指揮どころではない。

この数千人いる魔王軍を取りまとめ、どのように行動させるかを決められるのは、曲がりなりにも四天王の称号を与えられた彼女らだけだった。

「どうする? どうすれば……!?」

震える指の爪を噛むメリス。

とにかく指揮官の責任として、混乱する軍に命令を出して統一された行動をせねばならない。

ここですべてを捨てて逃げ出しては、それこそ四天王の責任を投げ出すようなもの。

しかし取れる行動といえば二つしかない。

あの突如現れた怪物に全軍をもって挑むか、逆に撤退するかだ。

「私には状況がまったく把握できない。わけもわからぬ戦いに一兵も損じるわけには……?」

「何を言っているメリス!」

そこへさらに飛び込んでくる勇ましい青年。

彼女らの同期、四天王『弱火』のゲルズだった。

「リゼート将軍が戦っているのに、それを見捨てて撤退などあるか!? 我々も断固進軍あるのみだ! 混乱する魔王軍を再編し、突撃陣形にする!」

「しかし、敵の正体が……!? あの恐ろしい姿を見ただけで、全人類の敵であることは間違いないだろう!」

「それはそうかもしれないが……!?」

しかし理論的な思考をするメリスには、やはり全容を把握できないままに戦いに踏み切ることはできない。

「怖いんですの! 一刻も早く逃げましょうのー!」

そしてシルトケは恐れおののくばかりだった。

まったく収拾のつかない指揮系統に、このままでは混乱は末端までも及び魔王軍全体が崩壊しかねないところだったが……。

「見苦しいぞ、貴様ら」

聞こえてくる声に、メリスは心から驚愕した。

聞き覚えがあったから。

「あ、アナタは……!?」

「戦場の最前線で右往左往することが四天王の役割か。迷うな、恐れるな、決起に逸るなどもっての外だ。上に立つ者は大地のごとく不動の佇まいでいるものだ。それでこそ兵士の動揺を抑えられる」

「……ドロイエ様? 『沃地』のドロイエ様!?」

メリスの一代前に大地の四天王を務めていたドロイエ。

称号は『沃地』。

前任の四天王はとにかく評判が悪く、『無能』『身勝手』『害悪』のらの悪態をほしいままにしてきたが、その中で一人だけドロイエは真っ当な判断力と実力をもって態勢を支えてきた英雄とされた。

彼女がいなければ前任四天王はもっと早い段階で崩壊していただろう。

そこまでの功績ある人なのに、先年の勇者襲来の咎を受けて四天王の座から追われた。

それ以来行方不明であったのが……。

「ドロイエ様! 何故こちらに!? 一体今までどこにおられたのですか!?」

「久しいなメリス。まさか私の後任にお前が抜擢されていたとは……」

ドロイエもまたアカデミーから魔王軍に出向して四天王となったクチなので、メリスとは面識があった。

その縁はゼビアンテス・シルトケの二人より強く、先輩後輩の仲に当たる。

「こ、この人が『沃地』のドロイエ」

「前任四天王で唯一まともだと言われた方……」

シルトケもゲルズも、唐突なる前任者の登場に身がまえるのだった。

「しかし、お前たちの醜態には呆れるばかりだぞ。実戦の最中に判断も下せず右往左往とは。これが本当の集団戦闘なら、その間に敵が殺到してきて終わりだな」

「何を言う! 無能な前任のくせに!」

「落ち着くんですのゲルズ! この方は無能前任の中でもマシな方だったんですの!」

猛るゲルズに止めるシルトケ。

威勢のよさだけはある新生四天王はいまだ才能を秘めた原石の段階に過ぎない。

それを即座に読み取ってのであろう。もしくは戦闘中に議論は無駄だと切り替えたのか……。

「とにかく今は戦いへの対処だ。状況はゼビアンテスからの風通信で大体把握している」

「ゼビアンテスお姉さまの!?」

「既に最前線の兵たちが各自の判断で小型フェンリルたちと戦い始めているな。無理もない。リゼートとゼビアンテスだけではとても捌ききれない数だし、村長や勇者は本体にかかりきりか」

だからこそ、ここに居合わせた全員でもって戦わねばならない。

魔王軍の兵士も経験豊富で、いちいち命令されなくても充分以上に戦えるが、それでも的確な指示で連携をたしかにした方がよりたしかに戦える。

「メリス、魔王軍の兵士たちを下がらせろ」

「はッ!?」

ドロイエが出した指示は、意外な後退命令だった。

「無茶ですドロイエ様! 今は完全な混戦状態。このまま後ろを見せたら狼どもの格好の獲物に……!?」

「その心配はない、彼らを守るものがいるからだ」

その時になってメリスはやっと気づいた。

ドロイエの背後に居並ぶ屈強な戦士たちを。

「私とともにラクス村から来た冒険者の援軍たちだ。彼らが最前線で狼たちを食い止めつつ、魔王軍は遠隔攻撃魔法で援護。これが両者の強みを最大限に引き出し合う最良の戦法だ」

「ドロイエ様が何故、人間族を率いて……!?」

ドロイエがここ数年、ダリエルの下で秘書として働いてきたことなどメリスは知る由もない。

それゆえに人間族と深い絆ができ、村長不在の時には代わって仕事を進めることも。

お陰でドロイエは四天王時代以上に経験を積み、指揮判断能力は当時とも比べ物にならない。

「援軍は急ぎ進行し、先発隊と合流! 協力して怪物の対処に当たれ! 前進!」

ドロイエの指示を受けて、新たに到着した冒険者たちは進む。

通常の移動手段を来たため、急ごしらえだった先発隊とは規模も比べ物にならない。

「前線での指揮を頼むぞガシタ殿!」

「任せとけよ! ラクス村の冒険者は集団戦だってしっかり仕込まれているぜ!」

「ここまで徒歩移動しての、休憩なしの参戦だ。体力的にキツいこととは思うが、よろしく頼む」

「ここが正念場だってことは見りゃわかるさ。案じなさんな、この程度で息切れするほどラクス村の冒険者はヤワな鍛え方してねえ!」

とにかくラクス村の冒険者を推すベテラン冒険者ガシタの進軍。

ただそれだけで戦場が、まるで熱い石炭をくべられるように熱を増した。

「さあテメエら! ラクス村冒険者の恐ろしさを見せるところだぜ! 最前線で村長が戦ってるんだ! 恥ずかしいザマ見せられねえぞ!」

「「「「「「承知!!」」」」」」

「ヘタレたヤツは大蛇のエサにするからな! 全員死ぬ気で戦え!!」

歴戦の勇士となったガシタが支えるだけで、全軍の強度が一気に増す。

「さあ、今のうちだ。冒険者が前線を支えている間に魔王軍を後方で再編成。一斉援護射撃の態勢を整える。今度はお前たちが冒険者を助ける番だ」

「ドロイエ様、しかし……」

「メリスいい加減に自覚しろ。我々が今どんな戦いに身を置いているか……」

ドロイエが、その賢明さに相応しい瞳の輝きを浮かべて言う。

「人間族と魔族が、集団でもって力を合わせて行う戦い。史上初めての戦いだ。この誇り高い戦いを勝利で飾るために全力を尽くせ!」