軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

312 決戦、始まる

とはいえ、相手は正真正銘のバケモノ。

『凄皇裂空』が効かないともなれば、普通なら絶望するしかない相手だ。

これまで出会ってきた中でも最凶か?

炎魔獣サラマンドラ。

それを取り込んだ地獄の主ドリスメギアン。

ヤツらも印象に残るほどに手強い相手だったが、今度の敵は間違いなくそれ以上。

魔王様ですらその実力を認めた、最凶最悪の魔獣なのだ。

『ドリスメギアンが地獄の主だとしたら、フェンリルは餓鬼界の主……。世界一つ分の存在を退けるのは容易ではないぞ……!』

「だとしたら……、とるべき手段はただ一つ……」

世界の主なら、こっちにだって心当たりはある。

かつて魔王様がこの耳に吹き込んでいったことを受け入れるなら……。

俺もまた一つの世界の主のはずだ。

「『天』の力……頼る時がまた来たな……!」

かつてドリスメギアンを、その世界ごと消し去った極致の一剣。

『是空』。

『凄皇裂空』……『絶皇裂空』をも超えた我が究極剣なら、あのワンコロも一刀両断にできるはず。

今こそ迸れ我が、剣閃よ……!!

「……」

………………………………………………。

「…………あれ?」

なんだ?

手が動かない?

ドリスメギアンを斬った時に感じたような、無の中に何かを感じる手応えがない。

「ダリエルさん! 来ます!!」

「何ボケッとしているのだわ!?」

気づけばすっかり体勢を立て直したフェンリルが、すぐ目前まで迫ってきているではないか大口開けて。

「うおあッ!?」

跳んで回避するが、もう一瞬でも遅れていたらあの狼の口の中だった。

「臭いッ!?」

刹那、至近ですれ違った狼口から漏れ出る臭いが、鼻の曲がりそうだった。

改めて接すると感じられる。

凄まじいまでに濃い獣臭。

どんな獣より滅茶苦茶臭い、この狼!

いや、そんなことより……!?

「『是空』が……、『天』の力が働かなかった? 何故だ?」

『天命が見えていないのだ』

地魔獣ギガントマキアが俺に寄り添う。

俺たちが参戦したお陰で呼吸を整えられたようだが……。

『お前の剣は、天命を裂く剣。いかなるものも、生命があろうとなかろうとも、あまねくよろずは天命の下に存在している。その天命を斬り裂けば、どんなものでも存在することはできない』

それが『天』の力。

俺がグランバーザ様やアランツィルさんから引き継ぎ、垣間見ることのできた世界。

『天命からは神すらも逃れることはできない。故に「天」の力は神をも殺すことのできる力だ。しかし万能ではない』

そうだな。

斬れるから片っ端に斬っていいという、そんな天命はあってはならない。

天にある命だからこそ、それを斬る側も相応の覚悟と信念を持たねば……。

「俺はまだ、あの犬っころの天命を見定めていないということか……!」

『そうだ、ヤツを識り、いかなる存在か見極めないことにはヤツの天命も見つからない。天命を見出さなければ斬ることはできない』

ヤツの天命を見定めるためにも、もっとヤツを知らなければならない。

そのためにも剣を合わせて、本質に迫らなければ……。

「レーディ! ゼビアンテス! しばらくヤツを引き付ける! 援護してくれ!!」

「何トロくせーこと言ってるのだわ! こちとらハナから殺る気なんだから援護もクソもないのだわ! テメーこそ最初からクライマックスでかかるのだわ!」

まこと仰る通りで……!?

真剣勝負は既に始まっている。俺などより若い彼女らの方がよほど本気だった。

特にゼビアンテス。

あのミスリル翼をまた背中に負って、やる気が目に見える。

「バカ犬! テメーとはいつかケリをつけようと思っていたのだわ! レーディちゃんの修行を邪魔すまいと思ってたけど、テメーの方からカチコミに来たんなら遠慮する理由もないのだわ!!」

銀翼の羽の一枚一枚が、超高音の鳴動を放つ。

「今こそ食らうがいいのだわ! 究極版『ハルピュイアの翼』による最高必殺『シンフォニック・レイザー』によって斬り刻まれるのだわ!!」

彼女が装備する、金属で模された銀の翼。

それを構成する羽の一枚一枚の隙間から、高圧縮の細い細い空気の刃が発せられる。

それこそゼビアンテスが、あの翼の力を借りることで発揮する最強攻撃風魔術『シンフォニック・レイザー』。

鋭い空気の刃がいくらも繰り出され、標的を細切れにする。

……はずが。

「げッ、効かねーのだわ!? 高圧縮された空気の刃がいとも簡単に弾かれるのだわ!?」

フェンリルの熱い毛皮に、現世代最強の風魔法使いによる最高の攻撃風魔法は、かすり傷一つつけるにもいたらなかった。

ひるむことなく駆け、ゼビアンテスに噛みつかんとする。

「うぎゃーッ!? 近づかないでだわー!?」

銀翼で空気を滑って駆け逃げ、フェンリルがそれを追う。

その様は、犬がじゃれて蝶を追うかのようだった。大きさの対比的にもまさにそんな感じ。

「ゼビちゃんに手を出すなッ!!」

振り下ろされる剣閃がフェンリルの鼻先を掠め、怯ませる。

その剣を放ったのは……。

「レーディちゃん! 助けてくれてサンキューなのだわ! さすが心の友なのだわ!」

「フェンリルちゃん! アナタとは修行のために何回も戦ってきた! アナタとの戦闘経験なら私が一番よ!!」

剣の切っ先を魔狼へと突き付ける。

それに対してフェンリルは……、怯んでいる? 明らかに?

地魔獣ギガントマキアに対してすら臆するところを見せなかった魔狼が、レーディの剣には恐れを抱いているというのか!?

一体何故!?

「アナタもすっかり身に沁みているようね。斬れないもののない我が必殺の一刃を、忘れぬようにもう一回食らいなさい……!!」

振り下ろされる……。

あの剣にこもった力は……。

「『真空断空』!!」

レーディの剣が見事フェンリルの身体を捉え、赤い鮮血を噴出させる。

狼は『ギャオオオオッ!?』と苦しげな唸りを上げて飛びずさる。

「刃が通った……!?」

初めて見る、フェンリルが負ったダメージらしいダメージ。

今までどんな最強技も通じてこなかったのに、一体どうして!?

「しかもあれは……!?」

レーディが放った剣撃に、感じた違和感。

あの技には魔力が宿っていた?

オーラだけでなく?

かつてインフェルノとなった兇勇者ジークフリーゲルが使った『逢魔裂空』と同じ、オーラと魔力の複合技!?

「それなら魔獣にも通じるのは納得だが……!?」

でも何故?

元々人間族のレーディには、魔力因子はないから魔法だって使えないはずだ!?

『受け継いだのだ』

ギガントマキアが言う。

『お前と同じようにな。彼女はそこを見込まれたのだ、あの御方から。だからヴァルハラへと迎えられることもなく、より特別な方法で鍛えることを許された』

レーディも誰かから魔法因子を受け継いだのか!?

……そういえば俺がラクス村でドリスメギアンと対峙していた時、彼女も別の場所で別のインフェルノと戦っていたと……!?

「セルニーヤさんとの戦いで、私は大事なものをあの人から預かった。とてもたくさん」

レーディが剣を八相にかまえる。

「見ていてください。アナタから受け継いだもので新しい時代を切り拓いてみせます!」