軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

310 神のごとくあわれむ

かつてミスリル鉱山があった上に立つ大狼。

魔狼フェンリル。

その姿はまさに狼そのものだがサイズがあまりにも巨大なためにやっぱり異様だ。

その大狼めがけて殺到する数百体の土巨人。

こっちも巨体なので、相対的に似たようなサイズ感の両者だが、見ている俺たちはただの人間なので、もう感覚がおかしくなってしまう。

地魔獣ギガントマキア。

俺もその名はちょっと耳を触った程度しか聞かない。

炎魔獣、風魔獣、水魔獣といった四大元素を司る魔獣たちとセットで名を聞いたぐらいで、詳しくは知らん。

ただ本来、魔獣は全四体。そしていずれも魔王様の制御を離れ、好き放題にしている。近づくのは危険極まりない。

このことを伝え聞くのみだ。

今、そのすべての事前情報が覆ったので戸惑いが大きいが……。

「四魔獣の中でギガントマキアさんだけが特殊な立ち位置みたいです」

レーディが、俺の隣に並んで言う。

「四魔獣のほとんどが、闘神様のテキトーさに愛想を尽かして去っていった。でもギガントマキアさんだけが忠義を貫き続け、自分よりも上位の存在であるフェンリルちゃんの監視役についた……」

「そんなことが……」

しばらく会うことがなかったレーディだが、久しぶりに再会してやはり変わったところが見受けられた。

全体的に骨が太くなり、頼りがいのある印象になっている。

成長している?

「レーディちゃん! 久しぶりぶりなのだわー!」

空中をプカプカ浮遊していたゼビアンテスが突進気味に抱き着いてきた。

しかしレーディは、突き飛ばされることなく真っ向から受け止める。

「わっふ! ……レーディちゃんおひさー! なんかとんでもないことになってるね外!」

「すべてベゼリアとダリエルが悪いのだわ! ホント男どもは余計なことしかしやがらないのだわー!」

言うに事欠いて責任のすべてをおっかぶせようとするな。

相変わらずコイツら仲がいい。

「でも、あの犬っコロ地上に出てきて大丈夫なのだわ? ギガさん一匹で止められるもんなのだわ?」

「多分無理だよ……!」

レーディ、憂いを含めた声音で言う。

「同じ魔獣と言っても、極魔獣は四魔獣より上位の存在。封印空間での抑えが効いていたのは、あくまで闘神様の力が異空間そのものを介在してフェンリルちゃんを押さえつけていたから。その分が助けになってギガントマキアさんと拮抗していた」

「あー、あの犬っコロ封印中は鎖に繋がれてたのだわ」

「闘神様が用意した神具ドラウプニルだよ。あれで縛られたおかげで私でもなんとか食べられずに済んで、修行相手にもなれた。でも今のフェンリルちゃんは封印空間から脱出して、鎖にも繋がれない。力を制限するものが何もない……!」

「あー、ダメなのだわ。ギガさん終わったのだわ」

というかゼビアンテス。

なんでそんなに事情に詳しい?

「わたくしは定期的に封印空間に差し入れしに行ってたのだわ」

「だったら言えよ! どれだけの人がレーディの安否を気遣っていたと思ってるんだ!?」

「はーん、わたくしは常にヒトが知らないことを握っている女なのだわ! 無知なヤツらを見下ろすのは本当に気持ちいいのだわ!」

やっぱコイツ性格最悪だ!!

「ケンカはやめてくださいダリエルさん! それよりも今はフェンリルちゃんの方が重大です!」

「俺が怒られるの!?」

「フェンリルちゃんが、地上で自由を得てしまったことは確実に世界の危機です! このまま何もしなければ必ず世界は滅びます!」

たしかに、ここまでの説明を虚心に信じれば、そういう事態しかありえない。

「まー、あの巨人どもが進撃したら結局なんとかなるのだわ?」

「お前さっき『ダメだ』と言ったばかりでは?」

しかし、そんな評判の散々な地魔獣だが、その攻勢は凄まじい。

既に戦いの火蓋は切って落とされ、百体以上からなる土巨人が狼一体に殺到し、袋叩きにする。

その激しさはまさしく地を揺るがさんばかりであり、迫力は圧倒的。

過去に出会ってきた魔獣……炎魔獣サラマンドラや風魔獣ウィンドラをも超えているかもしれない。

「やっぱり四魔獣の中では最強って前評判は伊達じゃねーのだわ……!?」

「うん、四魔獣の中では……!?」

しかし相手も一方的にやられているわけではない。

狼が、群がるネズミたちを殲滅するかのように、前足を振り回しては巨人たちを両断し、噛みついては砕き折る。

本来土巨人たちも一体一体頑強で、きっと人類の手に負えないほどの強固さなのだろうが、それが砂のような脆さで片っ端から砕かれていく。

『ぬううううううッ!?』

ギガントマキアも対抗して新たな土巨人を生み出し、戦線に投入する。

しかしそれ以上のスピードで壊されていくから、今にも均衡を崩され押し切られそうだ。

「やっぱり、基礎的な能力に差がありすぎる……」

人間の視点から見たらどっちも超越的なのだが。

そういう意味でも恐ろしい戦いだった。

「やっぱりギガントマキアさんだけでは分が悪い! ダリエルさん私たちも参戦しましょう! 世界の危機に手をこまねいていられません!」

「そ、そうだな!?」

あのフェンリルなるワンコロが説明された通りのものなら、アレを放置しておくことは世界の終わりを許容するに等しい。

誰にとっても他人事にならない。

ここは力を結集して危機を……。

『手を出すな!』

しかしそれを巨人が止めた。

世界を支える柱のような巨体で。

『このギガントマキアにも魔獣としての意地がある。いかに上位存在とはいえ、食欲しか持ち合わせない犬風情にやられてなるものか!!』

「で、でも……!」

『私は、あの魔狼の監視役として数百年、いや数千年? ……この地にあり続けてきた。だから必然的にこの世界の人類どもと触れ合うことになった』

大地の魔獣が語る。

『知らずにおくことはできぬ……。地上に生きる小さき者たちが何を思って生きているか。その小さい体で必死に這いずるわけを……! 我が創造主よ、この私になんと惨い仕打ちをなさるのでしょう?』

……?

ギガントマキア(指揮官体)の体が、変わり始める……?

これは……戦闘モードか?

『小さき者たちの必死の生を見たならば、守り導くのが大いなる者ではないですか! 私はもはや、アナタから与えられる使命のためだけに戦うことはできません! この力は、弱き者を守るために!』

ギガントマキアの体が白色の光に包まれる。

土巨人の体から硬く、滑らかなるものが浮かび上がる。

アレは……金属か?

金属が土巨人の体を覆っている?

まるで鎧のように?

「いや待て……あの白銀の輝き……?」

どこか見覚えのある金属……?

あッ、わかった。

あれはミスリル!?

「うわー、でっけえミスリルだべー!」

「純度も高そうだべー! 上物だぁー!」

ミスリル採掘を仕事とするノッカーたちもそういうのだから間違いない。

ギガントマキアが大量極厚のミスリルをまとった。

『お前たちがミスリルと呼ぶ、この鉱物は……、本来私の一部だ』

「は?」

『強化殻というべきか。私はみずからミスリルを生み出すことで自身の武器とし鎧とする。しかし意識せずとも自然に生成されるため、多くは私が沈む土中へと解放されていく』

それを掘り起こしていたのがミスリル鉱山。

そうか、ミスリル鉱山はただの鉱山じゃなくて、ギガントマキアが存在する土中に生じる鉱脈だったのか!

ギガントマキアがフェンリルを監視するためにこの地の土中深くに鎮座していた。

それがこの地にミスリル鉱山ができた元だったのか。

道理で他の鉱山と何もかも違っていたわけだ……!?

「はー、じゃあオラたち魔獣様の垢を集めとったようなものだったかー?」

「魔獣様の垢すりだべー」

と関心するノッカーたち。

しかし超高級品ミスリルを垢呼ばわりは……!?

既に指揮官機以外の巨人たちもミスリル武装を開始し、より強固に、強力になっていく。

ギガントマキアの地魔獣としての存在は、大地と一体化した霊的存在。

足元の土そのものがヤツであり、ヤツの肉体。

だから大地に砂土がある限りいくらでも存在できるし、絶えることはない。

地面があれば無限。

普通に考えればそんな存在、誰も倒すことのできない。

しかしそれでも……。

魔狼フェンリルには届かないのだった。