軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

292 ダリエル、戦線に着弾する(魔族side)

「いやいやいやいや!? わけわからんぞッ!?」

勝負の結果に納得しようとして、おかしいことに気づくリゼート。

危うく雰囲気に流されるところだった。

「何を弱気になっているのだシルトケ殿!? 相手は何か変なものを背負っただけではないか!」

「そうだぞシルトケ! まだ勝負は始まってもいない! 気をしっかり持て闘志を消すな!」

リゼートだけでなくゲルズも声を振るうが、既に相手の創造性に心打たれたシルトケは戦意を取り戻すことはなかった。

「変なものを背負っただけ? そんなことを言うからアナタは凡俗なのだわ」

「な……ッ!?」

「本当に才能ある者は、この翼の恐ろしさをすぐさま見抜くのだわ」

その指摘は、想像以上にリゼートの心をえぐる。

そもそも自分に才能がないことを、もっともよく理解しているのはリゼート自身なのだから。

それを他人から指摘されるほど辛いことはない。

「何を言う! 脱落敗北四天王が!」

しかし若いゲルズは引き下がらない。

「リゼート殿! もうあんなアホは無視して進軍しましょう!」

「何故わたくしがアホだと気づいたのだわ!?」

「煩えよ! とにかく変なものを見せびらかすことしかできない駄女、放置しても問題ありません! 一気呵成に進んで最速で、ミスリル鉱山を占拠してしまいましょう!」

それが最適解である気もする。

「う、うむ……! 全軍前進を再開せよ! 目標はミスリル鉱山だ!」

「あーッ!? 待つのだわ! わたくしがお前らを無視しても、お前らがわたくしを無視するのは許さないのだわ!」

とにかく軍を進めるリゼート。

ゼビアンテスと共に余計な迷いも振り払うつもりでしゃにむに進む。

急がなければ彼自身の迷いに絡めとられるかのようであった。

一度止まれば二度と前に進みそうにない足を、叱咤して進めんとする眼前に……。

ひゅるるるるる……。

どーん。

と。

何かが落ちてきて進行を阻んだ。

「こ、今度はなんだあああああッ!?」

無視に腹立てたゼビアンテスが何かしたのかと思われたが違う。

何か、大きな質量のものが遥か上空から落下してきたのだとわかった。

たしかな重みを持っており、それはゼビアンテスが使う風魔法とはもっとも遠いものだった。

四属性の中でもっとも軽快なのが風魔法なのだから。

ゼビアンテスの仕業でないとしたら。

落下の衝撃で、地上にはもうもうと土煙が上がっていた。

そのため視界が不明瞭で、落下した何かもいまだ明瞭に確認できない。

しかし煙が晴れて、やっとその正体を確認することができた。

「あれは……ッ?」

「人ッ!?」

そこにいたのは人間だった。

若く逞しい男。

一目見ただけで戦闘職をわかる出で立ちに、魔王軍兵士に緊張は跳ね上がった。

「……ぐべッ? ゲッフゲフッ!? 土埃が喉に!? くっそーガシタさんのヤツ滅茶苦茶しやがって!?」

現れた男は、何やら愚痴っぽかった。

やはり人間族の冒険者か。

「人間離れしてるとは前々から思ってたが……、ここまで滅茶苦茶するとは!? ラクス村ギルドに所属するの考え直した方がいいかなあ……。……ん?」

そして彼の視線が前を向き、途端魔王軍全員と目が合う。

突如飛来した男が状況を把握したのはまさにその時だろう。

「でええええええッ!? 軍隊!? なんでこんなところに!? しかもこんなにたくさん!? どういうことおおおおッ!?」

状況をまったく予測できていなかったのか男は慌てふためく。

益々わからなかった。

もし仮に、この冒険者が魔王軍を押し戻すために送り込まれた援軍であったとしても、たった一人では何の意味もなさない。

「そう意味がない。突発時に惑わされるな! 状況にいまだ変化なし、粛々と前進し任務を果たせ!」

「ま、まさかコイツら魔王軍!? こんなところで何してるんだよ!? お、オラ待ちやがれ! ここは一歩も通さないぞ!?」

混乱しながらも名もなき冒険者、武器をとって行く手を塞ごうとする。

しかし愚かな行為だった。

たった一人で二千もの軍隊をどうして止められようか。

「悪いことは言わんそこをどけ。あたら命を散らしたくはあるまい」

「くそおおおおッ! なんでこんなところにオレ一人だけ送り込んでくるんだよおおおおおおッ!?」

当人の悔しがる通りだったが、何故たった一人だけなのか。

人員を砲弾のごとく送り込む行動には度肝を抜かれたが、そのあとが続いていない。

人は集団でなければ意味を発揮しない、一人では何もできないのだ。

「……ん? あと?」

そこに気づいた時リゼートは背筋を震わせた。

砲弾が一撃だけだと誰が決めたのか。

「まさか……!?」

空を見上げた時、既に大空にはいくつもの黒点が浮かんでいた。

一つ、二つ、三つ……。

いちいち数え上げるほどもできないほど多量。

遠くてまだ黒い点としか見えないが、凄まじい速さでこちらへ近づいてくるのがわかる。

「あれすべて飛んでくる人間だと……!? 総員! 戦闘態勢! 対空防御も急げ!」

リゼートの予想通り、次々と地上に降り立つ次弾続弾はすべて、その正体は人間だった。

盾持つ者。

弓矢持つ者。

槍持つ者。

いずれも完全武装の人間冒険者が次々現れる。

「死んだー!? 死ぬかと思った!?」

「ガシタさんのやり口が悪魔的すぎる件について!!」

「いたーい! お尻打った!」

「でも空飛ぶの気持ちいい……!?」

感想もそれぞれであった。

とにかく次々と人が降ってきて集団としてまとまりつつある。

この集団は間違いなく魔王軍の進軍を阻むことを目的としているのだろう。

抵抗がないなど露も思っていなかったが、まさかこんな形で立ちはだかってくるとは。

「ふぃー、ようやく応援が来たのだわ。遅すぎなのだわー」

「ゼビアンテス! まさかアナタが立ちはだかったのは……!?」

……本格的な援軍が来るまでの時間稼ぎ。

「呼んだらすぐ来てほしいものなのだわー。慣れないことしたから大層疲れたのだわ」

とにかく状況は刻一刻と悪くなる。

黙ってみていればそれだけ敵がたくさん降ってくるのだから。

「将軍! 今すぐ進軍指示を出しましょう! 相手が小勢のうちに蹴散らすんです!」

「ぐうう……!」

ゲルズが進言することはまったくの正論で、リゼートも臨時指揮官として一刻も早く命令を下さなければいけないところだった。

しかし言えない。

無言のまま降り注ぐ敵陣を睨むのみ。

「このまま動くな……!」

「リゼート殿! しかし!」

「相手の意思をたしかめたい。相手の態勢が充分に整い、代表者が出てくるまで待つんだ」

その判断は、いまだわだかまるリゼートの迷いを如実に表すものだった。

あの集団がミスリル鉱山を守るために急行した(急行しすぎの感もあるが)人間側の冒険者であるなら……。

その元は、ここからもっとも近い人間族の集落。

充分に相手の陣容も整い、人の雨も尽きたと思われたタイミングで……。

最後に飛来するものがあった。

「あれか……!?」

直接目視しなくても、ある程度巨大なオーラや魔力の持ち主は感覚でわかる。

最後の一人は、あからさまにわかるほどの特大だった。

あの最終急行者が、あの集団の親玉であることは疑いない。

着弾し、もうもうと土煙が上がり、それが晴れた時現れた姿は……。

逆さまになった下半身のみだった。

つまり上半身が地面にめり込んでいた。

「「「「「「着地失敗してるううううううッッ!?」」」」」」

ツッコミに敵味方の心が一つとなった。