軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

289 リゼート、若さと遭遇する(魔族side)

「……とうとうここまで来てしまった……!?」

遠方に見えるミスリル鉱山を見て暗黒将軍リゼートは思った。

なんやかやで軍勢に加わり進んできた。目的地であるミスリル鉱山はもう目に見えるところまで来ている。

出兵の目的はミスリル鉱山を奪還すること。

かつて魔族の手にあったものが人間族によって奪われより六年。ついに取り戻さんとする動きが始まった。

動員された兵数は二千。

さらに刷新された四天王が全員参加するという異様の陣営であった。

その注力は本気でミスリル鉱山を奪い返そうという決意の表れともとれる。

しかしリゼートは、そんな大作戦にも一抹の不安……というより釈然としない何かを感じざるを得なかった。

リゼートは基本この作戦に反対でいる。

せっかくラスパーダ要塞再建の間だけの休戦協定が締結したのである。

人魔の争い始まって以来の珍事であるというのに、その休戦期間中軍事行動を起こすのがどれほど混乱を呼ぶか。

下手をすれば魔族人間族の総力を挙げた全面戦争を引き起こしかねない。

本来ならリゼートはなんとしてでも止めなければならないところだが、それをせず同行までしたのは、出発前に聞いたあの言葉が耳元から離れないからだった。

――『私の推理では、勇者はミスリル鉱山の方から来たと睨んでいる』

――『これは私の勘だがね。黒幕の正体は、私もキミも案外知ってるヤツかもしれないよ?』

四天王ベゼリアから囁かれたその言葉に、リゼートの想像力はある一人の人物に帰結するしかないのだった。

「…………」

妄想だと、何度自分に言い聞かせても同じ人物の顔が脳裏にちらつく。

魔王軍全体が虚を突かれた、たった数年前の『勇者急襲事件』。

その黒幕が案外見知った者だというベゼリアの推理を解き明かすための出兵だという。

『そんなバカな』と否定したかったリゼートだが、言ってはならないことを言わないまま理屈を立てられる弁舌も持ち合わせておらず、結局押し切られる形で出兵を許してしまう。

『私が直接本人にたしかめてきます!』などとはまさか言えない。

せめて最悪の事態は止められるようにと同行したリゼートであったが、結局ここで自分が何をすべきかをまだ明確に見いだせないのだった。

「リゼート将軍!」

進軍の最中、隊列を分け進みリゼートに接近する何者か。

魔王軍所属の士官であることはわかるが、あまりに若く少年のようにしか見えない。

その若さで逆にリゼートはすぐ気づくことができた。

新たに抜擢されたという四天王の一人だ。

「キミはたしか……ゲルズ殿?」

「はい! 新たに就任した四天王『弱火』のゲルズです!」

元気よく応答する新四天王ゲルズ。

その若さと素直さをリゼートは好ましく思った。

「敬語は必要ありませんよゲルズ殿。アナタは魔王軍の頂点に立つ四天王のお一人なのですから」

「そうは言ってもまだ若輩の身です。実戦経験もほとんど積んでいませんし、年長者の方々から多くを学びたいと思っています!」

なんと素直な。

前任のバシュバーザとは真逆ではないか。この謙虚さ勤勉さが、それだけで高い評価に繋がってしまう。

「ですのでリゼート将軍。最下級の暗黒兵士から暗黒将軍まで登り詰めたアナタに是非ともご指導ご鞭撻を賜りたく思っています。どうかよろしくお願いします!」

「いやいや……!」

本当にこれが同じ四天王かと疑うほどであった。

前任の四天王たちは曲者厄介者揃いであったが、新任が彼のようなものばかりであれば魔王軍の新体制は明るいと思えるのだった。

「最下級の……暗黒兵士か」

「? 何か?」

「いや、しかしゲルズ殿は魔王軍の内情に詳しいですな……。そういえば新任の四天王で一人だけ軍部から昇格した者がいると聞いたが……?」

「はい、オレのことです。士官学校卒業直後に四天王就任の辞令を賜りました。いきなりで夢かと思いましたが……!」

「そう言うことはままある。才能を評価されたのだろう」

「光栄ですが、やはり四天王は実績ある方にこそ相応しいのではないでしょうか? それこそリゼート将軍のような……?」

「私など、ただ今日まで生き残っただけにすぎんよ」

そう。

この世界にはどんなに実績を残そうと認められない者もいる。

それが故に不当にも魔王軍を追い出された者が……。

「ですが、四天王が魔王軍の頂点だというのに軍部からの直接昇格がオレだけだというのはおかしいです。他は皆アカデミーからの出向者なんて……!?」

「彼らも、自分たちの存在感を示しておきたいのさ」

魔族の間で、魔王軍とアカデミーは両輪の関係にある。

魔族特有の奥義である魔法、それを研究し発展に寄与するのがアカデミー。

対して魔法をより実践し、『魔王を守る』などの現実任務に当たる魔王軍。

アカデミーには上流階級の子女が入学し、研究機関であると同時に社交界も形成する。

ゆえに現場で実働する魔王軍を『泥臭い』『賤民の仕事』などと蔑む傾向があった。

「実際魔王軍に志願する者は階級が低く、アカデミーに進学できるほど豊かでない者が多い。高い授業料を支払わずに魔法を習うには、魔王軍で訓練を受ける他ないからな」

「オレの家も……名ばかりの下級貴族です」

ゲルズは恥ずかしげに言うが、それでも魔王軍の中でも恵まれた方だった。

魔王軍で暗黒兵士から始める者の中には身寄りもない孤児も多く、いわば生涯魔王軍に尽くすことを条件に保護を受けるのだ。

かつて同期だったあの男のように。

「だからエリート意識の強いアカデミー出身者は、常に魔王軍を下に見ておきたいのさ。だから出向という名目で魔王軍の頂点、四天王の座に就きたがる」

「迷惑な話ですよね! 実戦も知らない学者風情が戦場にしゃしゃり出るなんて!」

しかし当代の四天王もゲルズを除けば皆アカデミー出身者である。

四人全員がアカデミーだった先代に比べればまだマシかもしれないが……。

「キミの他の新任……、地と水の新四天王もアカデミー出向者か……!?」

「メリスとシルトケですか? アイツらとも顔合わせしましたが、いまいち何を考えているのかわかりません。それでもベゼリア殿よりはマシですが……!」

「あの御人の考えは私にもわからんよ……!?」

前期四天王から唯一残留した水の四天王ベゼリア。

当時はバシュバーザなど他の問題児が派手に暴れていたせいか影が薄かった。しかし、ここに来て独特の存在感を見せ始めている。

不気味さというべきか……。

「リゼート殿はどう思われます? あの方が立案した今回の作戦を……!?」

「お話にならない愚策だ。……と断言できないのが歯痒いな」

実際のところダリエルの存在を知っているリゼートは、今回の思惑がまったくの的外れでないことがわかってしまう。

そして知らないはずのベゼリアが、まるで見透かしたようにこの作戦を立案したことに不気味さを感じずにはいられないのだった。

「とにかく私が望むのはこの作戦、事を荒立てずに終わらせたいということだ。ゲルズ殿も協力してくれないか?」

「当然です! 同じ軍部出身者同士で魔王軍の誇りを守りましょう!」

元気のよい若者だ。

齢四十を目前に控えたリゼートは、その溌剌さに羨ましさすら感じてしまう。

もはや人生の折り返し地点を過ぎたと言っていいが、いまだ独身で次代を担う子どもすら作れていない。

そんな自分の人生に不甲斐なさすら感じてしまうのだが、それもみずからの青春時代、この若者のようなエネルギーがなかったからではないかと思うのだった。

「でも本当はオレ、四天王に選ばれて嬉しいんです! 魔王軍に入ったのもきっかけはグランバーザ様に憧れたからなんで!」

「ほう!?」

歴代最強と謳われた四天王『業火』のグランバーザが現役を退いてから早六年。

それでも軍内の畏敬は根強く、ゲルズのような若者からも目標とされている。

「だからグランバーザ様と同じ火の四天王に選ばれたのはマジ光栄って言うか……! 今はド新人ですけれど、いずれちゃんとしたグランバーザ様のような四天王になりたいと思っています!」

「キミの世代から見てもグランバーザ様は憧れの的か」

しかしグランバーザのようになりたいならば越えなければならない目標はもう一つある。

かつて最強四天王がもっとも慈しんだ珠玉の人材を。

「キミの人となりはよくわかったよゲルズくん。キミのような有望の若者が火の座に就き、グランバーザ様もさぞ喜ばれるだろう」

「は、はい……!!」

「そのためにも任務に精励しなければな。どころでゲルズくん、私のところへ来たのは何の用かな?」

「あッ!?」

リゼートの下に来てから、ずっと世間話に花咲かせていたことに気づくゲルズだった。

「す、すみません! 目標も近づいてきましたので陣形展開の手筈を相談したいと……!?」

「? それならベゼリア殿に指図を仰ぐべきではないかね?」

現状の四天王筆頭であり、本作戦の立案者でもある。

その彼が作戦の総指揮をとるのが必然ではないか。

「それが……!」

ゲルズはいったん言葉を濁してから、とんでもないことを告げた。

「すべてはリゼート殿に一任せよとだけ言い残して姿が見えなくなり、どこを探しても見つからず……!」

「何ぃッ!?」

目標地点を目の前にして責任者が雲隠れしたというのか。

ますます何を考えているのかわからない四天王筆頭であった。

「くっそ、私が指図していいならこのまま引き返しちまおうかなあ!?」

「ッ!? リゼート殿あれを!?」

しかし引くに引けない事態が続けさまに起こる。

上空から飛来する前風の四天王……。

『華風』ゼビアンテスの登場であった。