軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

287 ダリエル、援軍を送る

なんか露骨に見え隠れする商会の蠢動について、何かしらの手は打っておいた方がいいだろうなと感じていた俺です。

ヤツらの狙いがミスリル鉱山であることはわかりきっていたから、あそこの防衛力強化は必須だった。

普通にラクス村の冒険者を派遣して人員を増やしてもよかったが、それだと時間がかかるしキャンベル街道の完成具合から見て明日にもやってきかねない。

ということでより迅速な手を打つことにした。

それがゼビアンテスだ。

あれでも過去四天王だっただけのことはあり戦闘力は一騎当千。

B級以下の冒険者が何百人かかってきたところで蹴散らせるであろう。

『風』の四天王だけあって速度はピカイチだし、『行け』といえば次の瞬間にはミスリル鉱山に移動して防衛体制をとることができる。

何より日ごろから遊び呆けていて何もしていないから急に仕事を任せたところで、どこかに穴が空くわけではない。

その点がもっとも最高であった。

ということでセルメトからの報告を聞いたその日のうちにゼビアンテスをミスリル鉱山へ向かわせていた。

何かがあった時のために。

「素晴らしいです村長! あのゼビアンテスを従わせるなんて!」

なんかまたドロイエから尊敬の眼差しを浴びた。

「……いや、ただお願いしただけですよ?」

とは言うが、ドロイエがこんなにリスペクトする理由もわからんわけでないんだよな。

だってあのゼビアンテスだし。

「アイツはミスリルに執着してるだろ? だからミスリル鉱山が危ないとなったら率先して動くのさ」

ああいう欲望に忠実な手合いは、どういったものに欲望をそそられるかしっかり把握してお行けばコントロールは容易い。

「さすがです……! ゼビアンテスにそんな操作法があったなんて……! 私が四天王の時にそのことを知っておけば、知っておけば……!!」

はいはい泣かない泣かない。

ドロイエの現役時代を思えば、どれだけゼビアンテスに振り回されたか想像に難くなくて同情する。

本当に苦労したんだねドロイエ。

「まあ俺だってすんなり送りだせたわけでもないけどね」

ミスリルが採れなくなるのは困るけど、自分が働くのも面倒だというゼビアンテスは……。

『わたくしが働くのは死んでも嫌なのだわ! さっさと他のヤツを派遣するのだわ!』とか言い出したもんだから。

俺とマリーカの二人がかりで一日かけて説得してやっと行かせられたもんよ。

「最後にはゼビアンテスも泣きが入っていたからな」

「力技……!?」

そう、どんなに権謀術策を駆使したとしても最後にものをいうのは力なのだ。

その実行力を持たない商会がどう足掻こうとも最後に勝つことはできない。ミスリル鉱山にゼビアンテスを配置した時点で優位に立つこともできないだろう。

問題は、敵を待ってるうちにゼビアンテスが飽きてどっかに行っちゃわないかだが……。

「……ん?」

「どうしました村長?」

この微かに耳元を震わせる間隔。

遠いのに近くで聞こえるような声。

「……ゼビアンテスの声が聞こえる?」

「それは遠隔空気振動魔法でしょう。風の魔法使いが遠くにある空気を振るわせて音を発するのです。その音が声になって情報を伝達するのだと聞いたことがあります」

それは俺も知らない魔法だな。

今は魔法通信機とかもあるからな。

そんなけったいな魔法を使ってゼビアンテスは俺に何を伝えようというのか?

早速飽きて帰りたいとか愚痴が言いたくなったか?

とにかくもヤツからのメッセージに耳を傾けてみると……。

――『風が語りかけるのだわ』

――『ヤバい、ヤバすぎる』

「えッ? ヤバいの?」

ゼビアンテスからのメッセージは思った以上に緊急的なものだった。

「ゼビアンテスのことですから『退屈すぎてヤバい』とかなのでは?」

いや、あの女は意外と誇張した表現を使わない。

本当にヤバい時しか『ヤバい』と言わないものだ。

「一体何が起こっているんだ?」

もしリトゲス主導で鉱山が襲撃されたとしたら、ヤツが動員できる最強最悪の戦力でもってしてもゼビアンテスなら一ひねりのはずだ。

「あれでも元四天王だぞ!?」

いかん、今鉱山で起こっていることが想像できん。

しかしこういう時ならやるべきことは一つだ。

「今動ける冒険者をできる限り集めてくれ。ミスリル鉱山に援軍を送る!」

「わかりました」

ドロイエから通達を受けてどんどん冒険者が集まってくる。

その数はすぐさま百人近くに上った。

「第一陣としては充分な数だな」

ゼビアンテスはアホだが、しかし強さは本物だ。

そして戦いに関する独特の嗅覚もあって、ことアイツが戦闘に関して『ヤバい』と言ったら誤解の余地なしにヤバいということなんだろう。

だから俺は即座に戦力を投入する。

「とはいえ向こうの状況が詳らかになってない以上、いきなりの全投入は却って危険だ。俺と共に厳選した精鋭をまず第一陣とし、救援と共に情報収集に努める」

「村長みずから戦いにッ!?」

「大事なミスリル鉱山だからなー」

それにゼビアンテスクラスに『ヤバい』と言わしめる状況、生半可な戦力では焼け石に水となりかねない。

俺自身で現状把握に努めたいところだ。

「わ、わかりました……! それでは隊列を組ませて出撃準備を……!」

「いや」

それでは間に合わないかもしれない。

ここは緊急事態だ。対応も緊急のものをとらせてもらおう。

「ガシタ」

「ヘイ!」

我が村のナンバーワン冒険者ガシタに通達。

「アレをやってくれ」

「マジでやるんすか? 冗談半分で編み出した技なんすけど?」

戸惑いながらも『アレ』で通じる辺りガシタとの付き合いも長くなった証明だ。

「……しかたないっすねえ。ちょっとそこのお前、来な」

「はい?」

集団の中から一人の若手冒険者を呼ぶと、ガシタ弓を用意する。

普段使っているものより二倍近く丈のある大弓だった。

「動くなよー、下手に動くと怪我するからなー」

「あのガシタさん? なんでオレの体にオーラ通すんですか」

若手冒険者に『気を付け』させて、その体にオーラを込める。

充分オーラが通ったあと、大弓に若手冒険者そのものをつがえて……。

「え? まさか? これじゃオレ自身が弓矢の『矢』みたいに……!?」

「飛んでけー」

「ぎゃあああああああああああッッ!?」

弓がしなる勢いのままに若手冒険者は天高くへ飛んで行った。

これこそガシタが長年の修行の末に編み出した奥義『人間射的』。

人体そのものを矢に見立てて射出する技である。

「……射角よし風向きよし。あれならミスリル鉱山に問題なく着きますね」

「あれで援軍を送り込む気か!?」

「普通に歩いていくより断然早いっすよー。さ、ガンガン行くぜ次は誰行く?」

ここにいるほぼ全員が射出され、空を飛ぶことが決まった。

冒険者はたじろぎながらも、村長と村一番冒険者の意志だから逃れることもできずに身を任せるしかない。

「んひゃあああああああああッ!?」

「ひえええええええええええッッ!?」

「んほおおおおおおおおおおッ!?」

「でもちょっと楽しいいいいいいいいッ!?」

と次々射出されていく。

着弾予定地はミスリル鉱山だ。

「しかしあれ……、着地は大丈夫なんですか? 叩きつけられて潰れたトマトとかになりません?」

ドロイエの心配はもっともだが大丈夫。

「ガシタが皆の体にオーラを流し込んでいるだろう? あれが着地の際衝撃を吸収してくれるんだ」

無論他人にオーラを流すのは超絶高等技術なのでA級冒険者でなければ実現できない。

それに加えて長距離まで届くだけのオーラ出力。

狙いを外さない研ぎ澄まされたスティング(突)オーラ。

それらを百単位で繰り返せるオーラ量。

すべて揃わなければ成立しない絶技を容易く繰り出せるのはガシタならではなのだろう。

「よし、第一陣に足りるだけの人員はあらかた射出しましたよ」

「もう!?」

じゃあ最後に俺のことも射出してもらうか。

でも待てよ?

こうなるとガシタはどうすればいいんだろう?

さすがに自分自身を射出はできないからなあ。

「よし、ガシタはここで残りの冒険者たちを指揮してくれ。村を空にするわけにもいかんしな」

「りょっす!」

そういうわけで俺も発進するぞ!

ほう、こうして弓の弦に足を置いて……。

びゅーん!! と!!

ぎゃあああああああああッ!

ホントに飛んだあああああああああああ!?

怖いいいいいいいいいいいッ!?