軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

282 リトゲス、企む(人間族side)

商会長リトゲス。

ラクス村を去るとすぐさま向かった先は隣の街。

キャンベル街であった。

かねてからの計画を実行に移すために。

「愚か者が……! こちらが差し伸べた最後のチャンスをフイにしおって……!」

リトゲスは病的なまでの実利主義者であった。

それゆえにもっとも得になるものを追い求め、そこに道徳やプライドなどが差し込まれたりしない。

今回ラクス村をみずから訪ねたのも、それがもっとも利益が大きいからだった。

ラクス村の持つミスリル販売のノウハウ。

それを丸ごと取り込めれば、すぐさま最大限にミスリルを売り出すことができ、それが商会の利益でもある。

そのために今まで幾度もなく秋波を送り、ラクス村との提携を誘って来たのに、相手は乗ってこなかった。

長が頑迷なのであろう。

商会は、人間領全土に販売ルートを行き渡らせている。この社会に必要不可欠な組織であるというのに。

そんな商会に協力しようとしないなんて。

愚かの極みであった。

商会に従い、商会の言う通りに金を収めるのが世界の正義であった。

それを拒む者は、世界の敵として叩き潰すより他ない。

「大組織の力を甘く見るなよ……!!」

今リトゲスが向かっているキャンベル街とは、既に提携は済ませてあった。

地理上、ラクス村にもっとも心中穏やかならざるのはあの街と言ってもいい。

敵意を向けている、と言い直してもよかった。

ここ一帯でもっとも大きな規模を持ち、『中心地』としての高い自負をも持つキャンベル街。

それがラクス村の台頭によって地位を脅かされている。

ミスリルによって稀代の勃興を遂げたラクス村には、人と金の流入著しいが、そのほとんどは本来キャンベル街に流れ込むべきだった。

それどころか元々キャンベル街に住んでいた者がより豊かな生活を求めてラクス村に移り住むことも珍しくない。

これ以上ラクス村を野放しにしておくことは、あの街の存続にかかわる。

だからこそ商会からの申し出に飛びついたのだろう。

ミスリル鉱山~ラクス村を結ぶルートとはまったく別の、キャンベル街から発する輸送ルート。

それが開通すればキャンベル街もミスリル輸送の旨味を得て、ラクス村と肩を並べることができる。

しかし言うは易くても行い難いことはある。

前代未聞の大工事になるはずで、それが大利益をもたらすとわかっていても実行に移せなかったのは、それができるだけの資金力、組織力がキャンベル街になかったからだ。

それで歯ぎしりしながらラクス村の繁栄を横目に見ていたのだが、商会が関わってくることで事態が変わった。

問題の資金、人手を商会が肩代わりすることで、開通工事を施工可能になったからだ。

復讐の刃を与えられたキャンベル街は、それこそ奮起して開通工事に当たった。

おかげで工事の進行は想像以上に早く、もう開通を果たしたという。

商会側にも思惑がないわけではあった。

実のところリトゲスは知っていた。

仮にキャンベル街とミスリル鉱山を結ぶ第二のルートができたとしても、キャンベル街はラクス村を上回ることはない。

まず人にはどうにもできない地形の問題で、キャンベル街は大きく迂回した回り道しか切り拓くことができず、効率の問題でラクス村ルートを絶対に上回ることができない。

人件費などの支出で、ラクス村ルートの一.五倍の負担増となることが既に算出されていた。

また、ラクス村最大の利益生産機関であるミスリル鍛冶場は門外不出の技を持つ。

キャンベル街はそのブランド力で絶対敵うことはないし、同じだけの技術を一から育むとしても何十年かかるかわかったものではなかった。

だから必然、ミスリル輸送を巡る競争に持ち込めたとしてもキャンベル街に勝ち目はない。

商会がキャンベル街の後ろ盾をしても、投資した金が泡と消えるばかりで少しも採算の取れない行為だった。

無論、それがわからないようで商会は、人間族の商業を掌握する巨大組織にはなれない。

リトゲスには別の思惑があった。

キャンベル街など目的にたどり着くための踏み台に過ぎないと……。

キャンベル街に到着したリトゲスは、すぐさま盛大な歓迎に合う。

「商会長! ようこそおいで下さいました!」

町長からギルドマスター、商会の支部長など。

街の主立った実力者が総出での出迎え。ラクス村の時とは比べ物にならなかった。

「そうだ。商会長とは本来こうして最大限の扱いをされるべきものなのだ……!」

リトゲスは心の中でほくそ笑んだ。

ラクス村での雑な扱いが、やはり腹に据えかねていた。

「商会トップみずからおいでいただけるなど、キャンベル街始まって以来の光栄であります! 心ばかりのもてなしを用意しておりますので、どうか楽になさってください!!」

キャンベル街も、一帯トップの発展ぶりを見せているとはいえ、それでも所在はラクス村とそう変わらぬ地域にある。

いわば辺境の地方都市であった。

それゆえに商会長などという世界指折りの実力者が来訪してくることは、歴史に残る出来事であるに違いない。

「商会長様に来ていただけるなどおおおおお! かつてない! こんな栄誉を賜るのはここ一帯の集落で我らキャンベル街ぐらいのものであろう! 成り上がりのラクス村が知ったら恐れおののくわ!!」

と打ち震えるのはキャンベル街を統括する町長であろうが、彼は知らない。

商会長が既にラクス村を訪れ、その次に彼の街へやってきたことを。

それどころかラクス村にはこれまでに勇者、センターギルド理事長、歴代最強と謳われた先代勇者、同じく先代四天王、現役四天王数人、地獄の主、そして魔王など錚々たる面々が来訪している。

だからこそ今さら商会長ごときで動じもしなかったダリエルであったがそのことを知る由もないキャンベル街の町長であった。

「歓迎はありがたいのだが町長、私はここへ明確な目的をもって来ている。まずは真っ先に用件を済まさなければな」

「まったく仰る通りです! 既に我が街から伸びる新輸送ルートは開通しておりますぞ!!」

「ほう」

思った以上の進捗に、リトゲスは心の底から感心した。

彼の見立てではあと数十日はかかるものと思っていたが、この街の隣村への怨念が、作業を早めたのだろうか。

恐るべきは人の執念の力であるが、その執念を利用して利益を得ることが商人のやり方である。

そういう意味ではここキャンベル街の連中は、とても優良な手駒と言えよう。

ラクス村憎しで商会のためによく働いてくれた。

「商会長には感謝の言葉しかございません! 商会が資金人材を提供してくれたお陰で! 我らキャンベル街が長年夢見てきたミスリル鉱山との輸送ルートを確立できたのですから! これでラクス村との条件は五分五分、であれば本来の中心地である我らキャンベル街が滅びかけの田舎村に敗けるはずがない!!」

認識が低く、また古いなとリトゲスは思った。

ラクス村は、たしかにかつては自然消滅寸前の寒村だったかもしれないが、今や大発展を遂げて近隣一帯どころか世界有数の先進都市にまで発展しつつある。

リトゲスも商会長としては、できることならキャンベル街などよりもラクス村をビジネスパートナーとしたかった。

だからこそ未練がましくここへ来る前にラクス村へ立ち寄ったのだが……。

ラクス村の村長は逆に賢明すぎて商会のコントロールを受けつけない。

過剰な賢明よりは愚鈍である方がまだマシであった。

手駒として操るには。

最高を避けて次点をとることも商売には必要とされる。

ただキャンベル街と商会とは、互いに手を組みながら認識には大きな隔たりがあった。

商会は、キャンベル街をビジネスパートナーだとは微塵も思っておらず、それこそ対する認識は『駒』だった。

目的を達成するために利用する道具でしかない。

だからこそ新ルートの開通だけではどうあってもラクス村に勝てない事実を、リトゲスは巧みに隠した。

キャンベル街の者たちが気付くべき事実に気づけないのは、彼ら自身の愚かさだけが原因ではなかった。

結局のところ商会が立てた計画によって得をするのは商会以外にない。

それはこれまで彼らが企んできた計画のすべてがそうだった。

ラクス村も、キャンベル街も、そしてこの地上すべての人と富は商会に跪くように出来ている。

その鉄則を保持するためにも、商会は手に入れなくてはならなかった。

ミスリル鉱山を。

「では行きましょうか。富の源泉へ」

そのために愚か者をけしかけて栄光への道を踏み整えさせたのだ。

愚者はいかなる時も賢者のためにあくせく働くものだ。

それが自分自身の得になるなどという都合のいい幻想を抱きながら。