軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

277 ドロイエ、働く(魔族side)

ドロイエはかつて魔王軍の四天王だった。

四天王と言えば軍の花形。

魔族にとって最悪の脅威、勇者を阻むために選び抜かれた最強の魔導士四人。

火。

水。

風。

地。

魔法に伝わる四属性それぞれの最高峰を組織して宿敵勇者にぶつける。

そして魔族の大いなる主、魔王に指一本触れさせぬことが四天王の務めであり使命だった。

かつてドロイエも、その四天王の一人に抜擢された。

あてがわれた席は『地』。

『沃地』の称号を得てドロイエは、四天王の役目を果たさんと勤勉に働いた。

大役を任される以上、実力は持っているドロイエである。

現役時代、同僚たちの中でもっとも活躍したのは彼女だと言っていい。

迫りくる勇者を一年以上もの間押し止めていたのはひとえにドロイエ個人の精勤ゆえであった。

しかしそれはあくまで『同時期の四天王に比べれば』の話。

彼女自身の才覚は、大視野をもって見比べれば決して突出したものではなく、過去歴代の四天王たちに並べればギリギリ中の上へ抜け切れるかといったところであろう。

ドロイエ自身、魔法の実力には自信あったが、経歴は魔法学を専攻した学者であって従軍経験もなく、従って勇者を阻む戦いなどどう行えばいいかわからないと言った素人であった。

それは前世代、長い期間トップに君臨し続けた四天王グランバーザの実力主義がまかり通り、四天王の選抜には戦闘経験豊富な魔王軍仕官のみが選ばれてきたことも関係あった。

グランバーザ以前には、軍部と学部のパワーバランスから最低でも一人、アカデミー所属の四天王を選出することが恒例化していた。

それをグランバーザが権力を掌握した途端『実戦経験のない者に前線は任せられん』と全面不採用になってしまった。

グランバーザが四天王を勤め続けた三十年余り。その間、他の地水風の四天王は幾度となくリタイヤし交代してきたが、その中で学士の四天王は十人にも満たないという。

しかも、そのほとんどがグランバーザの権力体制が固まりきらない初期に就任したものだった。

そいうわけでグランバーザ引退を好機と、復権を狙うアカデミー側の政治攻勢が猛烈となった。

拍車をかけたのが炎雄グランバーザの一人息子にして時期四天王確実とされていたバシュバーザがアカデミー側に属していたことだった。

それらの余勢を買い、グランバーザ引退後の新四天王の顔触れはすべてアカデミーの高位学士となり、その中にドロイエの名もあった……ということだった。

彼女自身、当時のことを振り返り、四天王入りしたことで浮かれる気持ちなどはなかった。

元々沈着冷静な性格であったから、学部と軍部の権力争いなども気にかけず、魔族全員の重大事である魔王守護に全力を尽くそうという考えだった。

ドロイエもまた魔法の能力には自身があり、自分が精励すれば勇者と言いえども必ずや討ち果たし、魔王を守ることができると心の底から信じていた。

しかし、そんな彼女の自信が打ち砕かれるのに、そう長い時間はかからなかった。

初めて経験する実戦は、アカデミーの研究室とはまったく違い、思い通りに進むことなど一つとしてない。

そればかりでなく目まぐるしく状況は変わり、何もしなければ置いていかれることばかりであった。

最初の出撃でドロイエができたことは何もなく、補佐についていた兵士の機転でなんとか無事に済ますことができた。

その兵士も気づけば他の四天王によって解雇され、ドロイエは何も頼る者のない手探りの戦いを余儀なくされる。

ドロイエにとって現役四天王だった時代は、自分の無力さを痛感するばかりだった。

戦いは、ただ魔法の扱いが上手ければそれだけで勝てるわけではない。

戦いには駆け引きがあり、機を見る眼力も備えていなければならない。

それらを充分に活かすため古今の戦術を知り抜いている必要があり、また共に戦う部下たちにも充分気を配らなければいけなかった。

ドロイエが務めていた頃の四天王に、それらすべてを完璧にこなせる者は一人もいなかった。

彼女自身も含めて。

益々自身の至らなさを痛感し、自分自身を一から鍛え直す欲求に駆られた。

そして今、その望みを叶えんとするかのようにドロイエは、四天王から退いてラクス村にいる。

もっとも有能と認めた兵士……ダリエルの下で働くためだった。

魔王軍から追われた彼は、いかに数奇な運命を辿ったのか再会した時には小村の長となっていた。

村長として切り盛りするダリエルから様々なことを学び取るため、ドロイエは秘書として彼の下に身を寄せる。

最初は村長の秘書など何をするのかと不安もあったが、いざ初めて見れば彼女の予想を遥かに超えて激務。

今まさに僻村から大都市へと発展しようとするラクス村。

その激動を支える村長の仕事は多忙を極め、それを支える秘書もまた目の回る忙しさだった。

ミスリル産業によって拡大する貿易。

金の流れが太くなれば人の流入も拡大し、村の人口は倍の勢いで増加した。

新しい住民の家を確保し、また治安の悪化を防ぐために流入者の素性や経歴は逐一チェックする。

ただ漫然とミスリルの利益を享受するだけでなく、最大限の成果を得られるようダリエルは様々なアイデアを起用してきたし……。

人口増加に対してもダリエルは起こりうるトラブルを様々先読みし、先手を打って対処してきた。

その手際、発想に傍らで見守るドロイエは舌を巻き、またこうした才覚が魔王軍でも彼の評価を高くしたのだと納得できた。

「私に足りなかったのは、こういうところだったのか……!?」

そもそもダリエルの下で学ぶために秘書となった彼女であるが、実際に働き始めると想像を超えた濃厚な日々であった。

一日一日、一秒一秒ごとに教訓が押し寄せる。

日々充実し、成長していく自分を感じ取れるのだった。

ただ今日は……。

「……村長が来ない!?」

午前中。

朝一番で庁舎を訪れたドロイエ。

しかし上司であるダリエル村長がいつまで経ってもやってこないのだ。

かつては村長の自宅が仕事場を兼ねていたのだが、村が大きくなるにつれて職員も増え、専用の庁舎が建てられた。

ダリエル村長も朝のうちにはやってきて昨日からの諸作業を進めるはずであったが、一向に現れる気配がない。

「……また何かのトラブルにでも巻き込まれたか……!?」

実のところダリエルがこうして時間通りに現れないのは珍しいことではない。

大抵は通勤の途中、何らかの突発事が起きてそちらにかかりきりとなるのだった。

そういう時、負担はすべてドロイエにかかり、抱えている案件のすべてが彼女の判断に委ねられる。

「秘書さん! 鉱山からのミスリルが今日中に届くことになってるんです! 処置を指示してください!」

「秘書さん! 今日も村民からの嘆願書が山のように! 村長がいないんなら秘書さんの判断でお願いします!」

「秘書さん! ソファが野良猫に占拠されました!」

明らかに秘書の権限を逸脱した案件もあったが、これはダリエルの兼ねてからの判断でドロイエにより大きな権限を与えた結果だった。

『みずからを鍛え直したい』という彼女の願いを汲んでくれている。

「だからと言って……! この忙しさはキツすぎる……!?」

目を回すドロイエだったが、これこそがダリエルの下で積みたい実績であったので文句も言えない。

雪崩のように押し寄せる判断。迫られる決断。

時は待ってはくれない。

その中で先の先まで見据えつつ、周囲の気遣いまで欠かさない。

そういう思考力が、組織のトップに立った時大切だったのだと身に染みて思う。

もし彼女が四天王の座にあった頃、これだけの経験を既に積んでいて、それに伴う思考力や判断力をきっちり備えていたら……。

どれだけちゃんと働けたことだろう。

そして今、ダリエルの行為によってそれら必要な能力を備えつつある彼女だが、スキルアップすればするほど、ある思いが彼女の中でわだかまっていく。

今更能力を上げてどうするのかと。

ドロイエはもうとっくに四天王の座を追われ、返り咲く目途もない。

彼女の人生において絶頂は既に過ぎ去っている。

にもかかわらず今以上のスキルを得て、それを生かせる時が来るのだろうか。

そんな疑問が日々募るドロイエだった。

しかしそれでも、まだ二十代も終えぬうちに働き盛り。

進むことをやめることもできず、今日も最大限自分を高め続けるドロイエだった。

「ドロイエちゃん! ドロイエちゃん! ドロちゃんドロちゃん!」

そこへ招かれざる来客が。

かつて同じ四天王として並び立っていたゼビアンテスだった。

「なんだ? 私は見ての通り忙しいんだが? お前と遊んでいる暇などないぞ?」

「遊びに来たのではないのだわ! すっげー面白いゲームを開発したのだわ!」

『やっぱり遊びに来たのではないか?』とドロイエは思った。

「このゲームを発表すれば世界中から注文が来てロイヤリティでウハウハなのだわ! でもそういうのは村に一言言ってからの方がいいと仁義を通しに来たのだわ!」

「うむ? まあそういうことなら……?」

よくわからないが、たしかに考案したゲームが好評を博せば儲けになる。

村の利益になることを 捨て置くわけにはいかないので念のため話に乗るドロイエだった。

「この種類の違う駒を使って競うのだわ!」

「既にもうどこかで聞いたような感じになっているな?」

「こっちの駒が兵士。こっちの駒が魔導士。将軍、間諜、魔王と……、そして勇者の駒なのだわ!」

それで、互いの同じ数の駒を駆使して、最後に魔王をとったら勝ちというボードゲームだろうか。

「勇者の駒一個vs他すべての駒という対決陣営なのだわ」

「ゲームバランス傾きすぎてないか!?」

「史実を基にしてみたのだわ」

たしかに勇者は単独で魔王軍に立ち向かうが……。

よほど豪快な無双ゲーでもない限り面白くなさそうだった。

「大丈夫なのだわ! そこは遊び方を考えてあるのだわ!」

「お前の『考えている』ほど信用ないものはないのだが?」

「この駒を、全部使って積み上げるのだわ!」

「ほうほう?」

「そして一個ずつ抜き取って、山が崩れたら敗けなのだわ」

「駒種類分けした意味あるのか?」

「あるのだわ! 同じ種類の駒を四つ集めたら革命が起きるのだわ!!」

「何種類のゲームをごちゃ混ぜにした?」

ドロイエの忙しさは今日も変わらないのだった。