軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

271 『天地』のイダ、まだまだいる(老人side)

再びラスパーダ要塞、再建予定地。

そこでは旧雄グランバーザとアランツィルがタッグを組んで、要塞再建を指揮している。

かつて激闘を繰り広げてきたライバル同士であるだけに、その二人が一致団結するなど夢にもないことだと珍しさが昂ぶる。

ということで再建作業には参加希望者が多く、現場は常に人で賑わっていた。

人手に不足はなく、従って作業に遅れも出るはずがなく……。

再建が始まってもう五年。本来ならもうとっくに完成していてもよかった。

それがここまで遅れたのは政治的な要因……もあったが、他にも理由があった。

むしろこちらの方が深刻と言えようか……。

「いや待て、ここの壁は開けておくんだ。……そう抜け道を作るんだよ。あと隠し部屋だ」

建築現場で、一人の少年が騒ぎ立てていた。

総身が真っ白で、見た目からしてこの世ならざる者だということがわかる。

「何?『こんなところに空洞作ったら要塞全体の強度が落ちる』? そんなことに怯んでどうするんだ!? 不可能に挑戦してこそ楽しいんだろ!!」

「あのイダ様……、イダ様……!!」

グランバーザは戸惑いがちに諫めるが、あのグランバーザがおっかなびっくりな態度をとるということ自体がありえぬことであった。

だからこそ周囲は一層困惑する。

歴代最強四天王すら及び腰にさせるこの白い子どもは何者なのかと。

「それくらいにしなさいませ。彼らも工期が迫りながら全力を出しているのです。その上さらに難しい注文を出すのは酷というものでしょう」

「何を言う! 今こそ全力以上を出す時だとわからないのか!?」

現場でもっとも偉いはずのグランバーザにも物怖じしない子ども。

「いいか! 建築物というのは何百年もあとまで残り続けていくものだ! それこそ製作者が死したあとも! だからこそ手を抜けない一世一代の仕事じゃないか!」

「アナタ自身も死んだあと何百年残り続けているじゃないですか……!?」

「巨大建築物ならなおさら、これから長い時を経て何千人という人の目に触れ続けていくものだ! それを手抜きで拵えてどうする!? こういうものこそ培ったすべてを注ぎ込んで、最高の仕上がりにすべきだ!」

「で、今度はどんなギミックを要塞に取り付けようとしているのですか?」

「ここが開いて大砲が伸びてくればカッコいいと思わないか!?」

本来なら現場の最高責任者(魔族側)であるグランバーザ。

そんな重鎮に、どうしてあの子どもは偉そうなのか。

誰もが思う。

そう思うのは子どもの正体を知らないから。

誰が想像するであろう。

あの白い子どもこそ、過去数百年という昔に魔王軍四天王を務めた英雄『天地』のイダであると。

四天王であろうと一個の人であることに変わりなく、抗いきれぬ老い衰えによって、永遠に頂点の座に留まることはできない。

しかし魔王と魔王軍は世代を超えて続いていくがゆえに、四天王はこれまで何度も代替わりをしているのだった。

グランバーザもイダも、既に四天王の務めを果たし切り、現役を退いたという点では同じだった。

ただ、グランバーザは引退してからまだ十年も経っておらず、対してイダが活躍していた時代はもう数百年前の過去だという違いがあるが。

「ホント何者なんだあの子どもは……!?」

そんな秘密を知る由もない周囲は困惑するばかり。

そしてグランバーザ当人も、遥か昔の大先輩への対応に四苦八苦。

「まさかこの歳になって後輩いびりを受けるとは……!?」

「同所属の先輩相手には辛いな」

そこへ新たに現れたのは、同じくラスパーダ要塞再建の最高責任者(人間族側)である大勇者アランツィル。

つい先日センターギルドへ向かい、すぐさまトンボ返りしてきた。

「私の方からガツンと言ってやろうか? 根本的に勇者と四天王は敵同士。故に大先輩だろうと遠慮はない!」

「頼む……!」

宿敵に頼み込むほど追いつめられていたグランバーザだった。

正式な要請を受けてアランツィルがイダに迫る。

「おいガキ。いい加減に帰れ。もしくは成仏しろ」

「子どもに対して乱暴な言い草だなあ。そんなんじゃ孫に嫌われるよ?」

「殺すぞ貴様ああああッ!!」

イダの嫌味が、アランツィルの心理的急所にクリティカルヒット。

「やめろアランツィル!? 挑発に乗るな! 口喧嘩では数百年を生きるこの人には絶対勝てんぞ!?」

グランバーザはかつての宿敵を羽交い絞めして押しとどめ、無駄な苦労が増えただけであった。

「…………そもそも、なんでお前はまだまだ現世にいるんだ? お前がここにいる用はとっくに済んだのだろう?」

数百年前の人であるイダが、現代に存在していること自体が不可思議な話である。

その理由は、これまた人智を超える究極の存在にあった。

この世界を支配する神に等しい魔王は、自分の望みを叶えるプランとして様々な世界を創造し、抱えている。

その一つヴァルハラは修羅道を司り、かつて功績のあった戦士たちの魂を迎え入れる。

強者たちはヴァルハラで際限なく戦い続け、ただでさえ最強であった実力をさらに磨き続ける。

いずれその力で魔王の願いを叶えるために。

もっとも、そこまで至った修羅の魂は今まで一つもないのであったが。

かつての最強四天王『天地』のイダも、そうして天へ掬い上げられた修羅の一人。

死後世にも等しい別世界でみずからの力をさらに磨き上げている。

ほんの数年ほど前、ある事情から現世へと舞い戻り、その際にダリエルやグランバーザの前に姿を晒した。

現世での用はとっくに済み、もうずっと前に幽世へ帰還してもいいはずなのだが……。

「まだいるんだよなあ……!?」

「目障りなことこの上ない……!?」

世代的には最古老の格にあり、もはやあらゆる年下から敬われるべき立ち位置にいるグランバーザ、アランツィル両雄。

そんな二人から見てさらに年上イダの相手はやりづらいことこの上なかった。

「もうホント帰れよお前」

居座り続ける友だちに言うかのように言う。

「いや待て聞いて。聞けよ。私だって使命が済んだ以上、すぐに帰るつもりだったんだ。しかしな、どうにも放っておけない出来事が現世で起きたんだ。放置はしておけないだろう?」

「なんだよ放っておけない出来事って?」

「これだよ」

いまだ完成には至っていない、半分程度しか積み上がっていない巨大建築を指さす。

「ラスパーダ要塞再建! そんな重大事業が行われると聞いて大人しくヴァルハラへと帰れるか!」

「なんで? 帰れよ?」

ダリエルの血を分けた父親だけあって、彼もそれなりのツッコミを心得ていた。

「わかってないな、……グランバーザよ説明してあげなさい」

「かつてのラスパーダ要塞改修にアナタが関わっていたことですかな?」

再建……とするからにはかつて、この地には立派な要塞が建っていた。

それが壊れてしまったから再建が必要なのであって。

生前のイダが関わったのは、その崩壊以前の要塞であった。

「そう、一番最初に要塞を建てたのは人間側だったのだがな。それを私とドリスメギアンが共同作戦で奪い取ったのだ」

「アイツかー」

「奪取したはいいが、敵の使っていた要塞だからそのままじゃ使えないだろ? そこでちゃんと魔族が使えるようにと大々的な改修を行ったんだ。魔法でな」

それによって過去のラスパーダ要塞は様々な魔法トラップを備えた難攻不落の要害と化したのであった。

「実際そのお陰で要塞は非常に堅固。人間側に落とされることは一度もなかったという程だからな」

「ああ? 私は現役時代あの要塞落としたぞ? 適当なフカシを入れるな?」

「私が留守中に空き巣のようにな! 要塞施設を適切に運営できる将がいた時の話だ!」

久々に火花を散らすライバルたち。

要するに、そんな堅固な要塞が出来上がったのもイダの手腕あってこそだった。

かつてのラスパーダ要塞は、四天王『天地』のイダが知恵技術を結集させた一大傑作と言えた。

「そんな要塞が、あれから数百年も現役で運用されていたとは。私も製作者として実に嬉しい。しかしそんな要塞も今はなく、新しいものが作られようとしている。腕を振るいたいと思うだろう!!」

「「ああ……!?」」

老雄二人揃って表情に浮かぶのは『面倒くさい』という感情だった。

「これを機に、私の脳内にあるあらゆるトラップ機構を盛り込んで前作以上の最強要塞を作り上げるのだ! 本当なら前要塞にも取り付けたかったアイデアもあるしな! それを今度こそ実用化させる!」

「それなんで前作には使わなかったんです?」

「同僚だったドリスメギアンに止められた」

『お前のやりたいようにしてたら永遠に改装が終わらない』と叱られ、無理やり工事を打ち切られたそうな。

「アイツ根はクズだったが合理的な考え方していたからなあ……」

「そういうわけで今度こそ究極に納得いく最強要塞を完成させるのだ! 工費はこれぐらいかかるんで確保は頼んだぞ!」

「無理です。魔王軍の財政が傾きます」

きっと生前もこんなことしてドリスメギアンを悩ませたんだろうなあと想像し、『今度は私が歯止めにならなければ!』と決意するグランバーザであった。

「安心しろグランバーザ。私も止めるのに協力するからな?」

「すまんアランツィル。しかしいざとなったら魔王様に直談判し……!」

究極技『もっと偉い人に言いつける』だった。

しかしそんな二人の会話を盗み聞いて……。

「残念だな。私がいまだ現世に残っているのはあの御方も了承済みだぞ」

「「なんでッッ!?」」

悲鳴を上げる歴代最強たち。

「あの御方もまた新しい遊びを始めるご様子だ。それに私を働かせるつもりなのだろう。本格的に事が動き出すまで、私は自由時間というわけだ」

「「…………!?」」

元々年の割に若々しい印象だったグランバーザ、アランツィルだったが、一瞬で随分老け込んだ。

二人の苦労はまだまだ終わらない。