軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

263 新たなる影、蠢く

「では結局、新たな勇者はどう選出したものか?」

一通り場を落ち着かせてから、改めて話し合う。

端ではボロボロになったガンドミラフがタンカに乗せて運び出されていた。

救護というよりはごみ処理といった印象だった。

勇者選出において決定権を持ったギルド理事たちが口々に話し合う。

「やはりグランくんを勇者に据えるのは問題があるかと。どんなに実力があろうと年端のいかぬ子どもです」

「しっかりとした判断力も備わっておらぬからな。勇者には戦闘能力だけあればいいというわけではない。それに子ども戦場に駆り出しているなどという批判が起これば、センターギルドにとって限りない損害となろう」

「せめてあと十歳成長していたなら理想の条件なのですがな」

思ったことをそのまま言いおる。

ちなみに肝心のグランは、久々に会ったアランツィルおじいちゃんと戯れ合っていた。

グランバーザ様も駆けつけたかったそうだが、さすがに魔族でセンターギルドには来れないと涙を呑んだとか。

「では? グランくんを除いてもう一度最初から選抜会を始めるか?」

「そんなことをやって締まるか? いずれも六歳の子どもにおくれを取った者どもだぞ?」

「そんな連中から勇者を選び取ったところで……。詮無いか……!?」

そんなこと言われて可哀想。

今回の勇者選抜会に出場した人たちだって、勇者になることを目指して一生懸命頑張ってきたんだし……。

それでもグランの才能に及ばなかったのは悲しいが……。

「とにかくこれは、すぐさま結論の出る問題ではなさそうじゃ……」

「本日は一度解散いたしましょう。そして後日改めて議論を……」

そうした、何とも煮え切らない感じで勇者選抜会は終了となった。

決まったことといえば、ガンドミラフが権力の座から永遠に追われたぐらいであった。

「お久しぶりです」

「おおサトメ?」

勇者選抜会の終了後、センターギルドにて意外な人物との再会を果たした。

かつての勇者パーティの一人、盾使いのサトメ。

五年が経って体つきもすっかり変わり、かつては少女の面影であったのが今は色気を伴う大人の女に成長していた。

「そういえばセンターギルドに戻っていたんだっけ? レーディがパーティ解散を宣言して以来だなあ。いやいや大きくなって……!」

「ダリエルさんこそ村長としての威厳がますます増しましたね。グランくんも大きくなりました。とはいえまだまだ子どもですが……」

当のグランはは、まだアランツィルさんと遊び中。

いや、どっちかというと久々孫に会ったアランツィルさんの方が満喫中であるのだが。

お陰で俺はサトメとの再会に集中することができた。

「勇者の使命より母親に甘えることを優先するなんてやっぱり子どもですね。誰も予想できなかったでしょう。こんな結末になるなんて」

「サトメはやっぱり勇者選抜会を見物しに来たのか?」

そう考える方が自然であった。

実のところ俺は、サトメがセンターギルドで何をしているのか知らない。

相変わらずの冒険者稼業かと思ったが、今の彼女の出で立ちは襟元のピッシリしたスーツ姿。

とても戦闘者の装束とは思えなかった。

どちらかというと政務に従事する女性官吏のような……。

俺たちの知らない間、彼女はどんな日々を送っていたのか?

「…………」

それを推測できない理由はわかる。

勇者レーディが消息を絶ったあとの勇者パーティ面々は、いずれも深く思うところがあったはずだから。

同パーティだったセッシャさんも、みずからの無力感と挫折感から草庵に引きこもり、世捨て人のような生活を送っている。

サトメはセンターギルドに帰った分前向きな新生活を送っていると思っていたんだが……。

勝手な想像だったか。

「気になります? 私が今何をしているか?」

「うむ……!?」

「レーディ様の実家のツテで、商会に勤めています。冒険者は事実上の引退ですね」

「商会……!?」

また嫌な名前が出てきた。

「ダリエル村長は、やっぱり商会がお嫌いのようですね。ハッキリ顔に出ましたよ」

「そうか」

俺は腹芸などやる気はないから表情に出ても一向気にしないがな。

商会という存在には、俺も心当たりがある。

正直言って不快な印象しかない相手だ。

有り体に言って商会とは、人間領の商売を取りまとめる大組織。経済の担い手というべき存在だ。

人間領内の商品流通を取り仕切る。冒険者ギルドに負けず劣らず人間社会になくてはならない存在。

実際ある程度大きな街には冒険者ギルドと同様、大抵商会の支部があり、街での商売を認可したり、流通をチェックしたりしている。

そんな存在を俺が煙たがっているのは何故? となるだろうが、その理由は単純明快。

商会なんてなくても問題なくやっていけるからだ。

ラクス村には商会の建物はない。

それは元々ラクス村が自然消滅寸前の僻村であり、発生する利益などまったくなかったからだ。

商売人は金のあるところにのみ現れる。

かつての貧乏ラクス村は見向きもされなかったが、やがてミスリル鉱山が奪還され、巨万の富が発生するようになると途端にすり寄ってきた。

村長である俺の前に揉み手をしながら現れて、笑顔と共にこんな要求をしてきたものだ。

・ラクス村は、直ちに商会に加入すべし。

・ラクス村で生産されるミスリル製品の販売、流通はすべて協会の管理の下行うべし。

・ミスリル製品の価格は、すべて商会が決定する。

・ラクス村は、商会から要求された際ミスリル製品の製法を全開示すべし。

・村内では、商会より許可を得た者だけが物品の売買を行える。

俺はすぐさま拒絶した。

こんなの村の主権を開け渡せと言っているようなものではないか。

ラクス村の独立と存続のために商会のいいなりになどできない。

商会の使者に塩ぶっかけてお帰り願ったのが、もう三年近く前になるかな?

そこから凄まじい嫌がらせを度重なり受けた。

ある時には大口の注文を突然キャンセルされたり、ミスリル運搬用の人足がガラの悪いヤツに変わって、ミスリス製品を持ち逃げされる寸前まで行ったことがある。

村で不審火が起こった時も、商会の仕業ではないかと囁かれた。

大抵の町村は、それら嫌がらせに屈して協会に加入してしまうのだろうが、幸運なことに俺には、そうした卑劣な手段に対抗する手がいくつもあった。

元来ミスリル製品は、ミスリル鉱山からのみ産出され、加工できるのはウチの村が抱える鍛冶師だけ。

いかに通商を断って兵糧攻めにしても需要がある限り、ミスリル製品はウチから買うしかなく、先に音を上げるのは向こう側だった。

それに俺にはセンターギルド理事長さんとの太いパイプがある。

人間領を牛耳る巨大権力の一方として冒険者ギルドも商会の勝手を快く思っておらず、理事長さんはことあるごとに商会とやり合ってくれた。

あとドライアドたちの闇市かな。

驚くなかれ、闇市といえば不法取引のために健全なマーケットより遥かな高値で取引されるはずなんだが、商会を通して同じものを買うなら闇市で買う方が安い。

ドライアドの闇市で1のものを買うとしたら。

商会を通して同じものを買う際には1.5くらいになる。

つまりそれだけ商会が膨大なマージンを課しているということだった。

お陰で商会を介さず販売されるミスリル製品は、それより性能が劣る鉄や銅製の武器より安かったりする。

こんな連中に寄生されたらラクス村もすぐさま衰退してしまうぜ。

「そんな商会にキミが所属していたなんて……」

「失望しましたか? でもご安心ください。心からヤツらの手先になった覚えはありません」

サトメは、五年前にはまったく見せなかった韜晦的な笑みを浮かべる。

「ダリエル村長。今回ガンドミラフの陰にいたのは商会ですよ」

「やはりか」

「彼らがラクス村を掌握するために、もっとも邪魔なのは現センターギルド理事長です。あの人がアナタの親族として肩入れし、また商会が必要以上に大きくなることを危惧して積極的に歯止めをかけていましたからね」

「そんな理事長さんが倒れたことはヤツらにとって朗報か……」

そして現理事長さんに変わってセンターギルド理事の椅子に就くのが、商会に肩入れしてくれる人ならなおよい。

「それでガンドミラフに近づいたと?」

「あの人は野心が大きいだけのうつけですからね。傀儡とするにはもってこいです」

意のままに操れるヤツをセンターギルド理事会に送り込み、商会の意思を反映させながら、ゆっくりとラクス村を飲み込んでいく。

「商会にとって、ミスリル製品はそれだけ魅力のある商品なんですよ。利益のあるところに自分が噛めない、商人にとってはこれ以上の屈辱はないようです」

「迷惑な話だ」

儲けたいという願望自体は否定しないが、だったら自分の創意工夫で利益を増やすべきではないか?

他人が生み出した利益に乗っかって旨味を吸おうなどというのは、寄生虫でしかない。

「つまり今回の黒幕は商会ってことか。鬱陶しい搦め手が極まっているな」

今まで相対してきた敵よりも段違いで弱いが、しかし同時に段違いで煩わしい。

村長生活が長くなったらこんな相手ともやり合わなければならなくなるとは。

「当然、今回の目論見が失敗したところで商会は絶対諦めません。ラクス村のミスリルを狙って、手を変え品を変え様々な搦め手を打ってくるでしょう。どうかご注意を」

「ありがとう」

そこまで聞いて俺は改めて安心した。

サトメは俺たちの敵に回ったわけではない。むしろ俺たちを助けるためにスパイの真似事までしてくれたんだな。

「キミが商会に入ったのは、そう言うことなんだろ? ラクス村に害を及ぼす相手の情報を得ようと……」

「いいえ、それはあくまでついでのことにすぎません」

サトメはさらに、とんでもないことを言った。

「グランくんをこの件に巻き込んだのは私の発案ですし」