軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

262 息子グラン、勇者にならない

いや、ウチの子強い。

父親の俺の想像以上に強くなっていた。

日夜、遊びと称して山野を駆け回るわんぱくボーイだなあとは思っていたが。

まさか現役冒険者を一人ならずいっぺんに薙ぎ倒すとは……。

「ぐはははははははッ! ぶわっははははははははッ!!」

隣で煩いヤツが煩わしい。

「なんだヒヤリとさせおって! 終わってみれば圧勝ではないか! さすが大勇者の孫!」

ガンドミラフのヤツが、この結果にご満悦。

自分の推薦したグランが、パーフェクトに近い形でライバルたちを全滅させればご満悦にもなるか。

「しかし勇者の血筋はすさまじいものよな。ガキのくせにもう才能が開花している。あのガキに比べれば参加した他の冒険者などゴミのようなものだ! あの中にも現役理事たちが推薦した勇者候補が無様に伸びているかと思うと痛快でたまらんわ!」

「言い方」

「あのガキを見出し! 勇者に推薦したのはこのガンドミラフだ! 私の目に狂いはない! 我が功績を讃えるがいい!!」

得意満面のガンドミラフだが鬱陶しいのでこのまま放っておこう。

勇者選抜会は、これから第二審査、第三審査とあったようだが、グランを除く出場者の全員がリタイヤしてしまったので意味をなさない。

もう会場にはグランただ一人しか残っていない。

「これは……、どうしたことか……!?」

「これでは審査を続ける意味が……!?」

観覧席から見守るセンターギルド理事会も、予想外の展開すぎて戸惑っているようだ。

理事会は勇者選抜の審査員も兼ねていて、理事長さんだけはかねてからの体調不良で欠席。

一次審査で全員消えてしまうなど想定外なのだろう。

適性数を見計らってストップをかける暇もなくグランくんが一掃してしまった。

「愚鈍なセンターギルド理事会諸君! 何を悩む必要がある!?」

意気揚々と言うガンドミラフ。

挑発的な口ぶりだなあ。

「ここまでくれば余計な審査など不要! 勇者に選ばれるは最後に残った一人! このグラン坊やで間違いないではないか! 他に何がある!?」

「むぅ~~ッ!?」

理事会の皆さんは、唸るが、他に受け入れられる事実はない。

「仕方がない。いささか呆気ないが決めるしかなかろう」

「我らセンターギルド理事会は、ラクス村のグランを新たなる勇者として認める!」

ウチの子、本当に勇者になってしまった。

多分最年少記録ではないのかな?

冒険者ギルド未登録からの一足飛びで勇者就任はおじいちゃんのアランツィルさんが第一人者だが、間違いなく史上二人目。

とんでもない偉業を成し遂げてしまったものだ。

六歳にして。

「ふはははははははッ!! グランを勇者に推薦したのは、このガンドミラフだ! 凡庸なセンターギルド理事会の諸氏、覚えていてもらおう! あのガキの後ろ盾は私だ! 私がギルド理事となった暁には、勇者グランの魔王討伐行はすべてこの私が仕切る!!」

ガンドミラフは、もう既に天下を取った気分だった。

「ついに! ついに私の時代が来たぞ! おいダリエル! お前も自分の息子が勇者になったのだからもっと喜べ! これからお前の息子のためにたくさんの金が要るぞ! 私が適切に運用してやるから有り金全部差し出すがいい!!」

すべてが自分に従うと思っているようだが、俺はその前に確認したいことがあった。

「グランおいでー」

「とーちゃん! とーちゃん!」

我が息グラン、嬉しげにパタパタと駆け寄ってくる。

「父ちゃん俺勇者になれたよ! 優勝だよ!」

「おめでとう、よく頑張ったな。でもグランは本当に勇者になるのか?」

「ほへ?」

その言葉に横やりを入れてくる者がいる。

「何を言っている!? そのガキは勇者になるに決まっているではないか! 選抜会を勝ち抜いたのだぞ! 他に誰が勇者になるというのだ!?」

煩い。部外者は黙っとれ。

「いいかグラン。勇者になったらもうラクス村にはいられなくなるぞ?」

「えッ!?」

思い切り驚愕の表情。

やはりわかっていなかったか。

「勇者は魔王様を倒すために旅立たないといけないからな。魔王城を目指して、色んな場所を回らないといけない」

故郷に留まることなどできない。

「お父さんには仕事があるから一緒に行くことはできない。お母さんもそうだ。勇者になったらグランは、お父さんともお母さんとも会えなくなってしまうぞ」

少なくともしばらくは。

そう告げた途端、グランの目から大粒の涙が流れだした。

「やだぁ~~ッ!!」

泣き出す我が子。

「やだーーッ!! 父ちゃん母ちゃんと離れるのやだーーッ!! 絶対いやあああッ!!」

「はいはい」

泣きじゃくる我が子を抱きかかえる。

やっぱりまだ六歳の子どもだ。毎日山野を駆け回るわんぱく小僧でも、それでもこの年で親と引き離されるのは耐えがたい苦痛であるに違いない。

「勇者やだ! 俺、勇者にならない! ずっと一緒にいるの!!」

「わかったわかった。お父さんもお母さんもずっとグランと一緒にいるからなー」

ということで……。

「お集りの皆さん申し訳ない。息子はまだ幼いので、勇者の何たるかを理解してはいなかった。このような不覚悟で勇者選抜会に臨んだこと自体失礼の極みですが、子どものしたことと、どうかご容赦いただきたい。全責任は……」

俺の視線が横を向く。

「このガンドミラフさんに取っていただくのがいいでしょう。深く考えもせず子どもを勇者として推薦した見識の狭さ。相応のペナルティをもって落とし前としていただきたい」

「んなあああああああッッ!?」

ついさっきまで我が世の春を確信していたガンドミラフさん。

大どんでん返しを見舞われて大慌て。

「バカなッ!? なんで私がそんなクソガキの尻拭いをせねばならん!? 責任を取らねばならん!?」

「グランを勇者にして甘い蜜吸いまくろうとしてたんだろう? リスクとリターンは表裏一体。裏目に出た時だけとんずらなんて許されないぞ?」

あとうちの子をクソガキ呼ばわりすんな。

「バカな! バカな! おいクソガキ! 前言を翻せ! 勇者になれ! それがお前の役目だろうが! 役目をちゃんと果たせ!」

「やだー!」

「甘ったれるなクソガキいいいいッ!! 親と離れるのが何だ!? 人間誰もが独り立ちするもんだぞ! 男なら根性見せんかあああッ!?」

五十に迫ってもなお親のすね齧ってるお前なんぞに言われたくないわ。

公衆の面前にて子どもに無理強いを迫る姿が周囲に快く映るわけもなく……。

「いい加減にしなさい」

ついに観覧席のギルド理事会からも制止の声が出た。

「あまりにも見苦しすぎますよガンドミラフ氏。お父上が倒れ、アナタはすっかり後釜気取りですが、正式にはアナタはまだギルド理事ではないどころか、センターギルドの関係者でもない」

「そ、それは……!」

「そんなアナタがこれ以上センターギルドの決定に嘴を挟むのは、あまりに目に余ります。速やかに退出しなさい。自分で失せる気がないのならギルド衛兵に命じて拘束させますよ」

「バカな! 私はもうギルド理事になったも同然だ! 父上さえ死ねば! 父上が死んで消えれば、その席は私のものだ!!」

「父親がお亡くなりにするのを心待ちにしますか。なんと浅ましい。そのような人物を、栄えあるセンターギルド理事会に迎えることはできません。皆さん、よろしいか?」

ギルド理事の一人が左右に目配せすると、他の理事たちも同意するように頷いた。

一体なんだ?

「センターギルド理事会は、ガンドミラフを『好ましからざる人物』として設定。これにより以降、理事会はもちろんセンターギルドに関わるあらゆる要職に就くことが不可能になります」

「んなあああああああッッ!?」

鶏が絞殺されたような声を出す。

実際彼にとっては死刑宣告のようなものだが。

「そんなバカな! 私が理事になれないなら誰がなるというんだ!? 私は理事どころか将来理事長になるべき男だぞ! 父上のように!! 父が理事長なんだから私も理事長になるのは当たり前じゃないか!! その当たり前の道を何で阻もうとするんだあああッ!?」

「何を思おうと勝手だが、世間はすべて客観的に進むものだ。自分の思いに通り進むと思うこと自体間違いだぞ?」

「貴様ぁ!?」

とにかくガンドミラフはこれで終わりだ。

そして最後にもう一つ、彼を地獄へ追い討ちする使者が現れた。

「あ、やっと来た」

それはアランツィルさんだった。

勤務中のラスパーダ要塞から真っ直ぐここまで、移動に時間がかかったものだなあ。

「ダリエル……、どいつだ?」

「どいつというのは?」

「惚けるな、私の孫を利用し、手駒にしようとした不届き者だ。かわいい孫を汚らしい政治の世界に巻き込もうとは。なんという外道。この私みずから誅罰を加えてやらねばな」

まあ、こうなるよね。

アランツィルさんは孫のグランを猫可愛がりしている上に、現役勇者時代からセンターギルドの政治癖を毛嫌いしていた。

ダブル要素で怒り心頭であろう。

「どうやら思い出させる必要があるようだな? このアランツィルを怒らせたらどういうことになるか? 痛みとともに後悔を覚えろ……!!」

「ぎゃああああッ!? 待て! 控えろ! 私は将来センターギルド理事長に、いや! いやあああああああッ!?」

キレたアランツィルさんは俺以上に容赦などするはずもなく。

ガンドミラフは全身の骨を折られながら、権力闘争のレースから脱落していくことになったのである。