軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

257 バカ息子、アテが外れる(人間族side)

ガンドミラフは、現センターギルド理事長の嫡子に当たる。

父親が、四半世紀にわたって理事長を務めてきた政治的怪物であるだけに、彼にはその息子としての自負が大いにあった。

――『いずれは自分こそが父を後継し、新しいセンターギルド理事長となってこの世界を牛耳るのだ』と。

そのためにはまず自分と同じ立場にいる者……、同じ血を分け、同じように父の座を後継する資格がある弟や妹たちが邪魔だった。

現センターギルド理事長が親子愛に恵まれず、その子らのほとんどが絶縁状態で離れて暮らしているというが、その原因を作ったのは他でもない長兄ガンドミラフであった。

ダリエルの姑であるエリーカを政略結婚の駒として使い、目論見が外れると『二度と顔を見せるな』などという絶縁状を放ったのも主導者はガンドミラフ。

ことほど左様に、本来であれば一族一丸となって家運を上向けるべきところ、徒に敵を作り、分断していったのがガンドミラフであった。

賢明なるセンターギルド理事長は、いらんことばかりする長男にとっくの昔から失望していた。

彼とて人間である限りは永遠に生きる道理はない。

百年も満たぬうちに死ぬであろう。

しかし己が死んだあと、己が築き上げてきた権力基盤や財産を継承させる相手が、このバカ長男しかいないことが何よりの絶望であった。

人は、死しても自分の生きた証を後世に伝えることができる。

それさえ叶えば肉体滅んだところで、自分自身が在った事実は残る。それこそもっとも健全な意味での不老不死ではないか。

しかしながら、ギルド理事長が遺したものは確実に、バカ長男によって食い潰され跡形残さず消え去ることが目に見えている。

それは予測ではなく確信であった。

自分が、人並みの幸福や愛情を捨て去ってまで積み上げてきたものたちが自分の死と共に潰え去る。

権力者にとって、これほどの苦しみはないであろう。

理事長がもっと強欲な人間だったら、持ち合わせた財と権力を総動員して不老不死の方法を探し求めていたに違いない。

後継者に不安しかないなら、己自身が永遠に生き続けるしかないだろうと。

しかし、彼自身そこまで突出した欲望はなく、半ばあきらめの気持ちで成り行きを受け止めている感はあった。

――『ヤツの代で我が一族の栄華が終わるなら、それもまた天命であろう』と。

そんな当主の悟りきった心持も知らず、バカ息子は野放図な野心に浸りきっていた。

ガンドミラフ。

彼の脳内には、既にセンターギルド理事となった自分自身の姿がありありと浮かんでいた。

荘厳にして華麗、歴代もっとも偉大なる理事として周囲から賞賛を受ける自分の姿を。

痴人の夢としか言いようがないが、ガンドミラフは本気で自分自身を有能だと思っていた。

父の跡を継いでセンターギルド理事長になることができる。

そのために必要なものは全部揃っていて、それらはすべて父親の懐から引き継ぐ予定のものだった。

彼は自分以外のすべてを、自分が役立てるための道具としか思っておらず、自分が使ってやってこそ価値が出ると思っていた。

そう信じて疑わなかった。

それはつい先ほど初対面したダリエルであろうと同じであった。

ここ数年の間で、人間領内を大席巻するようになったミスリル武器。

その販売元締めは、それまで名前すら知られていなかった小さな田舎村であったという。

それがラクス村。

ガンドミラフにとっては脳内の片隅に転がしておく価値もない僻村であったが、価値を生み出すのであれば話は別だ。

自分の役に立つものなら評価してやろう。

それがガンドミラフにとっての世の物差しだった。

今を時めくラクス村との繋がりがあるとは、さすがセンターギルド理事長。その人脈の広さに諦めて感服する。

そして父親のものは自分のものと決めてかかっているガンドミラフでもあった。

父親が体調を崩し、長く勤めていた理事からもついに退かねばなるまい。

そうすれば空いた席に代わって座るのは、当然長男の自分。

それに今、ミスリル製品の販売で大いに潤っているラクス村が協力すれば鬼に金棒ではないか。

ラクス村と理事長一家の繋がりは、かつて彼自身が追い出した腹違いの妹によるものらしい。

後ろめたさの微塵もなくガンドミラフは、父退いたあとギルド理事となるべく活動する支援をラクス村の長に要請した。

政治活動に何より最初に必要となるものは資金。

その金の潤沢な源泉が向こうからやってくるというのだから運命だとしか思えない。

ガンドミラフは、父親から継承する立場に加え、ラクス村の金さえあれば確実に新理事になれると確信した。

ラクス村は必ず自分を支援すると思った。

センターギルド理事といえば人間族における最高に地位であるし、その支援者になれる栄誉のためなら自家を潰したところで後悔はなかろう。

自分を助けること自体が、世の凡人にとって誇るべきことだと。

俗人は貴人に仕えることが名誉なのだと。

だから自分以外の誰もが自分を助けて当たり前だと思っていた。

ところへの顔面一撃。

そして二階の窓から放り投げられた。

幸い落下地点は中庭で、芝生がクッション代わりになってくれたから大きな怪我はない。

それでも腰が死ぬほど痛い。

「クソッ!? なんという愚か者なのだアイツはッ!?」

センターギルドに関わることのできない凡俗は、一生惨めな下級市民なのだ。

その下級市民が触れることのできる最高の栄誉といえば、センターギルドに関わる上級市民を補佐し、支援することではないのか。

「その栄誉をみずから棒に振るとは! この私を支援させてやろうというんだぞ! これほど有り難い話はないだろうが、涙を流し地に伏せて、全財産を私に献上してもいいぐらいだろうが!!」

ちなみにガンドミラフは、ダリエルがかの大勇者アランツィルの実子であるということを知らない。

野心ばかり大きいくせに、その意欲を正常に運営するだけの知恵知識に欠けていた。

伝説を打ち立てた大勇者アランツィルは、今なお冒険者ギルド全体に隠然とした影響力を持っている。

そんな彼を敵に回せばたとえ現理事長の息子であろうとも新理事の座は諦めなければならない。

しかしそんなことにも気づかずにガンドミラフは感情のままに猛り狂う。

彼はセンターギルド理事になりたいのだ。

父親が理事長を務める以上、父親のものすべてを受け継ぐのが当たり前だと思っているガンドミラフは、自分も理事になるのが当たり前だと決めつけていた。

彼自身御曹司ながら、既に五十代に入らんかとする老齢。

その間幾人もの理事が退任しては就任しと入れ替わりがあったが、彼にチャンスは巡ってこなかった。

理事メンバーの中に同族が二人以上も連なれば、影響力が偏りすぎるということで不文律が働いたのである。

彼が理事になるためにはまず、父親である理事長が引退しなければならない。

その時が今、目の前に迫っている。

奮起もしようというものだった。

そのためにもラクス村を手駒としておかねばならない絶対に。

ガンドミラフ自身、理事長の名家として資金力は潤沢な方なのだが、興味を惹かれたものはすぐ欲しくなるお坊ちゃま体質。

今やラクス村を支配しておかなければ理事にもなれないという気分になっていた。

「何とかしてヤツを屈服させることはできまいか……!?」

と悩むガンドミラフ。

完全に当初の目的を逸脱していた。

「いずれは父上と同じセンターギルド理事長になる私に無礼を働いたのだから、相応の報いをくれてやるべきだ。くくく……、反抗的な犬を叩いて躾け、従順な飼い犬に仕立ててやることも大人物の器量というものよ……!」

彼とて、伊達に名家の御曹司ではない。

彼自身が無能であったとしても、彼の名声財産に引き寄せられる魑魅魍魎がいる。その中には相応の知者がおり、唐変木に入れ知恵することもできる。

「ふむふむ、ほう……」

ガンドミラフは、早速招集した取り巻きたちへ意見を求め、ダリエルを陥れるいくつかの案を提出させた。

その中に、特に面白いものがあった。

ダリエルの家族構成まで正確に調査し、それを利用する周到な案であった。

「……それは面白い。ヤツを私の意のままに動く下僕に仕立て上げ、かつ私のセンターギルド理事としての名も上がる一挙両得の手ではないか! 今すぐ進めろ! 私の天下はすぐ目の前まで迫っている!」