軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

256 新たなるバカ、現る

『あッ、これは新しいトラブルの到来だな』と即座に思えたのは、登場した男の顔つきが傲慢さに溢れていたからだ。

その手の顔つきはこれまで何度も見てきたから、もう一目見ただけでピンと来てしまうようになった。

バシュバーザから始まり……。ノルティヤ、ピガロ、ローセルウィ。

大体共通する。何故か無根拠に自分が特別だと決めつけ、周囲を見下すような目の濁り。

「父上、倒れられたのならすぐ私にお知らせください」

男はズカズカと室内に進み入る。

「アナタの去就ですぐさま私は行動を始めなければならんのです。私だけではない。アナタが去ることを今か今かと待ちわびている者どもは大勢いる。そんなヤツらを出し抜くためにも一番近しい身内の私に、真っ先に情報を渡すのが父の情愛と言えますまいか」

「見舞って最初の言葉がそれとは、随分な孝行息子じゃ……」

理事長さん、疲れ切ったため息を漏らす。

「見たか孫娘婿よ。これが形式上、ワシの正統な後継者じゃ。それがこのようなボンクラで、どうして後を託して退けよう。このままではワシの引退と共に一族は没落する。それだけは何としても避けねば」

「何をおっしゃる父上」

男が色をなして言う。

「このガンドミラフ。アナタの息子として、充分に己を鍛え上げてきたつもりです。心身ともに明哲で、今すぐにでもセンターギルド理事会を牛耳ることができると自負しています」

「その見通しの甘さが不安じゃと言うておる」

理事長さんがベッドの上で弱々しく見えるのは、病のせいだけではないようだ。

この後継者が引き継ぐ未来に不安を感じ、心がやせ細っているに違いない。

「で、この人は……?」

俺が説明を求めるのに心底うんざりした様子を見せながら理事長さんは言った。

「これはガンドミラフと言って我が息子の一人じゃ」

「息子……?」

まあ、理事長さんもこの御歳だ。

いい大人の息子がいたところで何の不思議もない。

ましていい年の子どもが二人や三人いたところで……。

「あッ」

そういえばお義母さん……マリーカの母親も理事長さんの娘だった。

かような縁があるからこそ俺も理事長さんの見舞いに訪れたのだし、つまり目の前のこの男は、我が姑と兄妹ということになるのか?

「ワシには非嫡子も含めて十人近くの子がおるがな。何故か皆ワシのことを見限って絶縁状態なんじゃよ」

「それはアナタの日頃の行いからでは?」

ウチのお義母さんもそうだしな。

あの人が特別厳しいわけじゃなかったのか。

「さらに悪いことに、我が下にたった一人残ったのがコイツじゃ。家族に見捨てられてまで築き上げてきた財と権力が、ボンクラの二代目に食い潰されるのが目に見えておる。これも天がワシに与えた罰なのかのう?」

弱気になっている。

老齢に加えて、病気で体も弱ったらそりゃ気力も衰えるか。

「ご安心ください父上! アナタの遺産はすべてこの私が引き継ぎ、さらに大きくしてみせます! 未来のことはすべて私に任せてゆっくりお休みください!」

「さっさと死ね、みたいな口ぶりに聞こえるのう」

たしかにな。

全力をもって権力を志向し、走り続けた末に……。

残るのは遺産を狙うだけのさもしい親族のみ。

これが権力者の晩年なのかと思うと哀れに思えてくるな。

「そこでお前の出番というわけじゃダリエル殿」

「俺ですか」

「たしかにワシは、権力を得るために数々の無茶をしてきた。その報いで家族から愛想を尽かされ、最期に独りで朽ちていくのも致し方ないこと」

潔く受け入れると。

「しかしだからこそ、家族を失ってまで築いてきた権力がワシの死と共に崩れ去るのは忍びない! この権力を継いでくれる者が必要なのじゃ! それをお前に頼みたい!」

「嫌ですー」

権力は魔物。

知らないうちに人を狂わせる。

それを俺だって知っているからできる限り近づきたくないのだ。

「御安心なさいませ父上」

傍若無人に割って入る中年男。

「父上の権力は、このガンドミラフが見事に受け継いで見せます! ですので今すぐにでも本任期を最後にギルド理事を引退すると表明ください! そして後任には私を指名なされますよう!」

「父親の体調不全を出世のチャンスとしか捉えておらんわ」

さすがになんだか理事長さんが哀れになってきた。

俺はああはなるまい。死ぬとしても皆から惜しまれて世を去るために日ごろから思いやりを掛けて生きるとしよう。

「バカ息子よ、言っておくがお前ごときを我が後継者に定めることは絶対にない。どうしても立身出世がしたいならみずからの力で行うがいいわ」

「何をおっしゃる!? 父上の志、父上の権力を引き継げるのは私しかいません! 私はアナタの血を受け継ぐ実子、しかも長男なのですよ」

「ホントそれが忌々しいわ」

しかしセンターギルド理事は世襲制ではない。実態はどうあれ、形式的には指名と多数決で決められるとのこと。

まあ、その投票を得るために財力とかコネが必要になるんだろうけど……。

「お前にワシの権力基盤を継がせるぐらいなら、サルに継がせた方ならまだマシじゃわ。無論サルよりマシな後継者が他にゴロゴロおるがな」

「父上、そう我がままをおっしゃられず……!」

「とりあえず、ワシの後継者第一候補は、ここにいるダリエルじゃ。お前もワシの息子なら、父の決定に従い彼を盛り立てよ」

「何ッ!?」

ここでやっと男の視線が俺に向いた。

それまでは眼中にもないといった感じで、背景の一部に過ぎなかったんだろうな。

「誰ですかコイツは!? 長男である私を差し置いて、こんな若造を後継者になど、父上は乱心めされたか!?」

「お前を後継者にする方が乱心じゃわい。聞いておらんか? お前の妹のエリーカ。その娘を嫁に貰ったのがこのダリエルじゃ」

「ん? 何……?」

「ラクス村という遠い村で長を務めておる。そういえばわかるか?」

「ラクス村ッ? ……ああッ!?」

そこでやっと思い当たったらしい。

俺としては巻き込まれるのが面倒なので思い当たってほしくなかったが。

「ラクス村といえばミスリル製品を生産流通させ、巨万の富を生み出している村ではないですか!? 最近急に羽振りがよくなったという!?」

「そういう覚え方しかできないんじゃな、お前は?」

「何とあそこに我が親族が関わっていたとは! ……それはいい、お前!」

なんか呼ばれた。

「私はガンドミラフ! ゆくゆくは父の跡を継ぎ、センターギルド理事長となるべき者だ! お前も我が一族に連なるなら全力で私をサポートし、権力の頂に押し上げるがいい!!」

「何言ってるんです?」

「よし、まずは資金調達だな。お前のところのミスリル売り上げの五割をこちらに回せ! その金をバラまけば理事就任どころか理事長まで一足飛びだ! それからミスリル売買の顧客リストを見せてもらおう。その中から有力者をピックアップして、協力を約束させる! 協力しないなら今後ミスリル製品は売ってやらないと脅してやれ! フハハハハハ! 私にも運が向いてきたな、センターギルド理事就任を目前にこんな使える手駒が手に入るとは! 天が私に頂点に立てと言っているのだ! ぐぶふぉぉッ!?」

殴った。

俺の拳がガンドミラフさんとやらの顔面にめり込む。

「ぐぼえッ!? 何!? 何!? おぎぇやあああああッ!?」

そして首根っこを掴み、部屋の隅までズルズル引きずってのち窓から投げ捨てた。

ここ二階だけど、別にかまわんか。

下方から色々崩れる音と、悲鳴が聞こえてきたが別にかまわん。

「そういえばお前はアランツィルの息子でもあったの。手の早さは父親譲りじゃ」

息子に行われた暴虐も特に気にも留めず、理事長さんはニッコリ笑った。

「あの手のクズに言葉なんか届かないと経験から学習してますんで。しかし大変ですね理事長。あんなのが長男なんて」

「じゃろう? ワシだってあんなのを後継者に立てるなど死んでもゴメンじゃが、この分だと十中八九ヤツが遺産を継承する。何のかんの言って長男の立場は強いからの」

たしかに。

「そうなればお前たちにとっても由々しき事態じゃぞ? ヤツにとって、自族にまつわるものすべては自分に役立つ道具でしかない。お前の村など体のいい金の生る木としか思うまいよ。ことあるごとにたかりに来るぞ?」

それは困るな。

今ならばグーパンで黙らせることも容易いが、ゆくゆく理事長さんが退いた後釜につき、センターギルド理事としての権力を振るうことになったら厄介極まりない。

「さすがに理事を殴ったらセンターギルドそのものへの反抗になっちゃうしなあ。それは何かと面倒そうだ」

「お前がこれからも健やかに自村を運営していくには、ガンドミラフがどうしても邪魔ということじゃ。さあどうする?」

暗殺する?

という考えもよぎったがさすがに物騒すぎるか。

理事長さんとしてはヤツに代わって俺が後釜になるということを狙っているんだろうが、俺だってそんな面倒な役割引き受けたくない。

さすればどうするのが最善かと言えば……。

俺でもない、バカ長男でもない。

理事長さんのあとを担って安心して任せられる、たしかな人物を見つけてくることだな。