軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

253  新四天王、集結する(魔族side)

ラクス村から遠く離れた各所でも五年間の変化はあった。

これからはその一部を見ていくこととしよう。

まずは魔族側から。

不覚にも自陣奥深くまで勇者に切り込まれ、魔王との直接対決を許してしまった。

それは魔王軍全体を揺るがす大失態。勇者の進軍から魔王を守ることが魔王軍の第一責務であれば。

それを果たせなかった魔王軍は存在する価値などなかった。

特に対勇者の役割が強い四天王においては。

即座に現四天王は解体。

精鋭を選び直し、新たな四天王が組織し直された。

新四天王の顔触れは以下の通り……。

『弱火』のゲルズ

『微風』のシルトケ

『隘地』のメリス

そして……。

「皆、ごきげんよう」

その男が、会議室の首座に座っていた。

「私が新四天王の一人、『濁水』のベゼリアだ。よろしく頼む」

相手を舐めきったような不敵な笑み。

そうでなくとも嫌悪を感じさせる醜い顔は、ただ黙って佇むだけでさえ他人の好意を遠ざける。

新たに選び直された四天王はいずれも年若く、溌剌さに満ち溢れた青少年ばかりだった。

ベゼリアだけが違う。

もはや中年に差し掛かろうとする風合いで、肌も色艶を失い、とにかくこの四人の中ではひたすらに浮いていた。

「知っての通り私は、前体制から四天王を務めている。実戦経験も若いキミらよりは多少豊富なつもりだ。よってこのたび魔王様から『四天王筆頭』の号を併せて賜り、キミたちを率いることとなる。そこも含めてよろしく頼む」

納得いかない。

ベゼリア以外の新四天王は、さすがに言葉には出さずとも表情にはありありと不満を浮かべていた。

いずれも二十歳か、そこまでにも達していない若者たちである。

子どもであると言ってもいい。

前体制のバシュバーザたちですら『若すぎるのではないか?』と言われたぐらいなのに。それよりなおも若い。

新四天王『弱火』のゲルズは、魔王軍の少年士官だったものを突如抜擢された。

貴族階級の生まれて一応エリートコースには乗っていたものの、それでも今回の四天王位入りは常識外れであり、青天の霹靂と言ってよかった。

今なお内心の戸惑いを消しきれない。

「……一つ、聞いていいですか?」

そのベルズが、年長者であるベゼリアへ挑む。

「何かな? 我々はこれから力を合わせ、またさらに侵攻してくるだろう人間の勇者を防がなければならない。円滑な連携を組むためにも互いを理解し合うことは大切だからどんどん質問したまえ?」

「それが納得いきません」

若いゲルズは歯に衣着せない。

「アナタが我々と共に戦うということ自体が」

「なんだい? オジサンは仲間外れにしろと言うのかい? 悲しいねえ。そういうつれない考えはキミ自身がオジサンになった時に返ってくるよ?」

「年齢は関係ありません! オレたちが問題にしているのは、アナタが前任の四天王だということです」

「キミたち?」

ベゼリアの爬虫類めいた眼が左右を見渡す。

その目に生理的嫌悪を覚える二人の乙女。

『微風』のシルトケに『隘地』のメリスは、それぞれ高い資質を嘱望された才媛であった。

無論『のちは四天王か?』という期待もないではなかったが、それでも若く、あまりに早すぎる大抜擢に戸惑を抑えきれない。

「わ……、私は前任の四天王であり、賢明なる『沃地』のドロイエ様を尊敬しておりました……!」

今現在、地の四天王に就くメリスが言う。

いまだあどけなさの残る少女の表情。実際にまだ十代を終えていないに違いなかった。

「いえ、今でも尊敬しております。そのドロイエ様ですら勇者を止められなかった。失態だと、その責任を取って職を辞されました」

「それなのに、同じ前任四天王であるアナタが何故まだいるんですの!? 一人だけしがみついて見苦しいんですのよ!」

さらに『微風』の称号を与えられたシルトケが言う。

ゲルズ、メリスに負けず劣らず若々しい。少女の稚気をまったく洗い流せていなかった。

「ふむふむ……、そんなことか?」

そんな中だから、ベゼリアの落ち着いた口調がいかにも大人の余裕のように伝わってくる。

「なら答えは簡単だ。先の勇者襲撃がいかにして起きたか、キミたちも知っているだろう?」

「は、はい……!? 実に面妖な顛末だったとか?」

実のところ魔王軍は、現段階でもなお勇者レーディがどうやって魔王城にたどり着いたか、正確に把握していない。

彼らの注意は正面に向いていた。

再建途中のラスパーダ要塞に。

建設作業中は、共に戦闘行為をやめるという協定が本当に結ばれ、一旦は平穏が続くと思われたあの時期。

それでも敵を完全に信用するのは危ういと魔王軍は、相応の兵力を要塞再建予定地まで進めた。

その指揮を執っていたのがベゼリアである。

しかし異変は遥か後方で突如起き、どこからか侵入してきた勇者レーディに魔王軍の対処は遅れ、何もできなかった。

ただ二人、前任四天王であった『華風』ゼビアンテスと『沃地』のドロイエを除いて。

「彼女らはどうしてか、勇者の後方潜入に気づいたようだ。表の仕事をすべて私に押し付けて何をしていたんだか? そして勇者を阻むために戦い、敗れた」

「…………!?」

「当然だろう、でないと勇者は魔王様まで辿りつけないからね。無様に敗北した二人は、責任取って四天王を解任。そして私だけが残った。理に適っているだろう?」

全然理に適ってない。

と若い三人は揃って思うに違いなかった。

たしかに四天王は負けることを許されない。その誓約に堪えられなかった者は潔く、その座から退くべきだろう。

ゼビアンテス、ドロイエは戦って負けたから罪があり。

ベゼリアは戦わなかったので罪なし。

ということで今回の明暗が分かれたというなら、それはやっぱりおかしい。

たしかに戦闘者にとって敗北は許しがたいことだ。

だからと言って敗北よりも戦わないことがマシということになるのだろうか。

それでは誰も負けることを恐れて戦わなくなってしまう。

そもそも勇者の侵入に気づいて対処することのできたゼビアンテス、ドロイエよりも気づけなかったベゼリアの方が有能だというのか。

本当に残るべきはどちらだったのか。

しかしこれ以上の物言いは叶わなかった。

四天王の人事は、魔王みずから決めるのだから。

「それぞれ思うところはあるだろうが仲良くやっていこうよ。キミたちとなら私は、力を充分に発揮してこれまで以上に働けると信じているよ」

その言葉が本意かどうかも判断つかず、若者たちは押し黙る。

「思えば、前任の四天王たちは散々だったからねえ。バシュバーザはサボりにサボった末、知らないうちに死んじゃったし。あのお陰で周りからの評価も散々になったよ。発足当時は新進気鋭なんて持ち上げてたくせにさ」

ベゼリアが浮かべる笑みは、何を意味しているのか読み取れずにただただ不気味だった。

「所詮、自分の発言に責任を持てないヤツが掌をクルクル回すのさ。そういう雑音に惑わされず、諸君も伸び伸びやってくれたまえ」

「では筆頭、これからの方針を窺いたいんですが?」

ゲルズがさらに果敢に問いかける。

「ふむ、方針ねえ。我々のすべきことは常に一つ。勇者の凶刃から魔王様をお守りすることだ」

『それが本当にできていたのかアンタは?』

というツッコミを我慢する若者たち。

「しかし、先の勇者が叩き潰されてまだ間もない。人間どもとてそう迅速に後釜を用意することはできない。しばらく余裕があるだろう」

「そんな悠長なことを言っているからアナタ方は……ッ!!」

「だから余裕があるうちに……」

ゲルズの抗議を遮って、ベゼリア言う。

「謎を解き明かしておきたい。勇者がどうやって我々にまったく知られることなく、魔王様の御前まで辿りつくことができたのか? 一体どこを通ってネズミのごとく侵入してきたのか?」

「それは……!?」

「これを明らかにしない限り、どんな強固な防備も無意味だ。次の代の勇者が、同じ抜け穴を通って魔王様を襲わないとも限らないしね」

それを聞く三人は、意外にも正論を吐くものだなとベゼリアを見直した。

この四天王、『濁水』の称号の通りまったく奥底が見通せない。

「で、では、我々がこれからすべきは勇者の侵入経路を解明し、潰すこと?」

「そうだね。でなければバカ正直にラスパーダ要塞を守ったところで無意味なことさ。そして私は……」

次のベゼリアの言葉が、若手四天王たちをさらに驚かせることになる。

「勇者がどこを通ってきたか、大体の目星はついている。それゆえにまずは奪還しようじゃないか、ミスリル鉱山をね」