軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

250 ダリエル、五年後の村を視察する(二)

「しかし、ダリエルくんの強さをまったく知らない若手もいるんだなあ。何やら不思議に感じるよ」

お義父さんしみじみ言う。

俺がまともに戦ったのは五年前のインフェルノ戦が最後で、そのあとロクに戦ったことがない。

あれ以降村にやってきた若者もけっこうな数いるから、それらの子は俺が戦えること自体知らなくてもしょうがないだろう。

「というか、余所の町村からウチにやってくる若者がいるということ自体に驚きだよ。昔はウチから余所に出稼ぎに行っていたというのに……!」

それも村が発展したお陰ですよね。

仕事がいくらでもあるから周囲の町村より若者が働きに来る。

特に冒険者というのは無頼の職業なので、流れ者が多勢だ。

ガシタのように一ヶ所に留まり続ける冒険者がむしろ稀で、五年前のインフェルノ戦を経験した冒険者も、引退したり別の街に移ったりして残っているものは三割程度。

それでも、あとからあとから人員が増えていってラクス村冒険者ギルドの規模は過去最高となっている。

「正直ワシ一人で捌ききれるのか? って数にはなってるけどね。そこはガシタとゼスターくんが協力してくれて何とか凌げているよ」

とお義父さん。

レーディの勇者パーティが解散してから、その一人であったゼスターはラクス村に居つくようになった。

元々彼自身勇者に選ばれたこともあるA級冒険者。

ゆえに今ラクス村にはガシタとゼスター二人のA級冒険者がいてギルドのツートップを担っている。

「そういえば今日はゼスターの姿が見えませんね」

「クエストに出ているよ。彼は本当に働き者で助かる」

まあ、冒険者といえばクエストだからな。

ただガシタの方は、本日の採取クエストは中止して新人指導に精魂込めるようだ。

生意気言った彼だけでなく、多くの年若い少年冒険者たちが巻き添えを食っている。

「哀れな……!?」

「しかしああしてベテランが指導してくれるのは助かるよ。若手の生還率が大きく変わってくるからなあ」

ガシタはああ見えて面倒見がいいから、ヤツに新人を任せておけばまあ大丈夫であろう。

訓練のためのスペースも、新ギルド支部は充実している。

何せ三階建てだからな。

かつてセンターギルドにあって度肝を抜かれた屋根付き修練場も今はある。

その他、医療ルームや会議室、過去のモンスターの動向やクエスト記録を蓄積した資料室、仮眠部屋、託児ルームなどなど様々な設備を完備したのが、五年間を経たラクス村の冒険者ギルドなのであった。

「本当によくここまできたもんだ……」

「まったく……、夢にも思わなかったよ」

俺とお義父さんで二人して涙した。

冒険者は町村を守る防壁。

ラクス村が栄えられるかどうかは冒険者たちの量質いかんにかかっている。

幸い村の発展に誘われて多くの冒険者たちが仕事を求めて集まってきた。

ガシタやゼスターと、世界最強クラスの使い手もいる。

しかし彼らだけに留まらず我が村のギルドは粒に恵まれていた。

「おはようございまーす」

「まーす」

そう言ってギルドに顔を出したのはリューベケ、サリーカの兄妹。

俺の義理の弟妹たちでもある。

我が妻マリーカの血を分けた兄妹なれば。

「おう、おはよう。キミらも勢が出るね」

「村長! おはようございます!!」

俺の姿を見つけて一際元気に挨拶を繰り返す。

彼らはラクス村の生まれなので生え抜きというべきだが、しかしそんなに存在感はない。

若い頃、衰退するラクス村に見切りをつけて出ていってしまったからだ。

そして都会で一旗揚げんと画策するも、その間にラクス村が復興。それに釣られて出戻ってきた。

いまだラクス村での立場は弱いが、それでも冒険者ギルドに勤め続けて貢献してくれている。

そろそろ、ちゃんとした村の一員として迎えてくれてもいいんじゃないかと思うんだが、ウチの嫁さんやお義母さんがまだまだ許してくれなくて外様状態。

生家であるはずの俺の家(婿入り家)にも入る許可すらもらえず、近くの借家で寝起きしている。

「本当に頼りになるんだがなコイツらは」

「ガシタやゼスターくんに及ばずともB級冒険者だからな。タフなクエストを任せるには打ってつけだ」

一つのギルドに対して所属人数制限のあるA級冒険者。

それよりも、より多数擁することができて臨機応変なB級冒険者を数十人抱えている方が優良ギルドだという主張もある。

だからこそ煌びやかなA級ばかりに目を奪われず、B級C級、いやいずれ成長するDE級にも細やかに気を配らなければ。

「特に彼らは村長&ギルマスの親族だから信頼度も高い。大事にしていかないと」

「ワシもそうしたいのはやまやまだが、いまだに家内がコイツらのこと許してくれなてねー」

もう五年も経つのに……。

村を捨てて出ていった罪はいまだに重いということか。

裏切り者に厳しい。

「いえ、それでいいんです」

次男に当たるリューベケくんが言った。

「オレたちは、自分たちが生まれたこの村が大好きです。だから貢献したい。そうするのに立場は関係ありません!」

「お母さんやお姉ちゃんもいつかきっとわかってくれます!」

末っ子サリーカも懸命だ。

彼らの純真さが通じて、いつか和解の時が来ればいいんだが……。

「まあ問題はあるよな……」

彼ら二人と共にギルドに入ってきた、もう一人。

これが問題だった。

「やけに沈んでいるな……!?」

彼らは通常三人一組で動いている。

次男リューベケ、末妹サリーカ。

そしてこの二人を率いる長男スタンビルであった。

彼らにウチの妻マリーカを加えて四兄妹になるんだが、マリーカ以外の三人が故郷を捨てて出ていったのに対し、マリーカだけは村に留まり続けた。

三人と一人に圧倒的な違いができた。

「スタンビルはまだ落ち込んでるのか?」

ギルドまで来て重いため息を吐くアイツに、俺も少々辟易する。

「昇級試験はもう二ヶ月も前だぞ? よくそんなに落ち込んでいられるな?」

「今年こそ……、今年こそ合格できると思ったんだ……!!」

二ヶ月前にスタンビルが受けたのはセンターギルドで行われるA級冒険者昇格試験だった。

この五年間コイツは毎年欠かさず挑戦しているが、いまだに合格できていない。

今年も彼はB級だ。

「A級に合格さえできれば母さんもオレを許して、正式な村の一員に加えてくれるのに……!」

「それはどうだろうね」

キミらに対してだけは鬼のように厳しいお義母さん。

別に本人から『A級になれたら許す』と言われたわけじゃないんだし、思い込みはトラブルの元だぞ。

「いいや、オレはどうしても許してもらわねば……! そして正式にこの村の一員に戻らなければならない……!」

「スタンビル……! そこまで……!?」

郷土愛に溢れているということか。

二ヶ月も落ち込んで未練たらしいと思ったが、それも故郷を愛する心から出ていると思えば感動をもって受け止められるな。

「正式に村の一員に戻れれば……、戻れればオレが村長になれるのに!?」

「おいコラ」

やっぱコイツダメだった。

どうしようもない野心の塊だ。

そういえば最初に村を出てった時もコイツが率先して弟妹を言いくるめたと聞くし……。

「いや不自然じゃないだろう!? オレは前村長の息子! しかも長男だ! あとを継ぐ資格は充分にある!」

「いやそれ以前の問題がね?」

「さらに言えばオヤジは現役でラクス村のギルドマスターだ! つまりオレにはギルマスを継ぐ権利もあるということ!!」

「ワシ引退したら、後継はガシタを任命しようと思てるんだけど?」

俺もそれがいいと思います。

そして村長の座には既に俺がいる。

権力に執着するつもりはないが、さすがにお前なんぞに村の行く末を委ねる気にはなれんわ。

「俺は少なくとも、あと二十年は村長を続けるからな。過ぎた欲は持つな」

「またまたそんなことを言って……!? アンタにだって人生プランがあるんだろう」

何だすり寄ってきて気持ち悪い。

俺の人生プランは死ぬまでここラクス村で穏やかに過ごすことなんだ。

「たった十年足らずで死にかけの村を大繁栄させた。そんなアンタがここで止まるわけがない。ゆくゆくは豊かなこの村を足掛かりに、中央へ打って出るつもりなんだろう?」

「はあ?」

「まずはセンターギルド理事、ゆくゆくは理事長の座だって夢じゃない! お前の才覚をもってすれば! しかしその際にはどうしても村長の席が空いてしまうだろう? それをお前の義兄である、このオレが! 担おうというんだ! 全力でバックアップしてやるから安心しろ!」

なんか盛大な勘違いをしているようだから、あとでマリーカとお義母さんに言いつけておこう。

やはり権力財力は魔物だな。大きくなるごとによからぬものが集まってくる。

今までもそうだったが、これからはより一層気を引き締めていかなければ。