軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

249 ダリエル、五年後の村を視察する(一)

家で朝食をとった俺は、仕事に出かけた。

今日の職務は宣言通り、村の各施設の様子を見ることだ。

ここ五年間で相応に大きくなったラクス村だから、こまめに見回っておかないと事件につながりかねない。

ということでまず訪問したのが冒険者ギルド。

俺にとっては始まりの地と呼べるのかもしれない。

ラクス村に来て初めて就いた職が冒険者であったからな。

ギルド自体もあの頃から様変わりし、随分大きな組織になった。

昨年建て直されたギルド支部は三階建てになって、近隣の街村と比べても負けない豪華さとなっている。

そんな豪華な建物のドアを開け、俺は中へ入った。

「こんちゃーっす」

「ダリエルくん! よく来たね!」

とギルドマスターがみずからで迎えてくれた。

俺の舅でもある人だ。

よってついさっきの朝食も卓を囲んで一緒に食べたのだが……。

これをやりたいがために俺より先に出てダッシュしたようだ。

「そんな無理をしなくてもいいでしょうに……」

「そういうわけにはいかんさ。今やキミは、ラクス村を過去最高にまで栄えさせた偉才だ! ワシもキミのような人を息子にできて非常に誇らしい」

俺の方こそ。

アナタとマリーカが迎え入れてくださらなかったら俺はどこぞで野垂れ死にしていたに違いない。

そんなアナタたちへのささやかな恩返しなのですよ。

「思えばこのギルドも大きくなったものだよ。昔はワシが村長とギルマスを兼任して、自宅を事務所代わりにしておったなんてウソのようだ」

そうでしたねえ、最初は。

村が小さなころは、色々な物事も小さく簡素だったから、お義父さんが村長と冒険者ギルドマスターを兼任していて充分事足りたんだ。

そのうち村が大きくなって、いろんな職務が複雑膨大になっていくにつれて俺が村長を引き継ぎ、お義父さんはギルドマスター一本に専念するようになった。

若き日は冒険者だったというから、その方が性に合っているのだろう。

もはや年齢も六十に達し、多くの孫に囲まれながらもいまだ精強で働き盛り。

「まあ、ウチの冒険者たちにも声をかけてやってくれよ。村長といえば憧れの的だからきっと皆喜ぶぞ!」

「そんなそんな」

俺なぞ、新進気鋭の冒険者たちにとってはただのオッサンにすぎませんよ。

村長なんて大体そんな役どころでしょう?

事件を持ってくるだけの存在というか。

「最低一人は喜ぶヤツがおるだろう、ほらあそこ」

お義父さんが指さす先にいるのは、もはや強者の貫禄がたっぷりついた逞しきベテラン。

しかしその顔は、俺がラクス村に来た時からずっとあり続ける馴染のものだった。

「……アニキじゃないっすか!?」

俺の姿に気づき、屈強なベテラン冒険者が駆け寄ってきた。

彼の名はガシタ。

名実共にラクス村の最強冒険者だった。

随分前に冒険者の最上位階であるA級を取り、その実力は世界有数であること疑いない。

一対一で彼とやり合って勝てる者は、もはやそうそういないだろう。

「何事っすか!? 視察っすか? 村長の仕事は大変っすねえ……!」

「キミら冒険者の仕事と比べたらそうでもないよ」

彼らのクエストは常に危険と隣り合わせだからな。

「あるいは冒険者に復帰っすか!? アニキが戻ったらオレらの仕事がなくなっちまいますよ」

「いやいや……!?」

もうすぐ四十になろうという俺じゃ冒険者の仕事はもう無理だよ。

体が資本だからな。

「ガシタこそ調子はどうだい? 子どもは元気?」

「おかげさまで! アニキの奥さんが気ぃ利かせて毎日栄養のあるもの届けてくれるんすよ! それで母子ともに健康っすよ!」

ガシタも、この五年間で身を固め、結婚して家庭を持った。

昨年には女の子が生まれ、コイツ自身人生順風満帆といった感じだな。

結婚相手は引退したA級冒険者ということで、生まれた子どもに才能の塊を感じさせる。

「だったら、より頑張って稼いでいかないといけないなあ。ガシタ今日はどんなクエストやるの?」

「薬草採取っす!」

…………。

あの、ガシタさん?

アナタ仮にもA級冒険者なんだから、そろそろ採取クエストは卒業してはいかがでしょうか?

「さすがにお前が当たるべき高難易度クエストが他に目白押しだろう?」

「いやいや、どんなに偉くなっても強くなっても、初心を忘れたらダメなんすよ! オレの初心は採取クエストに詰め込まれています! 忘れてはならない教訓も! だからオレは、これからもいつまでも定期的に採取クエストを受ける男になるんす!」

その心持ちは立派だと思うが……。

遥か昔のガシタは、薬草採取などザコがするクエストで自分には相応しくないと突っぱねていたものだった。

当時の彼は、まさに若気と高慢の塊。

そんな自分を恥じ、二度と同じ過ちを繰り返すまいと定期的に採取クエストを受けてかつての気持ちを忘れまいとする。

直向きな男になったものだ。

「……ケッ、最強冒険者だって聞いたから、どんな凄えヤツかと期待してみればよお……!」

ん? なんだ?

少年めいた生意気盛りな声?

「チマチマ採取クエストなんかに精出すヘタレやろうとはよ? そんなに採取がしたきゃA級返上してD級でもやってりゃいいだろうって、なぁ?」

見てみると、ギルド内に屯している冒険者の中に、一際生意気そうな年若い冒険者がいた。

ラクス村のギルドも相当大きくなったから、支部には常に二~三十人の冒険者が詰めるようになっている。

村長の俺が来たために皆玄関先へ集まってきたらしいが、生意気小僧はその中の一人。

「お、おい、いいのかガシタ? 滅茶苦茶言われているけど?」

「六年前のオレが、そのまま目の前にいますよ……!」

身の程知らずにも噛みついてくる新人を、ガシタはむしろベテランのおおらかさで慈しむように眺める。

「アイツもまた若いゆえに視野が狭いだけなんすよ。いずれ嫌でも目が開きます。それまで最低限死なないようにフォローしてやるのが先輩冒険者の役目でしょう?」

ガシタの口から、こんなに余裕溢れるセリフが出てこようとは……!?

そうだな彼ももうこのギルドでナンバーワンなんだから、後輩の育成とかにも考えを巡らせなければいけない立場なんだよな!?

かつては俺もまた彼にそうしてきたが。

自分の務めた役割を、今は後輩が変わって務めているという事実に感涙が誘われる。

しかし生意気な新人冒険者は、そんなオッサンたちの感動など知る由もない。

「大体村長ってヤツもウゼェよな、事あるごとに押しかけやがって。アイツ冒険者ギルドが自分の支配下だとでも思ってんのか?」

難癖の矛先が、俺にまで向いてくる。

近くにいる他の冒険者が窘めるように言う。

「で、でもあの村長も昔は冒険者だったらしいぜ? きっとその関係で親近感もって遊びに来てくれるんだよ」

「昔ってことはリタイヤ組だろ? ケッ、中途半端な気分で冒険者目指してんじゃねえよ。途中で辞めるぐらいなら死ねってんだ。オレは違うぜ、冒険者極めるのに命賭けてるからよ。A級冒険者になれねえなら死ぬ覚悟だぜ!」

若者らしい軽はずみなセリフの目白押し。

「あのオッサンも、オレの十分の一でも覚悟があれば、もう少し立派な冒険者になれただろうによ。所詮村長なんてドロップアウトしたヤツの逃げ道職業だろ? そんなヤツがヘラヘラ冒険者ギルドに顔出してんじゃねえよ見苦しい。……ぐおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!?」

生意気少年を、飛翔する矢が襲った。

しかも一本ではない、数十、いや数百本。

少年本人を射抜くことはなかったが、そのスレスレのところを飛び去って背後の壁に突き刺さる。

壁に、少年のシルエットをまんま写し取った矢の線画が出来上がっていた。

「……お前今なんつった?」

狼ですら怯えるほどに底冷えした、殺気ある声が響き渡る。

A級冒険者になったガシタはもう、一般人なら声だけでビビって失禁させることもできる。

「オレを貶すのはまだいいぜ。ギルドのトップたる者、無責任な中傷を受けるのも仕事のうちだ。でもなあ、アニキを侮辱することだけは許せねえ! 後悔しながら死に晒せやあああ!!」

「わああああッ!! 待ってガシタ落ち着いて!!」

慌てて止める俺。

ギルドマスターであるお義父さんにも手伝ってほしかったが『村長への暴言を取り締まるのは当然』と言って動いてくれなかった。

A級冒険者となったガシタは、スティング(突)オーラを凝縮させて、それのみで即席の矢を作り出すことができるようになっていた。

お陰で残弾無限で長時間、横殴りの矢の雨を降らせることが可能。

その矢の雨に一日中追い立てられ続けた生意気少年はその夜のうちにギルドを脱走し、故郷に帰ってしまったという。