軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

24 スミスじいさん、謀る

鍛冶師スミスさんとやらを村長宅にお迎えして、話を続ける。

なんだこの展開は?

一体どこへ進むというのだ?

「鍛冶師スミスと言えば……」

聞かれてもいないのに本人が率先して言う。

「声望轟き渡る伝説の名工のはずなんじゃがのう。お前ら知らんか?」

「知りません」「存じません」

俺もマリーカも並んで畏まる。

しかし自分で自分を名工と言っちゃうのはどうなの?

当人の話によると、スミスさんは人間族でも最高峰の鍛冶師。

このたびミスリル鉱山が奪還されたことを受け、センターギルドから要請を受けたらしい。

近隣にミスリル専用の鍛冶場を再開するので、人員を寄越してほしいと。

「やっぱり上の方が動いてるんじゃないか……」

それをキャンベル街のギルドは先走って。

後々問題になりそう。

「正直ワシの生きてる間にミスリル鉱山が戻ってくるとは思わんでの。嬉しさ半分疑い半分で下見に来たんじゃ」

そして現地到着して真っ先にマリーカと遭遇。

あまりにいいおっぱいなので触ろうとしたら絞められたという。

何故そうなる?

「なんで嬉しさと疑いが半分こなんです?」

マリーカがまずそこを聞いた。

「そうじゃな。まず『ホントにミスリル鉱山取り戻したの?』と疑ったんじゃ」

数十年前、人間族が魔族から鉱山を奪われて以来何度も奪還クエストを講じてきたが、結局一度も成功しなかった。

鉱物の卸しが生活に直結する鍛冶師にとって、期待を何度も裏切られて、信じる気持ちも失せたという。

「特に最近は、奪還クエストを進行している噂すら聞かんかったからのう。いきなり『奪還した』という結果だけ聞かされても俄かに信じ難いわ」

鉱山を人間族の手に取り戻した張本人としては、忸怩たる感じ。

すみません。

俺の行き当たりばったりな行動で振り回してしまって……。

「残り半分の嬉しさは、そりゃ鍛冶師としてはな。また生きてミスリルに触れられるとなれば喜ぶわい」

「生きて? また?」

「このワシのジジイっぷりを見よ。お前さんらが生まれる前から一人前の鍛冶師だったってことじゃ。それこそ、ミスリルが人間族に出回っておった頃からな」

ミスリル鉱山は、時期によって人間族と魔族の間を行き交ってきた。

数十年前までは人間族の支配下にあり、魔族に奪われ、そして長い期間を経てつい最近人間族に戻ってきた。

その数十年の時間を体験している者は今や少ないのではないか。

「実はワシは、若かった頃この村におってな。毎日鍛冶場でミスリルを鍛えておったよ」

「マジですか!?」

「ラクス村はまさにワシにとって青春の舞台。それを思い出すと余計に懐かしくてな」

居ても立ってもいられずに村に訪れたという。

「ワシもこの歳だから引退の身。日夜仕事に追われる息子や弟子たちよりは動きやすいと思ってな。……という体でやってきた」

呵々と笑うおじいさん。

矍鑠としている。この元気ぶりならまだまだ現役だろうが……。

「で、どうなんじゃい?」

鍛冶師スミスさんは、改まって聞いてきた。

「ここでまたミスリルを打つことはできるのか?」

「はい、もちろん……!」

気軽に言っていいのかどうか迷ったが、ここまで強烈な職人気質を見せられては抗しようがない。

あとでギルド幹部さんに確認とっておけばいいか。

「なるほど、天はこの老いぼれに『働け』と言っておるのじゃな……! まだ休むな、働け、と……!」

情熱的だなあ。

「では若いの! 工房に案内せい! この名工が、匠の技を見せてしんぜよう!!」

「ダメです」

「えー?」

俺は、このおじいさんに仕方ない事情を説明した。

鍛冶場は今、キャンベル街の勢力によって牛耳られている。

そこにあとから入るのは難しいだろう。どうこうするにはギルド幹部さんに言いつけて権力を振りかざしてもらうしかない。

で、そのギルド幹部さんが今は鉱山の方に行っていて、告げ口するにも時間がかかる。

「はーん! ジジイをそんなことで止められると思ったら大間違い!」

「ええー!?」

高齢者の暴走は思いのほか激しく、俺はジジイに引きずられるばかりだった。

「……ということで、どうかお願いできませんか?」

俺はスミスのおじいさん共々、ラクス村の鍛冶場跡へと出かけた。

そこはまさにキャンベル街勢が占拠していた。

「このおじいさんが、せめて死ぬ前にミスリルに触れてみたいと言ってるんです!」

「どうか行く先短い老いぼれの最後の頼みを聞いてくだされえええ~!」

そんな風に縋られてはフィットビタンも鬼にはなれず、押し切られてしまう。

「し、仕方ないな。なら鍛冶場の隅でも使って作業したまえ」

「ありがとうございまするううう~~!!」

「村の野鍛冶か? それでもウチの鍛冶師の邪魔はしてくれるなよ。我々は本気で打ち込んでるんだから」

「へいへい……」

スミスじいさんは、驚きの演技で鍛冶場に紛れ込んでしまった。

俺もドサクサ紛れで同行する。

「なんで身分を隠すんです? 本当のことを言った方がもっとスムーズに入れたんじゃ?」

センターギルドから招かれた正規鍛冶師だと身分を明かせば。

「それじゃあつまんないじゃろ。人生はもっと面白く演出せんとな」

演出ですか。

でもイザコザはよしてくださいね村の平和が最優先なんで。

鍛冶場は、前に来た時よりずっと綺麗になっていた。

伸び放題の草とかツルとか、フィットビタンたちが頑張って掃除したのだろう。

「おお……、懐かしいなあ……!!」

鍛冶場に入ってスミスおじいさんは震えた。

「昔働いてた頃と変わらんぜ。まだ二十歳の働き盛りだった頃も、ワシはここで鎚を振るっとったんじゃ……!」

見れば作業場の中央にミスリルのインゴットが積まれてあった。

既に鉱山から少しずつ送られてきているのだろう。

「お前が使っていいのはこれだけだ」

フィットビタンがそこから、ほんの小さな一塊を投げてよこした。

「貴重なミスリルだからな。老人の手すさびに分けてやれるのは最小限しかない」

「チッ、ケチ臭い……!」

スミスじいさん小声で毒づく。

「テメエらが掘り出したわけでもねえくせに……。街の威張りん坊は相変わらずだぜ」

それでも表立った抗議をせず、分け与えられた僅かなミスリルをもって、自分の鍛冶台に向かった。

俺も無言で続く。

「やれやれ……、何もかも懐かしいなあ。この老身が二十の若造に戻ったかのようだ……!」

「何を作るんです?」

「まあ慌てるな。まずは向こうのお手並み拝見だ」

何やら口調まで若返ったかのようなスミスじいさん。

お手並み拝見というと、ここを占拠しているキャンベル街勢のことか?

フィットビタンが連れてきた多くの街鍛冶が、山と積まれたミスリルの前でウンウン唸っている。

手を動かす様子はない。

彼らもミスリルを使って何かを作るために、ここへ集まったのではないか?

なのに何故動かない?

「どうしていいかわからんのさ」

訳知り顔で言うスミスじいさん。

「ミスリルは特別な鉱物だ。オーラを定着させ迅らせる。鉄とも銅とも違う。それに見合った特別な加工の仕方がある。それを……」

……今の時代の者は知らない。

「ミスリル鉱山が奪われて数十年。市場にミスリルは枯渇し、それを扱う職人も途絶えた。ミスリルの特別な扱い方も受け継がれることなく過去に消えた」

だからキャンベル街の鍛冶師たちは、ミスリルをどう扱っていいかもわからず立ち尽くしているのか。

「鉱山を奪い返したのはギリギリのタイミングだった。ミスリル加工の技を知っているのはワシが最後の世代。ワシが死んじまったあとに取り返しても宝の持ち腐れとなっとっただろう」

話しながらスミスじいさんはテキパキ動いて、ミスリルを加工し鍛えていく。

その様に、キャンベル街の鍛冶師たちは少しずつ気づいて、注目する。

「若造、もうちょい右に立ってくれ」

「え?」

「あんな鼻持ちならない野郎どもにワシの技を勉強させたくないからな。目隠しだ」

俺の体が邪魔でスミスじいさんの鍛冶仕事が見えない。

キャンベル街鍛冶が回り込むたびに俺も位置を移されて……。

そうこうしているうちに……。

「できた!」

スミスじいさんは、あっという間に一振りの剣を拵えた。

街鍛冶は呆然とするしかなかった。