軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

248 ダリエル、貫禄が付く

五年が経った。

俺の三十代も残り僅かとなっている。

いわゆるアラフォーかといえば、完全にアラフォーと呼べるかもしれない。

しかしまだ三十代だ。

四十歳の誕生日を迎えるまで俺は断固として三十代であることを諦めない。

この五年間にあったことで、重要なことを掻い摘んで語っていこうと思う。

レーディが魔王様と対決した。

ラクス村から魔王城へと繋がるルートを開拓したのはすぐであったが、あれから実戦に備えレーディは修行の日々へと入った。

元々修行は俺の下でもしていたが、それとは毛色の違う完全に打倒魔王を念頭に置いた修行だ。

彼女にはどうやら魔王様を倒すための秘策があるらしく、よりそれをたしかなものにするための修行。

最初は『一年で仕上げる』と宣言していたものの、結局納得いく仕上がりになるまで三年がかかった。

そこから満を持して魔王城へ向かうものの、途中でドロイエが立ちはだかる。

彼女もなんやかんやと言いつつ、四天王の使命に背けなかったようだ。

これを突破するまでに一年かかった。

中継地のドライアド集落から行きつ戻りつを繰り返しての、執念の突破であった。

しかしドロイエは、阻む意志を見せても個人以上の力は注がなかったように思える。

レーディを食い止めるために魔王軍や他の四天王を動員することもせず、報告自体していなかったようだ。

おかげで魔王軍本体は再建中のラスパーダ要塞にかかりきりで『レーディ魔王城到達』の方を聞いた時全員顎が外れるほど驚いたという。

その他ドロイエは、完全に勇者支援に回ったゼビアンテスを咎めだてもしなかったし。

完全一対一の戦いは、困難を乗り越えることでレーディにさらなる地力を高める作用をもたらしたようにも見えた。

そして万難を排し、レーディはついに魔王城にたどり着いた。

魔王軍は大混乱。

前述のように裏口ルートから攻め上る勇者には誰も気づけず、知ってる人も報告しないので完全な青天の霹靂。

しかも軍主力がラスパーダ要塞再建予定地で、人間族冒険者との相互監視を行っていたため魔王城は手薄だった。

魔王城に突入したレーディは苦もなく魔王の下へとたどり着き、そして直接対決が行われたという。

その勝負の結果は……。

勇者敗北。

と世間には伝えられている。

勇者レーディは奇跡の奇襲で敵陣最奥まで到達し、魔王との直接対決へと持ち込んだ。

しかし口惜しきことにその剣閃は届かず、逆に魔王の圧倒的魔力によって焼き尽くされてしまったという。

現在巷間では勇者レーディ死亡の言説が溢れかえっている。

魔王健在にして勇者本人の所在がわからない以上はそうなるのだろう。

少なくともセンターギルドは早々にレーディ死亡の方を方々へ向けて発し、遺体不在のまま盛大な葬儀を行って、英雄の魂を幽世へ送ったことにした。

それから勇者列伝へレーディの名を書き記し、早々に過去の人にしてしまう。

でないとあとがつかえてしまうから。

センターギルドとしては、常に勇者が戦い続けるためにも一刻も早く次を用意しなければならない。

レーディが死すればまた次の勇者が選ばれ、その新しい勇者が新しい四天王を突破するにろしないにしろ、魔王様に叩き潰されて終わる。

そしてまた新しい勇者が選ばれての繰り返し。

それがこの世界の定まった形なのだろうか。この世界が正しかろうと歪んでいようと、その中を健やかに生きていくことだけが願いの矮小な俺には何も言えることがないのだが。

そう、レーディが戦いを終えたあとも俺個人の生活はそれ以前と少しの変わりもない。

ただ自分の家族と友人たちを守り、養い、育んでいくばかりだった。

我が新たな故郷と決めたラクス村も、すっかり住み慣れ名実ともに我が故郷。

最初に訪れた日からもう六年……いや七年か?

もう生まれた時からここで過ごしているような気すらする。村長としての仕事にも慣れ、あらゆることにもつつがなく対処できるようになった。

無論変化らしい変化もある。

もっとも顕著なのは子どもの成長だろうか。

長男のグランが今年で六歳になる。

もうとっくに自分で歩けるようになり、それどころか村中を駆け回ってわんぱく盛りになっていた。

「とーちゃん! とーちゃん! とーちゃん!」

今日も息子は元気いっぱい。

朝だというのにもう本調子になっている。

「とーちゃん、剣の相手してくれよ今日こそ絶対倒してやる!」

言葉も随分しっかりして、子どもながらに頼りがいが出てきた。

言ってることは多分に物騒だが。

「その年でもう父を超えようとするな。それに父さんは今日仕事だ」

昨日は休日だったが、みっちり息子に付き合わされた。

グランは誰に似たのか体を動かすのが大好きで、特に剣やら槍やら振り回すのが特に性に合っているらしい。

その腕前はもはや一端の冒険者クラスで、正式に冒険者として認可されオーラをまとうようになればさらに強くなろう。

我が息子ながら将来性がありすぎて怖い。

「えー? 父ちゃん昨日一日休んだだけじゃん。せっかくなら今日も続けて休めばいいのに」

子どもが恐ろしい理屈を提示してくる。

違うぞ?

一日休んだら次の日は働くものだぞ?

「ねーねー、父ちゃん仕事なんか休んで俺と斬り合いしようよ! 今日こそ父ちゃんに勝てそうな気がするんだ俺!」

念のために言及しておくが、斬り合いとは言っても得物は木の棒だから正確に斬り合いじゃないがな。

それでも息子に怪我させちゃいけないと手加減が大変で、仕事の時より神経を使う。

「こらグラン!」

「ぐへえッ!?」

振り下ろされるお盆が息子の頭を打つ。

マリーカだった。

我が愛妻は、もうすぐ四人の子どもの母親になるというのに、いまだ烈気が和らぐようすがない。

「お父様はこれから村に尽くすために働かれるのよ! 長男のアナタが邪魔したらいけません!」

マリーカは、右手にお盆。左腕に生まれたばかりの赤ん坊を抱え、足元には四歳の女の子がしがみついていた。

長女のセリーカ。

次男のアランであった。

我が妻が本当に立派な安産型で、休むも知らずにポコポコ産むから我が家は年を追うごとに賑やかになっていく。

現在も彼女のお腹には四人目の命が宿っていて、この世界に出でる日を今や遅しと待ちわびている。

四人も孕みながら、母マリーカはその若さにも美貌にも陰りの出る様子がない。

今日も生命力に溢れまくっていた。

「さあ、ご飯ができているからみんなで食べましょう。一日しっかり働くためには、一日の最初の朝にしっかり食べないとね」

「うむ」

村長の仕事を疎かにしないためにも腹にたんまり詰め込んでおかなければな。

「お義父さんとお義母さんは?」

「もうテーブルについていますよ」

では急ぐか、待たせちゃいかん。

「グランも好き嫌いせずにお腹いっぱい食べなさいね。そして今日も一日五体が砕け散るほどに遊んできなさい。今のアナタは遊ぶことが何よりのお勤めなんですから」

「はーい」

母親にだけは返事のしっかりした息子。

しかし息子よ。

念押ししておくが『遊ぶ』という行為には村から出て森に入り、モンスターに遭遇してボコボコに殴り倒して狩猟することは含まれないからな。

冒険者のお兄さんお姉さんの仕事を奪わないようにしてくれ。

「アナタ、今日のお勤めは?」

「とりあえず急ぎの案件がないから、あちこちの様子を見て回ろうと思う。異常があれば報告受けとかないといけないし」

「わかりました。昼食はおウチに戻ってとられますね?」

「そうだな、家で皆で食べよう。グランもちゃんとお昼に一回戻ってくるんだぞ?」

こう釘を刺しておかないと、一日かけてミスリル鉱山まで行っちゃったりするからな。

本当に油断のならない息子だ。

「わかった! じゃあお昼に斬り合いだね!」

「昼は昼休みです」

幼くエネルギーに溢れた息子はまだ休むという概念を獲得していなかった。

こんな風に今日も平和に、五年後の俺の日々は続いていく。