軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

232 ドリスメギアン、それでも戦う

アランツィルさんの凄まじきばかりの進化を見届け、最後に残ったのは残骸だった。

恐ろしい敵の、みすぼらしい残骸を。

「ごおおおおッ!? こ、お、おおおおおーーーッ!?」

ドリスメギアンのヤツはまだ泣き別れた胴と腰を繋げようと、もがきうねっている。

しかしどうにも成功しない。

アランツィルさんの秘奥義によってもはや、二つは同一でないと定義づけられてしまっているから。

「無駄だ。お前の負けはもう確定している」

この時代を代表する英雄が、二人がかりで打ちのめしたんだぞ。

その凄さを自覚して、受け入れろ。

「終わってみれば、つまらんヤツだったなお前も。所詮地獄の亡者は、頭領にいたるまで世迷いのボンクラだったということか」

「何を貴様ああああああッ!?」

俺だってコイツには相当頭にきている。

コイツの悪だくみで生活が乱されたこと幾度に亘ったか。

目の前でバシュバーザを弄ばれたことに関しても不快だったし、俺の家族や村の仲間を殺そうとしたことはそれだけでも万死に値する。

だから俺はコイツを、とにかくなじってやりたかった。

「お前ごときが魔王様を倒すなど身の程知らずってことだ。魔王様はお前など歯牙にもかけない。眼中にも入れないだろう。お前がクズだからだ」

「何を言う貴様! 取り消せ! ヤツがオレを気に留めないわけがない! 取り消せええええッ!?」

幾度かの接触でわかったことだが、コイツが触れられてもっとも激震するのが魔王様に関することだった。

コイツの究極的な目的は魔王様を倒すこと。

隠れて行った様々な悪事も、すべては魔王様を倒すことへと続いていく。

何故そこまで魔王様への敵意を燃やすのか?

いや、もしくは魔王様を倒すこと、それ自体に熱意を燃やすのか?

そのどちらかもわからないし、その情熱の正体も謎だった。

「まだだ、まだオレは止まらぬ……! ヤツを倒すまで、倒すまでえええええッ!!」

ホラこの執念深さよ。

いったい何がコイツをここまで突き動かすのか?

「ダリエルさん!」

「はい?」

そうこうしていたら、団体さんがお着きになられた。

レーディ?

それにゼビアンテスやドロイエ。勇者パーティの皆さん。

またぞろぞろと押しかけてきたな。

「全速力で急いできたが、もう終わりのようだな」

大先輩のイダさんまで。

「向こうが陽動であることが確定したんで駆け付けたのだが。……エステリカを送り出すときにも使った空間歪曲で区間距離を縮め、あっちの風使いに速度を上げさせたから、相当速く移動できたはずなんだがな」

「めっちゃ速く動けたのだわ! 自己新なのだわ!」

ゼビアンテスが息を乱していた。

さらにイダさん以外の全員が全身くまなくボロボロで、よほど激しい修羅場をくぐってきたのだなということがわかる。

「そっちも激しい戦いだったようだな」

「ええ、あの、ダリエルさんたちも……」

レーディの視線が、上半身オンリーで地面を転がるドリスメギアンへ向く。

「この姿……、やはりこちらも竜人化していたんですね?」

「『も』?」

「でもそれをこんなに容易く倒してしまうなんて。さすがですダリエルさん」

いや、やったのはほぼグランバーザ様とアランツィルさんだし。

それもけっこう簡単そうだったよ?

「……お前たちがこちらに来たということは、……セルニーヤはやられたか」

「ええ、立派な最期でした」

「思ったより役に立たんヤツだったな。所詮は役立たずのゴミだったということか」

「それは……ッ!?」

ドリスメギアンの独語に、レーディが色をなす。

「その言い方はあまりじゃないですか! 彼は、セルニーヤさんが戦ったのはアナタのためなんですよ! アナタへの忠誠のために魔獣と合体してまで戦ったんです! たとえ敗れても、その信念は賞賛されるべきです!!」

「結果が伴わなければ何の意味もない。ヤツは、死してなお失敗を繰り返した無様な男というわけだ」

「では……」

冷笑を浮かべるドリスメギアンへ、イダさんが迫る。

「お前はどうだというのだ? 炎魔獣と融合しながら真っ二つにされ、地面に転がる今のお前は『無様ではない』というのか?」

「…………」

「いい加減にしろ。何度失敗を繰り返せば気が済む? お前が死んでから行うことすべて、生前のお前の功績を踏みにじるものだ。お前の死後の見苦しさに、私の方が泣きたくなる」

「だったら」

かつての盟友にドリスメギアンは言う。

「見なければいい目を逸らせばいい。オレ自身のことだお前には関係ない。そうこれは……、オレとヤツとの間だけのことだ」

ふざけるな。

お前と魔王様の間だけのこと。

それだけのことに幾人の人々を巻き込んだ?

ただ巻き込まれただけでなく、命を落とした者もいる。その人たちはまったく関係ないお前らの遊びで、意味もなく死んだというのか?

「お前ほどのゲスは見たことがない。お前は俺の知っている誰よりも最低だ!」

バシュバーザよりも、ピガロよりも、ローセルウィよりも。

コイツが一番姑息で汚らわしい。

こんなヤツを目の届く範囲において置くこと自体が不快だ!

「何とでも言うがいい……! オレはヤツを倒すためになら何にでもなってやる! 卑怯者だろうと、冷血漢であろうと、餓鬼畜生に堕ちようとかまわん! オレはヤツを倒すためだけに、死後も存在しているのだあああッ!!」

もはや完全に無力化されたと思ったのに、ドリスメギアンは立ち上がった。

いや飛び上がった。

もはや立ち上がる足もないから魔法の力で飛翔。

その様は、ついさっきヤツが踏みにじった亡者バシュバーザによく似ていた。

「修復できぬならこの足もいらん!」

そういって地上に転がる自分の一部に炎弾を放つ。

ヤツから泣き別れした下半身がすぐさま炎上し、輪郭も失って原型もわからないほど燃焼する。

しかし、奇怪なのはそこからだった。

燃え盛り純粋な火炎の塊となったものが突如上空へ飛びあがった。

飛翔して向かう先は、ドリスメギアンの上半身。

躊躇なく炎はヤツに飛び込み、燃え盛る。

「ハーッハハハハハハハ!! やはりここまで一から組み替えれば再融合は可能なようだな!」

「バカを言うな! それはもう再融合とは言わない! 燃やして燃料に変えただけではないか! それではもう何かを焼き尽くす用途にしか……!?」

「その通りよ。この村を焼き尽くす!!」

猛烈な宣言に一同が凍った。

ドリスメギアンから放たれる高熱に、だんだん周囲の温度が上がり、高熱に肌がピリピリとし、汗が噴き出す。

「本当はもっとスマートにやりたかったんだがな。一人ずつ丹念に殺し、友人妻子家族の事切れる様をダリエルにしっかり見せて憎しみを引き出し、最高の状態になったところで取り込む。他の強者たちの魂も取り込めればより糧となっただろうに」

まだそんなことを言いやがるのか……!

このゲスめ!!

「しかし、そんな悠長なことをしている余裕はなさそうだ。認めよう。お前たちは強い。だからこそ最高の成果は諦め、まず勝つことを念頭に置こう!」

ドリスメギアンを中心に、炎が膨張していく。

球形に。

「凄まじい熱だ……ッ!?」

そしてあの輝き。

まるで太陽が地上に降りてきたかのようだ。

「とにかくダリエル! お前さえ手に入れればこの状況は満足だ! お前だけでも上手く生き残れよ! これだけの超大広範囲焼滅魔法だ! 空間歪曲しようと! あの白い炎で無効化しようと! インチキで引き寄せようと! すべて対処しきれる量ではない!」

「いかん! ヤツは村を丸ごと焼き尽くす気だ!!」

それだけの規模の魔法を使えること自体が想像を絶する。

あれも魔獣と融合したが故なのか、それとも元からヤツ自身の実力か。

「間違いなく住人が全滅するぞ! 村も燃えカス一つ残らん!!」

「土岩障壁を! いや全然足りない! 被害予想範囲が大きすぎる!」

「サトメ! アナタの盾なら……!?」

「足りるわけないじゃないですか!」

地上で右往左往する者たち。

「皆下がれ!」

俺はヘルメス刀をかまえて叫ぶ。

「こうなったらアイツが魔法を放つ前に、アイツ諸共消滅させるしかない! 俺の『絶皇裂空』で……!」

ヤツの存在そのものを消滅させる!

際どい賭けだがやるしかない!

「行くぞ! おりゃああああああッッ!!」

「はい待ってー」

突如として間延びした声が、オレとヤツの間に割って入った。

「なッ!?」

「まさか、アナタはッ!?」

そのお方が現れたことに、困惑しかなかった。

信じがたい、この御方がみずから登場なされるなんて。

「そうです、ぼくちんが魔王です」