軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

224 アランツィル、大奮闘する(勇者side)

「脳天をかち割ったのに。再生も行わないまま反撃してきた……!?」

エステリカはアランツィルに抱きかかえられたまま、異形のドリスメギアンに目を見張った。

相手は、さらに『凄皇裂空』を叩き込まれてなお歪に動きなおそうとしている。

「地獄の亡者というのはああいうものではないのか? 前に戦った白い子どもは、腕を斬り落とされてもすぐさま生え変わっていたぞ?」

アランツィルが指摘するのは、かつての『天地』のイダとの戦いをいうのだろう。

「お前、天国に行ってあの手の輩とずっと戦ってきたのだろう? 少し抜けてはいないか?」

「煩い!」

「ぎゃーッ!?」

アランツィルの耳が全力で引っ張られて悲鳴を上げる。

『コイツらこういう夫婦だったのか……!?』と傍でグランバーザが戦慄するのだった。

「……たしかにヴァルハラの使徒に与えられる『エインヘリヤル体』は完璧です。粉々に砕かれようと次の瞬間には再生が始まる。永遠に戦い続けるために設定された究極の肉体なのです」

「げに恐ろしい話だな」

「しかし、究極の『エインヘリヤル体』と言えど根本的に肉体であることは変わりない。構造も弱点も、普通の肉体と同じなのです。頭部を潰し、心臓を止めれば、ほどなく再生は始まりますが、その瞬間たしかに『死ぬ』」

エステリカは、不死者が意識を失うその僅かな隙間を作ってドリスメギアンを拘束しようとした。

しかしその目論見は外れた。

彼女の予想しえない事態によって。

「アイツは、頭を割られてもあのまま攻撃してきた……!?」

「しかもヤツらが与えられた『亡者体』は、『エインヘリヤル体』よりも遥かにお粗末な代物です」

地獄に堕とされた罪人が、地獄の責め苦を受刑するための肉体なのだから。

再生はするものの、ヴァルハラの『エインヘリヤル体』よりずっと再生速度は遅く、そのくせ苦痛の感覚だけは鋭敏に伝える。

粉々の肉塊にされても死なず、ゆっくり時間をかけて再生する。

それもまた罰の一つだと言わんばかりに。

「それが地獄の『亡者体』なのです。頭部を潰せば、とりあえず半日は行動不能に追い込めると思ったのに……!?」

「しかしピンピンしておるぞ、あちらさん?」

インフェルノは既に、また新たに巨大節足を生やし、凶悪な戦闘態勢を整えていた。

先は四本だった巨大節足が、今度は六本に増えている。

マントに覆われた頭部は、エステリカの剣閃でたしかに叩き割られた痕跡を見せるが、まだフードに覆われて詳らかにはわからない。

「やはりあのドリスメギアンには、他の者にはないヤツだけの特別な特徴が備わっていると見た」

グランバーザが言う。

かつて魔王軍四天王のリーダー格であった威厳を発しながら。

「ここからはヤツの秘密を暴くのを念頭に戦いを進めるべし。私は引き続きヤツの火炎魔法を封じることに専念する。その間お前たちは遠隔攻撃を続け、ヤツがもっと札を切るように追い込むのだ」

「……そういう迂遠なやり方は好かんのだがな、私は」

「ああ、よく知ってる……!」

三十年来の宿敵同士であった二人である。

互いのことは親友以上に知り抜いていた。

「だったら好きなようにするといい。お前に本気で追い立てられたら、すべての手札を晒すしかないのだ。かつての私のようにな」

「わかっているではないか。援護は頼むぞ」

アランツィル、獲物の棒杖をかまえる。

それは彼の『オーラ全特性最適合』という極めて稀な性質を生かすために選び抜かれた武器であった。

スラッシュ(斬る)。

スティング(突き刺す)。

ヒット(叩き砕く)。

オーラ四特性のうちガード(守)を除いた三特性を、シンプルな棒一本なら存分に発揮することができる。

「では始めよう」

「応」

宿敵グランバーザを後衛において、前衛に躍り出るアランツィル。

「ま、待ちなさい!? 戦うなら打ち合わせを……!」

「及びない、奥方」

エステリカの制止を、グランバーザがさらに止めた。

「アナタが亡くなってからの三十年。それは私とヤツとの戦いで占められた。自信をもって言おう、この地上で私以上にアイツを理解しているヤツはおらん」

逆もまた然り。

「うつけめが! 考えもなしに飛び込んできおるか!!」

迎え撃つドリスメギアンは火炎魔法を放たんとするも、火花が漏れ出るばかりで攻撃らしい攻撃魔法が出てこない。

「くッ! 魔法炎の操作権が!? ……またヤツの仕業か!?」

グランバーザがいる限り、ドリスメギアンはもっとも得意な火炎魔法を思いのままに使うことはできなかった。

同属性とはいえ、他人の使う魔法に割り込み操作権を侵害するなどグランバーザ級の技能をもって初めてできる芸当。

その間にアランツィルが懐に飛び込む。

「魔法を封じたぐらいで勝った気になるなあああああッッ!!」

凶悪なる巨大節足が一斉に動き出す。

それは鋭い蟹の脚のようでもあり、獰猛な大蜘蛛の脚のようでもあった。

その巨大節足が発揮するパワーは証明済みで、あの六本が思いのまま暴れるだけで大軍を蹴散らすことができるだろう。

「普通魔法使いは、魔法を封じられただけで無力になるものだがな……!」

そんな常識の通用するドリスメギアンではなかった。

そしてその常識外れの相手に、向こうを張るアランツィル。

得物の棒杖を振り回すだけで、巨大節足がちぎれて飛ぶ。

「ぬう……ッ!?」

アランツィルの強力なスラッシュ(斬)オーラが込められた棒杖は、刃を持たずとも充分な鋭利さを伴い、丸太であっても一振りの下に両断する。

すべての節足はあっという間に斬り落とされ、あとに残るのはすべての攻め手を失い無防備になったドリスメギアン本体のみ。

「りゃあああああッ!」

そのドリスメギアンの腹部に、棒杖の先端が突き刺さる。

スティング(突)のオーラを込めた棒は、先端が槍のように尖っておらずとも、何物をも刺し貫く鋭さを得る。

そしてドリスメギアンの腹部を、何度も何度も何度も突き刺した。

皮を割いて肉の奥深くまで潜り込む感触が、たしかにアランツィルへ伝わってくる。

「どうだ!? 次の手を講じる気になってきたか!?」

「ぐぶううううう……ッ!?」

「その気がないならこのまま死ねッ!!」

アランツィルは、一歩だけ下がって間合いを取ると、今度は棒杖で弧を描き、上方から真っ下しに降り下ろす。

込められるのはヒット(打)のオーラ。

真円を描くほどの大振りで叩き込まれる打撃力は、鉄塊をも粉々に打ち砕く。

アランツィル級のオーラ力をもってすれば、それを込める武器の形質など最終的には細かく問わない。

刃がなくても名刀となり、切っ先がなくとも神槍となる。

だからこそ全特性を円滑に運用するに、もっとも形のシンプルな棒杖が選ばれた。

ダリエルがヘルメス刀を手にするまで、これが全特性適合者の究極の戦闘形態だったのである。

「死ねえッ!」

オーラと加速を充分に込めた棒の先端がドリスメギアンの頭部を正確に捉えた。

入射角も理想的。

インパクトの瞬間、ドリスメギアンの踏む地面からボコンと土煙が上がり、周囲に向かって無数の亀裂が走った。

頭蓋骨が砕け散ったと、周囲で見守る誰もがそう思った。

ここまで完璧に確信できる致命傷も珍しかった。

「ここまで追い込んでやったのだ! いい加減見せてくれてもいいだろう、お前の不死身の正体を!!」

それでもアランツィルに勝利の驕りはない。

今なお勝負を継続し、警戒心を最大限まで高めていた。

「……っとでも思っているのですか!?」

エステリカが剣を振るいながら駆け寄る。

放たれた『裂空』に、斬り落とされた節足が弾かれ朽ちる。

「斬り落とされた節足が、またアナタを狙っていましたよ! 学ばないのですか!?」

「警戒する必要などない。お前が助けてくれるとわかっていれば」

「……ッ!?」

その返答に、エステリカは面食らった風だった。

かつて夫婦の契りを交わした、この老人に。

「…………アナタ、いつからそんなに他人を信じるようになったんです? 昔のアナタは、仲間に背中を預けたりなど絶対しなかった」

「長生きすれば性格も変わる。それを楽しむのが人生の醍醐味だ」

しかし切り離された節足が独自に動くということは、ドリスメギアン自体も死に体ではないということ。

わかってはいたことだが、戦えば戦うほど怪物性が顕著になる。

「……実に煩わしい。オレはヤツと戦うまでに、もっと簡単に事を運ぶつもりだったのに」

マントの奥底から聞こえてくる怨嗟の声。

それは地獄から響いてくるかのようだった。

「そこまで地獄を見たいか? ならば見せてやろうこのオレの、新たに手に入れた力を!」