軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

215 シニア組、強い

「『火生辺獄炎』ッ!」

「『火生辺獄炎』」

頭上で、凄まじき炎流と炎流がぶつかり合う。

その輝きと、地上まで伝わってくる余熱に皆が顔を覆う。

天空が太陽で覆われたかのようだった。

「お前もその呪文を使うとは……!? おのれッ!」

「ラスパーダ要塞の時のような遅れは取りませぬぞ」

インフェルノとグランバーザ様。

二人の極たる火炎魔導士が空中で、互いの奥義魔法を打ち合っているのだ。

自然様相は壮絶に、ハイレベルなものにならざるを得ない。

そしてグランバーザ様はどうやって空を飛んでいるのか!?

「『荼毘若火葬』ッ!」

「『荼毘若火葬』」

「『ウェウェテオトルの創滅』ッ!」

「『ウェウェテオトルの創滅』」

「く……ッ!? 『殉死火』ッ!!」

「『殉死火』」

幾重もの攻撃魔法が天空を駆けては両者の間でぶつかり合い、対消滅する。

同量同質。

二人の魔法能力が伯仲しているゆえに起こる現象だった。

「貴様ぁッ!? どれもこれも……!?」

「そう、過去アナタが開発した呪文だ。アナタがこの世を去ったあとも伝わり、今では火炎魔法使いが必ず習い修める奥義として不動の地位を得ている」

グランバーザ様、言う。

「これを見て恥じ入りませんか。アナタが作り出した魔法の数々は世に残り続け、魔法技術の発展に寄与している。ただ製作者だけが邪念をもって世に害をなしている」

「それがどうした? どれもこれもオレが強くなるために編み出した魔法だ。オレだけのためにあった魔法だ」

インフェルノは少しも動じない。

「それを後世の者どもが勝手に覚え、弄んでおるか。身の程知らずが。惰弱者どもがオレの叡智の上っ面のみを舐めたところで、どうしてオレが感じ入らねばならぬ」

「上っ面を舐めただけとおっしゃるか? ならば……!」

グランバーザ様の指の動きに合わせ、炎がうねる。

それは炎をまとった生きた大蛇がのたうつかのようだった。

「その身に味わってみなさるか、後世の惰弱者がアナタの研鑽をどう受け継いできたか!」

炎の大蛇がインフェルノに襲い掛かる!

魔導士による、同属性同士の戦いは、純粋に魔法の力量こそが勝敗を分ける。

相性など、実力以外の要素が介在する余地がないからだ。まして同属性使いほど自分の精通した戦法のため相手のやり口が手に取るようにわかる。

結果より地力があり、経験豊富で、駆け引きに秀でた方が勝つ。

「はッ!」

インフェルノが、再び燕のような軌道で飛び、攻撃をかわす。

しかしそれすら予想したグランバーザ様は息もつかせぬ連続攻撃を浴びせかけて息を整える暇も与えない。

「こおおおおおおッ!?」

何とか避けたり防いだりしていたが、ついに間に合わなくなり赤マントの裾に火が付き始める。

「おのれ『彼岸炎河』ッ!」

インフェルノが目前に敷く炎の壁が、一旦グランバーザ様の攻撃をすべてシャットアウトする。

あの魔法、『爆炎障壁』に似ているが熱量も密度も段違いだ。

「……なるほど、お前は世に価値もなき惰弱者とは違うようだ。お前だけは認めてやってもいいな」

「先代の鬼才に認めていただいて恐悦至極」

グランバーザ様だから、インフェルノとの純粋な魔法戦で一歩も引かずにいられる。

わかっている。俺が過去戦ったインフェルノと、今いるインフェルノはまったくの別人だ。

俺が倒したヤツは剣にて戦う生粋のオーラ使いで、今のヤツは極上の火炎魔導士。

中身が違う。

それでも力量自体は双方、歴史に名を遺すレベルの卓越したものだった。

そんな歴史級の敵に対抗しうるのも、歴代最強の誉れ高いグランバーザ様だからこそ。

こんなハイレベルな魔法戦は、過去百年なかったかもしれない。

そんな稀有な戦いを間近で目撃する羽目になった俺!

「歴史の証人になっとる……!?」

で、あの人たちなんでまだ空飛んでるの!?

「……興味深いな。前に見た時は、アボスに一方的にやられる老人でしかないと思っていたが。今になって真価を発揮したか」

「そうそう無様は晒せませんからな」

「稀有なる時代だ。一世一人の水準を超える異才奇才がゴロゴロと転がっている。そのすべてを糧とできたならヤツの打倒も不可能ではあるまい」

「あくまで魔王様にお手向かいいたすか? 何故そこまで主を嫌悪する?」

「お前こそ、わざわざオレが真実を明かしてやったというのにまだヤツに縋るのか? 理解に苦しむ。オレの話を聞いたればこそオレに賛同すべきだろう」

上空にて強者たちの会話が交わされる中。

「ゴチャゴチャと御託が多いことだ魔族は」

上空へ新たな声が飛び上がった。

「しかし戦闘中だということを忘れてはいないか? お喋りがしたいなら婦女子の茶会にでも行くがいい」

アランツィルさん!?

アランツィルさんが、いつの間にか戦う二人のいる上空まで飛び上がっていた。

どうやって!?

インフェルノの背後から回って、得意の棒杖を振り上げている!?

「グランバーザの猛攻に耐えかねて苦し紛れに放った炎の壁。悪手だったな。あれは強力な防壁ではあるが、同時にお前自身の視界も遮る」

「貴様ッ!? いつの間に!?」

「おかげでここまで接近するのに造作もなかったぞ」

完璧に不意打ちが成功し、大勇者アランツィルさんは渾身の攻撃を放つ。

「『凄皇裂空』」

そして容赦がない。

あの至近距離から不意打ちで最高奥義とか、アランツィルさんならではの残虐無道な行為だ。

「ぬおおおおおおおおッ!?」

とっさに火炎魔法を放つことで相殺しようとするが、対するは大勇者アランツィルの代名詞ともいうべき究極奥義だ。

生半可な対抗などまとめて捻り潰す。

「ぐおああああああッ!?」

対処むなしく、インフェルノは特大オーラ斬刃に押し潰される形で叩き落され、地表に激突した。

「やっと地上に戻ってきた!」

恐ろしい。前時代を百花繚乱に彩った両雄が、共闘するとここまでえげつない息ぴったりの攻勢になるのか。

グランバーザ様が相手の注意を引いて、アランツィルさんが墜とす。

まるで最初から示し合わせたような順序立て。

敵同士ではあったが数十年と一緒に戦い続けてきた二人は互いを知り尽くしている。

だから即興でも、ここまでのコンビネーションを発揮できる。

「ダリエル!」

「はいぃッ!?」

「何をしている! 相手の体勢が崩れたのだ一気に畳みかけるぞ!」

あのお二方に主導権を取らせておくと息つく暇もない。

経験豊富で気力充溢する大ベテランが二人並んで前面に立ったら、三十過ぎの俺ですら若造の感が否めない。

三十過ぎにもなったのに!

これだから大ベテランは恐ろしい!

しかし今がチャンスであるというのはおっしゃる通りだ。

ここはできる限り手数を増やして一気呵成射攻め立てなければ。

「ガシタ! 援護射撃を頼む!」

「合点でい!」

そして俺は駆け出す。

他の者たちには悪いが遠目に見てもらうしかしてほしくなかった。

インフェルノの火炎魔法を考えれば、迂闊に近づいたら余波だけで黒焦げにされる可能性もあった。

せいぜいガード(守)適性の冒険者を前面に立て、被害の拡大を抑え込むしか頼めまい。

ガード(守)はどんな時でも頼りになる。

できる限り周囲の安全を確保しながら俺も参戦し、袋叩きに抑え込む!

が。

「……ウソだろう?」

あれから数刻と経ったというのに、俺たちはまだ攻めあぐねていた。

グランバーザ様とアランツィルさんの連携でやっと地上に叩き落し、俺も加わって袋叩き。

それをあの怪人は凌ぎ切っていた。

俺はともかく、最強の先代が揃い踏みで攻めかけているというのに!?

普通なら数秒と持たずに押し切られるだろうに、あの怪人は達人たちの猛攻を支え切っている。

要所要所でガシタが放ってくれる援護射撃も、すべて寸前で止められる。

「正確な射撃だ。対処しなければ必ず当たる。鬱陶しい……!」

ここまでの粘りを見せるインフェルノ。

ただ者でないことが改めて見せつけられた。

「我が周囲に強者が集まるのはいいことだが、このままでは埒が明かんな。……仕方ない」

赤マントは、呪うように言った。

「こちらも新しい札を切ることにしよう」