軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

214 死闘、開幕する

俺の背後から、バタバタと騒がしい足音が迫ってきた。

「アニキ! アニキいいいいいッ!!」

「ガシタか」

弟分のガシタだけではない。

他多くの手勢が押し寄せ、俺と同じ側に並ぶ。

ラクス村に所属する冒険者たちだった。

村の規模が大きくなったおかげで今では百人近くの冒険者がギルドに登録され、防備を整えている。

こうした危機の際にもっとも頼りになる連中だった。

「ダリエル、村民の避難は終わった。皆、避難壕に入って入り口は冒険者たちが固めている」

アランツィルさんも避難誘導を手伝ってくれた。

この急場には非常に助かった。

「マリーカさんとグランも壕の中だ。これで心置きなく戦うことができるぞ」

「助かります……!」

居並ぶ数十人でインフェルノ一人を睨む。

多対一が卑怯などという意識は一切ない。相手は外道で犯罪者だ。村の安全を守るためにも取れる手段は全部取ってく。

「……なるほど、お喋りを長々と続けてくれたのは、避難のための時間稼ぎか」

「そうでなきゃ下らん話に付き合う理由はない」

これまで様々な災いを送り込んでくれた怪人インフェルノ。

これ以上コイツに煩わされることのないように、ここで決着をつける。

「戦うしかないのかな? それしか道がないのは非常に悲しいことではあるが?」

「お前が俺たちに危害を加えた時点で選択肢はない。素直に滅べ」

ラクス村ギルド所属冒険者、総勢九十八名。

うち数割は避難した住民の警護に回っているが、それでも一人を寄ってたかって袋叩きするには充分な人数が出張っている。

「ガード(守)適性の冒険者は前面に! 敵からの攻撃に備えろ。その後ろから弓使いかまえ! 目標に狙いを絞れ!」

皆俺の指示に反応し、淀みなく体勢を整える。

いい動きだ。毎日の訓練が生きているな。

「スラッシュ(斬)やヒット(打)の近接型冒険者は?」

「アニキの言う通り、村民警護の方に回してます!」

よし、それでいい。

相手はあのインフェルノ。迂闊に近づけば際限なく死者が増える。

直接ぶつかるのは最小限に絞って、他は後方援護に徹させる。

「ダリエルわかっているな? 相手は魔導士、属性は火だ。相手の特質に対応した戦い方が勝利への道だぞ」

「わかっています」

アランツィルさんの言う通り、かつて魔王軍四天王の一人だった今回のインフェルノ。

そして属性が火ということは、広範囲殲滅攻撃を得意とするのだろう。

俺のもっとも尊敬する人と同じ属性だ。

読み誤ることはない。

「狙いは定めたな!? 放て!」

俺の号令に合わせて、弓を引き絞っていたスティング(突)適性の冒険者たちが一斉に矢を放つ。

半包囲からの一斉射で逃げることなどできないはずだが。

「……『焦熱結界』」

矢の雨はインフェルノに届くことはなかった。

ほぼすべて、標的に届く前に燃えて消滅した。

「なッ!?」

「どういうことだ? 燃えた!? 敵は炎なんか出してないぞ!?」

赤マントは悠然とその場に立っているだけ。

マントの裾が風にはためいているのか揺らめいて……。

……いや違う。

「全員後退! ヤツに近づくな!」

「『焦熱結界』か……!?」

アランツィルさんも気づいた。

火の魔法で、魔導士周囲の温度を瞬時に、そして急激に上げる魔法。

あまりに静かに温度上昇するため、気づかず接近した相手がそのまま焼け焦げて死ぬという凶悪な魔法だ。

「矢が自然発火で燃え尽きるとは、尋常な温度ではないぞ……!? グランバーザの他に、あそこまで強力な『焦熱結界』を展開させられる火炎魔導士がいたとは……!?」

やはり記録を抹消された四天王は伊達じゃないらしい。

「ガシタ!」

「へいッ!」

俺の指示で今度はガシタのみが弓を引き絞る。

先ほどは支持を皆に伝えるため一斉射には参加してなかったが……!

「オーラを充分に込めて……、食らえッ!!」

ガシタの弓から放たれた矢が、寸分の狂いなくインフェルノめがけて飛ぶ。

その矢が、インフェルノの手を刺し貫いた。

「げッ!?」

いや正確には、インフェルノの頭部に命中するところだった矢を手で阻んだというべきだが。

……なんてヤツだ。

それが一番確実だからといっても、迷うことなく自分の腕を盾代わりに使うなんて。

「燃え尽きなかった……。我が『焦熱結界』を突破してくるとはな。よほど強いオーラを練りこまれているということか」

ヤツの手を刺し貫いた矢は、次の瞬間ボッと発火してすぐさま灰になった。

「こんな田舎にもよく鍛えたオーラ使いがいるらしい。そやつもよい栄養源となるだろう」

「このッ!」

次は俺自身が『凄皇裂空』を解き放つ。

ヘルメス刀から飛ぶ大型のオーラ斬撃が、高熱空間などものともせずに断ち割ってインフェルノ本体へと迫る。

今度はヒラリと身をひるがえしてかわした。

しかもどういう魔法か、アイツは空中をヒラヒラ駆け上って、アランツィルさんが放つ『凄皇裂空』までもかわしながら上空へと昇っていく。

「逃がすな! 弓矢隊、射続けろ! 移動しながらでは『焦熱結界』は晴れないはずだ!」

放水のように噴出する無数の矢を、インフェルノは空中をかけつつかわす。

いまだあっちからは仕掛けてこないのが不気味だ。

何か企んでいるのか?

「見抜いていないとでも思ったか?」

「何?」

上空から降ってくる声。

「お前たちの魂胆を。会話が時間稼ぎだということがバカでもわかる。その意図が非戦闘員の退避だということも。お優しい村長様だからな。だが逆に言えば避難を完了していれば、標的も定まってわかりやすいということだ」

「な……ッ!?」

まさかヤツの狙いは。

「空の上からはよく見えるぞ。あの穴倉の中か。ちょうどいい蒸し焼きが出来上がりそうだ」

インフェルノの手に、初めて炎が宿る。

しかしあれは、あとに続く極大火炎魔法の前段階でしかない。

ヤツの魔法力をもってすれば、多少穴を掘って潜った程度では防壁にもならない。

「全員総攻撃! アイツに呪文を唱えさせるな!」

弓矢など遠距離攻撃が可能な者はこぞってインフェルノを狙うが、既にかなりの高度へ上がっているため並みの矢射では届かない。

届くのはせいぜいガシタの矢か、俺とアランツィルさんの『凄皇裂空』のみ。

それもヒラヒラかわされて邪魔にもならない。

「ウソだろう!? あんなに動きながら詠唱が滞らないのか!?」

「ダリエルお前に必要ないものを間引いてやる。守るべきものを捨て憎しみに囚われろ!」

インフェルノの標的は最初から、避難壕に入った村の人々だった。

あそこにはマリーカやグランも。

「やめろおおおおおッ!! やめろおおおおおッ!!」

「いい悲鳴だ! だからこそお前の愛するものすべてを殺さねばならん! それが世界のためなのだ!」

インフェルノのかざされた手が、たしかに避難壕の方を向く。

「『火生辺獄炎』! いらぬものを焼き尽くせ!」

放たれる大炎。

それは空を覆いつくすほどであり、あの炎には避難壕も無意味であることが一目でわかった。

もうダメだ。

そう思った一瞬。

放たれた炎が空中で停止した。

「なッ!?」

「なんだとッ!?」

困惑の声を上げたのは俺だけではなかった。

インフェルノまで。

つまりあれはヤツの意図したことではないってことだ……!?

「本当に見下げ果てた御方だ。四天王の後塵として恥じ入りますぞ」

「あれは……!」

グランバーザ様!

そうか、ヤツと同じ火炎魔導士であるあの方が、火炎魔法の操作権を無理やり奪い取って炎を止めたのか!

さすが歴代最強の四天王!

「厳かな理想、大いにけっこう。しかしアナタには行動の高潔さがまったく伴っていない。やはりアナタの行状には少しも共感できませんな」

グランバーザ様の腕の一振りで、山をも瞬時に焼き尽くしそうな大火が瞬時に消えた。

そしてグランバーザ様も空飛んでない?

「元よりダリエルの家族に傷一つ付けさせぬ。名を消された四天王よ、その扱い通り無へ還るがいい」