軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

210 今度はドリスメギアンが訪問する

さて俺だが。

イダさんどもが出立して早数日。

落ち着かない感じが募る。

一度は説得されてラクス村に留まった俺だが『それで本当によかったのだろうか?』という気持ちが日一日と大きくなっている。

俺にとって家族、そして故郷のラクス村が一番大事だという事実は変わらない。

俺一人になろうとも、ここは守ってみせる。

しかしそれと同時に世界に害悪をもたらすインフェルノを放っておいていいのか? という気持ちも無視できないのだ。

こうしている間にもインフェルノが、誰かの大事な人を手に掛けているのではないかと。

そう思うと、こみ上げてくる感情を無視できない。

俺ってこんなに正義感強かったのか? と戸惑いつつ、それでも日々の仕事をこなしていると。

村にアランツィルさんが遊びにきた。

「ここでこんなことしてていいんですか?」

「ん? 何がだ?」

アランツィルさんは来るなりグランを抱えて猫ッ可愛がり。

センターギルドでも散々可愛がっただろうに、まだ足りないというのか?

「孫を可愛がるのに際限などないのだ。どうせ老い先短いんだから孫を可愛がること以外することがないからな。むしろ余計なことなどやってられるか」

いや、それでも。

世界のどこかにインフェルノが潜伏しているというこの状況で、先代勇者のアナタがすべきことがあるんではないですかね?

ないのか。

現役勇者であるレーディに丸投げか。

引退したんだから、それが当然っちゃ当然なんだが……。

「ほーいグランは可愛いなあ。きっと逞しい男に成長するのだろうなあ。今から楽しみだぞ!」

「おいアランツィルよ、お前の持ち時間過ぎたぞ。今度は私が可愛がるんだからグランをよこせ」

「私が来るまでに散々可愛がって来たんだろうがお前は。その分公平を期すために一枠ぐらいよこさんかい!」

「それを言うならお前は人間族の本拠地で嫌というほど可愛がったんだろうが! とにかく私は重傷なんだから療治のためにもな!!」

「なんだ私以外の雑魚にこっぴどくやられやがって情けねー!」

アランツィルさんとグランバーザ様が、ウチの子を巡ってケンカしておる。

どっちも孫を可愛がりたいおじいちゃんなのはわかるが、あんまり騒ぐとまたマリーカに叱られるぞ?

こんな風に引退した人たちはひたすら気楽で、現役の者たちに任せっぱなしなのだろうか?

それが正しいんだろうけどさ。

「…………」

まあ、とりあえずなんか話題でも捻り出そうかなあと思って……。

……そういえば。

気になることが一つあった。

「アランツィルさん」

「ん? なんだ?」

「エステリカさんって知ってます?」

こないだ家にやってきたエステリカさんという女性。

何でも今から数えて先々代の勇者だったという。ならば先代勇者であるアランツィルさんも知っているかなあ、と思って何気なく聞いてみた。

ところ……。

「…………ッッ!?!?!?!?」

想像以上の反応が返ってきた。

今までただのデレデレおじいちゃんだったアランツィルさん表情が凍りつき、場の雰囲気まで一気に変わった。

ピリピリと張り詰めた空気にグランがビビッて泣き出すほどだった。

「うはあッ!? すまない怖かったな!? いや怖くない、怖くないぞぉ?」

慌てて孫をあやすアランツィルさんだったが、やはり動揺を隠しきれない。

「あの、その……? ダリエル? どうして彼女の名前を? 一体どこで……!?」

「こないだウチに来ました」

「はあッ!?」

再びアランツィルさんが当惑し、グランくんもまた泣き出す。

しょうがないのでグランくんのことはマリーカにお願いし、改めてアランツィルさんと向き合う。

「ダリエル、お前の言っていることが私にはさっぱりわからない。……エステリカに会っただと? ……そんなこと、あるわけがない! 彼女は三十年以上前に死んだのだ!」

やはりそうなのか。

ヴァルハラの使徒としてやってきたからには、つまりそういうことなのだろう。

魔王様が用意したヴァルハラという世界には、死した者の魂だけが行ける。

生前類まれなる能力と戦果を示した者だけが行ける。

だからあのエステリカさんも……。

「アランツィルさん、アナタも見たでしょう? こないだ現れた『天地』のイダを」

「アイツか? 何で今あんなのの話が出る?」

「アイツと同類なんですよ」

俺はヴァルハラのことを噛んで含めてアランツィルさんに説明した。

「現世へ脱走したインフェルノを捕まえるために派遣されたそうなんです。途中ここに立ち寄りました」

「そんな、そんな彼女が……」

ぺたんと。

力なく座り込むアランツィルさん。

それはむしろたまたま後ろへ倒れ込んだ先にソファがあったという感じで、そうでなかったら床にへたり込んでいたのかもしれない。

ここまで動揺するアランツィルさんはなかなか見ない。

これでも歴代最強勇者の呼び声も高く、千の修羅場をくぐった人だ。

それがこんなに動揺するなんて。

俺が生き別れの息子だと判明して以来じゃないか?

「……彼女とは私も戦ったことがある」

戸惑いつつもグランバーザ様が口を挟む。

「たしかに勇者の名に相応しい強さで、たった一度の戦闘でも強く記憶に残っている。しかし私との戦いが原因で亡くなったのではないと聞いたが……」

「何を言う!」

アランツィルさんが、グランバーザ様の襟首を掴み上げる。

「よくもぬけぬけとそんなことを! お前たちが! お前たち魔族が彼女を! この、このおおおおッ!!」

「アランツィルさん落ち着いて!」

慌てて間に入る。

この人が魔族へここまで激高を見せつけるなんて。

俺の生存がわかって、この人の憎悪も少しは和らいだのではなかったのか?

しかしそれ以前へと逆行したかのような。

アランツィルさんにここまでの影響を与えるエステリカさんとは一体……?

その疑問に誘われて、俺がさらに質問しようとしたその時だった。

外から異変が伝わってきた。

「なんだこれは……!?」

外がやけに騒がしいので、俺たちはエステリカさんを巡る話を中断してたしかめに出なければならなかった。

そこで驚愕した。

そらに太陽が浮かんでいた。

もう一つ。

いつも東の空から昇って時刻的には南の天井にある太陽と、もういっこ別に太陽が昇っている。

それがやたら近い。

まるで天から落ちてきたような近さで、太陽に匹敵する火球がラクス村上空に停滞していた。

「ぐおおおおおッ!? 暑い!? まるで真夏のようではないか!?」

「あのような大火球、一体誰があんな魔法を!? 太陽に匹敵する熱量……!?」

グランバーザ様を火炎魔法で驚かせるだと!?

この大火球が魔法で作り出されたものかわからないが、いや、魔族の使う火炎魔法でなければこんな芸当無理か。

では、誰がやったかというと。

突如、頭上の大火球が弾けて散った。

「うわッ!?」

その勢いに思わず目を瞑って、腕で顔を覆う。

爆散で村に被害……、というのは幸いないが、しかし代わりに消え去った火球のあった場所に……。

浮かぶ赤マント。

マントの裾が風にはためき、炎のように揺らめいている。

「やはりお前は……!」

インフェルノ!

この目で確認したのは初めてだが、本当に生きていやがったのか。

しかもまたラクス村に……。

エステリカさんの推理がドンピシャではないか。

「やっと出てきたか。待ちわびたぞ」

空中漂うヤツが、俺の眼前まで降りてくる。

全身覆う赤マントは同じだが、口調が以前と明らかに違う。

「オレは二つのパーツを求めていた。先ほどめでたく、その一つを手に入れた。残るは一つだ」

「いきなり何の話だ?」

「お前のことだ、ダリエル」

本当になんだ唐突に?

「お前こそが、オレの手に入れるべき二つ目のパーツだ。オレと共に来い。オレと一緒に魔王を倒すのだ」