軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

203 アボス、敗北する(地獄side)

そして一方、インフェルノを名乗る二人組のもう一方。

アボスという鎖使いはどうしているか。

「ウゼええええッ!! ウゼ! ウゼウゼええええええッ!!」

がむしゃらに振り回される鎖。

ヒット(打)オーラがこもったその凶器は、当たれば肉を破裂させ、骨を粉砕する。

かつてラスパーダ要塞で猛威を振るった鎖攻撃であるが、それがまるでウソだったかのように攻めあぐねる。

「はッ!!」

盾使いサトメは適切に盾をかまえ、迫りくる鎖を防いだ。

オーラ強化された盾は割れるどころかへこむことなく鎖を防ぎ、弾力豊かに跳ね返す。

「なッ!?」

「ラクス村で修行してたのは勇者様だけじゃありません! ダリエルさんの厳しい特訓でガード(守)オーラに弾力をつけられるようになりました! これで堅固さが30%アップです!」

防御専門のサトメだけではない。

セッシャもまた得物の槍を大旋回させ、その風圧らしきもので鎖の軌道を変えさせる。

結果セッシャ自身に鎖の一本も当たらない。

「槍術『旋風柳返し』! 力ずくで阻むのではなく、流れに逆らわず軌道を変える技にてござる!」

「くそおおおおおッ!?」

防御専門でない槍使いにまで対処される。

その屈辱にアボスの頭に血が上る。

彼自身も薄々わかっていた。

今の自分の鎖に、かつてラスパーダ要塞で振るったほどの威力はないと。

あの時には融合していたドリスメギアンから無尽蔵の魔力供給を受け、オーラと融合しその威力は数倍以上に跳ね上がっていた。

しかし今ドリスメギアンと分離したことによって強力なブーストを失ったアボスは、自身のオーラでしか強化されていない鎖を振るうのみ。

結果、勇者ですらない、そのお供に手間取る始末だった。

ヤツらを率いる現代の勇者は、もう一方の戦局が劣性であるために援軍に向かった。

つまりそれはアボスのことを、取り巻きだけで対処できると判断したということでもある。

「オレのことを、雑魚扱いしたなあああッ!?」

という風に受け取った。

アボスは雑魚。

勇者みずから相手をしなくてもいい雑魚だと。

「舐めやがって! どいつもこいつもオレのことを舐めやがって! 後悔させてやるぞ! オレが弱いと勘違いしたこと後悔させてやるぞおおおおッ!!」

噴き出すオーラ。

その量は尋常ではなく勇者級であることを一目で確信させるほど。

「ドリスメギアンの魔力がなくとも! くらえ『黒縄剛破衝』!!」

しかし繰り出される鎖撃は通常のオーラをまとったもので、ラスパーダ要塞の時におけるような黒色の異様なオーラではなかった。

自然、サトメやセッシャの防御術に容易く阻まれ、いなされてしまう。

同じインフェルノと言えども、セルニーヤと比べて明らかに格落ちするアボス。

リーダーを欠いた勇者パーティでも充分に追い詰められるほどであった。

アボス自身にもわかっている。

ドリスメギアンから切り離された自分に、それほどの力はないと。

そもそも地獄での修行の末に編み出した『黒縄剛破衝』も、ドリスメギアンには失敗作と言われた。

真に理想的な魔力オーラの融合色は赤。

ジークフリーゲルの放つ『逢魔裂空』のような。

アボスにはまったく理解が及ばないが、感情によって起こるオーラ変色には段階があり、黒は最初の一段目にすぎぬと言う。

――『黒は、感情を発露させつつ感情を制御できていない証拠の色だ。そんな雑然さでは到底魔王を倒せない』

と。

それでもアボスはインフェルノの一つに加わって地獄から脱走することができた。

その役割はあくまで、本命のオーラ使いであるジークフリーゲルのスペア。

そのジークフリーゲルが情けなくも現世のオーラ使いに敗れ、やっと自分に脚光が当たるのだと思った。

自分がメインだと。

それなのに……。

「こおおおおッ!!」

鎖を掻い潜り、一人の巨漢が目前まで迫っていた。

振り下ろしてくるハンマーを寸前で飛びずさって回避。

「くそ……! 危なかった……!」

しかし格下だと思っている相手に肉迫され、後退までさせられたことにまた屈辱を受ける。

肉薄してきた巨漢は、勇者に代わるオフェンス役らしい。

コイツがいたから勇者はこの戦局から離れた。

「インフェルノ……、お前があの赤マントだと言うなら……」

巨漢はアボスに言う

この巨大なる男の名がゼスターということアボスは知るよしもない。

「それがしにとっても因縁の相手だ」

「あぁ? どういう意味だ? お前なんか知らねェぞ?」

「忘れたというのか? それがしら三人に洗脳を掛け、ミスリルを強奪させたこと」

そこまで指摘されてやっと思い当たる。

「ああ! 思い出したぜ! かなーり最初の頃デク人形にしてやった三人か! たしかにその中にやたらガタイのいいのがいたなあ!」

『剣』の勇者ピガロ。

『弓』の勇者アルタミル。

そして『鎚』の勇者ゼスター。

この三人が何者かによって洗脳魔法をかけられ、ミスリル強奪という犯罪に手を染めたのも遠い昔のことのようであった。

実際にはまだ数ヶ月と経っていない。

「あんときモノになったのは一人だけだったからなあ。まったく手間かけた割に役立たずばかりだったぜ!」

「その一人とはピガロのことだな? ヤツはどうなった?」

「食ってやったよ。頭からバリバリとな」

オーラ量を限界まで高め、心を負に染めきった人間こそインフェルノの栄養源である。

条件に適った『剣』の勇者ピガロは生きたまま食われて吸収された。

同じように捕えられたゼスターが生き延びたのは、条件に合わなかったというただそれだけのことだった。

「マジで役立たずだなあテメエ! 勇者にもなれず、オレたちのエサすら務まらないで、今度は勇者様のお供かよ! プライドがなきゃそこまで零落れねえなあ! それだけがお前の幸運じゃねえか?」

「そうやってヒトを見下すのは……」

ゼスターが語る。

かつて彼も一時とはいえ勇者の座にあった。

「ヒトから見下されるのが怖いからか?」

「あぁ?」

「ピガロのヤツがそうだったのでな。アイツとお前はよく重なる。お前たちインフェルノの在り方は先ほど伝え聞いた。地獄にまで落ちるならお前も生前は勇者だったのであろう」

ゼスターは一時、鎚のかまえを解く。

「奇抜な武器ながらもよく練り上げられた戦法。オーラの勢いも勇者を名乗るに相応しいものだ。そこまで鍛え上げながら何故地獄に落ちた?」

「うるせえ……!」

アボスから怒りのオーラが立ち上る。

「精神攻撃の仕返しかよ? 何故地獄に落ちたかって? そんなのオレが聞きたいぜ!!」

それはアボスの心に蟠るものを決壊させるきっかけだったのかもしれない。

「オレは! オレは強いから勇者になったんだ! ある時スカウトが来てオレの実力が認められたと! なら応えてやるのが普通だろうがよ! そして勇者になった! しばらくは問題なく過ぎていった! だが!」

唐突に言われた。

『アボス、お前には勇者としての品格がない』と。

「品格って何だよ!? 勇者は強ければいいだけだろ! 強ければいいだけだ! なのに戦いもしないヒョロ玉共が勝手に言いやがって! 挙句オレから勇者を剥奪しようとするから! ムカついたから皆殺しにしてやったんだ!」

当時のセンターギルド理事会を。

「そしたらギルド総出でオレを捕えやがって、処刑しやがって! アイツらはクズだ! オレは証明してやる! 強ければなんだってできると! だからオレはインフェルノに加わったんだ!!」

「百年以上前の話だな……、勇者に選抜試験が課せられていなかった、軽率に勇者を選んでいた頃の話」

ゼスター、再び鎚をかまえる。

「お前の不幸はわかった。しかし、やはりお前は勇者に選ばれてはならなかったのだ。強さだけではない。それ以上に重要な条件が勇者にはある」

「んだよそれはああッ!? ゴチャゴチャしねえでハッキリ言え!!」

襲い来る凶鎖。

セッシャやサトメのような回避術を持たない上に巨漢のゼスターは、正面からぶつかり合うしかない。

「ゼスター殿!」

「お二方! すまぬがここから先はそれがし一人に任せてもらおう!」

ゼスターは言う。

「こやつはそれがしが決着をつけてやらねばならぬ。同じ勇者失格のそれがしがな」

「黙れえええええッ!」

舞う鎖。

ドリスメギアンの助力がなくなった今、純粋な力量勝負であった。

四方八方からしなって襲う鎖を、ゼスターは鎚で打ち返す。

「強き者が勇者に選ばれる! それは当然のことだ! しかしだからこそ力の扱い方を知ることも勇者の条件なのだ!」

「ウゼェ! ウゼェんだよその言い方! 強けりゃ何でもいいだろうが!」

「よくはない! 勇者の強さには意味がなくてはならんのだ!」

たとえ建前でも、他愛ないおためごかしであっても。

勇者の力は罪なき民を守るためにあるのだから。

「強さの意味を考えないお前は! やはり勇者になるべきではなかったのだ!」

鎖の狂舞を掻い潜り、時に掠めて肉の一部を吹き飛ばされながらもゼスターは、アボスの懐に入る。

「ひぇッ!?」

今度は跳躍して逃げる余裕もない。

「お前はもう死んだ人間だ! この一撃で、勇者への未練を断ち切れ!!」

振り下ろされたハンマーが、アボスの脳天に命中した。

頭部がそのまま胸部へめり込み、頸椎がつづら折りにへし折れ、頭蓋が粉砕される音が鳴った。

「うわは……!?」

傍で見守るセッシャもサトメも一目で確信した。

あれは致命傷であると。

「何という強さ……!? やはり一時でも勇者に選ばれた御方……!?」

「しかもアランツィル様に直々しごかれたんでしょう? ヘタすりゃレーディ様より強いかも……!?」

勝負は決した。

即死と言っていい状態のアボスだったが、しかし息があるのかうわ言がブツブツ漏れる。

生死を超越したインフェルノであるからか、驚くべきしぶとさであった。

それでももう死の停止は目前であるが。

「おれ……なんで……、勇者に、なったんだっけ……?」

うわ言はそんな内容だった。

少しずつ全身から力が抜けて、膝が折れて崩れ落ちる。

「おれは……、勇者の名に……はじぬよう、ちからなきひとびとの、たてとなり……、悪をうちくだく、てっついとなって……」

それは勇者が就任式で述べる誓いの定型文だった。

何故アボスが今になってそれを呟くのか。

「ちからなき……ひとびとの……」

「そうだ、力なき人々の盾となることが勇者の役割だったのだ」

ゼスターが寂しげに言った。

「やっと思い出したな、勇者アボス」