軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

18 隣街の冒険者、絡んでくる

ラクス村は賑やかになった。

無論、ミスリル鉱山に向かう人々が立ち寄るようになったからだ。

しかもたくさん。

今のところ、ミスリル鉱山の様子をたしかめに来たギルドの偉い人や、護衛の冒険者ばかりだが。

時間が経てば、もっと多くの種類の人がラクス村へと来るようになるだろう。

「まさかこんな日が、再び訪れることになろうとは……!」

一番感動しているのは村長だった。

ラクス村の過去を知る彼は、生きて再び目にすることができないと思っていた光景を目の当たりにして感涙の極みだった。

「ありがとうダリエルくん。すべてキミのお陰だ。キミは我が村の幸運の使者だ……!」

「いや、幸運が重なっただけですんで……!」

ノッカーたちが離反したのは魔王軍の横暴が原因だし、俺はちょうどいいタイミングで居合わせただけだ。

俺の第二の故郷ラクス村が、いかなる形であれ大きく発展してくれたら喜ばしい。

「でも、大丈夫かなあ……?」

と言ったのはマリーカだった。

何が?

「人がたくさん入ってくるってことは、その中に色んな人がいるってことですから。トラブルの元にならなきゃいいけど……」

と予言めいたことを言うではないか。

たしかに変化はよい形で表れるものばかりではない。

俺自身が、ラクス村に災厄を呼び込む疫病神にならないように、しっかり責任を持たなければ。

早速トラブルが起こった。

村に立ち寄るギルド関係者と、村の住人が言い争いを起こしたのだ。

村側の当事者はガシタ。

納得の顔ぶれだった。

ガシタが噛みついていたのは、村の外からやって来た冒険者たち。

鉱山へ向かうギルドのお偉いさんや、鉱山そのものを護衛するために鉱山に向かう途中の者たちだった。

「テメエら! もう一度言ってみろ!!」

ガシタが猛然と吠え掛かる。

「村の冒険者がカスばかりだと!? 舐めたこと言ってるとテメエらこの場でクエスト失敗にしてやるぞ!!」

うーん。

ガシタのヤツ、狂犬ぶりが少しは改まったかと思いきや、ただ俺に対してのみ忠犬になっただけだった。

俺以外の相手には相変わらずギャンギャン吠える。

「こらこらこらこら、待て待て待て待て……!」

飼い主として責任もって仲裁する。

「ダメじゃないか誰彼かまわず吠えちゃ。お客様は歓迎して……!」

「で、でもアニキ……!」

俺には忠実なんだよな。

褒めてやるべきなのか……!?

「コイツらが、コイツらがオレたちのこと侮辱するんですぜ!」

指さす先の、外の冒険者たち。

ニタニタいやらしい笑いを浮かべて、俺とガシタを見詰めている。

「こんな田舎の冒険者なんて雑魚ばっかりだって……!」

実際そうだろ。

相手は、もっと大きな街から派遣されてきた名うての冒険者たちだぞ?

いつだったか、この村の冒険者事情しか知らないガシタが井の中の蛙になって困るという話があったが、こんな形で外の洗礼を受けようとはな。

「失礼をすまない」

相手側からも年長の者が仲裁に出てきた。

髪も髭も総白髪。

ただ若白髪なのか顔つき自体は精悍で『俺と同年代ぐらいかな?』と思えた。

「ウチの若い連中が考えなしに振る舞ってしまったようだ。クエスト先の現地人とは良好な関係を保つようにいつも言っているのだがな」

「アナタは?」

「私はフィットビタン。キャンベルの街から派遣されてきた冒険者を率いている。階級はB級だ」

ほう。

「これはどうもご丁寧に。俺はダリエル。この村の冒険者の一人です」

「階級は?」

「ん?」

「階級はいくらかね? 私はB級だが?」

「D級ですが……?」

そう言った途端、相手の瞳に嘲りの色が浮かんだ。

「そうか、D級か。まあこんな小さな村ならD級で充分間に合うのだろうが」

「よくわからんが、納得してくれたんなら幸いです」

相手から差し出される手を取って、握手を交わす。

しかし手の平から伝わってくる感触は何やら空々しかった。

「私たちはキャンベル都市ギルドからミスリル鉱山の守備クエストに向かう途中だ。あの鉱山を魔族から取り返したのはキミたちらしいが、どんな手品を使ったのかな?」

「ただ運がよかっただけですよ」

「だろうな、D級だからな」

何だかやたらと等級に拘るな?

「冒険者には、その等級に見合った仕事がある。今回のミスリル鉱山にまつわる動きは、D級ごときの手に負えないものだ」

「ほう」

「ここからは、我々が引き継ごう。実力も経験も第一線の冒険者たちが。私はB級冒険者だが、こっちの連中もC級の猛者ばかりだ」

と街の冒険者は、背後に居並ぶ仲間たちに目を向ける。

複数人いるが、いずれも侮るようないやらしい目つきだった。

「鉱山を魔族から奪い返し、完全に人間のものにする仕事は我々が引き継ぐ。キミらは安心して自分たちの仕事に戻ってくれたまえ。他愛ない雑用にな」

言動こそ礼儀を弁えてはいたが、態度そのものは慇懃だった。

定められた階級が上というだけで、下の者を露骨に見下している。

それを不快に感じる自分を発見した時、『俺もまだ若いんだなあ』と感じた。

「キャンベルの街と言えば……」

俺は、かつて小耳に挟んだ記憶を呼び起こす。

「ブレイズデスサイズを追っていたのは、そこの冒険者でしたっけ?」

「何?」

ブレイズデスサイズ。

……というのは、かつてこの村の近辺に現れたモンスターだ。

巨大な蛇で、並のモンスターより遥かに危険ということで警戒された。

ただ、実際大蛇が現れたのは俺たちの住むラクス村近辺ではなく、隣街が担当するエリアだったが。

隣街。

というラクスから見た位置関係でのみ語られていた場所だが。

その隣街こそキャンベルという名の街だった。

「あの大蛇が死んだあとに聞いたんですがね。何故キャンベル都市エリアにいたはずの危険モンスターが、ウチの村に来ていたのか」

「待て……、ブレイズデスサイズを知っているのか……!?」

隣街=キャンベル都市ギルドの冒険者たちは、可能な限りの人数を動員して大包囲網を敷いて大蛇を囲み殺そうとした。

しかし包囲網を構成する冒険者の一人がヘマをやらかし、開いた穴から大蛇が脱出。

逃亡の末に、我らがラクス村の担当するエリアに突入してしまったらしい。

それがあの日、俺がありえぬ場所で大蛇と戦った知られざる理由だった。

「誇るならしっかりとした実績を示してからにしてほしいもんだな」

「そうだぜ! あの大蛇を倒したのは、このダリエルのアニキなんだからな!」

ガシタ。

お前が勇ましく主張することでは……!?

「テメエらのしくじりの尻拭いをしてやったのが、ウチのアニキなんだぜ! テメエら頭下げてアニキに礼ぐらい言えやあ!」

「ブレイズデスサイズを倒した……!? D級冒険者ごときが……!?」

フィットビタンだっけ?

街から来た冒険者は彼だけでなく、複数いる全員が表情を凍らせ、呼吸を止めた。

ちょっとした皮肉程度のつもりで言ったんだが、何そのオーバーリアクション?

あとになって知ったのだが。

キャンベル都市ギルドが行ったというブレイズデスサイズ大蛇の包囲戦。包囲網に穴を開けて標的逃亡を許したのは他でもない……。

フィットビタンが率いるパーティだったらしい。

俺は知らずのうちに彼らのクリティカルポイントを突いていたというわけか。

冒険者等級の高さで威張っていたのに、下ランクの者に獲物を取られた。

彼等の表情も凍りつくわけだ。