軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

178 『天地』のイダ、ボッシュートされる

土魔法の要諦は元素操作である。

森羅万象あらゆるものを構成する素子。それを根底から支配し組み替えること。

それをもって土魔法使いは土砂岩石を様々な形に練り変えて武器にする。

もしくはさらに細かい元素を分解、結合させまったく別の物質に作り変えたりもする。そういうのを錬金術と言って一分野となっていたりもするが。

そして魔族史上最高の土魔法使いとされる『天地』のイダは、その至高の土魔力であらゆる元素、あらゆる構成素を解明し、その果てに究極の構成素にまで行き着いてしまった。

空間を構成する元素の発見である。

『無』を構成する元素というトンチみたいなものを理解することによってイダの土魔法は、新たな段階に昇った。

空間の構成元素を操作できるということは空間自体を操作できるのと同じ。

その論法によってイダは空間を曲げ、歪め、あらゆる攻撃を自分から遠ざけることもできれば。

空間元素をいったん分解することで空間そのものも破壊し、空間の中にあるものも諸共消滅させる。

究極の攻撃手段だった。

この魔法によってイダは究極の盾と矛を手に入れたようなものであり、彼の時代、彼を破る者はついに現れなかったという。

生涯通算で屠った勇者の数は二百二十三人。

魔族史始まって以来破られたことのない最高記録だった。

そんな怪物が今の時代に暴れている……。

いかにも大変だということで俺の焦りは頂点に達した。

ラスパーダ要塞(消失跡)から急ぎ駆け出し、全力疾走で追いついた俺が目撃したのは……。

「な……!?」

レーディの剣が、白く輝く魔法の壁へ向かって振り下ろされた。

魔法壁は斬り裂かれ、脆くも千片に砕け散った。

「やったー!?」

「レーディ様が逆転の必殺技を修得したでござるー!!」

背後で狂喜乱舞する男たち。

アイツら何してるんだ? しかもゼスターまでいる?

「やった……、私の『断空』が空間を裂いた……!?」

「さすがですレーディ様!」

自分のしでかしたことに困惑の様子のレーディ。

そして周囲ではしゃぐサトメ。

本当に何があった。

「あ、ダリエルさん!?」

こっちに気づかれた。

「凄いです! 人間の冒険者には元から空間を超える技があったんです!」

「何言ってるの!?」

とにかく激戦を乗り越えんとして大変なところらしい。

相手は当然……。

「アイツか」

レーディの真正面に立ちはだかる白い子ども。

気持ち地面から浮いている。

「あれが伝説的英雄……。遥か昔の四天王『天地』のイダ……!?」

「………………見事」

イダは言った。

勝算はレーディの放った奥義に対してだろうが、瞳にはプライドを傷つけられた怒りの炎でギラついていた。

自分の得意魔法を破られたらそうなるか。

「そういえばそういう技があったな。『断空』か。極まったオーラの鋭さで空間すら斬り裂く。私が人生を懸けて解き明かした真理を気合いだけで再現する。なんと腹立たしい……!」

「アランツィル様が先だって『断空』を使ってくれたから、その答えに到達することができた。アナタへの攻略法の答えを」

アランツィルさん?

言われてみればたしかにいる。何でいるんだ? 俺のことも見つけて手を振ってきやがった。いるなら戦え。

「私が生きていた時代も、ヴァルハラでも、『断空』など持ち出してきた剣士はごくまれだ。認めよう。お前も我が敵になりうる強者だ。まだまだ成熟が足りないが、いま少し戦歴を積めばヴァルハラの門をくぐる資格を得るだろう」

何言ってるの?

いや、言葉の意味は理解しなくてもいい。相手がやる気になっていることはわかった。

子どもの総身から殺気が湧きたっている。

「いや、この際この場でヴァルハラへ昇る資格をくれてやろう。強くなるのは楽園に至ってからでも遅くはない。我が魔法の本領を、現世での最後の記憶とするがいい」

ゴゴゴゴゴゴ……。

何かが鳴動する音が聞こえる。

「なんだ? また空間を捻じ曲げているのでござるか?」

「『天地』の称号を賜ろうと、私の根源が土魔法使いであることは変わらん。空間操作を可能にするほどの膨大な魔力が、慣れた大地へ向けられればどうなるか」

いきなりだった。

膝をつき、両手が地面に触れる。

体が重い。

上から凄まじい力で押される感覚。押し潰されるような。

一体なんだ!?

「動けない……!? また空間固定を……!?」

「いや違う。これは重力操作だ!!」

土属性の高等魔法の一つ。

物質が持つ『重さ』操作して軽くしたり、何倍も重くする。

今の俺たちは、自分の体重を何倍にもされて自分自身の重さで身動きが取れなくなっている。

「そして……」

イダが手を振る。

それに呼応するように地面がうねり出した。

まるで海面のように波打ち、うなり、渦を巻き、地面そのものが荒れ狂っている。

「これが『天地』のイダの、真正面正攻法の土魔法!?」

「超重力で動きを止めた上で、大地を流動化し敵を飲み込む。そのまま倍加した重力の勢いも加えて遥か土中へ沈みこませる『アビス・セディメント』。兆をも超える土の重さに埋もれるがいい」

「うわああああッ!?」「土の津波に飲み込まれるううッ!?」

既にセッシャさんやゼスターが土の激流に飲まれて流されている。

海流のように流動化しながら、しかし土は土だ。重量がある。

このまま海で溺れるように飲まれたら、ずっと地中に沈んでいく!?

「安心しろ、現世での仮初の体は土中にて数十万年をかけて化石化しようと、魂は天に昇りヴァルハラへ迎えられるだろう。そしてお前たちは新しい体を得て永遠に戦い続ける存在となるのだ」

また訳のわからんことを。

しかし、人間族の明日を担うレーディたちを生きたまま土葬させられるか!

「かああああああッ!」

全力でオーラを噴出させて、超重力をはね返す。

重力操作も魔力で行っていることだ。オーラで対抗できないわけがない。

「ほう、いつの間にやら紛れ込んだか? しかしお前も活きがよさそうだ」

もはや勇者の役目がどうとか言っている場合じゃない!

『天地』のイダはここで止める!

「お前もよいヴァルハラの使徒となるだろう。ともに楽園へと進もうではないか」

「俺にはこの世でやることが多くある」

愛しい妻と育ち盛りの子どもらを残して地獄へも天国にも行けるか!

最初から全力全開。

『絶皇裂空』で勝負をつけようとしたところ……。

『はい、そこまでー』

間延びした声が天上より響き渡った。

皆がそれに反応して見上げると、そこに手があった。

巨大な手だ。

人一人容易に握り潰せそうなほどの……、いや人がハエ程度の対比になってしまうほど大きな手が天空から降りてきた。

「へ?」

そしてそのままイダの体を握り潰した。

瞬時のことで誰も反応できない。手中に閉じ込められたイダ自身すら。

巨大手は、握り拳の中にイダを入れたまま指をグニグニ動かす。

まるで掌中のものを押し潰すように。

実際に指の間からボキリと骨の折れる音、グシャリと肉の潰れる音、漏れ聞こえてくる。

おぞましい音だった。

『イダくんダウトになりましたのでー、じゃあねえー』

巨大手は握り拳のまま引き戻され天空へと消えていった。

あとには晴れ渡る空が残るばかりで、異変の名残も窺えない

「一体何だったんだ……!?」

そこに集う誰もが空を見上げて呆然としたが、起きた現象に説明をつけてもらえることはない。

いや、あの天から降り注いだ声は。

野太いわりにのんびりとしたトーンの声に聞き覚えが……。

「いや、やめよう」

俺は記憶の底をさらおうとする本能を押し留めた。

とにかく『天地』のイダの撃退に成功した。

ことにしておこう。