軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

175 ダリエル、要塞を見つけられない

一方その頃の俺だ。

俺は外をひたすら走っていた。

意味化されていない純粋オーラで脚力を強化したので馬より速く駆け、千里も瞬く間に走破できそう。

そんなに急いで何処へ行くかというと、国境へ向けてだ。

人間領と魔族領の境目。

そんなところに何の用があるのかと問われれば、正確に目指すのはラスパーダ要塞。

互いの境界線に立ち塞がる門の役割を果たしているアレだった。

「あそこは今、もっとも敵地寄りにある魔族の重要拠点……!」

もし『天地』のイダを名乗る誰かさんが本当に魔族に関わりあるというのなら、ラスパーダ要塞を経由して人間領へ入ってきた可能性が高い。

現地を窺えば何があったかわかるかもしれぬ。

事の詳細を掴めればレーディたちの助けになるかもしれぬ。

そう思って現地を目指す。

マリーカとグランたちはさすがに危険だからセンターギルドでアランツィルさんに託してきた。

「上手いこと要塞にゼビアンテスでもいて、首尾よく捕まえられれば洗いざらい吐かせてやれるんだが……!」

具体的なことは到着してからだな。

で、ガンガン駆けていく俺。

時間的にそろそろ国境に近づいていい頃だ。俺は少々スピードを緩めて周囲の景色を窺う。

森と山ばかりだが、少しは見覚えのある地形が出てきた。

ラスパーダ要塞までもう少しといったところだ。

「あの峠を越えれば……!」

……ラスパーダ要塞を遠景に望めるはず。

そう思って峠の頂上、開けた景色を見るが……。

「……あれ!?」

ない?

ラスパーダ要塞がない!?

なんで!?

あの小山と小山の間辺りに聳え立ってるはずなんだが!? ないぞ!?

「もしや道間違えたか俺……!?」

最初に疑ったのは自分の勘違い。

あんな巨大な要塞が風に吹かれてどっかへ転がっていくわけもないので、常識にありえるのはそれだけだ。

俺は前を見る。

後ろを見る。

景観は過去の記憶と完全一致した。

太陽の向き、風向き。

これも間違いない。

間違いなくここはラスパーダ要塞があるはずの区域。

なのに何故要塞がない!?

「もっと接近して様子を見るしか……!?」

あまり近づきすぎて守備兵に見つかると厄介だから避けたかったんだが。

しかしさらに情報を得ようとしたら、それしか方法はない。

俺は慎重に、景色に隠れながら要塞接近を試みた。

そしてさらにビックリした。

「要塞が消えている……!?」

要塞は、ここにたしかにあった。

『あった』のだ。

過去にはあって今はない。

かつて要塞があったはずの場所は、無惨な焼け跡となって平地を晒すだけだった。

「本当に一体何があったんだ!?」

ラスパーダ要塞は、魔族領でも一、二を争う巨大建造物。

それを吹き飛ばす魔法なんて一体どんな極大消滅魔法を……!?

「やったのは……、火炎魔法か……!?」

焼け跡からいまだに立ち上る熱気に、そう判断した。

としたらグランバーザ様?

いや、さすがのグランバーザ様でも要塞を丸々蒸発させるほどの極大火炎なんて起こせるはずがないし、要塞を吹き飛ばす理由もない。

ありえないことを目の前に俺が呆然としていると……。

「グランバーザ様! 死んじゃダメなのだわ! 死んだわ!」

「いや大丈夫だよ……! 処置は無事済んだし命に別状はない。……勝手に殺すな!」

遠くから喚き声が聞こえる。

……今、グランバーザ様といったか?

俺は矢も楯もたまらず跳躍し、声のした方へ駆けた。

……いた。

焼け跡から退避した、魔族領寄りの後方の平野部に、いかにも即席の野戦基地が置かれている。

多くの兵士があたふたと行き交っているが……。

その中に……!?

「グランバーザ様!?」

もう一人の父親というべき、あの人が横たわっていた。

しかも全身酷い怪我で。

適切な処置を受けて包帯塗れであるが、その痛々しさは充分伝わってきた。

「……だ、ダリエルか……!?」

駆け寄ってくる俺にグランバーザ様はしっかりとした反応を示しなされた。

負傷をかかえても心までは弱っていない。

「あっ、ダリエルなのだわ!?」

「ダリエルだって!?」

周囲にも俺の存在が伝わり、注目を浴びる。

久々の古巣へ戻ってきたことを懐かしむ余裕もない。

「グランバーザ様、そのお怪我は……!? 一体何があったのです!?」

「お前がここに来たということは、人間側の方でも何かあったということだな? ……ダリエル、心して聞け……!」

グランバーザ様は、負傷にひきつる唇を叱咤して語ろうとするが。

「聞いてなのだわダリエル!」

そこへ空気を読まないヤツが割って入った。

風の四天王のくせに空気を読まない!

「インフェルノのヤツが現れたのだわ!」

「なにッ!?」

聞いた途端、不安的中の思いがした。

俺がラクス村近辺の森で一刀両断した赤マントの怪人。

たしかに殺しはしたものの、そのまま終わったという実感が持てず、今日まで喉に引っかかっていた。

「ヤツは生きていたのか……!? いや、同じマントを着けた仲間がいた?」

「わかんないのだわ! アイツは鎖をぶわーっと、火をぶわーっと! グランバーザ様が大ケガで、他に誰も役に立たないし! そしてドロイエの大先輩みたいな土の人が現れてムニャムニャフチュンとした挙句、要塞がドーンってバーンと消えちゃったのだわよなのだわなのですわ!!」

「落ち着け!!」

ゼビアンテスは混乱していた。

「ダリエルお前も落ち着け。……いい、私から話す」

最初からグランバーザ様が話そうとしていたのに、ゼビアンテスが余計なことするから話が進まん。

グランバーザ様からの説明はきっちり整理されていて、すとんと入ってきたが、それでも話の内容はいかにも飲み込みがたい理解を超えるものだった。

「ヴァルハラ……!? それに地獄……!?」

「そうだ、インフェルノとやらの正体は、地獄から抜け出した過去の四天王らしい。地獄に堕ちるに相応しい、罪に塗れた外道のな」

「それを追討するためにヴァルハラから派遣されたのが『天地』のイダ……!?」

なんてこった。

では今、人間領を我が物顔で進行している『天地』のイダは、正真正銘の本物だっていうのか!?

「……インフェルノとやらは人間領の方へと逃げ込んだ。『天地』のイダ様はそれを追って進入したのであろうが……」

グランバーザ様は言葉を詰まらせた。

その理由は俺にもわかる。

『天地』のイダが生きていた七百年ほど前。その時代は今のように相互不可侵の不文律ができたわけでもなく、真の意味での戦乱時代だった。

勇者と四天王だけでなく、戦える人間と魔族なら誰もが前線に出向き、いたるところで血みどろの戦いを行っていたという。

年間に出る死者が何万人というのが普通の時代だった。

「……そんな時代を生きた人が、当時の気分のまま敵領を闊歩したらどうなる!? あの方に悪気はなくても未曽有の大惨事となる。下手すればそれをきっかけに再び全面戦争に突入しかねんぞ!」

「はい。……はい!」

「ダリエル、こんなところで油を売っている場合ではない! 今すぐイダ様を追って止めるのだ。実力的にも、あの方を止められるのはお前しかいない!」

「わかりました!」

俺は立ち上がる。

事態は想像以上に最悪なことになっていた。

何が最悪かって、『天地』のイダ様が本物だったってことだ!

「だ、ダリエル……!?」

そんな俺に駆け寄ってくる女性。

見覚えがあった。

現四天王の一人である『沃地』のドロイエだ。

「本当にダリエルなのか? 一体今までどこに……!?」

「何故こんなところに留まっている?」

俺は飛び出す前に、疑問を一つぶつけた。

ラスパーダ要塞はインフェルノに破壊され、守備兵たちがこんなところに投げ出されているのはわかった。

「しかし、なら何故いまだにこんなところでまごついている? もっと後退して近場の基地に身を寄せるべきなんじゃないか?」

「それは……!? でも勇者を防がないと……! 要塞を失っても……!」

「バカ!!」

ドロイエの細い肩がビクリと震える。

「要塞を失った今、こんなところに留まって防御も何もあるか! 何より、要塞がなくなってダメージを受けるのは人間族の方だ!」

「え? え?」

「ラスパーダ要塞は元々、魔族領に侵攻する勇者を後方支援するために人間が建設した。それを魔族が奪って防衛拠点にした。そう講義してやったのを忘れたか!?」

ラスパーダ要塞は人間族こそが必要としていたものであり、それが跡形もなく消え去れば、人間族は魔王様討伐のルートを一から考え直さなければならなくなる。

「そうでなくても今人間側は『天地』のイダが進入してきててんやわんやだ。この混乱の隙にしっかりと軍を立て直すことが、兵を率いる者が今もっともすべきことだろう!?」

「は、はい……!」

つい言葉が厳しくなってしまった。

アランツィルさんの烈気が俺の中に移ってるな。

「ともかく要塞諸共兵糧も失って、こんな野っ原に大人数を留め置くことなどできない。速やかに後退して事態を魔王軍全体で共有し、体勢を立て直せ。要塞代わりの野戦基地を設営するにもそのあとだ」

「わ、わかった……!?」

「グランバーザ様をちゃんと休めるところまでお運びしてくれ。頼んだぞ」

指示を終えると、俺は再び駆け出した。

人間領へ向けてとんぼ返りだ。

レーディは、既に『天地』のイダと接触したのだろうか?

無理をしていなければいいが……!