軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

150 英霊、顕れる(四天王side)

ラスパーダ要塞に現れたインフェルノの力は圧倒的だった。

要塞守護に就く魔王軍の兵士たちは右往左往するばかり。

「敵襲ッ! 敵襲うううううううッ!?」

「どうした!? 早く進め!? 四天王の方々が窮地だぞ!?」

「ダメです戦いが激しすぎて近づけません!? 下手に近づいたらそれだけで吹き飛ばされる!?」

「戦いの次元が違い過ぎる……!?」

グランバーザだけではない。

ドロイエが、ベゼリアが、ゼビアンテスまで珍しく真剣に戦かっているというのに、相手は少しも怯むことがなかった。

「あーーーーーーーー、だっり……」

赤マントのインフェルノは、多分に気の抜けた態度で敵を見下ろしていた。

既にほとんどの人員が、ダメージを追ったり体力を失ったりで片膝をついている。

「なんだと……!?」

「強い……!? バカな。確実に勇者より上……!?」

ベゼリアもドロイエも、あまりにも唐突な強敵の出現に翻弄されていた。

そしてそれ以上にゼビアンテスが混乱していた。

「どういうことなのだわ……!?」

彼女は、先日のラクス村での戦闘を経験した唯一の者だった。

「アンタ、死んだはずなのだわ!! ダリエルがこの手で殺したって言っていたのだわ!!」

「何ッ!? それはどういう……!?」

ドロイエの反応も無視してゼビアンテスはがなり立てる。

「アイツがウソをつくなんてありえない!? どうやってアイツを騙して逃げおおせたのだわ!?」

「うっせーーーーー、っつの。どうでもいいだろう。これからてめーも死ぬんだがからよ……」

インフェルノはまたも気の抜けた口調で喋り続ける。

これもまた今までの彼にない口調だった。

「ちょっとぉ♡ 勝手に話し進めちゃダメよぉ♡」

「いかニモ。今日の標的はグランバーザなる魔族ただ一人。むしろ他の雑魚どもには、グランバーザの最期を伝える生き証人となってもらおうではないカ」

「そうねぇ♡ ダンディなグランバーザおじ様をぉ♡ 千切って砕いてジワジワ嬲ってミンチにしていく様を、ダリエルちゃんに伝えてもらわないといけないわぁん♡」

「彼の心が引き裂かれ、憎しみに支配されるヨウニ」

不気味だった。

一人の体から明らかに複数の声色が漏れ出ている。

「本当に何なんだアイツは……!?」

「人間でも、魔族でもない。バケモノだ、アイツはバケモノだ……!?」

魔族最強である四天王すらも圧倒される怪奇。

誰もがその異常さに気づいていた。

「……わかりましたよ。じゃ、あのじーさんを集中して殺せばいいんすね?」

「そういうことよん♡ アボズちんもぉ、ジークフリーゲルちんが消滅した途端元気になってぇ♡ 現金ねぇ♡ すっかり饒舌ぅ♡」

「アイツうざかったんで。先輩風吹かせてだりーんすよ。消えてくれてマジ感謝っすわ」

インフェルノはマントの内より両手をかざし出す。

その両手より伸びる十指の一本一本から、鎖が垂れていた。

計十本の鎖。

それを見た途端四天王の表情が凍った。

「ヒィッ!?」

「また来るぞ! 衝撃に備えろ!!」

ドロイエの警告から、実際に衝撃が走り来るまで瞬時もなかった。

「『黒縄剛破衝』」

インフェルノの振り回す鎖へ真っ黒なオーラが伝わり、渦巻くほどに苛烈な衝撃波を生み出す。

四天王たちはそれぞれの属性の必殺魔法を撃ち相殺せんとするが、一つとして抗することなく打ち破られた。

漆黒のヒット(打)オーラを込められた鎖は四天王の各人にそのままの威力で届き、木っ端を飛ばすように蹴散らす。

「うぎゃあああああッ!?」

「きゃああああああッ!?」

四天王が子ども扱い。

それは魔王軍にとっての悪夢だった。

「なんて強さ……! ダリエルを苦戦させたって話はマジだったのだわ……!?」

一人、あらゆる場所の戦力比較をできるゼビアンテスは、その絶望的な状況に震えた。

ダリエルは強いが、その強さは別次元の強さ。

かつてゼビアンテスが一対一で戦って歯が立たなかったほど。

そのダリエルが苦戦して倒したというのだから現役四天王を鎧袖一触できたところで不思議はない。

そんな超絶な強者が二人三人といること自体が不思議であったが。

そして、もう一人のかつての最強が、既に沈まんとしていた。

グランバーザは全身血まみれとなって蹲っていた。

これまでインフェルノからの鎖攻撃をもっとも多く受けていたのは彼だった。

若い後輩たちを庇うように身を挺して、渾身の魔炎障壁で鎖を防ぐ。

一撃目は防げた。二撃目も確実に防ぐことができたが、三からは無理だった。

現役を退いた彼に、そこまでの体力は残っていなかったのである。

「……よえー、これが最強っすか? 魔族も弱くなったものだぜ」

再びインフェルノの手から放たれる鎖。

反応してグランバーザも動く。

「魔炎障壁!!」

グランバーザを守るべく猛火の壁が立つが、黒鎖により一瞬のうちに砕け散り、その向こうにいるグランバーザまで引き裂いた。

「ぐああああああッ!?」

走る鎖が皮膚を裂き、体の奥まで潜り込んで肉を弾き飛ばした。

凄まじい苦痛の攻撃。

必要以上に相手を苦しめる意図を持った嗜虐の攻撃方法だった。

「老イカ。哀レナモノダナ」

インフェルノのマントの奥から、さらに別の声色が響く。

「オ前ノ、ソノ肉体ガ全盛期ノ漲ルモノデアレバ、あぼすゴトキニ遅レハ取ラヌモノヲ。惜シイ、残念ダ。老イトハ実二醜イモノダ」

「…………」

グランバーザは立ち上がる力もなかった。

血と共に全身から力が抜ける。

「ソレ以上ノ老醜を晒ス前ニ、美シキ終ワリヲ与エテヤルノモ情ケ。望ムナラ、ソノアトニ我ラガ一部トシテ永遠ノ生ヲ与エテヤッテモイイイ。ソノ身を憎シミニユダネレバ……」

「おぞましきバケモノめ……」

グランバーザは言った。

絶体絶命の窮地と思えない穏やかな声だった。

「よくわからんが、お断りするよ。お前と同類になるなどゾッとする」

「……」

「老いた自分もそう悪くないと思っている。私の時間はとっくに終わった。しかしそれでも、これから始まる新しい者たちを見守る時間が老いならば、割と素晴らしい時間だ……」

グランバーザは後継者を育てることに失敗した。

実子バシュバーザは父の何も受け継ぐことなく自滅して果てた。

しかしそれでもダリエルが生き残ってくれるなら、ダリエルからさらにグランへと引き継がれるものがあるならば。

グランバーザの生は意義があったと救われる。

「ゼビアンテス。……ダリエルに伝えろ。私が死んでも怒るな、悲しむな。すべて自然のことだ」

「グランバーザ様! 逃げるのだわ!!」

「自然の理に逆らうことこそおぞましい。この異物を、善に従って滅ぼせと」

グランバーザには、もはや抵抗の力など一滴も残っていなかった。

インフェルノからのとどめの力が走る。

「……うぜえ死ねよ」

放たれる黒鎖。

それが今度こそグランバーサの体を両断すると思われた、その寸前。

鎖がはね返された。

クランバーザの周囲から土が盛り上がった末に硬化。敵の攻撃を完全に防ぐ。

「ぐおおおおおおおッ!?」

それだけでなく体ごと吹き飛ばされるインフェルノ。

完璧すぎるほどに高度な魔法防御だった。

「土流障壁!? ドロイエ!?」

ゼビアンテスが振り向いたところ、ドロイエは大きく首を左右に振った。

自分ではないと。

「……天と地の間にあるもの。すべて隔てなし万象なり」

誰かが言った。

その誰かはグランバーザの前に立ち、庇うように立ちはだかる。

「だ……、誰だ……!?」

グランバーザですら突如の事態を把握できなかった。

自分を助けてくれたであろう謎の誰かにも心当たりがない。

少年のように小柄で、さっぱりとした容姿の、そして目が眩むほどに白い。

全身白い少年が赤マントの怪物と対峙しあう。

「貴様アアアアアア! 貴様アアアアアアアアッ!?」

インフェルノはそれまでにない激しい気迫で白い少年に相対した。

まるで猛犬に出会った猫、あるいは敏猫に出会ったネズミであるかのようだった。

「何を驚く? お前たちが地獄から這い上がってきたように。私が降り立つこともありえるさ。お前たちをあるべき場所に戻すために」

「あ、アナタは……!?」

年長のグランバーザですら、白い少年に敬意を表さずにはいられなかった。

そんな神聖な雰囲気が、白い少年にはあった。

「私は、地獄とは反対の場所からやってきた。……ヴァルハラの使徒とでも言おうか」

「ヴァルハラの……、使徒?」

「かつてはこうも呼ばれていた。魔王軍四天王の一人……」

白い少年は言った。

「『天地』のイダ」