軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

146 インフェルノ、割れる

戦えば戦うほど、あの赤マントがわけわからなくなる。

オーラと魔力を合わせた?

そんなことが可能なのか? 一人によって?

たしかにヤツの放った『逢魔裂空』とやらからは、オーラと魔力の両方を感じ取ることができた。

『凄皇裂空』に極めて似た技ではあるが『凄皇裂空』がアランツィルさんの経験と技術によって威力と規模を上げたのに対し、ヤツの『逢魔裂空』とやらは魔力で同じことをしている。

『逢魔裂空』のオーラ斬撃が赤いのは魔力によるものだ。

グランバーザ様の奥義魔法『阿鼻叫喚焦熱無間炎獄』が自然にはありえない黒の炎であることと同じ理由。

魔法にはそういう使い方もある。『呪術』という魔法の一系統によって現象に作用し、形質を変えるのだ。

グランバーザ様の究極魔法の場合、それによって消し止められたあとも対象を焼き続ける呪いの魔法となる。

ヤツの赤い『裂空』の場合は……!?

「驚いているな……? よい驚愕だ。『逢魔裂空』の意味をしっかりわかる者だけが出せる驚愕の表情だ」

「……!」

くそ。

こっちの心情を見透かされるのは癪だが、他に感想が浮かびようないのだからどうしようもない。

「使えるというのか……、オーラと魔力の両方を……!?」

そんなことがあるわけがない。

オーラは人間。

魔法は魔族。

それぞれがそれぞれのみ使うことができる固有能力のはずだ。

だからそれを一個の者が同時に使えるなんてありえない。

もし努力次第で何とかなるのだったら、前半生を魔族の中で過ごした俺ができるようになってたっておかしくないじゃないか!?

「オーラと魔力はまったく別のもの。……そう思っているのか?」

赤マントが聞いてきた。

俺のことを試すように。

「しかし果たして本当にそうだろうか? オレたちはクズどもに『魔法のようなもの』を教えてやった。オーラであたかも魔法を使っているように振る舞える技法を」

「何の話だ?」

「帰ったら聞いてみるがいい。そしてダリエル。魔族の中で過ごしたお前も気づいているのではないか? 魔力とオーラに、実はそう大した違いはないと」

「生命力から発揮されるエネルギー。そういう点では魔力もオーラも同じものだ」

ただ質と運用法が多少に違う。

それこそが種族の差ってことだろう。

「そう、本来は同じものなのだ。一つのものだった。それを二つに分けた者がいる」

「それが魔王様だとでも言うつもりか?」

「信じなくともいい今はな。しかし世界の真実に近づけば嫌でもわかることになるだろう裁かれるべきは誰なのか」

スッと気配が引いていく。

あの赤マントが殺気を収めた。

「今日のところはこれぐらいにしておこう。今ここでお前との決着をつけるのは惜しい」

「逃げる気か?」

「逃がしてやる気なのかもな。どちらにしろお前が重要な因子だ。我らの計画を達成するために必ず協力してもらうとしよう」

「……」

「新たな準備が整った時また会うことになるだろう。その時までの手すさびに一つヒントを与えてやる」

「ヒント?」

「オレたちの正体に辿り着くまでのヒントだ。オレたちはオレたちを指してインフェルノと呼称することにしたが。オレたちではないオレ自身の名は……、ジークフリーゲル」

「どういうことだ……!?」

「興味があれば調べてみることだな。次に会った時、どこまで正解に近づいているか楽しみにしておこう。それではさらば……」

「『絶皇裂空』」

「なあッ!?」

飛びのこうとする動作の一拍手前。行動の頭を抑えるように放ったのは『絶皇裂空』。

『凄皇裂空』を超える、俺の持つ中で最強の技だ。

俺が追撃を仕掛けてくることは向こうも予測していただろう。

それを充分いなせる自信があったから態度も余裕だったのだろう。

しかし俺が『凄皇裂空』以上の切り札を持っていたことは予想していなかったらしいな。

「おっ……『逢魔裂空』……!?」

放たれる紅蓮のオーラ斬撃。

しかし大放出量のオーラ斬撃に抗する威力はなく、瞬時のうちに弾きとばされた。

「バカなッ!? これほどの奥の手をまだ持っていたとは……!? どれほどのオーラ量を個人で蔵して……、ッ!? うおおおおおおッ!?」

『逢魔裂空』の相殺で僅かながらにできた余裕。

その寸隙で『絶皇裂空』をかわしきるとはとんでもないヤツだ。

まさしく達人の技量だ。

しかし俺だって、そのままで済ます気はない。

咄嗟の回避で体勢の崩れきったところを、すかさず追撃してやるぞ。

「くおおおおおッ!? なんという猛撃!? なんという執念!?」

「お前との戦いに次はない! ここで終わらせる!」

敵が目の前にいるというのにむざむざ逃がすと思ったか!?

ここで逃がせば必ず次の災いになる。そうわかっていて黙って見送るバカがいるか!?

危険の芽を摘み取る。生き抜くためにやって当然の処置のためにも……。

ラクス村を襲ったこと、俺の家族を狙ったこと。

今すぐこの場で死をもって償わせる!

「死ねッ! 死ね死ね死ね死ねえええッ!!」

「おのれえええッ! 執念深いヤツがああああッ!!」

充分に畳みかけているはずなのにまだ粘る。

基本的な技量と精神力の、その類まれなる卓越さのなせる業だった。

やはり強い。ただ力量があるだけじゃなくて粘り強い。

間違いなくグランバーザ様、アランツィルさん級だった。

だからこそここで倒してしまわねば。息を整え『逢魔裂空』を練り上げる余裕を与えてはならない。

「かああああッ!」

「しまった!?」

ここでついに俺にとって、もう一つだけ有利である点が生きた。

ヤツの使う剣が折れた。

名工スミスじいさんの遺作ヘルメス刀が、粗悪な数打ちの剣に勝ったのだ。

武器がなくなれば勝利は見えた!

「とどめだ!」

「おのれッ!? ドリスメギアン助けろ!!」

赤マントの最後の言葉は何者かへ助けを求めるものだった。

しかしそんな救命の声も虚しく……。

俺のヘルメス刀は、ヤツの脳天へとめり込み……。

そのまま頭を割って……。

喉から胸元へと斬り降ろし……。

股から駆け抜けていった。

「ぐおおおおおおおおおッ!?」

信じがたいことに赤マントは、正中線を沿って一刀両断にされたにもかかわらず生きていた。

即死のはずだろうに。

だが致命傷であることは間違いない。

「何故だああッ!? 何故オレを助けないいいいいッ!?」

赤マントは真っ二つになりながらもまだ言っていやがった。

念のために周囲に注意を向けてみる。

しかし俺の探知が届く範囲に、俺たち以外の強者の反応は確認できなかった。

「誓い合ったではないか……!? オレたちで必ず魔王を倒し、世界の歪みを正そうと……!? オレたちで協力して……、同志ではなかったのか!? あれはウソだったのかああああッ!?」

「お前は多くの人々を利用してきた。ゼスターたち新規勇者やローセルウィ。他人を利用する者は、他の誰かから利用される者でしかないんだ」

何となく指摘してみた。

コイツが最後にもっと絶望するかなと思って。

さらに予期しない、驚くべき出来事が起こった。

ヤツの体が燃え始めた。

両断し、右と左に分れた両方が。

俺はただ刃物で両断しただけ。火の気なんて少しもないはずなのに。

炎は斬り裂かれた傷口から、血のように漏れ出しているようにも見えた。

「許さんんんッ!? 許さああああああッ!? オレはこんなことのために地獄から這い上がったのではないいいいいッ!? こんな結末がオレの結末ではないいいいッ!? 認めるか、認めるかああああッ!?」

「お前が認めるかどうかなんて、どうでもいいことだ」

それよりも真っ二つに裂かれながら、なんでこんなに元気なの?

元気だが、もはや消滅の運命は避けられないようで、出血するように流れ出る炎にみずからを焼かれて燃える。

燃える。

燃える。

燃える。

もはやヤツの体で燃えていない部分は一つもなく、完全な火だるまだった。

俺も消し止めるつもりはないから、すべてを焼き尽くすまで燃えるだろう。

「おのれ……、ゆるさ……ない……、おれは……まおうをたお……に、……った、ゆう……。……。………………」

結局コイツが喋らなくなったのは、灰になってからだった。

それまでは喧しく喚き続けた。

本当に何だったんだ?

しかし、三勇者の失踪、ミスリル強奪事件に端を発した一連の騒動は、黒幕の死によって終結した。

……と思う。

この経緯を見る者がいれば、こう偉そうに言ったかもしれない。

『殺さずに捕まえて情報を引き出せばよかったのではないか』と。

そんなのは現場を知らない素人意見で、成果が十あるとして十一以上を取れて当たり前と思っている妄想論者の意見だ。

実際の闘争において得られる成果は常に理想より低い。

十のうち五を取れれば上々で、七、八ならば望外の幸運。

十すべて取れたなら敵の策略を疑うべき。

特にあの赤マントは最強勇者四天王級の実力者だった。

そんな輩を生かして拘束し続けるなど実質不可能。この場で殺すのがベストの選択だった。

無論、引っかかることはまだまだあったが、それをこの場で追及するのは無理だろう。

俺は荼毘の火がしっかり燃え尽きたのを見届けてから、セルメトを抱えて村に戻った。