軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

142 マリーカ、撃退する(勇者side)

「なんでマリーカさんが外に!?」

ダリエルの妻、マリーカがいた。

襲撃者たちの言動から、標的が彼女であることは明らかだった。

そして息子のグラン。

本来なら何より奥底に隠し守らねばならないのに、何故や表へ出てきているのか。

ご丁寧に赤子グランまで抱きかかえていた。

「下がってください!」

レーディは、風魔法で飛ばされつつ、勇者ならではの身体能力で着地。

マリーカのすぐ隣だった。

ゼビアンテスも風の助力を受けてふわりと着地する。

「マリーカさん! この襲撃者たちの狙いはアナタとグランくんです! 安全な場所まで下がってください!!」

「そうなのだわ! 標的が一番前に出るなんてアホなことなのだわ!!」

レーディとゼビアンテス、双方から下がるように諭されながらも村長夫人は微動だにしない。

「ダメです」

「「なんで!?」」

マリーカの態度は決然としていた。

「私は村長の妻。村を守る夫の一番に支えるのが仕事。そんな私が皆さんの陰に隠れて安穏としているわけにはいきません」

殊勝なことを言うが、事態は緊急。

「悪人が私を狙っているなら、あえて私は表に出ます。そうすれば悪人はこちらに集まってきて村への被害は抑えられる」

「そうかもですが……!?」

たしかにマリーカのいうことにも一理あった。

自分自身を囮にしてでも村を守ろうとする覚悟は村長夫人の気概があるが、それでも無謀としか思えない。

標的となるマリーカはひ弱な一般人で、敵の一人でも突破されたら持ちこたえようがないからだった。

このあまりにも危険な作戦をプロの戦闘者たちは容認することができなかった。

「とにかく下がってください! アナタに万一のことがあったら私たちが! ダリエルさんに顔向けできません!」

「そうなのだわ! アナタが死んだら誰が三時のおやつを作ってくれるのだわ!?」

レーディとゼビアンテスが必死に壁を作るものの、傷も痛みもものともしない凶賊はジワリと迫ってくる。

勇者と四天王のタッグをもってしても焦りが滲み出る。

その時であった。

二人の脇を擦り抜けてマリーカが前に出た。

「えええええッ!?」

「何やってるのだわ!? ヒトがせっかく守ってやっているのに!?」

みずから敵の面前に進み出て、相対する。

「赤ん坊と母親! コイツだ! コイツを殺せええええーーーッ!?」

そして案の定迫ってくる凶賊たち。

それに対してマリーカは、左腕でグランを抱きかかえているので右手で持つトレイによって、敵を殴りつけた。

「あぼあッ!?」

側頭部を殴りつけられ、凶賊の一人が吹き飛ぶ。

さらに二発目三発目と、マリーカがトレイを振るごとに大の男の体が空中を飛んだ。

「「ええええええええッ!?」」

それに驚くレーディ、ゼビアンテスの二人。

「あのおぼんって!? わたくしたちへのお仕置きアイテムじゃなかったのだわ!? ガチの悪者にも効くのだわ!?」

「待って!? ……まさか、あのおぼん……!?」

勇者であるからこそレーディ、気づく。

「オーラが込めてある……!?」

「マジなのだわ!?」

オーラの力で威力の上がったトレイは、襲いくる凶賊を次々叩きのめしていった。

「うぎゃああああッ!? 何だコイツ強いぞ!?」

「ひ弱な女じゃなかったのかよ!?」

味方だけでなく敵まで混乱し、マリーカの独壇場と化していた。

「マリーカさん……!? まさかギルド登録を!? それでオーラ能力が解放されて……!?」

「もちろん。村長の妻ですから村に貢献するためにできることはすべてやるわ。夫が不在でも変事に備えられるようにこの一年、家事と子育ての傍ら体も鍛えてきたの!」

「ウソだあ!?」

マリーカのトレイ捌きは流れるようで、一時の淀みもない。

トレイの底で殴りつけたかと思うと、一転し向きを変え、トレイの縁で斬りつける。

すると襲いくる凶賊たちは鋭い切り傷を負って吹き飛ばされた。

「水よ!」

「火よ!」

もはやすっかりタネの割れた疑似魔法で攻撃するものの、マリーカはトレイを盾代わりにして容易に防ぐ。

反撃とばかりにトレイを投げる。

すると円形のトレイは鋭く回転しながら空を駆け、凶賊たちが持っているたいまつに命中し切って落とした。

「えぇ……!? まさかこれって……!?」

トレイの底で殴る(打)。

トレイの縁で斬りつける(斬)。

トレイを盾代わりにする(守)。

トレイを投げて飛び道具にする(突)。

「トレイ一つ全オーラ特性を活用しているッ!?」

もはやわけがわからなかった。

そうこうしているうちに、マリーカは敵が所持するたいまつをすべて斬り落とした。

それらは疑似火炎魔法を使うための大事な種火。

炎で村の家屋を燃やされることをもっとも懸念していたため、火が封じられたのは大きな好転だった。

「今よ! 一気に畳みかけて!」

今やマリーカが総指揮をとって村長夫人の威厳が際立っていた。

「たとえ痛みに耐えられても動きを封じる方法はいくらでもあるわ! 落ち着いて柔軟に考えるのよ!!」

マリーカの予期せぬ活躍に、村の冒険者たちも度肝を抜かれた。

それがいいショックになったのか、一旦空白になった頭に新鮮なアイデアが浮かぶ。

「うおおおおーーッ!! 『地走爪』!」

突如として走る突進。

多くの凶賊を轢き飛ばすのは……。

「セッシャさん!?」

レーディが、その通り縋るのを見たのは……。

勇者パーティのメンバーの一人、槍使いのセッシャだった。

得意の槍を水平にかまえ、突進で敵を飛ばすことに重点を置いた動きだった。

「勇者殿! 今はとにかく殴り飛ばすのでござる!」

戦闘中のセッシャ咆える。

「こやつらの痛みに怯まぬ異常さには混乱されもうしたが、それさえ除けば大した連中ではござらん!! 冒険者の強さに直せばD級から精々C級といったところ!」

つまりA級相当の実力を持ったレーディやセッシャの敵になるはずもない。

普通にやっていれば普通に勝てる相手だった。

「殴っても殴っても起き上がってくるなら起き上がらなくなるまで殴り続けるのみ! それこそ強者の戦いでござる!!」

「そうね……!」

レーディはそんな簡単なことも失念していた。

ただ敵が痛みを恐れないという、よくよく分析してみれば実にくだらない特異性をもって。

痛みを感じない、恐れないというのはたしかに驚異的なことだが本質には関わりない。

それだけで敵の実力が変わるわけではないというのに。

そう思って落ち着きを取り戻せば、それまで見えるべきなのに見えなかったことまで見えてくる。

「あれ……!?」

レーディは、改めて敵の凶賊を見定めて気づく。

いや、思い出したというべきか。

あの赤く血走った眼の色を、どこかで見たということを。

しかもそう昔ではない。つい最近会った大きな出来事。

「そうだわ……、アルタミルやゼスターが、ミスリルを奪おうとした時の……!?」

まるで血のように赤い目の色。

ダリエルはそれを、『洗脳魔法によるもの』と看破していた。

「じゃあこの人たちも……、あの時のアルタミルと同じ……!?」

一見無関係な二つの事件が、唐突に繋がりを見せた。

「じゃあ、彼らが痛みに少しも怯まないのも洗脳魔法で正気を奪われているから……!?」

態勢を立て直したラクス村の陣営は、もはや基礎力で劣る凶賊たちに負けるはずがなくジリシリ形勢を傾けていった。

降参しないなら無理やり気絶させる。縄か鎖で拘束する。毒で痺れさせる様々な方法がある。

ラクス村の冒険者たちは乱戦に向かないそれらの方法を何とか実行し、敵勢を一人一人処理していった。

騒乱は収束へと向かっていった。

この時、ダリエルはどうしていたか。

この場にいなかったダリエルは……。