軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

139 刺客、迎撃される(勇者side)

ラクス村の外れに、奇妙な一団が現れた。

村人ではない、明らかに部外者だった。

数にして約十人と言ったほど。

その顔触れには漏れなく正気を失った凶相が浮かんでいた。

「いいか、これからオレたちはあの村を襲う」

一団のリーダーらしき男が言った。

年齢四十前後ほどの、目が異様に血走り呼吸が荒いことを除けばどれをとっても平凡な中年男性であった。

「とにかく目につく者は誰でも殺せ。女子どもも区別するな」

「女? 女は犯していいのかよ?」

「ダメだ、犯すより殺すことの方が優先だ。犯す暇があったら一人でも多く殺せ。それが命令だ」

インフェルノからの。

彼ら一団は、インフェルノの手によって放たれた刺客の一団。

正気を奪われ、代わりに狂気を植え付けられ、物の怪の意のままに動く傀儡と化している。

「目標は皆殺しだ。効率的に、ただしできるだけ惨たらしく殺せ。顔の見分けがつくギリギリまで壊し尽すんだ。特に……」

打ち合わせが続く。

「赤ん坊を連れた母親が最優先だ。そういうのを見かけたら必ず殺せというのが重ねての命令だ。一際惨たらしく殺せ。何ならソイツだけなら犯してもかまわん」

「マジかよぉ……! ひゃっはあ……! オレが一番に見つけてやるぜえ……!」

凶相の集団は、良心を奪われて判断力もないのか、それとも元からクズであったのか。

とにかくこれから行われる虐殺に一切の呵責も交える気配すらなかった。

彼らは既に、ダリエルが誘いに乗って村から出ていることを確認している。

ダリエルの留守を狙って、彼の故郷をズタズタに荒らして回るのが彼らの役割だった。

特にダリエルの妻子を。

ダリエルのもっとも大事なものを壊し穢すことで彼の心に憎しみを充満させる。

ローセルウィの希望で、まだ村にいるであろうセンターギルド理事長も標的に入っていた。

ここで理事長が横死すればローセルウィを糾弾する者がいなくなり、さらに空席となった理事長の椅子を狙うチャンスも生まれる。

そのために放たれた集団は、今まさに役割を果たそうとしていた。

「行くぞ! 村から離れたヤツがいつ戻ってくるかわからん! 戻ってきたら目論見は失敗だと言っておられた! 時間との勝負だ! 限られた時間の中で一人でも多く殺……、ぶるぎゃあッ!?」

言い終わるより前に、男の頭が吹き飛ばされた。

見えない透明の何かで殴りつけられたように、衝撃のあった頭部を起点に体ごと飛ばされる。

その弾丸を放った者とは……。

「やった! 命中なのだわ!!」

魔王軍四天王の一人ゼビアンテスが、みずからの行った狙撃の成功に喝采を上げる。

「見た見た見たのだわ!? わたくしの華麗なショットが、醜いブ男の頭をヘッドショットしたのだわ! クリティカルなのだわ!!」

「はいはい……」

隣に立つ冒険者ガシタが、同じ位置から弓をつがえ、矢を放つ。

スティング(突)特性のオーラを充分に乗せた矢であったが距離がありすぎるのか、中途で勢いを失いポトッと落ちた。

「うっそ!? 射程範囲外!? この姉さんの攻撃は届いたのに!?」

「おほほほほほほほ! 格の違いを思い知るがいいのだわ!?」

明暗が分かれたことにゼビアンテスは益々調子に乗る。

「無理もないのだわ! 天才サカイくんが発明したこのガンに! 最強魔導士たるわたくしの一級魔力を込めたのだから、撃ち出した空気弾は地の果てまでも届くのだわ!!」

「盛りすぎじゃね!?」

それはラクス村の鍛冶師サカイが開発した奇妙な武器。

ガンと名付けられたそれは本来、筒状の形態からオーラを打ち出す機能を持ったものだが、相性的にオーラより魔力での運用の方が適切だということでゼビアンテスの持ち物になってしまった。

「おほほほほほほ! 早速試し撃ちの機会が巡ってきて満足なのだわ!! このわたくしの最強伝説の目撃者となるがいいのだわー!!」

そう言ってガンから圧縮された風の魔力を撃ち放つゼビアンテス。

次弾どころか乱れ撃ちだった。

その乱射だけで、凶相の集団を全滅どころか跡形もなく消し去れる勢いであったが、意外にもそうならなかった。

やたら滅多に撃ち放った空気弾のすべてが標的から外れ素通りしていったからである。

「あれー? ハズレなのだわ?」

「全然狙いが定まってねーじゃねーか!? あんなの当たらなくて当然だよ?」

どうやら最初の一発はまぐれ当たりであったらしい。

それはそれでヒキの強い女であった。

「でもアナタのはポンポン当たってるのに、わたくしが当たらないのはおかしいのだわ」

「こちとら百発百中の域に迫るためにどんだけ血の滲む訓練してきたかわかってんのかよ!? そんな簡単に真似されて堪るかあ!!」

「えー? つまんないのだわ? 百発百中しないならつまんないのだわー」

ガシタ渾身の抗議を涼しく受け流して、ゼビアンテスは既にやる気をなくしていた。

本来なら人間族の村の守護に、魔王軍四天王が出張ること自体異常の極みなのだが。

もうそこには誰も不審を抱かない。

「落ち着いてガシタくん」

そして現れる最後の精鋭。

「ゼビアンテスはこういう性格なんだから、まともに付き合っていたら持たないわよ。敵と戦うよりよっぽどね」

「レーディの姉さん!!」

勇者レーディ。

四天王ゼビアンテス。

地元冒険者ガシタ。

ラクス村にてダリエルを除いた最強メンバーがここに集結した。

「完全にダリエルさんの予想通りになったわね」

「何がなのだわ?」

「だから! 何者かが村を襲おうってしてるってこと!!」

自分で『乗るな』と言っておきながらゼビアンテスのペースに巻き込まれてしまう。

「ダリエルさんは、あえて相手の策に乗って村から離れたのよ。敵を誘き出して仕留めるために。その役目を私たちに託したんだから絶対にやり遂げないと!」

「アニキの信頼にオレは応える!」

忠実なガシタは与えられた役目に情熱を燃やす。

レーディもまた同じだったが……。

「わたくしはどうでもいいのだわー」

「「こらーッ!?」」

やはりゼビアンテスはどうしようもなかった。

「相手は待ち伏せされてるなんて夢にも思っていなくて混乱しているのだわ。このまま恐れを出して逃げやがれば面倒がなくていいのだわ」

ゼビアンテスのいうことにも一理あった。

ダリエルは、その恐るべき直感で相手の悪意を看破し、逆に罠にはめた。

不意を打つつもりで村の最強戦力の待ち伏せを受けたのである。

攻め来るのがわかっていたのだから、村の冒険者たちは警戒を厳にしていた。

不審者の接近にはいち早く反応できた。

策が破られたのなら撤退あるのみ。

定石ではそうだが。

「おやおやアイツら向かってきやがるのだわ?」

「玉砕覚悟かよ。パネェな……!?」

敵は、障害などないというかのごとく向かってきた。

血走った目を剥きながら。全員の目が同じように血走っているので、その光景はまさに異様。

「もしかして舐めてんじゃねえか? アニキの不在の確認は取れてる。ダリエルのアニキさえいなければどうにでもなるってな?」

「それはいけないのだわ! わたくしを舐めたことだけは許さないのだわ!」

侮られたと思ってやっとゼビアンテスも奮起する。

「落ち着いて。私たちの役目は村を守ることよ。それが第一目的」

その中でレーディが冷静さを失わずリーダーシップを発揮。

「逃げないなら迎え撃つまでよ。どっちにしろ逃がせばまたいつ襲ってくるかわからない。ここで倒して捕まえた方が憂いを残さなくていいわ」

「その通り! さすがレーディちゃん好判断なのだわ!」

その間も敵はどんどん迫ってくる。

「ゼビちゃん、さっきの空気弾またお願い!」

「でも全然当たらないのだわ?」

「それでもいい、威嚇して動きを止めるぐらいはできるでしょう? その間に私とガシタくんで突入して一気に制圧する。いいわね!」

作戦が決まった。

「ゼビちゃん! 狙いが定まらないのはわかっているから無理に当てようとしなくていいわ! 威嚇だけに専念して!」

「わかったのだわ!!」

「でも間違ってもわたしやガシタくんに当てないように注意してね!!」

「……」

「……」

「……わかったのだわ!」

「ホントに大丈夫!?」

一抹の不安を抱えながら勇者たちは戦いに向かう。

ダリエルのいない戦いへ。