軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

131 ダリエル、拒絶する

「何故ですッ!?」

きっぱり断ったというのにローセルウィがしつこい。

『けっこうです』と言う断り文句を肯定の意味にとっちゃう類の人なのだろうか。

「アナタは勇者に選ばれたのですよ! 人間にとってもっとも重く栄誉ある称号を与えられたのです!! 大いなる喜びと共に、謹んで拝領すべきではないのですか!?」

「それはアンタの考えであって俺の考えとは違う。勇者なんて真っ平御免のことですよ」

薄々勘付いてはいたが、ここに来て彼の目的がハッキリした。

どうやら俺を勇者に仕立て上げたいらしい。

そうすることで魔王様を倒す切り札としたいのだろう。

「聞くところによるとピガロ、ゼスター、アルタミルを勇者にしたのもアナタらしいですね」

「う、うむ……!?」

「勇者は一世代に一人が鉄則のはず。正規の勇者であるレーディを無視して紛い物勇者を量産する姿勢は眉を顰めますね」

「それこそ、人間族の悲願を達成させようという私の決意の表れと受け取っていただきたい!!」

また大仰なことを言う。

「魔王を倒すためなら、私はどんな手段も辞さぬつもりです! 魔王を倒せる見込みのない勇者ならさっさとクビにして、より強い者を勇者に据える! 当然の流れではないですか!」

「なッ!?」

横で聞いているのはご当人のレーディだった。

暴言と言っていいこの口振りに、さすがに表情を凍らせる。

「酷いことを言うなアンタは……!」

反論は俺の方から。

「レーディは立派な勇者だ。最低限の実力を備えているし、高潔な精神を持っている。アンタが選び出した勇者たちよりもずっとな」

「いいえ、私はたった今、彼女より遥かに勇者の資格を備えた者を選抜しました。アナタです!!」

ズビシッと俺を指さしてくる。

遠慮のない態度だなあ。

「俺には、勇者として決定的に欠けているものがある」

「なんですかそれは!? 私には欠けているものがあるようには思えない。アナタは完璧です! 無意味な謙遜など時間を空転させるだけ、捨ててしまいなさい!」

「勇者の務めを果たそうとする意志だ」

俺がそう告げるのに、ローセルウィはピンと来ていない表情だった。

「俺には勇者なんてものが貴いとはこれっぽっちも思えないし、誇りにも思えない。勇者のすべきことすべてが無意味なこととしか思えない」

「な、何を……!?」

「それに比べてレーディは勇者であることに誇りを持ち、責任感を持っている。責任を果たそうと一生懸命頑張っているのに、任命した理事が認めようとしないのはあまりに無体じゃないか?」

「う、ぐぐぐ……!?」

俺があまりにキッパリ言ったので、相手も二の句が継げず固まってしまった。

『勇者の称号に何の価値も見いだせない』という俺の主張は、あまりに彼の思考の虚を突いたのだろう。

「こ……! 心にもないことを言うのはおやめなさい。アナタは何故そんな虚言を吐くのです? みずからを貶めるというのです?」

「貶める? どうして?」

「勇者になるべき者が勇者をけなしているからです! なんという道理知らずな発言! さあ、今の言葉を今すぐ撤回し勇者の座に就きなさい! そして魔王を倒すのです!! それが世界のためでありアナタの運命なのです! 正義なのです!!」

「断る」

本当に会話の通じないヤツだ。

センターギルドの理事ということで下手に出てきたが、段々我慢が効かなくなってきたな。

「…………」

相手も、努めて自身を落ち着かせるように深く息を吐く。

「……私の話をしましょう。私は人間領の西側にある街に生まれました。家はそれなりに裕福で、私も相応の教育を受けて育ちました」

いきなり自分語り?

「父母から受けたもっとも重要な教えは『人には役割がある』ということです。この世界に生まれたからには、必ず何かしらの役に立たねばならない。そうでなければ生まれてきた意味がないと。そこで私は、どうせなら最大限この世界に貢献したいと思いました」

「へー」

「そこで真っ先に思いついたのが魔王と倒すことです。人間族にとって魔王を倒し、魔族を滅ぼすこと以上の偉業がありますでしょうか? 勇者となり、手下の魔族どもを蹴散らして魔王の下に辿り着き、討ち滅ぼす! そうしてこの世界に貢献する自分を夢に描きながら私は精進してきた!」

「ほーん」

「しかし夢は破れ去りました。私には戦いの才能がなかった。どれだけ努力しても才能は花開かなかった。勇者どころかその前進である冒険者になる道も諦めざるをえなかった。当時は本当にショックでした。自分は生まれてくるべきではなかったとすら思いました」

当時の煩悶を思い出したのか、ローセルウィの口調は震えていた。

心の底から悔しかったのだろう。

俺もまた物心ついて間もない頃に大きな挫折を味わった。

魔王軍の中で魔法が使えない事実を叩きつけられ、以降底辺を這いずり回る生き方しかできないと悟った時。

その思い出が甦ってもローセルウィに同情する気は起きなかった。

挫折と言えども彼のは軽い。

彼は自分の生まれを『それなりに裕福』とは言ったが嘘だろう。

滅茶苦茶裕福なはずだった。

そうでなければ人間族の頂点というべきセンターギルド理事の座に登り詰められるわけがない。

ローセルウィは見たところ三十代後半から四十代前半の年頃。

その若さで位人臣を極められたのだからなおさらだった。

「それより私の人生は定まりました。世界へ最高の貢献ができないのなら、最高の貢献ができる人間を手助けしようと。……だから私は理事会に入ったのです」

すべてを与えられた恵まれた者が、ほんの僅かの綻びを埋めるために権と財を振るう。

俺からはそのようにしか見えなかった。

自己満足を埋めるための壮大な権力闘争遊び。

何故そう見えるのかといえば……。

「私は、アナタとなら必ず魔王を倒せる偉業を成し遂げられると信じています! さあ、共に手を取り参りましょう! 栄光の道へ!!」

「アンタが本当に『勇者を助けたい』と思っているなら……」

俺は俺の率直な感想を述べた。

「無条件でレーディを助けるべきだ。それができないというなら結局アンタのしていることは自分のためのこと。世界のためでも他人のためでもない。自分自身のために勇者を利用している」

その一言で、ローセルウィの表情が歪んだ。

「アンタが勝手に自分で勇者を選抜したのもそうだろう。アンタは手柄を独り占めにしたいだけだ。他の理事は関係なく、自分だけが選んだ勇者に魔王様を討伐させようとしている」

そうしないと手柄を独り占めにできないからだ。

「アンタは自分の栄光しか見ていない。それで貢献したいなど、よくそんな見え透いたウソがつけるものだ」

「ウソではない! 私は心から世界のために……!!」

「そして追い詰められて焦っている。ピガロたちのやらかした失敗で、アンタにも火が回ってきているんだろう?」

その指摘に、心臓を射抜かれたようにヤツはグヌと固まった。

「アイツらはアンタが独断で選び出したそうだからな。だからこそ成功すれば功績なアンタ一人だけのもの。失敗すれば責任はアンタ一人が丸被り。然るべきリスクだ」

「…………」

「その尻拭いを俺がしてやる義理はない。わかったら大人しく帰るんだな。俺には俺のしなければならない大事な仕事がある」

「ふざけるなよ……!?」

怨嗟でドロドロに濁った声がした。

それ以前の声とはまるで別人のようだった。

「何が大事な仕事だ……! 貧乏人どもの取るに足らないその日暮らしが、私の計画に優先されるわけがあるか! このバカが! 私の協力を得ることが世界でもっとも尊いことだと何故わからない!!」

「本性が出たか」

この程度で地をさらけ出すとは粗略な。

「いいか! お前は私が選んでやったんだ! だったら私の言う通りに動くべきなのだ!! 私がお前を英雄にしてやるんだぞ!! 喜んで従うべきだろうがあ!!」

「だからそれはレーディの役目だ」

「違う! あんな小娘、勇者であるか! 私が選んでないからアイツは違う! 私に選ばれた者だけが勇者なのだ! バカ者! なんでそんな簡単なこともわからぬ!?」

「だったらそれを他の理事さんたちの前で言ってみろよ。バカ者だらけになりそうだがな」

「うぬがああああああッ!?」

ローセルウィ、ついに感情が激発して言葉遣いも忘れる。

「従え! 理事の命令だぞ! センターギルド理事の命令だ! 従えばギルドナイトを派遣して拘束させる! こんな貧乏村焼き払ってやるぞ! それが嫌なら私に従えええええッ!!」

もう見ていられないほど騒ぐローセルウィの頬が、思い切り叩かれた。

パンッ、と。

「ぶほぉッ!?」

平手で。

何事かと俺も驚いたが、誰が叩いたかというと女冒険者のリーリナ。

彼と共に来た同サイドの人間のはずが、何故?

「いい加減にしてください、見苦しすぎます」

誰もが思っていたことを代表して言う。

「私は、アナタのことを信じてここまで来た。魔王を倒し、人間族に繁栄をもたらしたいというアナタの言葉を信じて。でもアナタは自分自身の栄達しか考えていなかったのですね幻滅しました」

「……ッ!?」

ローセルウィは『親にも殴られたことがないのに』と言わんばかりの表情で頬を抑えた。

「おッ、覚えているがいい! お前がどう思おうと! お前の力は世界のために役立てられる! この私の下で! 力ある者にはそれを正当に使う義務があるのだから!!」

「アンタの口から出ると恐ろしいほど虚しいな!」

「黙れ! 必ずお前を屈服させてみせるぞ! そして世界を救う勇者になるのだ!!」

という捨て台詞を吐いてローセルウィは去っていた。

本当に綺麗言だけのヤツだったな。