軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

120 ガシタ、彼女ができる

こうして増える勇者騒動は、これにて終焉となった。

実際に増えた勇者が、その称号を返上するというのだから続きようがない。

やっと厄介ごとが収まり、ラクス村に再び平穏が戻ると安心したところ……。

……やっぱりまだ終焉していないことがあった。

「あれ?」

村の中を見回っていると、いるはずのない顔を見かけた。

正確に言うと、もう帰ったはずの顔だ。

それがいまだラクス村にいて、俺に発見されている。

『弓』の勇者アルタミル。

増殖三勇者の中で紅一点だったはずの彼女。

ゼスターと一緒にセンターギルドに戻ったのではないのか?

「安心して、ゼスターはちゃんと戻ったわよ。アイツは几帳面だから」

「キミも帰らない限り安心できないのだけれども?」

キミら三人まとめて一セットなのだから、共に帰らなきゃダメでしょう。

「だってもうピガロは死んじゃったし、勇者も返上するしでまとめなくてもいいじゃない。私はもうソロ活動していくのよ」

ソロ活動してもラクス村に残る理由にはならない。

今からでも間に合うからゼスターを追って帰ってくれないだろうか?

「アーニキー」

この困った元勇者に困惑していると、別のところから俺呼ぶ声。

俺のことを『アニキ』と呼ぶヤツなんて他にはいない。

ガシタの野郎だ。

「奇遇っすね―、こんなところで会うなんて。オレっすか? オレは配達のクエスト中っす」

D級の頃は選り好みして派手なクエストしか取ろうとしなかったガシタが、B急に上がってなおこんな下積みクエストを……!

何度成長した素晴らしさを見せつければ気が済むのか!?

「いやまあ、それより聞いてくれよガシタ。この子がさー?」

と指さすものの、そこにアルタミルはいなかった。

「うん?」

何処消えた?

周囲を見回したら……、いた。

何か俺の背後にいる。陰に隠れるように。

「……何故隠れる?」

理解に苦しみつつ向き直ろうとするが、そのたびアルタミルは横にずれて俺の視界から逃れる。

「!?」

だから何故逃げる?

「どうしたんすか? 誰かいるんすかー?」

ガシタもつられて俺の陰に隠れるアルタミルを覗き見ようと身を捻るが、そのたびアルタミルは俺の陰に隠れてガシタから見えないようにするのだった。

「……」

なんか。

何となくわかってきた。

彼女は俺の視線から隠れようとしていたのではない。

ガシタの視線から隠れようとしたのだ。

ちょうど俺を陰にしてガシタの視線を遮れるように。

俺は岩陰か何かか!?

ガシタは、しばらく挙動不審な女子を物珍しそうに視線で追っていたが……。

「……。いっけねえ!? 早く届け物しねえとババアから延髄切り食らっちまう!? アニキ、今は失礼しますが何かあったら呼んでくださいっすー!」

クエスト中の配達を優先したのか、ガシタは走り去っていった。

俺は彼の背中を見送って……。

「……」

……やっと俺の後ろから出てきたアルタミルを眺める。

彼女の表情。

熟れたリンゴのように真っ赤だった。

「……まさか、キミがラクス村に残った理由って……!?」

「違うのよ!?」

まだ何も言ってない。

「違うの! 好きになっちゃったとかそういうことじゃなく! ホラあれでしょう!? 私もかつては『弓』の勇者と呼ばれた女! 同じ弓使いとして彼に興味があるのよ!! だってホラ! 物凄い腕前でしょう彼!? 空中を飛んでる矢を矢で撃ち落とす! そんな神業見れば凄いヤツだって誰が見てもわかるじゃない! しかし私だって弓矢には多少の心得があるの! 矢の飛び筋とか見たらね! 射手の人柄とかわかっちゃうわけよ! うわあああ、なんて真っ直ぐで伸びやかな、気持ちのいい射をするんだろう! って思うわけよ!!」

早口でまくしたてるな。

コイツ、ガシタのことになると急に口数多くなるねってことはわかった。

「話は聞いているよ。洗脳魔法で判断力がなくなってたキミを、ガシタが押さえたんだって?」

「…………」

無言で俯く、恋する乙女の肯定サイン。

「アイツも、この一年で随分成長したからなあ。当時の、村人全員からアホと蔑まれていた彼の面影すらないよ」

「そうなのよ!」

アルタミルが、俺に詰め寄る。

「ここ数日、村の人たちに聞き込みしてみたんだけど!」

「聞きこみ!?」

「ガシタさんの評判って凄いわよね! 何が凄いかって、古参の人になるほど評判が悪くなるの!」

いや俺のビックリポイントは、数日かけて意中の男の情報を丹念に収集するキミのやり口なんだけども!?

「昔から村にいる人ほど『アイツはしょうのないヤツだ』『箸にも棒にもかからん』と散々な評価! でも最後には『村長のおかげで立派になったねえ』で締めくくられるの! 皆!」

「実際一年ぐらい前までのガシタは本当にしょうもなかったから」

本当に。

「アナタが、彼をあんなに凄い人に育て上げたってこと!?」

「いや、俺は人を育てる才能なんて……、そんなに……!」

まだバシュバーザのことを引きずっている俺。

「ガシタの場合は、変わるきっかけが大きかったってことじゃない? 何な怖い思いは早々できるモノじゃないからねえ」

「知らない情報! 詳しく!!」

「ブレイズデスサイズに追いかけられたんだけど」

「ブレイズデスサイズッ!?」

アルタミルの目玉が飛び出しそうなほど大きく見開かれる。

「あの灼熱の死神蛇!? そんなのA級冒険者でもないとサシで倒せないヤツじゃない!? そんなのと戦ったの!?」

「戦ったっていうか、一方的に追いかけ回されただけだったよ? それこそ野ネズミみたいに。俺が駆け付けた時にはヘロヘロになってたかな?」

「アナタが駆け付けたって……! じゃあ結局は……、うんわかった。言わなくてもわかる」

「?」

とにかく、その一件でガシタは思い知ったのだろう。

自分の弱さ、自分の傲慢さ。

自分がいかに狭い世界の中でいい気になっていたのか。

「アイツの偉いところは、それをきっちり反省して自分を変えることができたことだ」

俺は今まで、同じように傲慢になりながら自分を変えることができなかった者どもを何人も見てきた。

ソイツらを比べれば、挫折をしっかり糧にできたガシタは本当ちゃんとしたヤツだ。

「村長として彼を誇りに思うよ」

「最初から強かったわけじゃなく、間違いも挫折も経験して経験した……! 叩き上げの人。素敵……!」

何処からともなく飛んできたピンク色の矢がアルタミルの左胸に突き刺さる幻影が見えた。

弓使いなのに射られるなんて……!

「あー、えー、ゴホンゴホン」

なんか彼女の態度が急によそよそしく?

「あのさあ? ガシタさんの聞き込みしたついでで知ったんだけど、ここって今でこそ賑わいだしてるけど、ちょっと昔は自然消滅が確実な過疎村だったらしいじゃない?」

「はいー?」

「外から流入者が来たはいいけど。まだまだ人手不足で悩んでいる。特に次の世代を担う夫婦が! 若い!」

「はいはい」

「……どうしてもって言うなら、私が問題解消に協力してあげてもいいけど?」

なんだこのわかりやすい人は?

それを俺に言う必然性がよくわからんけれど。

「つまり、キミがガシタのお嫁さんになって子どもをポコポコ生んでくれると?」

「はっきり言うな!?」

まあ、たしかにその申し出は村長として有り難い。

現在ラクス村、消滅寸前の限界集落からなんとか生き残りの目途がついて、今は生めや殖やせやは大歓迎。

「一つ条件があるとすれば……」

「何!?」

「最低五人は生んでほしい」

「任せて!」

こうして恋する乙女との取り引きは成立し、俺はアルタミルを迎えることにした。

後日。

なんか浮かれた表情のガシタが向こうから俺に近づいてきた。

「アニキアニキ~、ちょっと聞いてくださいよ~?」

「どうしたお前?」

何やら久々に印象がウザいな。

「オレ実は……、ついに彼女ができっちゃったんすよー!」

「そうか、よかったな……」

これでラクス村の人口増加に弾みがつき、豊かな方向へと進んでいくのだった。