軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

11 村長、昔を懐かしむ

おらが村は今日も平和です。

この俺ダリエルが魔王軍をクビになり、人間族の村でセカンドライフを始めてから幾分かの時が流れた。

「アニキぃ! ひゃっほう!」

「ん、落ち着けー」

特筆すべきは、ガシタがすっかり俺に懐いたということだろうか。

あの大蛇との一戦以来、狂犬のように吠え掛かっていた彼もすっかり尻尾を丸め、別人かと戸惑うぐらいだった。

「アニキぃ! 新しい必殺技考えたんすよ! 見てくださいよぉ!」

「その前に仕事な」

以前はあれほど拒否していた薬草摘みのクエストも素直に受注し、俺と手分けして広い範囲をカバーできるようになった。

おかげで常備薬が尽きることなく、村の健康も維持されている。

さらにマリーカの方も……。

「ダリエルさん! アタシ手作りのお弁当! 残さず食べてくださいね! それから何しましょう!? ハグですか!? 無事帰ってこれますようにという、おまじないのハグですか!? いいですね! 是非しましょう!!」

グイグイ来る。

彼女はずっとこんな感じなのかな? と戦慄すら覚えるが、それも受け入れれば村は概ね平和だった

勇者と魔王の尽きることなき戦乱も、こんな田舎村まで影響及ばない。

そんなのどかなある時のこと……。

「村長さん、村長さん」

夕食後のまったりとした時間。

俺が厄介になっている村長宅では、手持無沙汰な俺と村長さんがまったりしていた。

「少し気になっていたことがあるんですけど……」

「何だな?」

気にはなってたけど改めて聞くまでもない。

それぐらいどうでもいいことをあえて聞いてしまう、というぐらいのったりした時間だった。

マリーカとそのお母さんは、夕飯の洗い物をして別所にいる。

本当に、なんだこのゆったりした時間?

「この村って、やたら空き家が多い気がするんですけど……?」

ひなびた僻村……、だと言うことは最初から聞かされていたことだ。

実際住んでみると、その紹介が真実だと肌で感じる。

住人の数が少ないし、平均年齢も高い。

これじゃあと数十年もしないうちに自然消滅するしかない。紛うことなき限界集落。

だから俺が口にした疑問。

『空き家が多い』という事実も至極真っ当に思える。

住む人が年々減っているのだから。

しかしラクス村に並ぶ空き家の数は、そうした状況を差し引いても異常だった。

以前何の気なしに数えてみたが、ざっと七十軒はあった。

それに、今もまだ人の住んでいる邸宅が加わる。

ちょっとした街ぐらいの規模。

潰えかけの寒村であるだけに、ますます不自然に思えてしまう。

この村は過去、俺の想像もできない時代があったのではないか?

「ほほほほほ……。さすがダリエルくん、よく見ておるなあ」

なんかよくわからんが、常からの俺の評価高いらしい。

ありがとうございます。

「いい機会だ。ダリエルくんにも村の住人として知ってもらっておいた方がいいだろう。ラクス村がかつて体験した賑わいのことを……」

「賑わい?」

長い話になるのか、村長は台所に向かって「茶を持ってきてくれー」と呼びかけた。

「自分で淹れなさいよー」とマリーカの声が帰ってきた。

「ダリエルくん、頼む!」

「マリーカ、俺もお茶欲しいなー」

即座にトレイをもって駆けつけてくるマリーカ。

茶菓子までついて。

お茶をすすりながら話が始まった。

「今でこそ寂れているがな。ウチの村も賑わってた時期があったんだよ」

「ほう」

「三十年……、いやもう四十年前かなあ? ある重要拠点があったんだ、この村の向こうにな」

「重要拠点って、何です?」

「鉱山だ」

村長さんの話によると、世界唯一のミスリル鉱山があるのだという。

人間族の領土から見て、俺たちのいるラクス村の、そのまた向こうに。

ミスリルは、鉄でも銅でもない不思議な性質を備えた金属。

これを素材にして作られる武器は、非常な高性能を備えるらしい。

武器素材として高い需要を持ち、鉱山は大いに賑わった。

掘り出したミスリル鋼を各地に運ぶため、ここラクス村も、中継地として大きく賑わった。

「空き家が多いのは、その時の名残……」

「そういうことだ。当時は、それこそ大都市かと見間違うほどの盛況ぶりだったよ。

ミスリル鋼を乗せた馬車が行ったり来たり。

運輸を務める馬丁とか、仕事を求めて雪崩れ込む鉱夫などが、途中の休憩地としてラクス村に立ち寄った。

宿場町としてラクス村は隆盛を極めたという。

「しかし、その賑わいも永遠じゃなかったんだなあ」

「何があったんです? 鉱脈が枯れたとか?」

「いいや、今でも鉱山からはガンガンミスリルが掘り出されているはずだよ」

じゃあなんでラクス村は宿場町の機能を失ってしまったんです?

「取られたからだよ、鉱山を」

「誰に?」

「魔族に」

村長が言うには、永遠に枯れることがないミスリル鉱山は人間族にとっても魔族にとっても重要地。

奪い合いが行われて数百年、鉱山の所有権は魔族と人間族の間を行ったり来たりしてきた。

そして今の鉱山の所有者は魔族、ということだった。

……。

……ん?

「ワシが十歳頃……、だったかなあ? それまで人間族が入っていた鉱山に魔族が攻め込んできてよ。そのまま奪われてしまった」

「はあああ……!?」

「当然、この村を行き来する人の流れもピタッと止まってな。どんどん寂れていった。奪い返そうって動きも何回かあったが全部失敗してなあ。今じゃすっかり諦めムードになってる」

「はははははは……!?」

さて。

俺のリアクションがさっきからおかしいことにお気づきだろうか?

何故か?

思い当たる節があったからだ。

ミスリルを産出する鉱山を、魔族と人間族で奪い合っている。

そんな重要拠点がたしかにあった。

俺がまだ魔王軍で働いていた頃に聞き及んでいた。

いいや、それどころか、その鉱山に出入りしたことすらあった。

魔王軍の鉱山担当官として。

四天王補佐にはそういう仕事もあるのだ。

直接鉱山に行って、産出した鉱物を輸送したり、現地で働いている労働者を労ったり。

そんなことをしていた。

「最初の頃は奪還しようと多くの冒険者がやって来たんだがな。しかし何度攻めても向こうが上手で、奪い返すことができない……」

そのうち人間族側も諦めて方針転換。

『魔王さえ倒せばすべて取り返せる!』と勇者による魔王討伐に注力したという。

「ワシが働き盛りになる頃には完全に寂れてしまってなあ。食っていくには冒険者になって出稼ぎするしかなかった。そこで妻と出会ったんだが」

そんな過去が……!?

「ワシにとっても、賑わいあるラクス村の風景は子どもの頃の遠い記憶よ。当時の賑わいを知る世代は、ワシで最後になるだろう。ワシが死んだら、完全に過去のものになるんだろうなあ……」

村長の寂寥は、けして大袈裟なものではあるまい。

実際にラクス村の人口は減り続けている。

完全にゼロになる日も、そう遠い未来のことではあるまい。

ミスリル鉱山への道のりが閉ざされたこの村は、ゆっくりと死んでいく運命にあるのだ。

「…………」

そこで俺は思った。

久しぶりに行ってみるか。

かつて俺が四天王補佐として担当官をしていた。

今は魔族が支配しているミスリル鉱山へ。