軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

111 ミスリル、食べられる

「ミスリルを奪って……、強くなる……!?」

その唐突な言葉を、俺はどういう形で理解していいのか判断しかねた。

鉱山から採掘され、加工や流通のために運ばれる途中のミスリル。

それを奪ってどうするというのか……!?

「……レーディも、もう聞いたでしょう?」

ピガロの背中越しに、アルタミルがレーディへ問いかける。

「私たちがラスパーダ要塞でどんな醜態を晒したか……! アナタの言う通りだった。私たちは全然力足りていなかった。その末の惨敗よ……!!」

「アルタミル……!!」

「こんな形でアナタに再会したくなかった。せめて、あの御方の示した方法によってパワーを得て、汚名返上してからアナタに会いたかったのに……!!」

「何を言っているの? 何をしようとしているのアルタミル……!?」

レーディは、かつて勇者の座を奪い合った好敵手たちを前に困惑しきりだった。

俺とて一回会った程度の接点しかないが、それでもわかる。

彼らの様子が様変わりしていることを。

「余計なことは言うなアルタミル」

いたわりのない乾いた声でピガロが言う。

「コイツは、蹴落とさなければいけないライバルだ。こんなヤツと馴れ合う意味などない」

ラスパーダ要塞で敗北し、正体不明の何者かによって連れ去られたということだけが、俺の知る彼らの足取り。

それ以降と、今まで、彼がどこで何をしていたかまったくわからない。

「ミスリルを奪って強くなると言ったな……!?」

俺は用心深く話に加わる。

今はまだ均衡しているが、いつ不意打ちが来るかわからない。

「奪ったミスリルで武器でも作る気か? それ以外に鉱石で強くなる方法など思いもよらないが……!」

だとしたら愚かな方法だと思った。

ミスリル製の武器が欲しければ、何故加工前の原料を狙うのか?

ミスリルは採掘時点ではただの鉱物であり、武器にするためには鍛冶師による加工が不可欠だ。

彼ら自身に、そんな技能があるとも思えず、もしミスリル製の武器が欲しければ武器屋なり鍛冶場なりで完成品を盗み出すべきだ。

それでも犯罪を犯すリスクを思えば愚かとしか言いようがないが。

「『あの御方』とも言ったな? それはお前たちを連れ去ったヤツのことか? マントを被っていたと言うが……、ソイツから何を吹きこまれた?」

「黙れ下郎! 無礼だぞ!」

やはりピガロとは会話が成立しない。

「オレは勇者だ! 勇者のオレにお前ごとき一般人が気安く声をかけるな! 勇者とは気高く、神聖で、凡人が触れられぬ高みにいるのだ!!」

「そんなことを言ってるからお前は負けるんだ」

肩書きを持っただけで自分が変わったと勘違いし、万能感に蝕まれて自分の力量を見失う。

「自分自身を見誤る者は戦いに負けて当然だ」

「黙れぇ! 勇者に暴言など許されん! 手打ちにしてやるぞ!!」

「そしてまた勝てない相手にケンカを売るわけだ……!」

挑発に上手く乗って俺に標的を定めてくれればしめたもの。

この場で彼らを逃がすことなく拘束できる。

「挑発に乗るなピガロ」

そう上手くはいかなかった。

三人の中で一番重厚で攻めづらそうな相手がいる。

「我々の目的は、ミスリルを得て今以上の力を得ることだ。感情を乱され目的を見失うな」

「わかっている! 偉そうに指図するな! 目的さえ果たせばお前らとの協力も終わりなのだから!」

『鎚』の勇者ゼスターまで。

一体何があったというんだ?

アランツィルさんさえ関わらなければ冷静で的確な判断力を持ち、性情実力とももっとも勇者に相応しいと思えたのに。

「申し訳ありませんダリエル殿」

彼の視線がこちらへ向く。

「我らの今の行いは勇者からもっともかけ離れている。それは承知しているつもりです」

「ならば何故……!?」

「真の勇者となるためです。アランツィル様のような強い勇者となるためには、今より遥かに大きな力が必要なのです。そのためならば非常の手段も厭わない」

その時になってやっと気づいた。ピガロ、アルタミル、ゼスター三人の目の色がおかしいと。

何やら怪しい赤い光を放っていた。

狂気を吹き込み正気を塗り潰すような赤い光を。

ピガロはともかく、アルタミルやゼスターまで犯罪まがいの行為に踏み切ったのは、この赤い輝きが原因……!?

精神に侵食し、ある一定の感情を肥大化させる……!

「……洗脳魔法?」

魔族が使う精神干渉系の魔法。

今彼らは、魔法によって精神を操られている? それで盗人行為などを行っている?

「どうでもいい! ならば見せてやる、このオレが最強になる、その瞬間を!!」

ピガロが叫ぶ。

それと同時に確保している荷駄へと手を伸ばした。

「それはッ!?」

荷台に積まれているのは当然、鉱山から発掘されたミスリル。

掘り出されてそのままの鉱石だ。

ミスリルは、純度100%で採掘されて精製を必要としない常識外れの特性を持った金属。

だから掘り出してそのまま荷台に積めるのだが……。

「それを手に持ってどうする……!?」

片手に握れる程度の質量などたかが知れている。

その程度持ち去ってもナイフ程度にしかならないぞ?

「ぐふふふふ……! わかっていないな凡人? あの御方がオレたちに授けてくださった秘伝は、お前ごときの想像に及ばない!」

言ってピガロ、手に持つミスリル鉱石を眼前に、何かブツブツ唱え始めた。

まるで魔族の呪文のようだった。

すると……。

「はッ!?」

驚くべきことが起こった。

彼らの握るミスリルが硬さを失い、プルプルと震えだすではないか。

まるでマリーカがおやつに作るゼリーのようだ。

「おお、まさにあの御方のおっしゃる通り……! そしてこれを……!」

食べた。

ゼリーのように柔らかくなったミスリルを、迷わず口の中へ。

「いや待てよ! 食った!? ミスリルを!? おやつのように!?」

しかしミスリルは金属だぞ!? そんなの食ったら、お腹を壊すどころの話じゃない!

それなのにピガロだけでなく、アルタミルやゼスターも迷わずミスリルをバクバク食っている!?

あまりの衝撃的出来事に、俺もレーディも反応を忘れて見入るばかり。

やがて山盛り一杯のミスリルを食い尽くしてゲップと息まで吐いて……。

「これが……、あの御方が伝授してくださったパワーアップ法だ。これでオレは、数百倍のオーラを放つことができる……! 無敵となるのだ!!」

宣言は、すぐに実証に移された。

ピガロの全身から凄まじい密度のオーラが間欠泉のごとき勢いで噴き出したのだ。

あまりの勢いに暴風が巻き起こるほど。

「はーはははははは! 見たか! これが新生『剣』の勇者ピガロ様の力だ! オレは生まれ変わった! より強く、絶対的に! 誰も超えることのできない超絶最強勇者へと進化したのだ!!」

高密高出力オーラを噴出するのはピガロだけでなく、アルタミルやゼスターもそうだった。

同じようにミスリルを食らってオーラ量が段違いに上がっている!?

「おお、凄い……!」

「これなら四天王も一撃で倒せるわ……!」

わけのわからないことばかりだった。

金属をある程度柔らかくすることなら錬金術でも可能だ。

しかしどんなに柔らかくしようと金属は金属。体内摂取していいはずがない。最悪命に係わる。

それなのにあの三人は、どうやってかミスリルをゼリーのように変えて、貪り食った。

あれは魔法なのか? それともオーラによる技なのか?

「素晴らしいが……、まだ足りない。オレは魔王を倒す勇者なのだ。もっと多くのオーラをまとわなければ、魔王も倒され甲斐がなかろう……!」

ピガロがくるりと踵を返し、荷駄へと向かう。

そこにはまだ山盛りのミスリル鉱石が……!?

「まさかッ!? 食うつもりかあれを全部!?」

お腹パンパンになるどころの騒ぎじゃないぞ!?

バシュバーザ騒ぎから復興が進んで、やっと再び供給されるようになったミスリルだ。

あれ全部タダ食いされて生じる損害はどれほどか!?

「止めろ! あの食い逃げ野郎をミスリルに触れさせるな!」

俺の声で、異様さに飲み込まれていたこちら勢が一斉に反応する。

盗人改め食い逃げに犯に失墜した勇者へ。レーディやガシタも攻撃を加えんとするが……。

……そんな俺たちを襲う衝撃!?

「ぐわッ!?」

衝撃は二種類あった。

ハンマーが放つ打撃と、矢によって貫く刺突撃。

『鎚』の勇者ゼスターと『弓』のアルタミル……!?

「ここから先は通さないわよレーディ」

アルタミルが、つがえた矢の先端をレーディに向ける。

そして……。

「貴殿の相手はそれがしだ」

俺の前に立ちはだかる、鎚持つ巨漢。

「ダリエル殿、今再びそれがしの挑戦を受けてほしい。『凄皇剛烈』の真なる完成のために」