軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

謎の覆面剣士……スレイヤー参上!!

その美しい一閃を見るまで、ローズは死を覚悟していた。自身が捕らえられ利用されてしまえば父の死が無駄になる。それだけは、絶対に許せなかった。

死は恐ろしかった。

しかし切り抜けるにはそれしかなかった。王女に生まれ、わがままも言った。ただ、それでも、ローズが思う王女の務めは果たしてきたつもりだ。

だから、これが最後の務めだ。

そう覚悟を決めていた。

「あ、あなたは……」

しかし、すべてを薙ぎ払い現れた青年の美しい剣を見た瞬間、ローズの心に幼き日の思いが蘇った。

「偽りの時は終いだ……」

そしてジミナは自分の顔に手をかけて剥いだ。

会場がどよめいた。

皮を剥いだジミナの顔の下に、見覚えのある仮面が現れた。

そして、黒き液体が螺旋を描き彼を包み込む。

螺旋が集束した後、そこに現れたのは漆黒のロングコートを纏った男。

「シャドウ……」

誰かが呟いた。

しかし、ローズにとって彼はシャドウではない。

彼はローズが剣士の道を歩むきっかけとなった、美しい剣を振るう憧れ。

「シャドウ、あなたはまさか……スレイヤーさん?」

ローズの脳裏に幼き日の記憶が蘇った。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

かつて一度だけ、ローズは誘拐されたことがある。

父の公務でミドガル王国を訪問した時、ローズは滞在先からこっそり抜け出して遊んでいた。平民の子供たちと遊んでいると、ふと視界が暗くなった。

次の瞬間、ローズは気を失った。

気が付くとローズは薄暗い小屋の中で拘束されていた。

手足は荒縄で縛られて、口には猿轡を詰められている。

外傷はなかったが、それ以上に恐怖と不安で震えが止まらなかった。

「身なりのいいガキがいたと思ったら、まさかオリアナ王国の王女様だったとはな!」

隣の部屋で盗賊たちが話している。

おそらく所持品を調べられたのだろう。ローズの身分はバレていた。

「流石親分! ツイてますねぇ!」

「馬鹿野郎、これが実力ってやつよ!!」

下品な笑い声が響く。

ローズは己の身を案じ絶望した。盗賊の選択は二つだ。ローズを人質にオリアナ国と交渉するか、ローズの身を価値が分かる人間に売るかだ。

きっと、彼らは売るはずだ。ローズの利用価値は高いが、たかが盗賊では扱いきれない。

売って、安全に金を手に入れるはずだ。そして、ローズはオリアナ王国の敵に利用される……。

その事実に、ローズは恐怖した。

身をよじり、縄をほどこうともがく。

猿轡ごしに叫ぶ。

しかし、彼女の抵抗は無駄でしかなかった。

「おっと、お姫様が起きたみたいだぜ」

「おい、様子見てこい」

そして、足音が近づいてくる。

ローズの叫びは悲鳴に変わり、涙が零れ落ちた。

小屋の扉が開かれようとした、その瞬間。

「ヒャッハー!! てめぇら金を出せ!!」

場違いな、子供の声が響いた。

「な、なんだこのガキ!」

「どっから現れやがった! 殺せ!!」

「おらおらおらぁ!!」

何かが風を切るような音。

そして悲鳴が響いた。

「な、なんだこのガキ! 強ぇぞ!?」

「馬鹿な! 一瞬で三人も!?」

「君たちはスタイリッシュソードの練習台だ」

再び風を切る音。

ローズの鼻に濃厚な血臭が届いた。ローズは恐る恐る、扉の隙間から覗く。

そこに、ズダ袋を被った子供と逃げ惑う盗賊がいた。

「逃げる奴は盗賊だ! 逃げない奴は訓練された盗賊だ!!」

「ひ、ひぃぃぃ!」

「や、やめッ!!」

ズダ袋を被った子供が剣を振った。

「――ッ!?」

その軌跡の美しさに、ローズは状況を忘れて目を奪われた。ローズは剣のことはよくわからない。

だがこの剣は……ローズが今まで見聞きしたどんな芸術より美しかった。

剣は鮮やかに盗賊の首を刈り、悲鳴は途絶えた。

ローズはただ茫然と、ズダ袋を被った子供を見つめた。

「わざわざ遠征したのに、金持ってないパターンか。ん? まだいるね」

ズダ袋を被った子供はローズの視線に気づき、小屋の扉を開けた。

小屋の中に光が差し込み、ローズとズタ袋を被った子供の目が合う。

「攫われてきた子供か。災難だったね」

ズダ袋を被った子供が剣を振った。その剣筋もただ美しく、ローズの目を魅了した。

「帰り道に気を付けなよ、バイバイ」

ズダ袋を被った子供はスタスタと去っていく。

気づくとローズの拘束は切られていた。

「ま、待って!」

ローズは必死で呼び止めた。

「なに?」

ズダ袋を被った子供は足を止め振り返る。

「あ、あなたはいったい誰?」

「僕? 僕はそうだな、まだ修行中だし……通りすがりのスタイリッシュ盗賊スレイヤーさ」

「スタイリッシュ盗賊スレイヤーさん……あの、ローズは何かお礼がしたい」

「んー。なら僕のことは誰にも話さないでくれると嬉しいな」

「う、うん、わかった」

「じゃ、頼んだよ」

そう言って、スタイリッシュ盗賊スレイヤーは姿を消した。

「スタイリッシュ盗賊スレイヤーさん……」

彼は絶望的なローズを助け、その運命を変えた。彼女はその美しき剣と在り方に憧れて、その日から剣の道に進んだのだ。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

それは大切な、幼き日の記憶。誰にも話したことがなかった、ローズだけの秘密。

だけど、この瞬間、ローズは秘密を初めて口にする。

「シャドウ……あなたがスタイリッシュ盗賊スレイヤーさんだったのですね」

シャドウは答えなかった。

しかし、ローズにとって沈黙が答えだった。

まだ幼い頃から、彼はずっと悪と戦い続けてきたのだ。ローズを助けたあの日のように、人知れず誰かを助けていたのだ。

シャドウの言葉がローズの脳裏に蘇る。強さとは力ではなくその在り方……そう、シャドウの在り方こそが強さだったのだ。

ローズは安易に死を選ぼうとした自分を恥じた。

まだ、彼女は戦えたはずだ。しかし生きることが辛くて、失敗することが恐くて、すべてを終わらせたかった。

死は逃避だったのだ。

ローズはまだ戦える。

彼女は彼の美しい剣と――その在り方に憧れたのだから。

「貴様の戦いは、まだ終わってはいない……」

シャドウが漆黒の刀を突いた。

それは、会場の壁に刺さり大穴を空ける。

「往け……」

「はい!」

ローズは細剣を拾い迷わずその穴に飛び込んだ。彼女にはまだすべき事があるのだ。

「ま、待てッ!!」

「往かせぬぞ……」

そして、シャドウが穴の前に立ち塞がった。