軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

闇に差し込む一筋の光

ローズは目を閉じてその美しい旋律に耳を傾けた。

シャドウの奏でる月光はローズが今まで聴いたどの月光とも違った。たとえ曲は同じでも奏者によってその表情を変える。

シャドウの月光は闇だ。

深い深い夜の暗闇。そして、そこに差し込むほんの一筋の光。

その光が月なのか、それとも……。

答えを導く時間はなく、演奏は終わりを告げた。

聖堂に響く余韻を最後まで楽しんでローズは手を叩いた。

一人きりの拍手が反響する。

その拍手は当然シャドウにも聞こえていた。彼は席を立ち、そして優雅な礼を返した。

「シャドウ、あなたは……」

ローズはそこまで言って、続ける言葉がないことに気づいた。ただ、何か言わなければシャドウが去ってしまう気がした。

「今まで聴いた月光の中でも、間違いなく最高の演奏でした。えっと……」

ローズは自分は何を言っているのだろうと、自問した。

シャドウに聞くべき事は他にあるはずだ。

「貴様は、何を成す……」

深淵から響くような声でシャドウは言った。

「え……?」

ローズは少し考えて理解した。彼はなぜ事件を起こしたのか問うているのだ。

「私は……みんなを守りたかった……。最善の未来を掴みたかった……。でも、私にはできなかった……!」

ローズは言葉を絞り出した。

「そこで終わりか……」

「え……?」

「貴様の戦いは、そこで終わりか……?」

「私だって……こんなところで終わりたくなかった……ッ」

ローズは俯き拳を握る。

どうにかしたかった。今だってそう思っている。しかし、もう彼女にできることはないのだ。

「もし貴様に戦う意思があるならば……くれてやろう」

シャドウはそう言って、掌に青紫の魔力を集める。

「力を……」

「力……?」

青紫の魔力は輝きを増し、聖堂を美しく染め上げる。濃密な魔力が空気を震わせる。

「その力があれば、未来は変えられる……?」

「貴様次第だ」

ローズは青紫の魔力に惹かれている自分に気づいた。もし、自分にシャドウのような強さがあれば。

きっと何もかも変わっていたはずだ。

もし力があれば……まだできることがある。オリアナ王国の王女として、成すべき事がある。

ローズの瞳に光が戻った。

「欲しい……。力が欲しい……ッ」

「いいだろう……」

そして、青紫の魔力が放たれた。

それは一直線にローズの胸へ吸い込まれ体内を巡る。

温かいその力は、乱れていたローズの魔力を静め調えていく。どこか重く、自由に操れなかった魔力が、軽やかに自在に動き出す。

「凄い……」

ローズは心からそう思った。

これが、シャドウの魔力……。

そしてこれが、シャドウの見ている世界……。

「抗え……そして貴様に共に戦う資格があるのか……見せてみろ」

気が付くと、シャドウの姿はどこにも見あたらなかった。

ただ声だけが、聖堂に響く。

「忘れるな……強さとは力ではなく、その在り方だ……」

そしてシャドウの気配は消えた。

ローズは聖堂に一人残された。

追手の足音が聞こえてくる。空気の震えを感じ取る。

かつてないほどの魔力が、体内で渦巻いていた。

もう捕まっていいとさえ思っていた。だが、この力があれば……まだできることがある。

ローズは細剣を抜き、壊れた扉を見据える。

そして次の瞬間、扉から黒ずくめの集団が現れ……血飛沫が舞った。

彼らは、ローズの細剣を知覚する暇もなく、斬殺された。

聖堂を血で染めたローズは、細剣を納め瞳を閉じる。

シャドウもこうして教団と戦ってきたのだろう。人知れず、戦い続けていたのだ。

シャドウの奏でる月光が、ローズの頭の中に蘇る。

深い闇に差し込む一筋の光の意味が分かった気がした。

その光はシャドウ自身なのかもしれない。彼は闇ではなく、闇に立ち向かう一筋の光なのだ。

ローズはそう思った。