軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

か弱い乙女の脱出作戦

ヴァイオレットさんを倒した僕は全力ダッシュで追手を振り切り、念のためリンドブルムも脱出し山中に潜んだ。

しばらくしてもういいかなと、僕は普段の姿に戻りほっと息を吐いた。

これで何とかごまかせただろう。会場は今頃、謎の実力者シャドウの話で持ちきりで、魔剣士学園のモブの事なんて忘れているのだ。

今日は頑張ったから温泉に入ってもう寝よう。そう思って立ち上がった僕の前に、突然変な扉が現れた。

山の中に薄汚れたみすぼらしい扉が浮かんでいるのだ。どす黒い染みはどう見ても乾いた血の跡だろう。

「何これ」

怪しいなんてもんじゃない。さすがの僕も回避余裕である。

僕は踵を返す。

「おい」

さらに反転。

「嘘だろ」

後方にジャンプ。

「マジか」

僕の動きに扉は全力で付いてきた。

距離をとっても、どの方角を向いても、後方宙返り百回捻りを加えても、扉は僕の前に現れるのだ。

ならば仕方ない。

「斬るか」

僕は言葉と同時に抜刀し扉を切り刻んだ。

しかし。

切れた瞬間元通りだ。

僕は刀を納めて考えた。

こんな汚らしい扉を連れて街に戻るのは無しだ。どう考えても目立つ。

そもそもこの扉は何だ。周囲に人の気配もないし、いたずらの類でもなさそうだ。扉の後ろには何もない。

「異世界式ど〇で〇ドアかな」

かなり必死な感じで付いてくるし、つまり僕が入れば解決なんだろう。でも今日は温泉に入って眠りたい気分なんだ。

僕は三十秒ぐらい真剣に考えて答えを出した。

まいっか、さっさと終わらせよう。

薄汚い扉を開くと吸い込まれるような深い暗闇が広がっていた。僕は入った瞬間即死のパターンはやめてね、と願いながら暗闇の中にダイブした。

気が付くと僕は石造りの部屋にいた。

殺風景な部屋だ。扉が一つと、そして四肢を壁に貼り付けられた女性が一人。ヴァイオレットさんだ。

「やあ」

僕は彼女に声をかけた。彼女は僕の方を見て、驚いたように目を見開いた。

そして「……やあ」と僕を真似るように言った。

「さっきぶりね」

「だね。もしかして君が僕を呼んだのかな」

「呼んだ……? そんなつもりはないけど。ただ、楽しかったわ」

「僕もだよ」

「私の記憶は不完全だけど、覚えている中ではあなたが一番強かった。私の時代に、あなたがいてくれればよかったのに……」

「光栄だね」

「それで、あなたはどうしてここに?」

彼女は不思議そうに僕を見つめた。

「突然扉が現れて中に入ったらここだったんだ」

「よくわからないわ」

「僕もだよ。ちなみにここから出る方法とか分かる?」

「どうかしら。私も出た記憶がないのよ」

「さっき僕と戦ったけど」

「気づいたらあそこにいたの。あんなことって初めてよ。覚えている限りね」

「そうなんだ。困ったな」

僕はどうしようか頭を捻って考えた。

扉があることだしまずは先に進んでみようと決めた時、ヴァイオレットさんは唇を尖らせて僕を呼んだ。

「あなたの目の前に四肢を拘束された美女がいます」

ヴァイオレットさんが言った。僕は十字に拘束された彼女を見て頷いた。

「いるね」

「とりあえず、助けてみませんか」

僕は少し首を傾げて、それからどうやら思い違いをしていたことに気づいた。

「ああ、ごめん。修行中かと思った」

「なぜ」

「昔そうやって修業したんだ」

僕はヴァイオレットさんの拘束具を学園支給の剣で壊し解放した。スライムソードは使えなかった。

彼女は気持ちよさそうに伸びをして、どこか懐かしむように微笑んだ。

「ありがと。ざっと千年ぶりの自由ね」

「そうなんだ」

「適当よ。覚えていないから、最低それぐらい」

彼女は薄いローブの乱れを整えて、艶やかな黒髪を右耳に掛けた。それが彼女のスタイルみたいだ。

「さて、私たちの目的は一致している」

彼女は涼しい顔をして言った。

「うん?」

「私は解放、あなたは脱出。そうでしょ?」

「ああ、そうだね」

「協力しましょうか」

「いいけど、脱出の方法は分かるの?」

「分からないわ。でも解放の方法は分かる。聖域は記憶の牢獄よ。聖域の中心に魔力の核があるの。それを壊せば私は解放されるわ」

「君だけ?」

彼女は横目で僕を見て、いたずらっぽく微笑んだ。

「何もかもすべて。あなたも出られるはずよ」

「聖域なくならない?」

「いいじゃない、無くなっても。あなた困るの?」

僕はヴァイオレットさんの問いを頭の中で反芻し考えた。

「よく考えたら困らないかな。それでいいや」

「決まりね。あと気づいていると思うけど、魔力は使えないわ。ここは聖域の中心に近いの。魔力を練るとすぐに聖域の核に吸い取られるわ」

「みたいだね」

以前のテロリスト襲撃事件よりもずっと強力なやつだ。魔力を練るとすぐに消えてなくなる。色々試しているけど、これは少し時間がかかりそうだ。

「問題ない、壊すのは得意なんだ」

「あら、頼もしいわね。ちなみに私、魔力が使えないとか弱い乙女よ。一度ナイト様に守られてみたかったの」

彼女はまたいたずらっぽく微笑んだ。その余裕はとてもか弱い乙女には見えない。

彼女は僕を先導するように進み、迷いなく扉を開ける。

「ねえ、君は解放されたらどうするんだい」

僕はヴァイオレットさんの背中に問いかけた。

「消えてなくなるわ。ただの記憶だもの」

彼女は振り返らなかった。