軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ディアボロスの片鱗ッ! グチャッ!!

「ひぃッ……何だお前は、俺たちが何したって言うんだよぉ!」

血の海。

まさしくそう表現するに相応しいこの場所で男は叫んだ。

『それ』は突然やってきた。

前触れもなく、理由も述べず、いきなり壁を突き破って殺戮を始めた。

今もまた1人、漆黒の刀の餌食となる。

もう誰も『それ』と戦う気などなかった。心にあるのはただ我先にと逃げ出したいという思い。

しかしたった一つの出口は『それ』の背後にある。

「俺たちがあんたに何をした!? 何もしてねぇだろ!?」

『それ』が男の方を向き嗤った。

「ひぃッ……!」

漆黒のマスクに隠されたその顔は、しかしそれでも凶悪に嗤った。

「た、助けッ……!」

男の身体が左右に分かれた。

脳天から股下まで一直線に切断され、血を噴き左右に倒れた。

『それ』は全身に血を浴びながら、降り注ぐ血を愛おしそうに受け止める。

姿形は女性のそれだが、その様はまさしく悪魔。

『それ』は辺りを見回して獲物が残り少ないことに気づくと、刀を伸ばした。

漆黒の刀が伸びた。

比喩でも何でもなく、それは壁を突き破るほど伸びた。

『それ』は伸びた刀を大きく振りかぶり、

「や、やめっ……!!」

建物ごと、総て纏めて切り捨てた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「始まったわね」

建物が冗談のように切断され、崩壊していくのを、その美しいエルフは時計塔の上から眺めていた。

黄金の長い髪は風に流され、夜の闇に煌めいた。

「デルタ……あの子はいつもやり過ぎよ」

溜め息を吐き、首を振った。

やってしまったことは仕方ない。

アルファは時計塔の上から王都を見渡した。

王都全体が慌ただしく動き始めている。

予定通り、全てが始まったのだ。

そして、その注目は建物を切り刻んだデルタに最も集まっている。

「デルタのおかげで他が動きやすくなるのも事実ね……」

周辺の被害にさえ目をつむれば、彼女の働きは最高のものだった。

「そろそろ私も動こうかしら」

アルファは呟いて、漆黒のマスクで顔を隠した。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

外が慌ただしい。

アレクシアは数時間ぶりに目を開けた。

この部屋に来る者はあの白衣の男と世話係の女性ぐらいなもので、相も変わらず台座に四肢を拘束されているアレクシアには寝るぐらいしかすることがない。

同居人の化物ともまぁ相互不干渉ということで上手くやっている。

外の喧騒は次第に激しさを増し、何かしら争いが起きていることを伝えてくる。

アレクシアは救助を期待して笑った。

「派手に壁をブチ破ってくれないかしら」

特に理由もなく呟く。相当ストレスが溜まっているのだろう。

無意味だと知りながらガチャガチャと拘束を鳴らす。

と、その時。

「ごめんなさい、起こしてしまったかしら」

隣の化物が顔を上げた。

「けれど起きていた方がいいわ。きっと楽しいから」

答えが返ってくることは無いと知りながら、アレクシアは話しかける。

退屈は人をおかしくする。

しばらくして、部屋の鍵が開く音が響いた。それも慌ただしく、落ち着きがない様子だ。

「ちくしょう、ちくしょう!!」

白衣の男が勢いよく扉を開けて入ってきた。

「ごきげんよう」

「あと少し、もう少しなのに!!」

明らかに楽しんでいる様子のアレクシアの挨拶を白衣の男は無視する。

「や、奴らが、奴らが来やがった!! お、お終いだ、もうお終いだ……!」

「諦めなさい、抵抗は無駄よ。私の拘束解いてくれれば、あなたの命を助けてもらえるよう頼んでみるわ」

頼むだけ、とアレクシアは小さく付け加える。

「や、奴らが、見逃すものか……!! み、皆殺し……皆殺しだっ!!」

「騎士団は無用な殺生をしないわ。抵抗しなければ命まで奪わないはずよ」

そんなことはない、とアレクシアは心の中で自分にツッコミを入れる。

「騎士団? 騎士団なんてどうでもいい! や、奴らは、奴らは皆殺しだ、皆殺しなんだぁ!!」

「騎士団じゃない?」

だとすればいったい何者だろうか。いや、この男が錯乱しているだけの可能性もある。

「どちらにせよ、もう終わりよ。諦めなさい」

「嫌だっ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!! ぼ、僕は、アレさえ完成すれば!!」

頭をかきむしって、白衣の男は血走った目を化物に向けた。

「し、試作品は作った。こ、これなら、出来損ないのお前でも役に立つ」

そう言って、白衣の男は針の付いた装置を化物の腕に押し付ける。

「やめておいた方がいいわ。なんだか嫌な予感がするの」

割と真面目に、アレクシアは言った。

白衣の男は当然無視して、化物の腕に針を突き刺し何かを注入する。

「さ、さぁ、見せてみろ、ディアボロスの片鱗をぉ!!」

「わー楽しみね」

すると、化物の身体が膨張した。筋肉が見る見る発達し、骨格すら成長して伸びてゆく。元々太く長かった右腕は、さらに凶悪に禍々しく肥大し、人の脚ほどもある長い爪が生えていた。左腕は変わらず何かを抱き締めるかのように胴に癒着している。

化物は甲高い叫びのような咆哮を上げた。

「す、素晴らしい、素晴らしいぞぉぉぉお!!」

「これは……驚いたわね」

しかし、当然それ程までに急速な成長を遂げれば、化物の拘束は耐えられるはずもなく弾け飛ぶ。

「だから止めとけって言ったのに」

そしてグチャッと。

化物の右腕で、白衣の男は断末魔の悲鳴すら残さず潰れて死んだ。

「さて」

化物とアレクシアの目が合った。

アレクシアは化物の動きを注視した。四肢を拘束されているアレクシアに出来る事は限られる。だが何も出来ないわけではない。

バカの巻き添えで死ぬなんてごめんだ。

化物の右腕が振られる。

アレクシアはそれに合わせて可能な限り身をよじる。致命傷さえ避ければ……!

「……ッ!!」

化け物の右腕はアレクシアを避けて、そのまま彼女を拘束する台座を破壊し、アレクシアはそのまま壁に叩きつけられ悶絶した。

「ぐっ……!」

骨は無事、目立った外傷はない、まだ動く。

アレクシアは自身の損傷を確認し、すぐに立ち上がる。

しかし。

そこにはもう、化物の姿は無かった。

壊れた台座と、ブチ破られた壁。

「まさか……助けてくれた……?」

化物の腕はアレクシアが身を捩るまでもなく外れていた。だとしたら……いや、単に狙いを誤っただけかもしれない。

「まぁいいわ」

アレクシアは潰れた白衣の男から鍵を抜き取り、魔封の拘束を外す。これで魔力が練れる。

一度大きく伸びをして全身をほぐし、アレクシアは化物が壊した壁から外に出た。

そこは薄暗く長い廊下だった。

化物に轢き殺された兵士が折り重なって倒れている。

「この剣貰うわね」

アレクシアは死体からミスリルの剣を拝借した。安物だが、最低限の仕事はするだろう。

そのまま長い廊下を進んでいき角を曲がると、そこに。

「勝手に逃げられては困るな」

「あ、あなた、どうしてここに……」

アレクシアは驚愕に目を見開いた。