軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

魔王の力

「い、今さら殺気を振りまいたところで、お前の実力はもう見切っている――ッ」

マクシミリアンは大気を震わす殺気に耐えて、そのままシャドウに斬りかかった。

鋭く、最短距離を貫くその剣は、凄まじい速さでシャドウの首を確かに捉えた。

――しかし。

「――なッ」

マクシミリアンの剣は、シャドウの左手で掴まれていた。

「一つ、忠告しておこう……」

低い声でシャドウが言う。

「くッ、離せ……!」

マクシミリアンが剣を引くが、シャドウの左手はビクともしない。まるで、大岩に挟まれたかのように動く気配すら感じなかった。

「本気で来い――無様に死にたくなければな……」

シャドウが左手で掴んだ剣を解放し、マクシミリアンは勢い余って転倒した。

即座に起き上がり、シャドウを睨む。

「あまり俺を舐めるなよ……ッ」

そして、懐から赤い錠剤を取り出して飲み込んだ。

「ふざけた真似をしてくれたな。少し遊んでやったら調子に乗りやがって」

マクシミリアンの魔力が膨れ上がり、瞳が血のような赤に染まる。

「教えてやろう――無様に死ぬのは貴様だということをなッ!!」

そして、マクシミリアンの姿がブレた。

次の瞬間、彼はシャドウの背後に立っていた。

「――残像だ」

音速を超える斬撃が、シャドウの背を切り裂いた。

しかし、シャドウのコートを切り裂くまでには至らなかったようだ。

シャドウが背後を振り返る。

しかし、それより早くマクシミリアンの身体がブレた。

「残念――それも残像だ」

またしても、シャドウの背をマクシミリアンの剣が切り裂いた。

「やはり、お前は反応すらできないようだな。だが、それも仕方がない。俺は通常の覚醒者とは違うからな……」

ゆっくりと振り返るシャドウを見据えて、マクシミリアンが言った。

「俺は3rdではなく――2ndだ」

マクシミリアンは嗤い、その姿がブレた。

「遅いッ! 遅いぞシャドウ!! 2ndと戦ったのは初めてか!?」

マクシミリアンの声が四方から聞こえる。

絶え間なく、シャドウの身体に斬撃が降り注ぐ。

マクシミリアンは残像を残しながら、シャドウを斬り続ける。

「これが俺の本来の戦い方――『冷徹なる万華鏡』だ!」

白い吹雪の中を無数のマクシミリアンが踊る姿はまさに冷たい万華鏡。

シャドウは『冷徹なる万華鏡』に一方的に斬られ続けた。

「このまま斬り続ければアーティファクトも直に壊れる! その時がお前の最後だ!!」

絶え間なく、永遠に続くかに思えた斬撃の数は千を超える。

シャドウは成す術なく、その身に斬撃を浴びた。

斬撃は雪を舞い上げて、視界を白く染める。

そして、斬撃が止んだ。

「ハァ……ハァ……殺ったか」

マクシミリアンは呼吸を整えた。

大地が抉られ、地形が変わっている。

『冷徹なる万華鏡』はそれほどの威力だったのだ。

これほどの攻撃を受けて無事でいられる人間がいるはずもない。

マクシミリアンが剣を収めようとした、その時。

「なッ――!」

白く染まった視界の中に、黒い影が浮かび上がった。

舞い上がった雪が地面に落ちるにつれて、その影は明確になっていく。

「そんな、まさか……」

その影は――シャドウだった。

『冷徹なる万華鏡』を全て受け止めたシャドウは――変わらず立っていた。

傷一つない姿で、まるで何もなかったかのようにその場に立っていたのだ。

「『冷徹なる万華鏡』をあれだけ受けて無傷だとッ!? そ、そんなはずがない、そんなアーティファクトが存在するはず……」

「アーティファクトか……このコートが気になるようだな」

シャドウはコートを広げて言った。

「と、当然だ! 俺の方が強い、でたらめなアーティファクトさえなければ今頃は……!」

「これは、アーティファクトではない。ただのスライムだ」

「デ、デタラメを言うな! スライムにそれほどの耐久力があるものか!!」

「その通りだ。ただのスライムにこれほどの耐久力はない。だが、そこに膨大な魔力を注ぎ込んだとしたら……?」

「ふ、ふん、無理だな。スライムの魔力伝導率は確かに高い。だが、伝導率は高いが制御は難しい。魔力回路そのものが人間と違うのだ」

「よく知っているな……ならそこに、人の血肉を混ぜたことはあるか……?」

「な――ッ」

「数種のスライムを調合し、そこに自身の血肉を混ぜる。水と油のように反発するそれに魔力を流し込み融合させる」

「バカな……魔物と人の回路を混ぜ合わせただと……それこそ常軌を逸した魔力の制御が必要なはずッ」

「いかにも。これができるのは我が知る限り――この世界で我一人だ」

「――う、嘘だッ! ありえない、そんなことができる人間がいるはず……」

「これを見ても、まだそう言えるか……?」

シャドウのコートが靡いた。

黒いコートは、白い吹雪の中で、まるで翼のように大きく広がっていく。

いや、それはまさしく翼だった。

漆黒の、まるで悪魔の翼のように、どんどんと膨れ上がっていく。

「そ、そんな……まさか、こんなことが……」

これほど自在に形を変えることができる素材があるとすれば――マクシミリアンが思いつくのは一つだけだった。

スライムだ。

それ以外、あり得ないのだ。

「ば、化物……お前は人間じゃない、化物だッ!!」

顔を引き攣らせたマクシミリアンがシャドウに斬りかかる。

しかし、神速の斬撃は形を変えた悪魔の翼に容易く受け止められた。

「遅いな……」

「そ、そんな……反応できなかったはずでは……」

マクシミリアンの顔が絶望に歪む。

悪魔の翼はいつの間にか四対になっていた。

それは空を覆うほど大きく展開し、シャドウは吹雪の空へと舞い上がる。

「な……飛んだ……」

「一つ、教えてやろう……我の魔力量は貴様と大差ない」

白い吹雪の中で、漆黒の巨大な翼が羽ばたく。

「圧縮した魔力は解放する際に数百倍の力となる。我はただ、絶え間なくそれを為しているだけだ……こんな風にな」

シャドウの魔力が翼に集まっていく。

青紫の魔力が、まるで一枚一枚の小さな羽根になったかのように集約される。

「ひッ……化物……いや、魔王……ッ」

「単純な魔力量に価値はない。制御力にこそ真の価値がある。どれだけの精度で圧縮し、解放できるか……それが全てだ」

それは、美しく、残酷な悪魔のように――。

「アイ・アム・アトミックレイン」

マクシミリアンへと降り注いだ。

青紫の魔力の雨が白い吹雪を染めた。

その光は視界を奪い、雪をかき消して、全てを飲み込んでいく。

全てが晴れたそこに、跡形もなく消え去った収容所と大きなクレーターがあった。

静寂が辺りを包み込む。

そして、漆黒の翼が羽ばたき、吹雪の空へと飛び去った。